ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第3章 ポンコツしかできないこと

7話 奇跡と宗教とユリエの天啓

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=== ユリエside ===

 さかのぼること数日前。神子《みこ》のルーちゃんがあろうことか他の人間《げかいじん》に微笑んだのです。神子《みこ》を差し置いて、人間《げかいじん》に微笑んだのです。

 神子《みこ》は心にストンと落ちてくるものがありました。天啓が聞こえたのです。デークルーガ帝国の力を使って、ルーちゃんを迎え入れればいいんだって。

 神子《みこ》はルーちゃんと人間《げかいじん》に向かって別れの挨拶をしてすぐに国に帰りました。今のデークルーガ帝国ではダメ。クレイスタ教という邪教がはびこった帝国は一刻も早くお掃除する必要があるのです。

 そして帰国後ですね。デークルーガ帝国王都の教会から訪れさせて頂きました。

「司祭様、こんにちは」

「これはこれはユリエ姫殿下。あなた様がクレイスタ教に御用はないかと?」

「本日は国教を塗り替えに参りました。その為にこちらの教会を頂きたいのです」

 司祭様は険しい表情を作られましたね。天啓通りです。そしてこれから起きることも、天啓通りなのです。

「神子《みこ》の天啓を見て貰います」

「ええ、見せて頂きましょう」

「それでは神子《みこ》の指示通り動いてください」

 神子《みこ》は司祭様に、遠方にある丘まで移動して頂き、そこで書き記された文字を、こちらで待機する神子《みこ》が天啓で聞き取り、書き写すという千里眼をお披露目してあげることにしました。

 当然丘の上にはユリエ教の人間《てんし》とクレイスタ教の人間《げかいじん》を配置。神子《みこ》の隣りにも同様にユリエ教の人間《てんし》とクレイスタ教の人間《げかいじん》を配置しました。念押しをされた為、神子《みこ》の周りにはクレイスタ教の人間《げかいじん》が十名もいらっしゃいます。

「無意味です。天啓による事実は、誰も覆せません」

 準備が整い、司祭様と各宗派二名が丘に向かいました。ここから丘までは馬を走らせて一時間と言ったところでしょうか。少々退屈してしまいそうですね。神子《みこ》は司祭様が書いた言葉を書き記す準備を始めましたわ。

 そして一時間ほど経ったのでしょうか。どうやら司祭様が文字を書き始めたようですね。

「では神子《みこ》も書き写しましょう」

 神子《みこ》はペンを持ち、司祭様が戻られる一時間ほど前に言葉を書き写しましたわ。それから一時間ほど経った頃でしょうか。丘の上に向かわれた司祭様たちが戻られましたわ。

「どうだったかね?」

「それがちょうど一時間ほど前にユリエ様は何かを聞き取り、文字を記されていました」

「そんなはずはないだろう? その頃は私も文字を書いていたころ合いだぞ」

「しかし」

 そのような無駄なやり取りは不要なのです。これだから人間《げかいじん》は…………

 神子《みこ》は書き記した文字を高らかに掲げ、司祭様にお見せしました。

「天啓通りであれば、貴方が記した文字はこちらで間違いありませんね」

「これは…………あり得ない。無造作に書いた文字の羅列だぞ!」

 司祭様はうろたえているようですね。それではここでトドメとさせて頂きましょうか。千里眼の力をその身に沁みなさい。

「この無造作な文字列を書く際に、貴方は言いましたよね?」

「何?」

「この丘の上で書き記した文字を誰かが写して先に私に知らせるのだろう? だが、それではあまりにも遅い。私の勝ちだ。馬鹿な姫様だな。と、言いましたよね? 悲しいです。神子《みこ》の国の最高司祭であるあなたのお言葉とは思えませんでした」

 司祭様はお口をパクパクと開閉を繰り返されています。

「ところでこちらの無造作な文字列は…………一致されていますでしょうか? せっかくですので司祭様自らお確かめください」

 司祭様には念のためと言い、一文字一文字計百文字の無造作な文字列を確認して頂きましたわ。徐々に脂汗を滝のように流され、口の開閉はペースアップされていますね。下あごが取れてしまいますよ?

