ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第2章 公爵令嬢でもできること

15話 つい変人か確認してしまうのは防衛本能です

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 本日は、ヨハンネスがお呼びした相手が、お昼過ぎに我がベッケンシュタイン家のお屋敷にいらっしゃるそうです。

 念のため確認したところ、貴族男性で次期当主の方だそうです。

 しかし、イサアークは私の知る限り変な方ではありませんでしたし、エミリアさんですら少しずれた方程度でした。ユリエ様?

 天啓は昔から仰っていましたので、幼少時から変な方でしたよ。

 湯浴みもしっかりと手伝ってもらい、ドレスも選んでもらっているところ、久々にエレナと二人きりになりましたわ。

「今日も綺麗になったなあ? さてと、ドレスは何色にするんだ?」

「そうね、お相手の方がどのような方かわからないですし。好みくらい伺っておくべきでしたかしら?」

 しかしわからないものはしかたありませんね。今日の気分で選ぶしかありませんか。黒……案外この金髪に栄えるかしら?

「エレナ、その黒いドレスをお願い」

「これか? 珍しいな。普段は青だったり赤だったりとそういう色ばっかりだろ? もっとこー……いやありか? よし、黒にしよう」

 エレナは特に問題なかったのでしょう。私が選ぶといつもならこれはだめだと仰いますが、今日は黒を選んだことに少し驚いているくらいです。

 そして支度が終わりましたが、当然この程度では午前は終わりはしません。何をして時間を潰しましょうか。さすがに二日連続でお義姉様とお話をするのはお兄様に申し訳ありませんわ。ですが、この機会になるべくお話もしたいです。

 私はすっかりお義姉様に懐いてしまったようです。それも仕方ありません。お義姉様は心の広く太陽のように包み込んでくださる聖女のような方なのですから。

 私も聖女って呼ばれてみたいですわ。ああ、お義姉様を聖女って呼んでいるのは私だけですね。でも私の中では聖女です。

 仕方ありません。エレナとマリアと三人でお話ししましょう。仕方ありませんので、三人でサロンの椅子に並んで座ることになりましたわ。

「何ですかこの会は?」

「婚約者のいない未婚女子会ですか? 結婚させて」

「集まった途端に不穏なことを言わないでください!」

 私たち一応まだ嫁ぎ遅れまではもう数年ありましてよ!

 エレナはあと少しでしたねごめんなさい。それにマリアも貴族女性というわけではありません。でしたらまだ結婚するような年齢ではありませんわ。一般的に貴族女性は二十歳、平民女性は二十四歳で行き遅れと言われていますわ。

 ですが、私は諸事情。マリアは強い結婚願望で、一番年上のなおかつ貴族令嬢のエレナはむしろ結婚のことを考えている気配すら感じません。

「エレナは結婚のことを考えませんの?」

「主より早く婚約者を作るつもりはございません」

「え? なんかごめんなさい。そしてありがとう」

 エレナが嫁ぎ遅れ目前でしたのって私のせいでした?

 しかし、なおさら早く婚約者を作るべきですわね。エレナの為にも。エレナの為にも!!

 そう、これはエレナの為の努力!

 決して半年以内とかそういうあれは……エレナの為ぇ!!

「あ、私はお嬢様より先に結婚しても良いですよね?」

「ダメです」

 忠誠心のかけらもない女騎士ですこと。といいますか、今日お会いする方ともマリアは遠ざける必要がありますわね。欲が強すぎる彼女ですが、見た目は悪くありません。お相手様がマリアを見て万が一ということも……私にしては弱気すぎるかしら?

 いえ、なんとなくですが、私も男運を信用できなくなりまして。いえ、私の場合は恋愛運ですかね。変な女性も来ますので。

「ですが、私はエレナにもマリアにもいずれは幸せになって欲しいですわ。良い話がありましたら私も協力致します」

「お嬢様が?」

「それはそれは」

「「失敗されそうですのでご遠慮願います」」

 あなた方が私をどのように思っていらっしゃいますか再認識致しましたわ。二人してハモらなくても良いではありませんか?

 私、そこまで信用ありませんか?

 それにしてもエレナはいつまで私のお傍にいらっしゃってくださるのでしょうか。嫁ぎ先にも付いて来てくださるのでしょうか。できれば、エレナとはこれからもご一緒したいところですが、それはエレナの幸せに繋がりませんよね。

 三人で談笑していますと、時間はあっという間でした。少し先の未来、私たちはお互いの家庭の話をするために、もう一度一つのテーブルを囲えますでしょうか?

