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第1章 何もできない公爵令嬢
4話 縁談の話をゲーム感覚で出さないでください
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グレイ様をお出迎えするために、お屋敷のエントランスまでエレナと向かいました。
エントランスでは、既にお父様とグレイ様が会話なさっているところを発見しましたわ。
「グレイ様、お出迎えに遅れてしまい申し訳ありませんわ」
私が声をかけると、グレイ様とお父様がこちらに気付き、グレイ様は私に向かって優しく微笑んできましたわ。一対一の時でもこういう雰囲気であれば、私だって率先して王妃を目指しましたといいますのに。……本当に何を考えているのでしょうね。
「気にしなくていいよ。でも僕のためだけに着飾っているルーを見られるのが遅れたのは、勿体なかったかもね」
そうですわね。貴方だけの為に着飾りましてよ。そしてそのセリフは一対一でしたらなんて仰っているのかしら。
「では、私はここで失礼致します王子殿下。ルクレシア、くれぐれも失礼のないようにするのだぞ」
「はい、お父様。では行きましょうかグレイ様」
お父様が自室のある方の廊下に足を運ぶのを見送り、グレイ様と私はダイニングルームへと向かうために私がご案内しましたわ。
その間にエレナは、調理場に向かい料理を運ぶようにと伝えに行きましたわ。
「それで何が目的なのですか?」
「昨日の夜会の件で色々あったでしょ。それで国王、いや父上達の反応を君に伝えようかと思ってね」
「嫌な予感しかしませんわ」
「そのまずいですわって言いたそうな表情も可愛いよ」
グレイ様、やはり面白がっていますわ。
ダイニングルームに到着し、私たちは話しやすい位置に着席すると、間もなく食事が運ばれてきましたわ。
今日のメニューは兎肉が中心の軽いランチみたいですわね。
「今日は兎ですのね」
「ああ、君は可愛い動物を食べるのに抵抗でもあったかい? いや、君の家の料理長が知らないはずないからそういう訳ではないか」
「抵抗はございませんわ。それに私は生きている姿を拝見したことないですもの」
父はよく狩りに出かけていますが、私を連れていくことはありませんわ。
私も連れて行ってほしいとお願いしたことありませんものね。
生きた動物は馬や鳥がメイン、たまに羊やヤギなどを見る機会はありますが、それ以外の動物はあまり見る機会がございませんでしたわ。
教養として一定の動物のことや知識はありますが、食べている動物達の生きた姿は、ほとんど想像できません。
理由は、幼い頃に我が領地の港に視察で訪れた際に、網に入った大量の魚を見て、私が悲鳴をあげたせいだと思いますわ。
「そうか、君さえよければどこへでも連れて行ってあげるのに」
「グレイ様はお忙しいのではなくて?」
「君が動物に怯える姿を見るためならいくらでも時間を作るよ」
「悍ましいですわ」
やはりこの人は私を使って楽しんでいるとしか思えませんわ。楽しい? 私って楽しいのですか?
「ああ、そうだ本題を忘れるところだったね。……忘れたまま明日訪問し直してもいいかい?」
「今すぐお聞きしてもよろしいですか?」
何を仰いますか、この王子殿下ときましたら。グレイ様は用事がなくても来るけどねと不穏なことをつぶやきましたが、それはそれ。
どうせ止めようがないのはわかりきっていますわ。
「昨日の件の話をしよう。父上と母上は、僕と君の様子を見て大変喜ばれていたよ。何より君たちベッケンシュタイン家は貴族として素晴らしい家柄だし、僕と君は年齢が一つしか違わない。元々僕ら二人が婚姻するだろうと思っていた貴族が多数あったくらいだ。それでも僕ら二人は未だに婚約をしていなかったからね。様々な貴族から声がかかったはずだ」
「ええ、もっとも我が家は私の耳に入る前にお父様がすべてお断りをしていますから、私はどなたの縁談をお断りしたのか把握していませんが」
本当に知りもしませんわ。もしかしたら、私をすごく大切にしてくださる優しい殿方と出会えたかもしれませんのに、お父様はなんてことをしてくれたのかしら。
「話を戻そうか。宰相はあまりいい顔をしなかったな、彼の娘は七つ下であり、まだ適齢期ではないが、彼は自分の娘をしきりに押してきたからね。それに彼にも年の近い息子がいてね。君のところに縁談は来なかったかい? おっと、誰から縁談の話が来たか知らないという話だったね」
