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第2章 公爵令嬢でもできること

12話 違いのわかる公爵令嬢は今日も通常運転

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 グレイ様との心臓に悪いデートから翌日。どうやらグレイ様が招集した騎士が王都に到着したようですわ。ついにこの変態を王宮に返納できるのですね。

「もう少しルーと一緒にいたかったんだけど、僕は王宮でやることがあるからね。あ、ルーが王宮に籠ってもいいんだよ? ほら、君の部屋もあるし」

 サロンにてゆっくり紅茶を飲みながら、グレイ様とお話しております。しかし、何故ヨハンネスはラウラの格好で給仕をしていますのでしょうか? …………私の部屋?

「気が早すぎて聞き間違いかと思いましたわ」

 何故まだ確定していないはずの私の部屋を用意しておりますか?

 馬鹿なのですか?

 ですが一度好みに合うか確認してもよろしいでしょうか?

 もう絶対見つけられないって諦めた一週間前くらいとかに尋ねさせて頂きます。いえ、その前くらいに見ておいた方が…………私の部屋。

 今更ですが、私たちって結婚することになったら婚約期間なしでいきなりなのですよね。どうせその前に婚約者を見つけてきますので、一向にかまいませんが。

 私の部屋にノックをして入室してきたのは、女性。どうやら先にこちらに到着した騎士様は女性騎士の方でした。

「初めましてマリア・アハティサーリというものです。年の端は16。気軽にマリアとお呼びください。この槍はルクレシアお嬢様に捧げます」

 青く長い髪の長身の女性でした。得物は綺麗な銀色の槍。礼儀正しそうで問題なさそうですわね。私、問題なさそうって思った人が問題なかったためし、あまりありませんけどね。良いのですよ。今回くらいまともな方が来るのでしょう? 私、わかっています。

「そういえばもう一人の騎士様がいらっしゃいましたら、グレイ様は王宮に帰られるのかしら? 喜ばしいことに」

「その出ていけって意味が含まれてそうな言い回しは妙に傷つくね。でもとっても残念なことにマリアが到着した時点で、僕は王宮に戻らせてもらうよ。残念なことにね。ヨハンネスとマリアがいれば屋敷内であれば護衛は十分だと思うしね。本当に残念」

 あらそうですか?

 マリアってそんなにお強いのね。それは喜ばしいことです。

 グレイ様は既に帰り支度を済ませていたようですわ。そして軽い挨拶だけ済ませて、王宮に急いで戻られてしまいました。そんなに忙しいのでしたら、私のことなんて放っておけば宜しかったですのに……いえ、護られて嬉しかったですが。

「ルクレシアお嬢様、私の同僚……ひいては隊長、上司になるご予定のヨハンネス・フランスワ様はどちらに待機されていますのでしょうか?」

「ああ、えっと……このメイドがヨハンネスですわ」

「はい?」

「え?」

 ヨハンネスの女装ってあまり有名ではないのでしょうか。いえ、有名でしたらそれはそれで気持ち悪いのですが。

 どう見ても驚いている様子のマリア。男性と聞いていた方がメイド服を着て給仕をしていましたら、誰でも驚きますし、変態と思いますわよね。私は思っています。

「素晴らしいです!」

「え??」

 何が素晴らしいのでしょうか? 女装? 女顔? ダンゴムシ? 給仕? 女装? 全く理解できませんが、どうやらマリアには好感触のようですわね。お待ちなさい、ヨハンネスは私の騎士です!

 あ、いえ貴方の上司にもなるのでしたよね。それにあなたも私の騎士でした。

「とても素晴らしいですわ。私が暗殺者でしたらメイド一人くらいまとめて殺してしまえって考えますもの。それが護衛隊長だなんて全く気付きませんでした」

 ああ、そういう風に捉えて頂いたのですね。確かに、護衛がいないように見える今の状態は、敵をおびき寄せ安く、なおかつヨハンネスは相当な実力者だと思っています。見たことありませんので。護衛とばれずに行動しやすいのでしょう。

「こんなに素晴らしい護衛隊長様! 結婚したい!」

「うーん?」

 私を差し置いて婚活している馬鹿がいらっしゃいますね。もし、私より先に嫁いだら解雇ですわ。許しません!

