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第3章 ポンコツしかできないこと

6話 公国のポンコツ公爵令嬢は考えこみました

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 議論がひと段落致しますと、ひとまず解散、そのまま第四騎士団及び第七騎士団の方々がナダル領の防衛に増援してくださることになり、第二騎士団と第三騎士団、第五騎士団の方々が国教警備。第六騎士団の方々が王都警備。そして第一騎士団の方が周辺諸国を回ることになりましたわ。

「私が参加する意味はあったのかしら?」

「まあ、ルーの場合はデークルーガ帝国の要求している人物だからね。把握する権利はあるさ。それにないと思うけど、君が自らの意思でデークルーガ帝国に行くと言い出すかもしれないからね」

 なるほど、私が素直に従えばあの会議は即終了だったのですね。勿論、従うつもりはありませんが。

 ちなみにその周辺諸国に回ることになった騎士団なのですが、団長はお兄様、副団長はマルッティ。さらに言えばマリアもこちらの一般団員です。完全に身内団で御座います。

 ちなみにユーハン様の所属は、第六騎士団の副団長となっています。

「あのグレイ様、私の護衛達は私から離れるなんて愚かな真似は致しませんよね?」

「そうだね、マリアなら配属の変更が容易だし、マルッティ一人を王都に残すくらいなら代わりに第六騎士団から二人か三人ほどを第一騎士団に貸し出してもらえれば大丈夫だと思うよ」

 それを聞いて安心いたしましたわ。今の所騎士の方の知り合いと言えばまあ、他の貴族男子たちがたくさんいらっしゃいますが、顔と名前が一致される方って少ないのですよね。辺りを見渡しますと、すぐに出発される第四騎士団と第七騎士団の方々以外は雑談をされている様子ですわ。

 出発されるのでしたら、お兄様の所に顔を出した方がよいですよね?

「お兄様」

「……何?」

「お兄様はどちらに向かわれるのですか?」

「……ジバジデオ王国」

 このぼそぼそとしか会話できない兄を…………最も危険な場所に送り込むというのですか? いえ、我が兄だからこそ危険な場所に送り込まれるのでしょうけど。

「お兄様でしたら、きっとご無事でしょうけど、交渉はどなたが?」

 一応別の方も同行し、交渉をされるそうだと聞き、安心いたしましたわ。我が兄ながらどうしてここまで話下手なのでしょうか。お義姉様がこんな兄でも婿として愛してくださって本当に助かっていますわ。

「ああ、そうだルー。君にはしばらく王城に住んでもらおうと思っているのだけれど、どうかな?」

「どうって……まあ、いいですけど」

 まあ、王城に住むのはやぶさかではないのですが、その…………気持ちを知ってしまってからグレイ様と会うのはなんだか不思議な気分ですわ。

 今までベッケンシュタイン家の名前や私の見た目しか知らないで愛を語ってきた方々がいらっしゃるからこそ、私の内側まで知っていてなおここまで真剣な愛を向けられているとわかってしまうと…………ああ、もう!

「なるべく私には近づかないでくださいね!」

「え? えっと…………ふふふ、ルーってば照れすぎ。その表情も可愛いよ」

 照れ照れててテレテレ照れていませんし! 動揺してはいけませんわ。またからかわれます。私、今まで真剣に愛されたことがございませんでしたのね。

 メルヒオール様がきっと最初の気付き。あれは真剣に愛されていると初めて感じたドキドキ。それを恋と勘違いしかけました。次に気付いた異変はユーハン様。メルヒオール様の時と同様、愛されていると気付いた時からドキドキが加速致しましたわ。そしてグレイ様の時もそう。

 私は誰かから真剣な愛を向けられると、直ぐに照れてドキドキしてしまうくらいには初心だったのですね。本気になって愛してもらえるってこんなに体の芯が熱くなって恥ずかしさに包まれるものなのですね。私だけなのかもしれませんが。

 誰か一人を選ばないといけないのですね。皆さん真剣なのでしたら、誰でもいいなんて良くないですよね。
  
「ってジリジリ近寄らない! あ! 腕も掴まないでください! 抱きしめないで!!」

「んー? 抵抗一つもないのに?」

 王子に抵抗できるかぁ!?