宰相の息子さんといいますと、イサアーク様ですわね。
ロムニエイ公爵家の嫡男ですし、彼も私に相応しい身分の殿方ですが、そういえば彼に婚約者がいるという話をお聞きしたことがありませんわ。
不思議なことに彼とあまり話す機会がございませんでしたが、私に話かけに来ないとは、奥ゆかしい殿方なのでしょう。
「イサアーク様も婚約者がいらっしゃらないのですか?」
「そうだね、彼にも婚約者はいないよ。イサアークは要注意だね、なるべくルーと引きはがさないと」
「そうまでして私の婚期を遅らせたいのですね」
その後も様々な情報を教えてくださりましたの。
特に政治的派閥が近い貴族の仕来りに重きを置く保守派の貴族達は素晴らしいと褒めたたえていたそうでしたわ。
一部はやはり我が家の娘を王子殿下に、と考えているのでしょうけどね。
逆に新しい制度を仕切りに押してくる革新派の貴族達は、ベッケンシュタイン家に勢力が傾くことに、良い顔をしていないでしょうね。
我が家は母が隣国の姫であったことや、兄の婚約者が大きな鉱山を所有する侯爵家の令嬢であり、我が家は我が家で我が国の港のほぼ全てを領地としていますわ。
そこで私とグレイ様が仲良く夜会に出席ですものね。革新派の貴族たちは挨拶回りもしましたのでその表情はよく覚えていますわ。
「それでグレイ様はどうなさるのですか? まさか本当に婚約する訳ではないのでしょう?」
私がそう聞くと、グレイ様はまるで苦笑いをするような笑い方をしましたわ。
「僕は僕にとって一番面白い方向に話を進めるだけだよ。悪いね、駒である君には口外できないな」
「駒でございますか。それでしたら私に話せることはもうないということでしょうか?」
「君に話すこと? そうだな、まずは愛でも囁かせて貰おうかな」
「愛ですか? グレイ様の愛とは、嗜虐心をくすぐるとかそういう?」
グレイ様の言葉をまともに聞く必要などありませんわ。どうせ私の反応をみたいだけなのですから。
昼食を終えると、二人で庭園にある東屋に向かいましたわ。この人暇なのでしょうか。
「いつ帰るのでしょうかって顔をしているね。勿論、僕は忙しいからそろそろ帰るつもりさ。でも、君が名残惜しそうにしてくれるまでは帰らないって言ったらどうする?」
「私が王宮に向かいますからそのままついてきてくださいませ」
「まさかもう後宮入りするなんて母上は現役だよ?」
「恐ろしいことをおっしゃらないでください! ですから何故私がグレイ様と婚姻する方向で話を進めるのですか!! そういうお戯ればかりするから周囲が勘違いするのですよ!!」
「勘違いね。まあ、正式に婚約はしていないから間違ってはいないけど。そう必死な表情で言われると傷つくなぁ。まあ、いいさ。最後に笑うのは僕だ」
傷つくなぁと言いながらとってもいい笑顔ではないですか。この人が傷つくだなんて想像すらできませんわ。
ではそろそろと言い、グレイ様は迎えの馬車に足を運びましたわ。私はお見送りの為に馬車の前まで一緒に向かいました。
馬車に乗り込む直前、グレイ様は私の顔をじっと見ましたわ。
まあ、見惚れるのも無理ありませんが、グレイ様って私のことに好意のない特殊な方だと思っていましたが、美しいものへの感性は一般的なのでしょうか。
「どうかなさいましたか? 今更私の顔を美しいとお気づきに?」
「美しい? いや、ルーの顔は面白いに該当すると思うよ。そうじゃなくてこうして毎日見送ってもらえたら楽しそうだなって思っただけさ」
「口説き方で言えばマイナス点です」
「いいね。その呆れたような表情、すごく素敵だ」
本当に何が面白いのでしょうか。
そして美しいを否定されたのが何気にショックですわ。いえ、やはりグレイ様は一般的な感性と異なっているのでしょう。
「ああ、それから一番大事なことを忘れていたよ。君の父にはもう約束してもらったのだけれど、僕が十八歳になった時に、君に婚約者ができなかったら僕と結婚してもらうからね」
「なんと言いまして!? 何してくれているのですかグレイ様!!」
「またね」
そしてグレイ様を乗せた馬車は颯爽とでていかれましたわ。本当になんて約束をしてくれたのですか。
グレイ様のお誕生日となるとあと半年くらいしかないはずですわ。
