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第3章 ポンコツしかできないこと
10話 ルクレシア旅団結成
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馬車が出発してから一週間が経過致しましたわ。グレイ様の生誕祭まで残り134日まで迫りました。私たちが今どのようにしているかと言いますと。
「ナダル領ってどんだけ遠いのよ」
「アルデマグラ公国は大陸最大の国でしてナダルは最東端ですので」
エレナが給水袋を私の口元に運んでくださいまし、私はそれに口をつけながら外の景色を眺めていました。
現在は王領となっている旧ロムニエイ領をまたいでいますわ。もうすぐナダル領のはずです。その前に今晩はこのあたりの村で一泊致しましょう。
「この辺はどのような場所なのかしら?」
私の質問にいの一番に答えたのは当然エレナですわ。さすがに王都とナダル領の間の事情は詳しいですわね。
「このあたりにはクーパという染色された織物が特産の地域でございます」
「織物…………何か使い道はあるかしら?」
被るとか? いえ、それはもう湖でやりましたわ。いや、やったからダメという訳ではありませんが。まあ、別に今まで立ち寄った村や町でわざわざ特産品を使って何かをした覚えはありませんけどね。
「まあ、いいわいくつか買いましょう」
「え? 織物をですか?」
「使い道も決まっとらんのにか? 嬢ちゃんにしては考え無しじゃねいか。いやいつも通りか」
「ま、姫さんも年頃の乙女なんだ。織物とかに興味あってもおかしくないだろ。買うなら帰りにして欲しいけどな」
「お嬢様……こういう時に女子力を稼ぐのやめて貰えませんか? え? 真似すれば結婚できます?」
「色々言いたいことがありますが、え? マリアさん? え? いいじゃないですか私も立派な乙女ですよ?」
後、私の真似しても結婚はできません。だって私もできていないでしょ? いえ、私の場合は、最終的にはさせられるから平気なのですけど。
マリアの結婚相手ね。どなたか良い方はいらっしゃらないのでしょうか。見た目は美しいし、騎士としても優秀。野営時にエレナと一緒に炊飯もされていましたが、とても手際が宜しかったですわ。
彼女なら一般家庭でも普通に嫁げるでしょうね。ある程度の教養や礼儀も備えていますから爵位の低い貴族の方でしたらお嫁に向かえてくださるのではないでしょうか?
それにエレナだって私やマリアより三つも年上なのですから、いい加減結婚のことを考えても宜しいのに、私が結婚するまではしないと仰られましたわ。
そうですか。まあ、エレナがそれで宜しいのでしたら何も言いませんが。
……人のこと考えている場合ではございませんね。
道中でありますが、太陽が南中されましたし、そろそろ昼食としましょうとお声がけされましたのでひとまず馬車を停めましたわ。
「またこの固い肉ですのね」
「申し訳ありません」
「いえ、ルイーセ様に言っている訳では……」
確かにこちらの燻製肉を用意してくださったのはルイーセ様ですが……そうよね、自分で用意した訳でもないものに文句をつけてはいけないわよね。
「言葉に気をつけますわ。ごめんなさい」
「え? いえ? え? そんな! 私はルクレシア様に謝って頂けるような身分では!」
「あのね……身分が高いとか低いとか……そんなもの友達の前に関係ないでしょ?」
「ルッ、ルクレシア様!」
ルイーセ様は嬉しかったのか私に飛びついて抱きしめてきましたわ。それを見ていたエレナが混じりたそうにしていましたので手を伸ばしてあげますと彼女も飛びついてきました。ふふふ、可愛い可愛い。
