ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
4 / 102
第1章 何もできない公爵令嬢

4話 縁談の話をゲーム感覚で出さないでください

しおりを挟む
 グレイ様をお出迎えするために、お屋敷のエントランスまでエレナと向かいました。
 
 エントランスでは、既にお父様とグレイ様が会話なさっているところを発見しましたわ。

「グレイ様、お出迎えに遅れてしまい申し訳ありませんわ」

 私が声をかけると、グレイ様とお父様がこちらに気付き、グレイ様は私に向かって優しく微笑んできましたわ。一対一の時でもこういう雰囲気であれば、私だって率先して王妃を目指しましたといいますのに。……本当に何を考えているのでしょうね。

「気にしなくていいよ。でも僕のためだけに着飾っているルーを見られるのが遅れたのは、勿体なかったかもね」

 そうですわね。貴方だけの為に着飾りましてよ。そしてそのセリフは一対一でしたらなんて仰っているのかしら。

「では、私はここで失礼致します王子殿下。ルクレシア、くれぐれも失礼のないようにするのだぞ」

「はい、お父様。では行きましょうかグレイ様」

 お父様が自室のある方の廊下に足を運ぶのを見送り、グレイ様と私はダイニングルームへと向かうために私がご案内しましたわ。

 その間にエレナは、調理場に向かい料理を運ぶようにと伝えに行きましたわ。

「それで何が目的なのですか?」

「昨日の夜会の件で色々あったでしょ。それで国王、いや父上達の反応を君に伝えようかと思ってね」

「嫌な予感しかしませんわ」

「そのまずいですわって言いたそうな表情も可愛いよ」

 グレイ様、やはり面白がっていますわ。

 ダイニングルームに到着し、私たちは話しやすい位置に着席すると、間もなく食事が運ばれてきましたわ。
  
 今日のメニューは兎肉が中心の軽いランチみたいですわね。

「今日は兎ですのね」

「ああ、君は可愛い動物を食べるのに抵抗でもあったかい? いや、君の家の料理長が知らないはずないからそういう訳ではないか」

「抵抗はございませんわ。それに私は生きている姿を拝見したことないですもの」

 父はよく狩りに出かけていますが、私を連れていくことはありませんわ。

 私も連れて行ってほしいとお願いしたことありませんものね。

 生きた動物は馬や鳥がメイン、たまに羊やヤギなどを見る機会はありますが、それ以外の動物はあまり見る機会がございませんでしたわ。

 教養として一定の動物のことや知識はありますが、食べている動物達の生きた姿は、ほとんど想像できません。

 理由は、幼い頃に我が領地の港に視察で訪れた際に、網に入った大量の魚を見て、私が悲鳴をあげたせいだと思いますわ。

「そうか、君さえよければどこへでも連れて行ってあげるのに」

「グレイ様はお忙しいのではなくて?」

「君が動物に怯える姿を見るためならいくらでも時間を作るよ」

「悍ましいですわ」

 やはりこの人は私を使って楽しんでいるとしか思えませんわ。楽しい? 私って楽しいのですか?

「ああ、そうだ本題を忘れるところだったね。……忘れたまま明日訪問し直してもいいかい?」

「今すぐお聞きしてもよろしいですか?」

 何を仰いますか、この王子殿下ときましたら。グレイ様は用事がなくても来るけどねと不穏なことをつぶやきましたが、それはそれ。
  
 どうせ止めようがないのはわかりきっていますわ。

「昨日の件の話をしよう。父上と母上は、僕と君の様子を見て大変喜ばれていたよ。何より君たちベッケンシュタイン家は貴族として素晴らしい家柄だし、僕と君は年齢が一つしか違わない。元々僕ら二人が婚姻するだろうと思っていた貴族が多数あったくらいだ。それでも僕ら二人は未だに婚約をしていなかったからね。様々な貴族から声がかかったはずだ」

「ええ、もっとも我が家は私の耳に入る前にお父様がすべてお断りをしていますから、私はどなたの縁談をお断りしたのか把握していませんが」

 本当に知りもしませんわ。もしかしたら、私をすごく大切にしてくださる優しい殿方と出会えたかもしれませんのに、お父様はなんてことをしてくれたのかしら。

「話を戻そうか。宰相はあまりいい顔をしなかったな、彼の娘は七つ下であり、まだ適齢期ではないが、彼は自分の娘をしきりに押してきたからね。それに彼にも年の近い息子がいてね。君のところに縁談は来なかったかい? おっと、誰から縁談の話が来たか知らないという話だったね」