 そして司祭様は神子《みこ》の目の前でぶっ倒れてしまいましたわ。正しく天啓通りですわ。本当に全て上手く行きます。

 その後も千里眼やそのほかの奇跡を様々な人々《げかいじんたち》の前で披露致しましたわ。披露された奇跡を見た方々は徐々に神子《みこ》を信じるようになり、国中の教会をクレイスタ教からユリエ教に入信させましたわ。

 そして隠れクレイスタ教の摘発。徹底的に国中の宗教を塗り替えましたのです。そして王都の広場の中心から国中から集まった国民《てんし》たちがわーわーと空に声を響かせています。

 神子《みこ》は皆様から見える台の上に立ち上がり、皆さまの歓声が一気に高まりましたわ。

「帝国に聖女を! ユリエ教万歳!」

「「「「「ユリエ教万歳!!!!!」」」」」

 国民たちから心地の良い歓声が聞こえ、それに応えるように神子《みこ》は大きな声で宣言しました。

「今、我が国には未曽有の厄災が訪れようとしています! そのためには神子《みこ》と同じ瞳の色をした金糸の髪をした聖女と私が一つになり、奇跡を起こす必要があるのです! デークルーガの王族にのみ許された桜色の瞳をした金糸の女性! それはつまり! アルデマグラ公国公爵令嬢にして我が従姉妹ルクレシアに他なりません! 宜しいですか! 皆様は今神話の一ページに立ち会っているのです! 剣を持ちなさい! 槍を握りなさい! 公国から聖女を奪うのです! それが最も多くのデークルーガ帝国の民を救う道なのです! 天啓に違いなし!」

「うおおおおおお!!」「わああああああ!!」「姫様ああああ!!」「ユリエ様ぁああああ!」「ユリエ教バンザーイ!」

 本当に心地よいですね。さぁてルーちゃん。もうすぐ迎えに行きますからね。


=== ルクレシアside ===

 私は今、遊びに来てくださったオルガ義姉様と向かい合ってテーブルに座り、チェスをしていますわ。

「うむむ? これは? むー? こうかな?」

 お義姉様は試行錯誤した結果変な場所にナイトを配置してしまいましたわ。これはこれはこれは!

「オーホッホホホホ! でしたら私はチェックメイトさせて頂きますわ! 勝てますわ! 私勝てていますわ! 勝利ですの!!」

 とても気分が高揚してしまいましたわ。普段、エレナ相手では一方的にボコボコにされてしまいますし、グレイ様は私が勝てるあと一歩のところで突然反撃され、必ず負けてしまいます。お兄様は普通に上手ですし、ここまで簡単に勝てる相手が身近にいらっしゃったなんて!

「オーホッホホホホ!! 今の私は誰にも止められませんわ!!」

「お嬢様?」

「ヨハンネスさん達は初めてでしたね。お遊びで勝てた時のお嬢様のいきの良さを」

「いきの良さですか」

 その後もお義姉様相手に何戦も繰り返し、私はすべてにおいて勝利しましたわ!

「ルクレシアバンザーイ!」

「うわああ! 僕の妹が壊れたぁ!!」

「いえ、それがお嬢様です」

 お義姉様が何故、私が壊れたと仰るかわからないですし、エレナは何を仰っているのかもよくわからないですわね。いつも通り? いえ、いつもは勝てませんが? それとも他にいつも通りの要因が? 本当にわからないのですが。

「ふっ、あふれ出す才能が恐ろしいですわ。今の私でしたらどなたがお相手でも勝てる気がしますわ! さあ! 次のお相手はどなた!」

 私の言葉に呼応し、突然天井裏からしゅるりと降りてきた我が斥候…………いえストーカーですよね? エミリアさん。

「お次は私を攻めてください!」

「…………チェスですよ?」

「チェスでしても!!」

 その後、彼女とのチェスは散々でしたわ。攻めることは可能でしたわ。簡単すぎるほどに。しかし、全て受けきってしまう彼女《へんたい》。自ら窮地に追い込まれる手を打つ彼女《へんたい》。頬を染める彼女《へんたい》。声を漏らす彼女《へんたい》。

「真面目にやってくださいます? 私はここから出られない身。暇を持て余していますが、あなたとのチェスは退屈すぎますわ!」

 勝っているというよりは、勝たせてもらっている現実。しかも、接待でもなく、自ら負けることを心地よく思う彼女《へんたい》の為に駒を動かす私。ストレスがたまる一方ですわ。それに引き換え彼女《へんたい》は睨んでくる私を見てさらに興奮。

「はぁ…………別の暇つぶしはないのかしら?」

 今頃、国中大忙しの中、私はかごの中の鳥というべきなのでしょうか?
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