 退職金と祝い金とあとは妊婦服で宜しかったでしょうか?

 他にもご入用でしたらリスト化して欲しいですわ。

「彼女マリアは、独身男性を見ると、すぐに結婚したいと言う変わり者なのです」

「……それは当たり前のように女装して給仕する騎士より変わっているのかしら?」

 どうでもいいのですが、ヨハンネスは殿方で宜しいのですよね?

 今、ご自身で自白しましたよね?

 いえ、マリアに開示しているプロフィールが殿方というだけの話なのかもしれませんが。

 グレイ様からは事前に私と話が合うとお聞きしていますが、婚活の話のことではないでしょうね。馬鹿にしているのでしょうか? そもそも、このような綺麗な方で婚活に積極的な女性を私のお隣に常に置かせるなんて、私の婚活の妨げでしかありませんわ。わざとですわね! わざとなのですわね!

 マリアは一通り挨拶や、屋敷での過ごし方などをエレナから説明して頂き、ベッケンシュタイン家での生活を覚えて頂きましたわ。これはお次の方も不安ですね。一応既婚者というお話でしたから、奥さんができる程度にはまともであることを祈りましょう。

 それから三日後、グレイ様の誕生祭まであと百八十九日。もう一人の騎士がベッケンシュタイン家に到着しましたわ。

「マルッティ・ガルータじゃい。嬢ちゃんがルクレシアお嬢様か? ガッハッハ! こりゃええ! 別嬪さんじゃねーか! だが、俺の奥さんの方が綺麗だ! ガッハッハ!」

 煩い。一言でいえばこの男は煩いのである。鼓膜が破れるかと思えるような笑い声。何が面白いのでしょうか。あと私より綺麗な奥さんを連れてきてくれませんか?

 どの程度か勝負して差し上げますわ。

 ですがまともな方ですわよね! なんか! もう! こういう人でもいいですわ! 許容範囲ギリギリのような方でも良いと思えるほど、私の周りに変人が集まってきているような気がします。

 それにこの方、この美しい私を見ても奥さん一筋宣言! 素晴らしい人格者ではありませんか!!

 この方、私と年の近い未婚の息子さんはいらっしゃらないのかしら?

 大声の方でも今の私の男運なら許容できそうですわ!!

 なんとなく普通の方でしたら出会えないままな気がするのですけどね。何故?

「奥さんがいらっしゃりますのね! お子さんはいらっしゃるのかしら?」

「おう! 娘にミリアム、ナディア、ナタリーア! 息子にミコラーシュ! 四人もおるぞ!」

 ミコラーシュ様ですね。覚えておきましょう。ガルータ家。確か、伯爵家だったはずですし問題ありませんわ。そういえばマリアも爵位はあったのかしら? あまり聞かないのですよね。アハティサーリなんて。男爵家とかですと、たまにうっかり忘れている時もありますし、後で聞いてみましょう。

 夕食後に聞いてみた所、アハティサーリ家は騎士伯でした。これで私の護衛は三人になりましたね。一応、グレイ様からこの三人を常に同行させることで外出しても安全だと仰っていました。休みなしで申し訳ありませんね。

 あと一人か二人くらいでしたら雇ってもよろしいのですが、さすがに王宮近衛騎士からベッケンシュタイン家が選ぶなんてできませんよね。グレイ様にお願いしてみましょうかしら?

 あるいはフリーの騎士を探すとかですかね。いえ、考えることはやめましょう。申し訳ありませんが、彼ら彼女らにはしばらくプライベートを犠牲にして頂きます。

 私の護衛が以前以上に強固になりましたが、マグダレナを送り出してきた方、お次はどのような手を打ってくるのかしら?

 少々楽しみですわね。私はもう万全ですわよ。返り討ちにして差し上げますわ!!

 私はそのまま高笑いをしながら、階段を踏み外し、転がりながら一気に階段を下りていきましたわ。これから降りるつもりでしたから結果オーライだと思っていますの。笑い声? いえ、これは小鳥のさえずりですわ。私にはわかります。ほうら、クスクスクスってね? 私は違いの分かる女なのですわ。

 ですから早く誰か手を引いて起こしてくださいませぇ!!!!
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