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第3章 ポンコツしかできないこと
5話 公爵令嬢はいつの間にか献上品として指定されている
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グレイ様の生誕祭まで後145日まで迫った夏のある日。優雅なティータイムは、血相を変えて入室してくるジェスカに邪魔されてしまいましたわ。
「慌ただしいですわ。どうかなさいまして?」
「まずいことになっちまった!!」
ジェスカは息を切らしていらっしゃる様子。これはよほどのことがあったに違いないのでしょう。しかし、せめてティータイムの後でも…………
とにかくジェスカを落ち着かせようと考えた矢先、ヨハンネス、マリア、マルッティも部屋の戸を叩いて入室してきましたわ。
「ご報告があります。先ほど、デークルーガ帝国から宣戦布告がありました」
宣戦布告? はい?
「デークルーガ帝国からの宣戦布告?」
私は聞いて声に出してさらに数秒経過したころにもう一度窓の向こうを見て、鳥のさえずりを聞き、ふーっと息を吐いてからもう一度ヨハンネスの顔を見て声を出しました。
「アルデマグラ公国とデークルーガ帝国が戦争ですって!?」
「デークルーガ帝国からの要求は一つ。聖女ルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタイン公爵令嬢の身柄を献上すること」
「聖女? ああ、ユリエ教での私はいつの間にかすごい偶像になっていましたのね」
準備があると言って帰国した彼女。ユリエ・ファンデル・デークルーガ。隣国の姫にして幼い頃から自分には天啓が聞こえるとお話していた頭のおかしい私の従姉。
「ん? 私を献上? お待ちになって? それってつまり」
「はい、お嬢様を奪い合う戦争がはじまります」
「…………え? 私一人の為に?」
デークルーガ帝国では何が起きているのでしょうか? もしや、ユリエ教を国教にまで変えてしまったというのでしょうか?
少し考える時間が欲しいところですが、一秒遅れるごとに誰かの命が失われてしまうかもしれないのですね。
「アルデマグラ公国は勿論要求の拒否。徹底抗戦するつもりだそうです」
「……そうですか」
そうですよね。父が許すはずがありません。それに私が独断でデークルーガ帝国に身を捧げたとしましても、きっと今度はアルデマグラ公国からデークルーガ帝国に宣戦布告が始まってしまうのでしょう?
王都に戻ってきてから出会ったグレイ様の様子。はじめて知った王子の気持ちは未だに半信半疑ですが、グレイ様が本気で言っている時くらい、幼馴染の私がわからないはずがないじゃないですか。
頭が痛くなってきてしまいましたわ。どうにか戦争を避けたいところですが、ユリエ様は暴走したら誰も止められない方です。こちらが素直に要求をのむ? それこそごめんですわ。何故私が彼女に一生を捧げないといけないのでしょうか?