「マリアも来る?」
「その両サイド埋まった状態で入ったら円陣ですわ」
「あら残念」
「いや、姫さん何男性陣よりハーレムしてんの?」
ジェスカが何か仰っていますが聞こえません。これはハーレムではなく親愛の抱擁です。少々女性同士でくっついていますので男性陣には遠慮してもらいますが……
「ヨハンネスなら混じっても違和感ないわね」
「あの……一応男です」
わかっているわよ、ダンゴムシ。
食事を終えて片付けはじめさっさと馬車に戻りましょう。御者としての実力が身についてきたヨハンネスは積極的に仕事をしています。やはり楽しいのでしょうね。
そのまま馬車は日が沈むまで走り続けましたわ。
そして村に到着しますと、何やら騒がしい声が聞こえてきましたわ。
「何でしょうか?」
「伺ってきます」
エレナはすぐに村民に声をかけに行きましたわ。少し話してこちらに戻ってきましたわ。
「どうでした?」
「どうやらこの近辺で怪盗と名乗る者が現れたそうです」
「怪盗? 盗人が現れたの? ……どうしましょう別の村に移動しますか?」
私の馬車は傍からみれば豪華な馬車ですものね。いえ、実際豪華なのですが。狙われかねませんわ。
護衛達と相談していますと、私たちの元に何者かが歩いてきましたわ。
「怪盗は自らをジャコモと自称しているようだね」
私はその声を聴きますと、すぐに振り返りましたわ。
「貴方はメルヒオール様!?」
「お久しぶりです。ルクレシア様。それにヨハンネス……今はユーハンの方が良いのかな?」
「お嬢様の騎士である間はヨハンネスだ」
「そうかい」
メルヒオール様は旅装をしていらっしゃいました。一応騎士様とお聞きしていましたが、現在は休職中の様子。あの、戦争中なのですが……
「メルヒオール様は何をされているのですか?」
「俺? 俺はえっと…………そうだ、そのジャコモという怪盗を追っているんだよ」
「……? 本当ですの? いえ、疑いたい訳ではありませんが、何か取ってつけたかのような……?」
少々違和感もありましたが、メルヒオール様にも何かしらの目的があるようですし、ひとまず詮索はよしましょうか。
「せっかくですのでこの村の宿に案内してくださりますか?」
「構わないよ」
メルヒオール様は私の手を取り、宿のある建物まで案内しようとしたところ、ヨハンネスがその手を払いのけましたわ。
「あら?」
「なるほどね。やっぱりユーハンと呼ぶべきかな? いつの間に立候補したんだい?」
「爵位を与えられた時にね。それと僕は男爵閣下。君は子爵家嫡男だ」
「家柄はともかく地位は君の方が上か。ユーハンにしては珍しい発言だな。じゃあ、これからはお互いライバルだ」
「お嬢様の傍を離れない私の方が優位ですけどね」
「……じゃあ俺も同行しようかな?」
メルヒオール様も同行されるのですか!? いえ、吝かではありませんがその…………何かグレイ様だけ置いてきてしまった感が否めないのですよね。それよりもですわ。
「怪盗を追っていたのではなくて?」
「ああ、彼ですか? 彼よりも君を追いたいと思ったから」
そう仰られますと、私の両手を握りしめてきましたわ。あら? メルヒオール様ってここまで情熱的な方でしたっけ?
でもそうですね。悪い気はしませんわ。それに、ルイーセ様の同行を許した時点で、今更誰かを拒む理由はありませんわ。
幸いメルヒオール様はご自分の馬をお持ちのようですし、馬車のスペースもとりません。
「わ、わかりましたわ! では付いて来てくださいメルヒオール様」
こうしてクーパの村にて同行人がお一人増えましたわ。
後で怪盗を追っている話、どこまでが本当か確かめるべきでしょうか?