 もし、そう慣れたら、きっと私は幸せなのでしょうね。その時はお義姉様やレティシア様もお誘いしたいですわ。

 昼食の時間になり、ダイニングルームに向かいますと、お兄様とお義姉様が仲睦まじい様子で何だか微笑ましいですわ。やはり結婚とはこのように幸せであるべきなのです。公爵令嬢の私だって好きな結婚生活を思い浮かべても問題ありませんでしょう。

 昼食後、しばらくしてどうやらヨハンネスがお呼びした彼が到着したようですわ。早速お会いしましょう。

 私はエントランスに向かうとそこには茶髪の男性がいらっしゃいました。背格好はグレイ様と同じくらいでしょうか。瞳の色は灰色でして、どこか懐かしい色をしていましたわ。

「ようこそ、私がルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタインです」

「はじめまして、メルヒオール・クエンカです」

「メルヒオール様ですね……以前どこかで?」

 どこかでお会いしたような気がしますわね。それに今、この方はクエンカと名乗られました?

 言われてみればその瞳の色はヤーコフさんと同じ色をしています。クエンカ家でしたら子爵家ですわね。ええ、問題ありませんわ。少々爵位は少々低いですが、問題ありません。

「とにかくこちらへ」

 私は嬉々としてメルヒオール様の手を引っ張り、サロンへ誘導してしまいましたわ。少しはしたなかったかしら?

 サロンにつきますと、私の対面にメルヒオール様が座り、エレナとヨハンネスは近場で待機。マルッティとマリアは屋敷内警備をして頂いています。

「先ほどの質問ですが、俺とは叔父の墓参りの時にすれ違いましたよね?」

 叔父? となると、ヤーコフさんのことでしょうか? 言われてみましたら、どなたかとすれ違いましたわね。思い返せば平民墓地ですれ違った身なりの良い方でしたわ。

「まあ、そうですわ! あの時はちょうどヨハンネスが馬車の方に向かわれていましたから面識のないエレナと私だけですれ違ったのでしたね。知っていればご挨拶させて頂きましたのに」
 
「いえ、俺なんかあんな場所でなんの心構えもなく挨拶されても、緊張で喋れないですよ。今日だってかなり緊張しているんですから」

「それは私が公爵令嬢だからかしら? それとも美しすぎるから?」

「当然、そのどちらもです。あなたは素敵なお嬢様ですから」

 そうですわよね。そうですわよね。本来ならば子爵家の嫡男では私と二人きりになんて慣れるはずありませんもの。

「メルヒオール様は何か……変わったご趣味や趣向などは?」

「え? 変わった趣味に趣向?」

 まずいですわ。つい気になって一番最初に聞いてしまいましたわ。え? いえ? え? 私悪くありませんわ! そういう人がたくさんいらっしゃるのが悪いのです! 表情フェチにマゾに足フェチに性別不詳! 自分が神の宗教家は他の追随も許しません!

「変わった趣味かわかりませんが、野営料理ですかね。一応俺も騎士ですので。一応己を磨くことが趣味と思っていましたが、変わったもののとなりますと……」

「まあ、野営料理ですか!」

 正直、あまり口に合わなそうですわ!

 貴族男子としての趣味と聞かれてしまいますと変わっているのでしょうが、特に変な趣味をお持ちって訳ではないのですよね? いえ、初対面でいきなり暴露する方なんていらっしゃいませんよね。ないと信じています。ない!

「私は劇場に行って演劇やミュージカルの観賞ですわ」

「ルクレシア様も変わった趣味ではないですね」

「ごめんなさい。私も少々緊張してしまいまして、変な聞き方をしてしまいましたわ」

 いえ、危険信号からか一番最初に確認したいことがつい喉から出てしまいました。申し訳ありません。ヤーコフさんの甥の方で騎士。子爵家の後継ぎ息子様。他にも特徴がないか、その辺りも詳しく確認致しましょう。

 メルヒオール様について他に聞き出したことは、ご兄弟はいらっしゃらず、クエンカ子爵家の次期当主であること。騎士としての腕前はまずますだそうですわ。ヤーコフさんの甥でも強いって訳ではありませんよね。

 好みの女性をお聞きしましたら、それはまだ秘密だそうです。ここそれなりに重要なのですよ? おわかり?

 楽しい時間はすぐに過ぎてしましましたわ。仕方ありませんね。まだこの方がボロを出す可能性もありますし、ここは少しだけ慎重に行くべきでしょうか? それとも今こそ攻めるべき? ヤーコフさんの甥ですものね。他の方よりは信用に値しますわ。

「メルヒオール様最後にお願いがありますの」

「何でしょうか?」

「リンナンコスキ家の夜会に私と一緒に出席して頂けますでしょうか? エスコート役をお願いしたいのです」

「え? 王子とご参加されるとばかり……いえ、喜んで!」

 やはり皆、私と王子がそういう関係だと認識されたままですのね。早く誤解を解きませんとね。とにもかくにもエスコート役をゲット致しましたわ!

 これで夜会の準備に専念できますの!

 本当にメルヒオール様とご一緒しても問題ないのですよね?

 私が不安がっていますのは、あくまでこの方がまともかどうかを気にしているだけですよね?

 他の方と夜会に出たいとか……いえ、そのようなことはないはず。
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