「戦争を止めましょう。できなければアルデマグラ公国が勝てるように、我々も動きましょう」
「ですね」「かしこまりました」「嬢ちゃんならそういうと思ったわい」「ま、簡単に姫さんは渡せねーわな」
目的は決まりましたわ。あとは私たちが何をするかですね。
「まずは我が国の動きを知る必要がありますわ」
「となると会いに行くのですね。王子殿下に」
ヨハンネスたちはすぐに準備を始め、エレナは王宮に向けての手紙を拵えようとしましたが、私はそれを制しました。
「エレナ。今回の話からすれば我々が動くまでもなくグレイ様はこちらに声をかけてきますわ」
そもそもの戦争の原因である私に、王宮からのアクションがないはずがありませんわ。
そしてその日の日が暮れる前に王宮からの使者が我が家に訪れてきましたわ。
「それでは行ってまいりますわ」
私とエレナと護衛達を乗せた馬車がベッケンシュタイン家の屋敷から出発します。お義姉様は、出発する私をぎゅっと抱きしめてからしばらく私の頭を撫でて下さいましたわ。
馬車が出発してまもなく到着した王宮。そういえば自ら訪れたのは夜会以来なのですね。
「さてと…………」
おそらく王宮務めの父と兄もいらっしゃるのでしょうね。話の規模的に宰相もいらっしゃるでしょうし、騎士団の方々もいらっしゃるのでしょう。
案内された部屋に訪れますと、想定通り陛下とグレイ様、父と兄にマックス様。それから騎士団の服を着た方々がずらりと並んでいらっしゃいます。
「よく来たな」
陛下からのお声がけに、頭《こうべ》を垂れ挨拶をかわし、許しを得てからまるで少女のような騎士の方に案内された席に座りましたわ。
「議題の進行役として私マックス・ファン・リンナンコスキが務めさせて頂きます」
議題って…………まず、会議だということを教えて頂きたかったのですが…………
話は今回の件の簡単な概要から始まりましたわ。
デークルーガ帝国からの要求と我が国の回答からルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタインは、デークルーガ帝国に引き渡さないと決定されたこと。そしてデークルーガ帝国からは新たな返事として宣戦布告されたそうです。
何故そのようなことになったのか。原因はデークルーガ帝国の国教がユリエ教に塗り替えられたことと、ユリエ様の天啓のおかげで様々な奇跡の体現により、国民はユリエ様こそ教祖に相応しいと判断されたそうですわ。
おそらく天啓の奇跡というのもインチキか何かでしょう。私とご一緒していた時にそれらしい兆しが見られませんでしたし、こちらの国では自由に扱えないのでしょうね。
「そして現状はデークルーガ帝国からの攻撃が始まりつつある。国境付近であるナダルにはまだ兵が攻めてきていないが、敵兵力は甚大。ナダル領に常駐している兵だけではすぐに押し負けるでしょう。領民は速やかに安全な地域に避難してもらっているところだ」
ナダル領…………エレナのご実家の領地ですわね。エレナは一緒に登城しましたが、同席していませんので後でちゃんと説明してあげるべきでしょう。
「まずは敵兵力をアルデマグラ公国に踏み入れさせないことだ! 国境であるナダル領に兵力を集中しつつ、他の経路になりかねない道も徹底防衛だ。そしてその間に他国からの攻撃を受けない様に防衛。また協力が要請できる国がないか打診する」
近辺は小国ばかりの為、アルデマグラ公国ともデークルーガ帝国でも敵に回したくないはず。しいてあげるなら大国はただ一つですが、問題はかの国は直近の戦争の敗戦国であるジバジデオ王国。
「打診? そいつは一体どこに打診するというのですか? 最も、我が国とデークルーガ帝国の戦争に関われるのは一国しか心辺りがありませんが?」
騎士団長の席に座っている方のお一人が発言する。どうやら私と同じことを考えていたのでしょうね。すると、そぐ傍にいらっしゃった他の高齢の騎士団長も発言する。
「まさかジバジデオ王国に打診するおつもりですか? あの国はむしろ我が国と敵対国に近い位置づけのはずです」
そうですわね、まだ生きていらっしゃる方々もいる時代の戦争での敗戦国であるジバジデオ王国は我が国の味方になってくださるのでしょうか?
「ジバジデオ王国についてだが…………少なくとも不干渉であるようにして頂きたいと思っている」
当面の方針として三つのことがあげられましたわ。一つ目は、ナダル領に援軍を送ること。二つ目は、その他の経路を断つこと。三つ目は、近隣諸国に協力要請またはジバジデオ王国には不干渉であるようにと要請することですわ。
果たしてうまくいくのでしょうか。特にジバジデオ王国相手には、何も条件なしに行えるとは思えないのですよね。
ところで私はなんでこんな会議に同席しているのかしら? やはり関係者だからなのでしょうけど、座っていることに、違和感しかありませんわ。大臣に騎士団長副団長達。私の護衛ではヨハンネスいえ、こちらではユーハン様とマルッティがそれぞれの役職席に座り、マリアとジェスカは入室が許されていませんでした。
つまり私だけ、戦争の原因だから座らせてもらっているということなのでしょう。
てゆうか私一人の為に戦争をおっぱじめないでよね。ユリエ教馬鹿すぎ。
「慌ただしいですわ。どうかなさいまして?」
「まずいことになっちまった!!」
ジェスカは息を切らしていらっしゃる様子。これはよほどのことがあったに違いないのでしょう。しかし、せめてティータイムの後でも…………
とにかくジェスカを落ち着かせようと考えた矢先、ヨハンネス、マリア、マルッティも部屋の戸を叩いて入室してきましたわ。
「ご報告があります。先ほど、デークルーガ帝国から宣戦布告がありました」
宣戦布告? はい?