=== エリオット(ルクレシア兄) side ===
俺たちは今、ジバジデオ王国の王宮に通された。集められた人員は第一騎士団の中でも選りすぐりの面々。
例え屈強な国だとしてもジバジデオ王国の兵士相手でも戦うことができるだろう。
今日ここに来たのは、アルデマグラ公国とデークルーガ帝国との戦争にジバジデオ王国に不干渉を宣言してもらうためだ。
「エリオット様! これがジバジデオ王国の…………」
「……猿園」
ジバジデオ王国にある王宮の中には有名な展示物が存在する。
掲示板にはご丁寧にその展示物が何かを示した文字と説明書きがあった。
「ひでーや」
「人のすることじゃねえ」
「あれみんな……そうなのか?」
「見るな……余計……任務遂行」
「「「はい!」」」
中庭を抜ける際に、その掲示板を読んでしまったことに後悔した。
アルデマグラ猿と記されたその展示物は、茶色い毛や金色の毛が頭皮や体の一部だけを覆った霊長類が飼育されていた。悪趣味すぎる。
「ナダル領ってどんだけ遠いのよ」
「アルデマグラ公国は大陸最大の国でしてナダルは最東端ですので」
エレナが給水袋を私の口元に運んでくださいまし、私はそれに口をつけながら外の景色を眺めていました。
現在は王領となっている旧ロムニエイ領をまたいでいますわ。もうすぐナダル領のはずです。その前に今晩はこのあたりの村で一泊致しましょう。
「この辺はどのような場所なのかしら?」
私の質問にいの一番に答えたのは当然エレナですわ。さすがに王都とナダル領の間の事情は詳しいですわね。
「このあたりにはクーパという染色された織物が特産の地域でございます」
「織物…………何か使い道はあるかしら?」
被るとか? いえ、それはもう湖でやりましたわ。いや、やったからダメという訳ではありませんが。まあ、別に今まで立ち寄った村や町でわざわざ特産品を使って何かをした覚えはありませんけどね。
「まあ、いいわいくつか買いましょう」
「え? 織物をですか?」
「使い道も決まっとらんのにか? 嬢ちゃんにしては考え無しじゃねいか。いやいつも通りか」
「ま、姫さんも年頃の乙女なんだ。織物とかに興味あってもおかしくないだろ。買うなら帰りにして欲しいけどな」
「お嬢様……こういう時に女子力を稼ぐのやめて貰えませんか? え? 真似すれば結婚できます?」
「色々言いたいことがありますが、え? マリアさん? え? いいじゃないですか私も立派な乙女ですよ?」
後、私の真似しても結婚はできません。だって私もできていないでしょ? いえ、私の場合は、最終的にはさせられるから平気なのですけど。
マリアの結婚相手ね。どなたか良い方はいらっしゃらないのでしょうか。見た目は美しいし、騎士としても優秀。野営時にエレナと一緒に炊飯もされていましたが、とても手際が宜しかったですわ。
彼女なら一般家庭でも普通に嫁げるでしょうね。ある程度の教養や礼儀も備えていますから爵位の低い貴族の方でしたらお嫁に向かえてくださるのではないでしょうか?
それにエレナだって私やマリアより三つも年上なのですから、いい加減結婚のことを考えても宜しいのに、私が結婚するまではしないと仰られましたわ。
そうですか。まあ、エレナがそれで宜しいのでしたら何も言いませんが。
……人のこと考えている場合ではございませんね。
道中でありますが、太陽が南中されましたし、そろそろ昼食としましょうとお声がけされましたのでひとまず馬車を停めましたわ。
「またこの固い肉ですのね」
「申し訳ありません」
「いえ、ルイーセ様に言っている訳では……」
確かにこちらの燻製肉を用意してくださったのはルイーセ様ですが……そうよね、自分で用意した訳でもないものに文句をつけてはいけないわよね。
「言葉に気をつけますわ。ごめんなさい」
「え? いえ? え? そんな! 私はルクレシア様に謝って頂けるような身分では!」
「あのね……身分が高いとか低いとか……そんなもの友達の前に関係ないでしょ?」
「ルッ、ルクレシア様!」
ルイーセ様は嬉しかったのか私に飛びついて抱きしめてきましたわ。それを見ていたエレナが混じりたそうにしていましたので手を伸ばしてあげますと彼女も飛びついてきました。ふふふ、可愛い可愛い。
「マリアも来る?」
「その両サイド埋まった状態で入ったら円陣ですわ」
「あら残念」
「いや、姫さん何男性陣よりハーレムしてんの?」
ジェスカが何か仰っていますが聞こえません。これはハーレムではなく親愛の抱擁です。少々女性同士でくっついていますので男性陣には遠慮してもらいますが……
