ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第3章 ポンコツしかできないこと

23話 グレイ様からの挑戦状 ~デークルーガ行きのチケット~

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 グレイ様の生誕祭まで後120日。

 ナダル家のお屋敷に集まった皆さま。そろそろお次の目的地のお話をしなくてはいけませんね。
  
「ではまず第二作戦。デークルーガ潜入作戦ですが、皆様のご意見を聞かせてください」

 私がそう聞くと、皆が考え次々とお互いの意見交換を始めましたわ。
  
 危険だというヨハンネスとオルガお義姉様。お嬢様についていきますというエレナとエミリアさん。
  
 マリアからは危険になると思いますが、反対致しません。という賛同ととらえられる意見を頂きましたわ。
  
 ジェスカは好きにしたらいいと一言。ルイーセ様はさすがにアルデマグラ公国を出るのは難しいですと返されてしまいましたわ。ご家庭の都合ですものね。
  
 エミリアさんも帰っていいんですよ?
  
 メルヒオール様も難しい顔をされていますので、反対ということなのでしょう。
  
 そしてグレイ様はにこにこしながらこう告げましたわ。
  
「ここで僕以外の全員が納得したら、デークルーガ帝国に行くことを許可してあげるよ。三日時間をあげるからそれまでに納得させられなかったら、また王宮に連れ戻すからね」

 つまりヨハンネスとオルガお義姉様にメルヒオール様を説得する必要があるのですね。
  
 ルイーセ様はノーカウントで良いでしょうか? あくまでルイーセ様がついてこないというだけですので。
  
 しかし強敵ばかりですね。三日あればなんとかなりますよね! 特に男二人は余裕ね。
  
 問題はお義姉様よね。でもその前に、簡単だと判断したお二人の説得からですね。
  
 会議に使っていたダイニングに残っているのはメルヒオール様とジェスカ。それからエミリアさんね。
  
 グレイ様は既に真横にいますが、ノーカウントにさせてください。
  
「メルヒオール様」

「何でしょうか? デークルーガ帝国に行くということでしたら反対させて頂きます」

「いいえ、貴方は賛成しますわ」

 私にはとっておきの必殺技がございますのよ? 決して貴方が反対できない必殺技がね。
  
「何を聞いても反対するに決まっているでしょう? 俺はルクレシア様が危険な場所に行くのは反対です」

 そうでしょうそうでしょう? でもそれよりも反対することがあるのではなくて? 惚れた弱み。付け込ませて頂きます。
  
 私はすぐそばにいらしたグレイ様の腕にしがみ付きましたわ。
  
「な!?」

「どうしたんだいルー」

 ふふふ、驚いていますねメルヒオール様!
  
 後、さりげなく私の腰にしがみ付いているエミリアさんには私も驚きました。

「このまま貴方が反対し続ければ、後宮入りしてしまいますわ!!」

「は? え? 本気ですかグレイ様」

「本望だね。僕もその時には王を継承しようか。若すぎるけど父も健在だし大丈夫」

「え? え? 良いのですかルクレシア様」

「快諾はできませんが、この時期に王宮に籠るくらいなら腹を括ります」

 メルヒオール様は焦り始めましたし、グレイ様は少々気分がよさそうです。
  
 エミリアさんの顔はどうなってるか、確認したくありませんので決して下を見ません。俯いたら空は見えないんですよ? 天井の下でも見えませんね。窓よ窓! あ、曇り。
  
 ……空が見たかった訳ではないことを思い出して腰にしがみ付く珍獣の頭頂部を強く押して引き離そうとしました。
  
 珍獣は、ありがとうございますという鳴き声と共にそれはさらに強く結びつきましたわ。
 
「それでメルヒオール様はまだ反対なさるのかしら?」

 珍獣はオブジェ。変わったオブジェ。
  
「え? ええといえ……その後宮入りだけはしてほしくありません。俺が守り抜けるかというのもありますが、頑張ります」

 メルヒオール様は私の腰付近を凝視しながら引き気味に返事をいただきましたわ。
  
 お次はヨハンネスを探しましょうか。と、言いたいのですが腰のオブジェをなんとかしなきゃいけませんね。
  
 私はその時やっと、もう片方の手が未だにグレイ様に絡めていたことに気付きましたわ。
  
「へ? きゃあ!? 何しているんですか!?」

 慌てて離れようとしても、腰の珍獣ベルトが私を動かしてくださいません。更にグレイ様も私の肩に手をのせて抱き寄せてきます。
  
 ええいこの珍獣高速具め!
  