「デークルーガ帝国からの宣戦布告?」
私は聞いて声に出してさらに数秒経過したころにもう一度窓の向こうを見て、鳥のさえずりを聞き、ふーっと息を吐いてからもう一度ヨハンネスの顔を見て声を出しました。
「アルデマグラ公国とデークルーガ帝国が戦争ですって!?」
「デークルーガ帝国からの要求は一つ。聖女ルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタイン公爵令嬢の身柄を献上すること」
「聖女? ああ、ユリエ教での私はいつの間にかすごい偶像になっていましたのね」
準備があると言って帰国した彼女。ユリエ・ファンデル・デークルーガ。隣国の姫にして幼い頃から自分には天啓が聞こえるとお話していた頭のおかしい私の従姉。
「ん? 私を献上? お待ちになって? それってつまり」
「はい、お嬢様を奪い合う戦争がはじまります」
「…………え? 私一人の為に?」
デークルーガ帝国では何が起きているのでしょうか? もしや、ユリエ教を国教にまで変えてしまったというのでしょうか?
少し考える時間が欲しいところですが、一秒遅れるごとに誰かの命が失われてしまうかもしれないのですね。
「アルデマグラ公国は勿論要求の拒否。徹底抗戦するつもりだそうです」
「……そうですか」
そうですよね。父が許すはずがありません。それに私が独断でデークルーガ帝国に身を捧げたとしましても、きっと今度はアルデマグラ公国からデークルーガ帝国に宣戦布告が始まってしまうのでしょう?
王都に戻ってきてから出会ったグレイ様の様子。はじめて知った王子の気持ちは未だに半信半疑ですが、グレイ様が本気で言っている時くらい、幼馴染の私がわからないはずがないじゃないですか。
頭が痛くなってきてしまいましたわ。どうにか戦争を避けたいところですが、ユリエ様は暴走したら誰も止められない方です。こちらが素直に要求をのむ? それこそごめんですわ。何故私が彼女に一生を捧げないといけないのでしょうか?
「戦争を止めましょう。できなければアルデマグラ公国が勝てるように、我々も動きましょう」
「ですね」「かしこまりました」「嬢ちゃんならそういうと思ったわい」「ま、簡単に姫さんは渡せねーわな」
目的は決まりましたわ。あとは私たちが何をするかですね。
「まずは我が国の動きを知る必要がありますわ」
「となると会いに行くのですね。王子殿下に」
ヨハンネスたちはすぐに準備を始め、エレナは王宮に向けての手紙を拵えようとしましたが、私はそれを制しました。
「エレナ。今回の話からすれば我々が動くまでもなくグレイ様はこちらに声をかけてきますわ」
そもそもの戦争の原因である私に、王宮からのアクションがないはずがありませんわ。
そしてその日の日が暮れる前に王宮からの使者が我が家に訪れてきましたわ。
「それでは行ってまいりますわ」
私とエレナと護衛達を乗せた馬車がベッケンシュタイン家の屋敷から出発します。お義姉様は、出発する私をぎゅっと抱きしめてからしばらく私の頭を撫でて下さいましたわ。
馬車が出発してまもなく到着した王宮。そういえば自ら訪れたのは夜会以来なのですね。
「さてと…………」
おそらく王宮務めの父と兄もいらっしゃるのでしょうね。話の規模的に宰相もいらっしゃるでしょうし、騎士団の方々もいらっしゃるのでしょう。
案内された部屋に訪れますと、想定通り陛下とグレイ様、父と兄にマックス様。それから騎士団の服を着た方々がずらりと並んでいらっしゃいます。
「よく来たな」
陛下からのお声がけに、頭《こうべ》を垂れ挨拶をかわし、許しを得てからまるで少女のような騎士の方に案内された席に座りましたわ。
