ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第2章 公爵令嬢でもできること

13話 侯爵令嬢オルガ様は国に留まれない!

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 私の護衛騎士たちが揃い、やっと自由とまでは言えませんが、ある程度の外出が可能になりましたわ。

 あれから二週間。グレイ様の生誕祭まで百七十五日。特に何事もなく過ごしています。

 問題ないのは良いことですが、でしたらここまで警備をしっかりしなくてもって思ってしまいますのよね。

 勿論、一人減らしたせいで、襲われて死ぬなんてばかばかしいですし、しばらくは現状維持で宜しいでしょう。堅苦しいですが、身の安全を優先するのでしたらこれくらいでも実は少しだけ不安になってしまうのですわ。

 そんな仮初の安全の日々を過ごしていましたが、ある夜会の招待をお受けしましたので、エレナに返事を書いてもらい、届けてもらうことにしましたわ。

「夜会に出られるのですか?」

 私の部屋に入室してきたヨハンネスが、私の外出を確認してきましたわ。おそらく、出席するという返事を書いた手紙をエレナが持っていたところを目撃してしまったのでしょう。

 その夜会に連れていける護衛は、伯爵であるマルッティだけ。

 得物は携帯できないでしょうから素手で頑張ってもらいます。

 ですが、ヨハンネスならラウラに変装して頂ければ給仕に紛れても問題なさそうですわよね。マリア? 彼女は馬車に待機してもらいます。なんかそのマリアですから。

「ええそうよ。会場にはマルッティも入れるわ。貴方も給仕に参加する?」

「そうですね、それも必要があるかもしれませんね」

 どうやらラウラの格好で給仕に参加することに問題はないようです。であれば出席しても安全ですよね。

 今回参加する予定の夜会。それはリンナンコスキ家の当主が正式に宰相になる発表も兼ねた夜会なのでした。

 さすがに宰相になる発表ですので、王都内に集まっている貴族には派閥関係なく招待されることになりました。これは私のエスコート役を探さないといけませんね。ですが、この間の夜会とは違います。今回の夜会には兄も参加されます。

「お兄様のところに行ってきますわ」

「エスコートでしたら、王子殿下にでも」

「嫌」

 最近は夜会に中々参加できませんでしたが、宰相の祝いなら参加しない訳には行きませんものね。ですので今回は絶対にグレイ様以外の方にエスコートして頂きたいのですわ。

 この間あった王家主催の夜会みたいに私とグレイ様が二回連続で一緒に参加なんてしましたら、余計に婚活の成功に繋がりませんわ!

 お兄様の部屋に向かいノックをします。中からどうぞと言われましたので、入室致しましたわ。

「……ルクレシア?」

「お兄様、来週のリンナンコスキ家の夜会なのですが……」

「……ごめん」

「いつも通り私のエスコートを……何を謝られていますの?」

 お兄様はなぜか夜会と聞くと、私に謝ってきましたわ。

 兄は言葉数が少ない方ですのでそのあとゆっくりとお話を聞くと、どうやらお兄様の婚約者が王都にいらっしゃるそうなのです。

 彼女はいつも社交シーズンであろうとも王都にやってこない変わり者。おかげでお兄様にいつもエスコートをお願いできました。

 兄の婚約者はずっと昔から婚約されている方なのですが、いつもどこかに旅立たれていましたわ。おかげで兄はもう25歳になりますが、結婚をしていません。

 兄の婚約者様はアルデマグラ公国にすらいらっしゃらないことの方が多いのです。ですが、兄は婚約破棄をしないため、未だに関係が続いているそうですわ。

「そういえばお兄様の婚約者様って私あったことがありません」

「……いる……テラス」

「はい?」

 それはつまり、我が家のテラスに未来のお義姉様がいらっしゃるということですか?

 少しだけ興味がありますわね。あってみようかしら。私はそのままお兄様に言われたとおりに我が家のテラスに向かいますと、見慣れない女性が一人。

「あの、こんにちは?」

 女性は私に気付くと、ずずいっと近寄ってきましたわ。何ですかいきなり!?

