ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第1章 何もできない公爵令嬢

16話 何もできない公爵令嬢

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 グレイ様にわがままを言いつけ、私は一週間ぶりとなるベッケンシュタイン家の屋敷に向かいましたわ。

 何故でしょう。凄く安心感が胸の奥からこみ上げてきますね。馬車には、私とグレイ様が乗り込み、代理の御者さんのお隣りにヨハンネスが座りました。

 はじめは彼も中で良いと声をかけましたが、ヨハンネスがそれを辞退しましたわ。

 ヨハンネス曰く、あの場所から景色を見てみたいとのこと。そんなに珍しい場所を通る訳でもありませんが、何故なのでしょうか。

 久しぶりの我が家に到着すると、お父様や我が家の使用人。一週間以上前に遠征に出かけた兄のエリオットお兄様。滅多に部屋から出てこないお母様までもが、玄関先にいて私を待っていましたわ。

 使用人一同が並ぶ中、先頭でボロボロ泣いているエレナを見ると、そこまで私のことを心配してくれたのねと感動しましたわ。

 お父様やお兄様を素通りして、珍しく顔を合わせたお母様の前に向かいましたわ。

「お母さま、ルクレシア。ただいま戻りましたわ」

「おかえりなさい、ルクレシア。大変だったでしょう?」

 お母様は私をぎゅっと抱きしめてくださりましたわ。私は数年ぶりの母の胸の中で誰にも気づかれない様に涙しました。

「あなたが早い段階でちゃんと身を固めることができなかったのは、私の落ち度でもあります。ですが、王子殿下との約束の件も把握しています」

 お母様は私の頭をゆっくりと撫で始めました。

「あなたの結婚には公爵家として利益になるような相手はほとんどいません。ですから、私が認めることができる男性であればどなたを連れてきても構いませんわ」

「お母様。それは貴族以上の方になりますよね?」

「勿論です。更に私が出す課題をクリアして頂くことが必須条件となります。その課題をクリアして初めて婚約とさせて頂きます。わかりますね。あなたが殿方を見つけてきても、半年以内に私の課題をクリアしなければ、婚約していないと判定し、王子殿下に嫁いでもらいます。それがベッケンシュタイン家からできる最大限あなたの自由を考慮した案です」

「わ、わかりましたわ」

 何故でしょう。徐々に難しさが上がっていっていますわ。確かに私の婚約者を用意する話はベッケンシュタイン家が認めなくてはなりませんが、婚約者にできそうな人を見つけても、それが翌日はグレイ様の生誕祭となればほぼゲームオーバーでしょう。

 お母様の気持ちはわかりますわ。今回の件、私が婚約者を探そうといきなり積極的になった矢先にこのようなことがあれば、これから心配にならないはずもありません。

 久しぶりの家族の団らんを、グレイ様は少し離れた位置から見守っていましたわ。その隣には、念のためグレイ様の護衛も兼任してもらう形でヨハンネスもいます。

 しばらく家族で他愛もない会話をして、お父様とお母様がグレイ様にお礼を告げると、グレイ様は王宮からの迎えの馬車に乗って帰られましたわ。

 後日王宮側から次期宰相を決定する会議が開かれるそうですわ。参加は伯爵家以上。他薦自薦自由となっていますわ。

 勿論宰相の条件として年齢や性別も存在しますが、実は身分は決まっていません。だからと言って伯爵家以上の貴族しか集まらない会議。

 当然、ほとんどの方々が自分たちと懇意にしている公爵家や侯爵家を推薦しますわ。

 父には声をかけてありますので、自薦はしないでしょうが、ロムニエイ公爵家なき今。現存する公爵家は三家。そのすべての当主が推薦されるのは想像にかたくありませんわ。

「令嬢であろうと、傍聴席には行けるが、参加する気か?」

 やけに議会の話に食い気味な様子の私を見て、お父様はまさかお前行くのか? と、あり得ないと思いながらも念のためと思い声をかけてきましたわ。

「むしろ私こそ参加すべきでしょう。ロムニエイ家が爵位剥奪された事件の関係者でもあります。この国の行く先を見届けたいと思います」

 私はできるだけ強い眼差しでお父様の瞳に目を合わせましたわ。お父様は小声で、今のお前は周りから奇異の目で見られかねない。と呟いたような気がしますわ。ええ、わかっていますとも。

「わかった。今回の件もある。お前に危害の加わる可能性が少しでもあると感じれば私はすぐにお前を屋敷に閉じ込めかねない。積極的に行動することが危険を伴うこと。今のお前ならわかるだろう? だが、ここはあえてお前の意見を尊重しよう。見届けるが良い」

