ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
18 / 102
第2章 公爵令嬢でもできること

2話 天啓ってわがままよりひどいのではなくて

しおりを挟む
 国王陛下とユリエ様に推薦されたリンナンコスキ公爵閣下は、何故自分が今推薦されているのか全くと言ってわからないという感じでしたわ。それはそうでしょう。少なくとも、国王陛下側の推薦は、多少なりとも私のわがままが影響されているのですから。

 その証拠に、さきほど目があったグレイ様は軽くウィンクしてきましたわ。そういう合図なのですわよね?

 そうなのですわよね?

 そうなのでしょう!

 結果的に言えば保守派は猛反対。お父様も保守派代表として反対勢力に立たざる終えない状況でした。しかし、革新派と王家に反対意見を出そうと思わない中立派が賛同。また、でしょうかデークルーガ帝国とこれを機に親しくなろうとした方々もユリエ様の意見に賛同していますわ。大多数の意見がまかり通り、リンナンコスキ公爵閣下が次期宰相という方向性で話が進んでいきましたわ。

 しかし、ユリエ様はどのような経緯でこちらにいらっしゃったのでしょうか。結果としましては、多くの意見をリンナンコスキ公爵閣下に向けて頂き、とてもありがたかったのですが、彼女がわざわざ動く理由がわかりませんわ。いえ、天啓なのでしょう。きっと彼女はそう答えますわ。

 今回はまだ仮決定となっていますわ。後日また開催され、三度目ほどで本決定となるそうですわ。ですが、この調子でしたらリンナンコスキ公爵閣下になることは間違いなしでしょう。

 議会が終わり、周りの方々は親しい人と立ち話をし始めましたわ。私はレティシア様と歩いていますと、思いもよらぬ人物が今目の前にいらっしゃいましたわ。

「ルーちゃん? 元気でした?」

「ユリエ様!? 何故このような場所にいらっしゃるのですか?」

 傍聴席は、すでに様々な方が歩き回っているような状態になっていますわ。その中を、さも当然のように歩いてきたユリエ様に驚き、私は彼女とレティシア様の手を握って、すぐに人ゴミから抜け出しましたわ。

神子みこはルーちゃんとお話に来ました」

「みこ? あの、ルクレシア様。ユリエ様はなんと?」

「彼女、ご自身のことを神子みこと呼ぶのよ」

「そ……そうなのですね」

 心なしかレティシア様は引きつった笑顔になって返事していらっしゃいますわ。私はその呼び方を子供の頃から存じ上げていましたから、あまり気にしていませんが、まだ直していなかったのですね。

「ルーちゃん? 天啓がありました。ルーちゃんの思い通りに上手くできていました?」

「……? 天啓といいますと? もしかして議会のことですか?」

「え? ですが、ベッケンシュタイン家としてはむしろ不利なお話の方に行きましたよね?」

 確かにベッケンシュタイン家にとって、今回のリンナンコスキ公爵閣下最有力という結果が不利だということは彼女も理解しているようですわね。

「確かにベッケンシュタイン家としては問題かもですが、私としてはこれでいいのです。ですが天啓ではその話題はあまり口外しないで欲しいって聞こえませんでした?」

「天啓はあくまで進むべき道を記してくれるだけ。でも、今のルーちゃんをみてよく分かりました。私の天啓に過ちなどあり得ませんでした」

 彼女は何かと自身に聞こえてくるという天啓に過信していらっしゃるようですわ。無論、それらすべてを否定する気はありません。それにたまになのですが、本当に聞こえているかのようにずばりとあててきますのよね。

 ユリエ様とお話ししていますと、後ろからヨハンネスが声をかけてきましたわ。

「すみません、私はもう行きますわ」

「そうですか? では神子みこは天啓通り、レティちゃんと親睦を深めておきますわ。天啓では王都を案内してくださりますが、何か間違いでも?」

「ええ!? えと、畏まりましたわユリエ様!!」

 レティシア様、お気の毒に。少しばかり親友に同情しつつ、お兄様に連れられ先にベッケンシュタイン家の屋敷に戻ることになりましたわ。と、言いますかいつの間にかレティシア様のことを愛称で呼んでいますわね。

 しかし、久々に見た親戚は昔からさほど変わりありませんわね。

「それと天啓通り、本日はベッケンシュタイン家の屋敷にお泊りします」

「……何も違いありませんわ」

 彼女が天啓と口にした以上、その言葉は叶えなくてはいけない。それは彼女のルールです。そもそも隣国の姫殿下からの命令。あまり不敬なことは公爵家といえ、そう易々とできるものではありませんわ。彼女、私以上にわがままなのではなくて?