「まあ、僕はルーの希望を聞く理由はないから。これからも必要に応じてそちらに向かわてもらうよ」

「そうですか。でしたら構いませんが、必要な時だけにしてくださいね」

 この王子が私との約束をどこまで守るかはわかりませんが、一応念押ししておきましょう。ただでさえ離れられない騎士もいるのですから。常に同じところに二人も私のことを真剣に愛してくださる方がいるなんて、心臓がはちきれますわ。

 その後、お父様には適当に会話だけ済ませ、女官の方に案内された部屋に滞在することになったのですが。

「これは後宮ですよね?」

「ルクレシア様のお住まいです」

「この建物は後宮ですよね?」

「ルクレシア様のお住まいです」

 あの王子め、さりげなく私を後宮入りさせようとしているんじゃないわよ。その後、何とか交渉が成功し、別の客室に案内して頂きましたわ。安全の為、エレナとマリアも同室させて貰いましたわ。
  
 あと、一応あとで後宮のチェックもしたいのですけど……入ったら最後な気が、うーむ、見たいなぁ。

 男性陣はすぐそばの部屋に泊まらせてもらうことになりました。

「もう毎日一緒にいらっしゃるから部屋以外特に違いを感じませんわね」

「仕方ありません。私が離れられないということは、お嬢様はそれだけ護られる必要があるということです。いい加減私も素敵な殿方に見初められたいのですが?」

 マリアが槍の手入れをしながらため息を吐きます。マリアにとってもいずれ愛し合える方ができれば良いのですが。
  
 マリアはマリアで少々惚れっぽい? いえ、節操なしなところもありますのよね。まあ、彼女は少し前の私と違って自分が好きになった相手に迫ろうとするだけ良いのでしょうね。

 用意された部屋に出入りできるのは、ヨハンネスとマルッティとジェスカのうち二人以上が許可した相手のみとなっていますので、よほどのことがない限り無事でしょう。

 窓の鉄格子を握ります。これなら外から出ることはできませんね。むしろ…………閉じ込められている気分ですわ。隠し通路なども説明して頂きましたので、逃げられないようにされている訳ではないのでしょうけどね。

「問題はこの空間ですわね。とても退屈ですわ」

 一応少し前と違いまして、命が狙われている訳ではありませんので、恐怖心はそこまでありませんがね。怖くないからと言って、それでいい訳ではありませんのよ?

「ここまで来てしまいますと、何者かの陰謀を感じてしまいますね」

 陰謀ですか。エレナの戯言が、万が一戯言ではなかったとしたら、私は何か見落としているということなのでしょうか? さすがに考えすぎですわよね。

「いえ、少し整理しましょう。良い暇つぶしになると思いません?」

「はぁ……お嬢様がそれで良いのでしたら」

「振り返るところはイサアークの件からかしら? 何がきっかけだったかしら?」

「確か、お嬢様がイサアークから聞き出した王宮主催の夜会の件の様子を見てからイサアークがお嬢様を手に入れることに焦ったのが原因ですよね?」

「そうよ! それだわ。そこから遡ればいいのね」

 社交シーズンが始まりますと、王宮はすぐに主催となり夜会を開かれますわ。その時に私はグレイ様にエスコートされ、様々な方にご挨拶しましたのよね。

 あの日はイサアークも出席されていましたが、私と王子の様子を見て近づけなかったそうですわ。はたから見れば仲良しの婚約者でしたからね。

 その後、グレイ様からグレイ様の生誕祭までに婚約者を連れてこなければ、結婚しろとの要求に焦った私の行動は、婚約を申し込んできていたイサアークとの一対一のお茶会ですわ。

 ここでイサアークは、豹変されましたのよね。元々潜在的におかしかったのですが、理性を失ったようでしたわ。我慢できなくなったと仰っていましたし。

 そういえばエミリアさんも私と同じ屋敷にいたから我慢できなくなったとか…………ルーツィアも耐えられなくなったからとか。ユリエ様は何か仰っていたかしら? 確か…………いえ、特別何か仰っていた様子ではありませんでしたが、彼女が豹変したタイミングはそういえば我が家に泊まった時でしたね。

「これではまるで、私が皆さんをおかしくしているみたいですわ」

 そのようなことはないと思いながらも、そうではないと言い切れませんでした。せめて豹変した方々が直前に共通している行動があればよいのですが。
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