「ありがとうございます。お父様」

 何もできない公爵令嬢。わがままな公爵令嬢。どれも私のことですわ。ですがそれも今日までです。

 まずは世情を知ることから始めましょう。せっかくの機会です。貴族たちの会議というものに参加してみましょう。

 議会は十日後。他の高位貴族達にも予定がありますが、それでも随分早めに開催できるそうですわ。

 私にはよくわかりませんが、やはり当主様。領地経営で忙しい方や王宮務めでせわしない方。遠征に行っている騎士の方と様々ですものね。

 その日のお昼。

 昼食をとった後にヨハンネスに呼ばれて、馬車に乗り込みましたわ。何でも私を連れていきたい場所があるそうです。

 ヨハンネスからそのような誘いが来るとは思いませんでしたが、私は二人きりで連れていこうだなんて大胆ねと声をかけた所。

 私は御者ではありませんので、最低でも三人で行きます。と無粋な返事が返ってきましたわ。

 お嬢様がご希望あれば他の方を誘っても構いませんが? と聞かれましたので、せっかくですのでエレナを連れていくことにしましたわ。

 私とエレナは馬車の中に入り、相変わらずヨハンネスは新しい御者さんのお隣に座っています。気に入ったのでしょうか。

 しばらく走った先にたどり着いたのは、王都の共同墓地でした。

「ねえ? もしかしてここって」

 案内された真新しい墓石。その墓石はあくまで平民たちと同じような墓石でありましたが、備えられているものの質が違いすぎます。

 ヨハンネスが一歩前に出て、私に肩を並べ、語り掛けてきましたわ。

「私の師匠の墓です。先日、名誉の殉職をされてしまいました。とても惜しい方でしたが、師匠らしい騎士道精神だと思っています」

「……そうですか」

 私は墓石に掘られた文字を易しくなぞりましたわ。墓石には「ヤーコフ・クエンカ」と記されていましたの。

「貴方の師匠のこと。いっぱい聞かせて欲しいわ」

「ええ、何度でも」

「語り継いでもいいかしら?」

「勿論です」

「では、そうさせて頂きますわ。我が国の騎士ヤーコフ・クエンカの物語」

 何もできない私でもできることは、見た世界を語り継ぐ事。

 我が国の勇敢で気高き騎士の名を後の世に語り継ぐ事で、少しでも彼や彼の実家の名誉とすることができれば、きっと天に召された彼も、少しは報われるのでしょう。

 私は彼の死を悔やみますが、彼の死を無駄にはしません。

「ヨハンネス。ヤーコフさんがお好きなものはご存じかしら?」

「でしたら今度、王都に出かけましょう。師匠お気に入りのワインを持っていきましょう」

 私はありがとうとだけヨハンネスに伝えておきましたわ。

 ヨハンネスが先に停泊所まで向かい、馬車を墓地の入り口前まで誘導しに行ってくれましたわ。

 私とエレナはヨハンネスに言いつけられた場所まで歩いていきましたわ。

 ヤーコフさんの墓参りを済ませて、その場を後にしようとする際、見たことない方が前方から訪れてきましたわ。

 私たちはそのまま通り過ぎ、向こうはこちらに気付くと軽く会釈をしてから通り過ぎていきましたわ。

 どなたかご存じありませんが、ここは平民の共同墓地。あまり関わりのない方でしょう。

「エレナ、随分いつもの言葉を封印していましたわね」

「ん? いや、お前の護衛張り付きすぎだろ。ストーカー疑ったじゃねえか。ほら、もう馬車見えてきたぞ。……お嬢様! さあ、お屋敷に帰りましょう!」

 エレナの声がぎりぎり馬車に聞こえそうになったところで、彼女は表の顔に早変わりしましたわ。

 さすがというところなのかしらね。勿論、あまり褒められたことではありませんけどね。

 馬車に乗り込み閉じられる扉の向こうをふと見てしまうと、先ほどすれ違った方が、何故かこちらを見ていましたわ。

 ですが、一瞬だったため、見間違いだったかもしれませんわ。

 屋敷に戻り、私はヨハンネスからたくさんヤーコフさんの話をお聞きしましたわ。

 私はその話を最初は屋敷の使用人達に語り、ある時はよそのお茶会で話題に出しましたわ。教会に行って彼の物語を孤児たちにしてあげる予定も立てていますの。

 私はすぐに控えている貴族会議に向けて、様々な事前知識をお兄様から教えてもらうことになり、これからお兄様の部屋に向かうところですわ。

 まずは貴族会議に参加し、この国の行く末を見届けさせて頂きます。

 次は私の婚約者探しですが、これは続ける必要がありますわね。今回の件でグレイ様には余計に恩を作ってしまいましたわ。

 ですが、一生あの方のおもちゃになるだなんて御免ですわ。それと婚約者の方をお母様に認めて貰う試験も必要ですわね。

 そして、この国一人の騎士の武勇伝の語り継ぎもしなくてはいけませんわね。

 とにかくやることがたくさんになってしまいましたわ。さて、聞くところによりますとグレイ様の誕生祭までぴったり二百日となってしまいましたわ。

「ふふ、私絶対に幸せな結婚をしてみせますわ」


--第一章 何もできない公爵令嬢 Fin
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