「お嬢様、これから約束通り師匠が通った酒造に行こうかと思いますが、どうでしょうか?」

「ワインですか? そうですわね。早くお供えして差し上げましょう」

「でしたら騎士服は目立ちますね。一度屋敷に戻って着替えてもよろしいでしょうか?」

「構いませんわ」

 お父様とお兄様はまだ王宮に用事があるそうですので、先に私とヨハンネスは屋敷に戻りまして、町に出かけるために着替えましたわ。

 しかし、ヨハンネスと一緒にお出かけなんて少しデート見たいですわね。まあ、私が平民とデートなどあり得ませんのですけれどね。

 もう少し可愛い服でも着たほうがいいかしら?

 私はスカートを軽く持ち上げ、花柄の刺繍が施されたそれは私から見ても十分可愛い。足を出さない長さのスカートを翻しながらエレナを呼びましたわ。

「エレナ? エレナ?」

「どうした? まだ可愛くなり足りないのか?」

「いえ、そうではないのですが、このスカートは私が穿いても可愛いのかしら?」

「おいおい、これからデートに行くんじゃねーんだぞ?」

「それはそうなのですが、なんとなくですが、町に出られると考えてしまいますと、変な恰好はしたくないのです」

 勿論、エレナの選んだ服が変な恰好という意味ではありません。ですが、この格好は女性にしては背が少し高めの私には、少し子供っぽすぎてミスマッチになってしまっていないか少々不安になってきましたわ。

 エレナはやれやれと言いながらも、私に似合う服を探すのを手伝ってくださいましたわ。やっと私でも納得のいく格好になりますと、エレナは多少苦笑いしていましたわ。

「変でしょうか?」

「いや、お前が私の言うことを一発で聞かずに試行錯誤するなんて珍しいなって思っただけだよ。普段なら二つ返事じゃねーか」

 確かにそうですわね。思ったよりも殿方と二人きりという事実に緊張しているのでしょうか。あれ? 忘れていましたが、ヨハンネスって殿方でよろしいのですよね?

 普段から騎士服のヨハンネスの顔は、ほぼ女性より。しかし、騎士服は女騎士用の制服ではなく一般の男性用の騎士服です。それを綺麗に着こなしていましたし、数日一緒にいましたが、いつの間にかヨハンネスは男性と認識していましたわ。それにヨハンネスは男性らしい体つきとも女性らしい体つきとも言えない中性的な体格をしていらっしゃいましたわ。

 突然ドキドキが収まり、緊張感が持っていかれてしまいましたわ。そして扉がノックされましたわ。

「お嬢様、ヨハンネスです」

「ど!? どうぞ」

 そこには、水色のワンピースを上手に着こなしたヨハンネスがいらっしゃいましたわ。

「貴方、やっぱり女性でしたのね」

「そういうつもりではございませんよ。今この格好を選んだのは、お嬢様と出かけるならこちらが良いと思ったからです」

 むしろその方がどういうつもりなのかしら?

 私と男性の姿で出かけるのが嫌ということですか?

 少しばかりがっかりしていますが仕方ありません。

「もういいです。行きましょうヨハンネス」

「この格好の時はラウラとお呼びください!」

「それがあなたの本名かしら?」

「いえ、本名はヨハンネスでもラウラでもございません」

 やっぱりこの護衛はダンゴムシでいいです。本名もダンゴムシです。ダンゴムシ・フランスワですわ。一人と一匹で出かける為、私たち馬車に乗り込み、ちょうどいい場所で降りて街中を歩いて酒造に向かうことにしましたわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...