そして結婚? あの王子結婚と申しましたの? え? 私あと半年で結婚? 逃げなくては。
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「グレイ様、お出迎えに遅れてしまい申し訳ありませんわ」
私が声をかけると、グレイ様とお父様がこちらに気付き、グレイ様は私に向かって優しく微笑んできましたわ。一対一の時でもこういう雰囲気であれば、私だって率先して王妃を目指しましたといいますのに。……本当に何を考えているのでしょうね。
「気にしなくていいよ。でも僕のためだけに着飾っているルーを見られるのが遅れたのは、勿体なかったかもね」
そうですわね。貴方だけの為に着飾りましてよ。そしてそのセリフは一対一でしたらなんて仰っているのかしら。
「では、私はここで失礼致します王子殿下。ルクレシア、くれぐれも失礼のないようにするのだぞ」
「はい、お父様。では行きましょうかグレイ様」
お父様が自室のある方の廊下に足を運ぶのを見送り、グレイ様と私はダイニングルームへと向かうために私がご案内しましたわ。
その間にエレナは、調理場に向かい料理を運ぶようにと伝えに行きましたわ。
「それで何が目的なのですか?」
「昨日の夜会の件で色々あったでしょ。それで国王、いや父上達の反応を君に伝えようかと思ってね」
「嫌な予感しかしませんわ」
「そのまずいですわって言いたそうな表情も可愛いよ」
グレイ様、やはり面白がっていますわ。
ダイニングルームに到着し、私たちは話しやすい位置に着席すると、間もなく食事が運ばれてきましたわ。
今日のメニューは兎肉が中心の軽いランチみたいですわね。
「今日は兎ですのね」
「ああ、君は可愛い動物を食べるのに抵抗でもあったかい? いや、君の家の料理長が知らないはずないからそういう訳ではないか」
「抵抗はございませんわ。それに私は生きている姿を拝見したことないですもの」
父はよく狩りに出かけていますが、私を連れていくことはありませんわ。
私も連れて行ってほしいとお願いしたことありませんものね。
生きた動物は馬や鳥がメイン、たまに羊やヤギなどを見る機会はありますが、それ以外の動物はあまり見る機会がございませんでしたわ。
教養として一定の動物のことや知識はありますが、食べている動物達の生きた姿は、ほとんど想像できません。
理由は、幼い頃に我が領地の港に視察で訪れた際に、網に入った大量の魚を見て、私が悲鳴をあげたせいだと思いますわ。
「そうか、君さえよければどこへでも連れて行ってあげるのに」
「グレイ様はお忙しいのではなくて?」
「君が動物に怯える姿を見るためならいくらでも時間を作るよ」
「悍ましいですわ」
やはりこの人は私を使って楽しんでいるとしか思えませんわ。楽しい? 私って楽しいのですか?
「ああ、そうだ本題を忘れるところだったね。……忘れたまま明日訪問し直してもいいかい?」
「今すぐお聞きしてもよろしいですか?」
何を仰いますか、この王子殿下ときましたら。グレイ様は用事がなくても来るけどねと不穏なことをつぶやきましたが、それはそれ。
どうせ止めようがないのはわかりきっていますわ。
「昨日の件の話をしよう。父上と母上は、僕と君の様子を見て大変喜ばれていたよ。何より君たちベッケンシュタイン家は貴族として素晴らしい家柄だし、僕と君は年齢が一つしか違わない。元々僕ら二人が婚姻するだろうと思っていた貴族が多数あったくらいだ。それでも僕ら二人は未だに婚約をしていなかったからね。様々な貴族から声がかかったはずだ」
「ええ、もっとも我が家は私の耳に入る前にお父様がすべてお断りをしていますから、私はどなたの縁談をお断りしたのか把握していませんが」
本当に知りもしませんわ。もしかしたら、私をすごく大切にしてくださる優しい殿方と出会えたかもしれませんのに、お父様はなんてことをしてくれたのかしら。
「話を戻そうか。宰相はあまりいい顔をしなかったな、彼の娘は七つ下であり、まだ適齢期ではないが、彼は自分の娘をしきりに押してきたからね。それに彼にも年の近い息子がいてね。君のところに縁談は来なかったかい? おっと、誰から縁談の話が来たか知らないという話だったね」
宰相の息子さんといいますと、イサアーク様ですわね。
ロムニエイ公爵家の嫡男ですし、彼も私に相応しい身分の殿方ですが、そういえば彼に婚約者がいるという話をお聞きしたことがありませんわ。