「君がルクレシアかい? 初めまして僕はオルガ! オルガ・カレヴィ・タルヴェラ! 君のお義姉ちゃんだよ!」

 よく見ると、長い金髪に背格好が少しばかり私に似ている方ですわね。瞳は私と違い深紅ではあることと、このアグレッシブな雰囲気。一緒にいても勘違いされることはありませんが、ここまで似ていますとびっくりしますわね。

「いやぁ、本当に僕と似ているお嬢さんなんだね。これは実質姉妹! エリオットこそ義理の兄なんじゃないかい?」

 私もそれを疑いそうになりましたわ。お互いがお互いの物まねでもしたら瞳の色まで見ないと区別が難しそうですわ。私そっくりの婚約者を用意するだなんてお兄様少し気持ち悪い。いえ、用意したのはお父様? え? もっと気持ち悪いですわ。

「お義姉様は今までどちらに?」

「僕かい? グレイトウォール山脈の向こうさ!」

「あちらに?」

 グレイトウォール山脈。神話の時代に神々が二つの世界を分かつために作られた山脈と言われています。知恵の神の子が住む国と呼ばれた西側の国々と肌の色が白くない方々が住む武の神の子が住むと呼ばれた東側の国々が争うのを避けるために、神々が大地に巨大な壁を作られました。それがグレイトウォール山脈。一般的にクレイスタ教ではそのように教えられていますわ。

「やはり向こうの国の方々の肌は違う色でしたか?」

「あー? そうだね、黄色? うーん? まあ、白くはなかったかな!」

「そうなのですね! 一度お会いしてみたいですわ!」

「じゃあ、今度一緒に行くかい?」

「とても魅力的なお話ですが、今の私には難しい話ですね。宜しければたくさんお話が聞きたいですわ」

「いいよ! いいよ! 可愛い義妹の為だ!」

 その後お義姉様の冒険譚をたくさん聞かせて頂きましたわ。最初はなんとジバジデオ王国。お姉様はそこで自然の中でも生き抜くサバイバル技術を学んだそうですわ。次期公爵夫人ですよね?

 それからデークルーガ帝国に渡り、その後北方の国々などにも足を運んだそうですわ。

 一度海を介して海の向こうにある別の国に行き、また船で我がベッケンシュタイン領に戻られ、そのままもう一度デークルーガ帝国に行き、更にその先にあるスパイスロードと呼ばれる道を渡り、グレイトウォール山脈の向こう側で様々なことを体験してきたようですわ。

「グレイトウォール山脈の向こうの国々はお茶が緑色でね!」

「え? それは飲んでも大丈夫なのですか?」

「向こうで出された真っ赤な食べ物がとっても辛かった! 舌がひりひりして痛かったんだけど食べることをやめられないんだよね!」

「中毒症状ですわ! 麻薬か何かです!」

「変な髪型のおじさんからケンポーってのも学んだよ! 僕もタツジンって呼んでもいいと言われた。多分、褒められているんだと思う!」

「ケン? ポォー? タツ? ジィン?」

 お義姉様のお話は知らないことばかりで私はついつい時間を忘れて聞き入ってしまいましたわ。そう時間を忘れて聞き入ってしまったのです。

「あらら? 日が暮れてきたね。明日もいるから聞きたいことは聞いておいてね」

「はい! では、ディナーに致しましょう……と、言いましてもさすがに兄とお話しますよね?」

「そうだねぇ。滅多に喋られない未来の夫だ。ディナーの時くらい相手してあげないと。まああどうせエリオットのことさ。結局まともに喋らないだろう?」

「それは、我が兄ながら申し訳ありません」

 そう仰いますと、お義姉様はさっさとテラスを出てしましましたわ。私はお義姉様のあとについていきました。何か忘れていますね。ええ、私今思い出しましたわ。

 宰相発表の夜会でどなたにエスコートして貰いましょうか。え? グレイ様また来ます? それはちょっと遠慮しておきたいですわ。

 ついこないだのこともありますし、二人きりで大勢の前を歩ける自信がありません。
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