「きゃあってひどいなぁルーは。君から腕を絡めてきたんだろう? まあ、もう離さないけどね」

 うわああああああああああああ助けてメルヒオール様ぁあああああああああああああああああああ!!!
  
「えっと……あのルクレシア様がお困りのようで……」

「知っているよ」

「はぁ……」

「何故そこで引くのですか!?」

 そのタイミングで以外にもグレイ様を私から引き離したのはジェスカでした。
  
「僕王子なんだけど?」

「わりぃな。俺が忠誠を誓ったのは、あくまで姫さんなんだわ。ベッケンシュタインの領民にはなったつもりだが、アルデマグラ公国の国民になった覚えはねぇ」

「ふぅん。それだけってことにしておいてあげるよ」

 グレイ様はやっと離れてくださりましたわ。正直、ドキドキしすぎたことがバレていないと良いのですが、きっとバレバレだったのでしょうね。
  
 あとはこの珍獣ですが、まあ仕方ありませんね。
  
「歩かないと踏めませんね?」

「はい今! 敷きエミリアご用意致しました!」

 ああ、誰かこの人止めてください。
  
 私は彼女のすぐ横を素通りしながら部屋を出ていきましたわ。当然のようについてくるジェスカ。
  
 ああ、屋敷内の護衛当番は貴方でしたか。考えてみれば勤務中以外はどこかで寝ていましたよね。
  
  ジェスカと二人で話すことってあまりありませんでしたよね。
  
「ねえ? その布とかで皮膚を隠していないけど、差別されたりとか」

「してないしてない。むしろ姫さんの隣りにいるとよくわかるよ。姫さんがどんだけ良い人に囲まれて生きてきたか」

「そう?」

「そーそ! 自国を追い出された時もデークルーガ帝国やアルデマグラ公国に逃げ込んだ時も白人たちは俺たちを気味悪がった。でも姫さんや姫さんの周りの人たちは違った。だから肌は隠さない。大切な奴らがばかにしなかった肌を隠すなんて失礼だ」

「そうでしょ? 私の周りの人達って素敵な人たちばっかりなの! その素敵な人たちの中に、当然貴方もいるのよ!」

 そう笑いかけて差し上げますと、ジェスカは珍しくそっぽを向いてしまいましたわ。
  
「そういうとこが姫さんの魅力だ。だが気を付けて欲しい。俺は一度道を踏み外した男だ。姫さんの周りには少なくとも一人そういう奴がいる」

 いいえ、貴方は十分素敵な人よ。だって幼い子供たち含めて元の村人すべてを護るために生き抜こうとした結果だったのでしょう?
  
 それに、私の周りには、イサアークやルーツィアのような正真正銘の悪もいらっしゃったのですから。
  
 ジェスカは私利私欲の為に道を踏み外していらしたのでしたら、きっと協力しようだなんて思いませんでしたわ。
  
「ねえ? 村に麻薬を栽培させた主犯を捕まえた後は、パウルスに住むの?」

 パウルス。ジェスカの仲間たちを受け入れたベッケンシュタイン領の元廃村。
  
 今はジェスカの仲間たちが住んでいらっしゃいますが、いずれジェスカもそちらに加わるのでしょうか?
  
「あん? いいや。どうだろな。あんたの後ろ気に入ってるんだよ」

「そ! じゃあついてきてもいいんですよ。ルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタインが許可します」

「あー。好きにするわ」

 ジェスカの剽軽な雰囲気。私の周りにはあまりいらっしゃらないから、退屈しないんですよね。
  
「そこは姫についていきますっていうところでしょ?」

「んー? いや、俺と姫さんはもっとこう友達って感じっしょ? いや、忠誠を誓っているのはほんとなんだぜ?」

 そういうことにしておいてあげましょうか。さてと、ヨハンネスを探そうと思いましたが、ジェスカと一緒にいるときにヨハンネスに会うのは避けましょうか。
  
 その日、ヨハンネスは私を避けるように探しても探しても見つけることができませんでした。
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