不思議なことに彼とあまり話す機会がございませんでしたが、私に話かけに来ないとは、奥ゆかしい殿方なのでしょう。
「イサアーク様も婚約者がいらっしゃらないのですか?」
「そうだね、彼にも婚約者はいないよ。イサアークは要注意だね、なるべくルーと引きはがさないと」
「そうまでして私の婚期を遅らせたいのですね」
その後も様々な情報を教えてくださりましたの。
特に政治的派閥が近い貴族の仕来りに重きを置く保守派の貴族達は素晴らしいと褒めたたえていたそうでしたわ。
一部はやはり我が家の娘を王子殿下に、と考えているのでしょうけどね。
逆に新しい制度を仕切りに押してくる革新派の貴族達は、ベッケンシュタイン家に勢力が傾くことに、良い顔をしていないでしょうね。
我が家は母が隣国の姫であったことや、兄の婚約者が大きな鉱山を所有する侯爵家の令嬢であり、我が家は我が家で我が国の港のほぼ全てを領地としていますわ。
そこで私とグレイ様が仲良く夜会に出席ですものね。革新派の貴族たちは挨拶回りもしましたのでその表情はよく覚えていますわ。
「それでグレイ様はどうなさるのですか? まさか本当に婚約する訳ではないのでしょう?」
私がそう聞くと、グレイ様はまるで苦笑いをするような笑い方をしましたわ。
「僕は僕にとって一番面白い方向に話を進めるだけだよ。悪いね、駒である君には口外できないな」
「駒でございますか。それでしたら私に話せることはもうないということでしょうか?」
「君に話すこと? そうだな、まずは愛でも囁かせて貰おうかな」
「愛ですか? グレイ様の愛とは、嗜虐心をくすぐるとかそういう?」
グレイ様の言葉をまともに聞く必要などありませんわ。どうせ私の反応をみたいだけなのですから。
昼食を終えると、二人で庭園にある東屋に向かいましたわ。この人暇なのでしょうか。
「いつ帰るのでしょうかって顔をしているね。勿論、僕は忙しいからそろそろ帰るつもりさ。でも、君が名残惜しそうにしてくれるまでは帰らないって言ったらどうする?」
「私が王宮に向かいますからそのままついてきてくださいませ」
「まさかもう後宮入りするなんて母上は現役だよ?」
「恐ろしいことをおっしゃらないでください! ですから何故私がグレイ様と婚姻する方向で話を進めるのですか!! そういうお戯ればかりするから周囲が勘違いするのですよ!!」
「勘違いね。まあ、正式に婚約はしていないから間違ってはいないけど。そう必死な表情で言われると傷つくなぁ。まあ、いいさ。最後に笑うのは僕だ」
傷つくなぁと言いながらとってもいい笑顔ではないですか。この人が傷つくだなんて想像すらできませんわ。
ではそろそろと言い、グレイ様は迎えの馬車に足を運びましたわ。私はお見送りの為に馬車の前まで一緒に向かいました。
馬車に乗り込む直前、グレイ様は私の顔をじっと見ましたわ。
まあ、見惚れるのも無理ありませんが、グレイ様って私のことに好意のない特殊な方だと思っていましたが、美しいものへの感性は一般的なのでしょうか。
「どうかなさいましたか? 今更私の顔を美しいとお気づきに?」
「美しい? いや、ルーの顔は面白いに該当すると思うよ。そうじゃなくてこうして毎日見送ってもらえたら楽しそうだなって思っただけさ」
「口説き方で言えばマイナス点です」
「いいね。その呆れたような表情、すごく素敵だ」
本当に何が面白いのでしょうか。
そして美しいを否定されたのが何気にショックですわ。いえ、やはりグレイ様は一般的な感性と異なっているのでしょう。
「ああ、それから一番大事なことを忘れていたよ。君の父にはもう約束してもらったのだけれど、僕が十八歳になった時に、君に婚約者ができなかったら僕と結婚してもらうからね」
「なんと言いまして!? 何してくれているのですかグレイ様!!」
「またね」
そしてグレイ様を乗せた馬車は颯爽とでていかれましたわ。本当になんて約束をしてくれたのですか。
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第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
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