「ヨハンネスなら混じっても違和感ないわね」
「あの……一応男です」
わかっているわよ、ダンゴムシ。
食事を終えて片付けはじめさっさと馬車に戻りましょう。御者としての実力が身についてきたヨハンネスは積極的に仕事をしています。やはり楽しいのでしょうね。
そのまま馬車は日が沈むまで走り続けましたわ。
そして村に到着しますと、何やら騒がしい声が聞こえてきましたわ。
「何でしょうか?」
「伺ってきます」
エレナはすぐに村民に声をかけに行きましたわ。少し話してこちらに戻ってきましたわ。
「どうでした?」
「どうやらこの近辺で怪盗と名乗る者が現れたそうです」
「怪盗? 盗人が現れたの? ……どうしましょう別の村に移動しますか?」
私の馬車は傍からみれば豪華な馬車ですものね。いえ、実際豪華なのですが。狙われかねませんわ。
護衛達と相談していますと、私たちの元に何者かが歩いてきましたわ。
「怪盗は自らをジャコモと自称しているようだね」
私はその声を聴きますと、すぐに振り返りましたわ。
「貴方はメルヒオール様!?」
「お久しぶりです。ルクレシア様。それにヨハンネス……今はユーハンの方が良いのかな?」
「お嬢様の騎士である間はヨハンネスだ」
「そうかい」
メルヒオール様は旅装をしていらっしゃいました。一応騎士様とお聞きしていましたが、現在は休職中の様子。あの、戦争中なのですが……
「メルヒオール様は何をされているのですか?」
「俺? 俺はえっと…………そうだ、そのジャコモという怪盗を追っているんだよ」
「……? 本当ですの? いえ、疑いたい訳ではありませんが、何か取ってつけたかのような……?」
少々違和感もありましたが、メルヒオール様にも何かしらの目的があるようですし、ひとまず詮索はよしましょうか。
「せっかくですのでこの村の宿に案内してくださりますか?」
「構わないよ」
メルヒオール様は私の手を取り、宿のある建物まで案内しようとしたところ、ヨハンネスがその手を払いのけましたわ。
「あら?」
「なるほどね。やっぱりユーハンと呼ぶべきかな? いつの間に立候補したんだい?」
「爵位を与えられた時にね。それと僕は男爵閣下。君は子爵家嫡男だ」
「家柄はともかく地位は君の方が上か。ユーハンにしては珍しい発言だな。じゃあ、これからはお互いライバルだ」
「お嬢様の傍を離れない私の方が優位ですけどね」
「……じゃあ俺も同行しようかな?」
メルヒオール様も同行されるのですか!? いえ、吝かではありませんがその…………何かグレイ様だけ置いてきてしまった感が否めないのですよね。それよりもですわ。
「怪盗を追っていたのではなくて?」
「ああ、彼ですか? 彼よりも君を追いたいと思ったから」
そう仰られますと、私の両手を握りしめてきましたわ。あら? メルヒオール様ってここまで情熱的な方でしたっけ?
でもそうですね。悪い気はしませんわ。それに、ルイーセ様の同行を許した時点で、今更誰かを拒む理由はありませんわ。
幸いメルヒオール様はご自分の馬をお持ちのようですし、馬車のスペースもとりません。
「わ、わかりましたわ! では付いて来てくださいメルヒオール様」
こうしてクーパの村にて同行人がお一人増えましたわ。
後で怪盗を追っている話、どこまでが本当か確かめるべきでしょうか?
=== エリオット(ルクレシア兄) side ===
俺たちは今、ジバジデオ王国の王宮に通された。集められた人員は第一騎士団の中でも選りすぐりの面々。
例え屈強な国だとしてもジバジデオ王国の兵士相手でも戦うことができるだろう。
今日ここに来たのは、アルデマグラ公国とデークルーガ帝国との戦争にジバジデオ王国に不干渉を宣言してもらうためだ。
「エリオット様! これがジバジデオ王国の…………」
「……猿園」
ジバジデオ王国にある王宮の中には有名な展示物が存在する。
掲示板にはご丁寧にその展示物が何かを示した文字と説明書きがあった。
「ひでーや」
「人のすることじゃねえ」
「あれみんな……そうなのか?」
「見るな……余計……任務遂行」
「「「はい!」」」
中庭を抜ける際に、その掲示板を読んでしまったことに後悔した。
アルデマグラ猿と記されたその展示物は、茶色い毛や金色の毛が頭皮や体の一部だけを覆った霊長類が飼育されていた。悪趣味すぎる。
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