 宰相の息子さんといいますと、イサアーク様ですわね。
  
 ロムニエイ公爵家の嫡男ですし、彼も私に相応しい身分の殿方ですが、そういえば彼に婚約者がいるという話をお聞きしたことがありませんわ。

 不思議なことに彼とあまり話す機会がございませんでしたが、私に話かけに来ないとは、奥ゆかしい殿方なのでしょう。

「イサアーク様も婚約者がいらっしゃらないのですか?」

「そうだね、彼にも婚約者はいないよ。イサアークは要注意だね、なるべくルーと引きはがさないと」

「そうまでして私の婚期を遅らせたいのですね」

 その後も様々な情報を教えてくださりましたの。
  
 特に政治的派閥が近い貴族の仕来りに重きを置く保守派の貴族達は素晴らしいと褒めたたえていたそうでしたわ。
  
 一部はやはり我が家の娘を王子殿下に、と考えているのでしょうけどね。

 逆に新しい制度を仕切りに押してくる革新派の貴族達は、ベッケンシュタイン家に勢力が傾くことに、良い顔をしていないでしょうね。

 我が家は母が隣国の姫であったことや、兄の婚約者が大きな鉱山を所有する侯爵家の令嬢であり、我が家は我が家で我が国の港のほぼ全てを領地としていますわ。

 そこで私とグレイ様が仲良く夜会に出席ですものね。革新派の貴族たちは挨拶回りもしましたのでその表情はよく覚えていますわ。

「それでグレイ様はどうなさるのですか? まさか本当に婚約する訳ではないのでしょう?」

 私がそう聞くと、グレイ様はまるで苦笑いをするような笑い方をしましたわ。
 
「僕は僕にとって一番面白い方向に話を進めるだけだよ。悪いね、駒である君には口外できないな」

「駒でございますか。それでしたら私に話せることはもうないということでしょうか?」

「君に話すこと? そうだな、まずは愛でも囁かせて貰おうかな」

「愛ですか? グレイ様の愛とは、嗜虐心をくすぐるとかそういう?」

 グレイ様の言葉をまともに聞く必要などありませんわ。どうせ私の反応をみたいだけなのですから。

 昼食を終えると、二人で庭園にある東屋に向かいましたわ。この人暇なのでしょうか。

「いつ帰るのでしょうかって顔をしているね。勿論、僕は忙しいからそろそろ帰るつもりさ。でも、君が名残惜しそうにしてくれるまでは帰らないって言ったらどうする?」

「私が王宮に向かいますからそのままついてきてくださいませ」

「まさかもう後宮入りするなんて母上は現役だよ?」

「恐ろしいことをおっしゃらないでください! ですから何故私がグレイ様と婚姻する方向で話を進めるのですか!! そういうお戯ればかりするから周囲が勘違いするのですよ!!」

「勘違いね。まあ、正式に婚約はしていないから間違ってはいないけど。そう必死な表情で言われると傷つくなぁ。まあ、いいさ。最後に笑うのは僕だ」

 傷つくなぁと言いながらとってもいい笑顔ではないですか。この人が傷つくだなんて想像すらできませんわ。

 ではそろそろと言い、グレイ様は迎えの馬車に足を運びましたわ。私はお見送りの為に馬車の前まで一緒に向かいました。

 馬車に乗り込む直前、グレイ様は私の顔をじっと見ましたわ。
  
 まあ、見惚れるのも無理ありませんが、グレイ様って私のことに好意のない特殊な方だと思っていましたが、美しいものへの感性は一般的なのでしょうか。

「どうかなさいましたか? 今更私の顔を美しいとお気づきに?」

「美しい? いや、ルーの顔は面白いに該当すると思うよ。そうじゃなくてこうして毎日見送ってもらえたら楽しそうだなって思っただけさ」

「口説き方で言えばマイナス点です」

「いいね。その呆れたような表情、すごく素敵だ」

 本当に何が面白いのでしょうか。
  
 そして美しいを否定されたのが何気にショックですわ。いえ、やはりグレイ様は一般的な感性と異なっているのでしょう。

「ああ、それから一番大事なことを忘れていたよ。君の父にはもう約束してもらったのだけれど、僕が十八歳になった時に、君に婚約者ができなかったら僕と結婚してもらうからね」

「なんと言いまして!? 何してくれているのですかグレイ様!!」

「またね」

 そしてグレイ様を乗せた馬車は颯爽とでていかれましたわ。本当になんて約束をしてくれたのですか。
  
 グレイ様のお誕生日となるとあと半年くらいしかないはずですわ。

 そして結婚? あの王子結婚と申しましたの? え? 私あと半年で結婚? 逃げなくては。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...