「議題の進行役として私マックス・ファン・リンナンコスキが務めさせて頂きます」
議題って…………まず、会議だということを教えて頂きたかったのですが…………
話は今回の件の簡単な概要から始まりましたわ。
デークルーガ帝国からの要求と我が国の回答からルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタインは、デークルーガ帝国に引き渡さないと決定されたこと。そしてデークルーガ帝国からは新たな返事として宣戦布告されたそうです。
何故そのようなことになったのか。原因はデークルーガ帝国の国教がユリエ教に塗り替えられたことと、ユリエ様の天啓のおかげで様々な奇跡の体現により、国民はユリエ様こそ教祖に相応しいと判断されたそうですわ。
おそらく天啓の奇跡というのもインチキか何かでしょう。私とご一緒していた時にそれらしい兆しが見られませんでしたし、こちらの国では自由に扱えないのでしょうね。
「そして現状はデークルーガ帝国からの攻撃が始まりつつある。国境付近であるナダルにはまだ兵が攻めてきていないが、敵兵力は甚大。ナダル領に常駐している兵だけではすぐに押し負けるでしょう。領民は速やかに安全な地域に避難してもらっているところだ」
ナダル領…………エレナのご実家の領地ですわね。エレナは一緒に登城しましたが、同席していませんので後でちゃんと説明してあげるべきでしょう。
「まずは敵兵力をアルデマグラ公国に踏み入れさせないことだ! 国境であるナダル領に兵力を集中しつつ、他の経路になりかねない道も徹底防衛だ。そしてその間に他国からの攻撃を受けない様に防衛。また協力が要請できる国がないか打診する」
近辺は小国ばかりの為、アルデマグラ公国ともデークルーガ帝国でも敵に回したくないはず。しいてあげるなら大国はただ一つですが、問題はかの国は直近の戦争の敗戦国であるジバジデオ王国。
「打診? そいつは一体どこに打診するというのですか? 最も、我が国とデークルーガ帝国の戦争に関われるのは一国しか心辺りがありませんが?」
騎士団長の席に座っている方のお一人が発言する。どうやら私と同じことを考えていたのでしょうね。すると、そぐ傍にいらっしゃった他の高齢の騎士団長も発言する。
「まさかジバジデオ王国に打診するおつもりですか? あの国はむしろ我が国と敵対国に近い位置づけのはずです」
そうですわね、まだ生きていらっしゃる方々もいる時代の戦争での敗戦国であるジバジデオ王国は我が国の味方になってくださるのでしょうか?
「ジバジデオ王国についてだが…………少なくとも不干渉であるようにして頂きたいと思っている」
当面の方針として三つのことがあげられましたわ。一つ目は、ナダル領に援軍を送ること。二つ目は、その他の経路を断つこと。三つ目は、近隣諸国に協力要請またはジバジデオ王国には不干渉であるようにと要請することですわ。
果たしてうまくいくのでしょうか。特にジバジデオ王国相手には、何も条件なしに行えるとは思えないのですよね。
ところで私はなんでこんな会議に同席しているのかしら? やはり関係者だからなのでしょうけど、座っていることに、違和感しかありませんわ。大臣に騎士団長副団長達。私の護衛ではヨハンネスいえ、こちらではユーハン様とマルッティがそれぞれの役職席に座り、マリアとジェスカは入室が許されていませんでした。
つまり私だけ、戦争の原因だから座らせてもらっているということなのでしょう。
てゆうか私一人の為に戦争をおっぱじめないでよね。ユリエ教馬鹿すぎ。
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