ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
66 / 102
第3章 ポンコツしかできないこと

22話 意味を考えてはいけないこともあるのです

しおりを挟む
 グレイ様の生誕祭まで残り121日の朝。
  
 我々の行動により外交都市ルバスラークにおいて主要戦力の減少や各拠点を攻め込むことに成功し、デークルーガ兵全体の数が減少。
  
 更に応援に来た第四騎士団の方々も加わり、第四騎士団第七騎士団合同による攻めが効いたのかデークルーガ兵は撤退を余儀なくされましたわ。
  
 しかし、ルバスラーク戦においてアルデマグラ公国側にも大きな傷跡を残す結果になりましたわ。
  
 我々は亡くなった方々をちゃんと弔う余裕がなく、後程墓をちゃんとしたお墓を用意することになりましたわ。
  
「それまではこんな安っぽいお墓ですけど。あなたのことですから気にするなと仰るのでしょう?」

 私はお墓の前に、強めのお酒を置いてその場から立ち去りましたわ。
  
「もういいのかい?」

「ええ」

 平然と私のお隣に立っていらっしゃるのは我が国の王子。何故いらっしゃるのかとかもう突っ込む気もありません。来たいから来たのでしょう? とかこの三日間考えていましたがやはり聞きましょう。
  
「そろそろこちらにいらした経緯を話して頂けますか?」

「あー、君のことだから言わなくても通じているはずなんだけど。来たいから!」

「えぇ……王子の職務はどうなさったのですか?」

「全部マックスと君のお父さんがやっているよ」

 つまり、私達がナダルに向かっている間にすべての業務を他人に押し付けて王都からこちらに向かったのですね。
  
「立場があるから王都から出られないと仰っていたではないですか」

「そうだよ。でも僕にとって一番大事なものを護るには、これが一番だと思ったし、現に僕は君を護った。違うかな?」

「……そうね」

 確かにゾウが暴走する直前まではグレイ様のおかげと言えるのでしょうね。今思い返しますとあんなに密着して……忘れましょう。
  
 顔が近かったのよね……忘れましょう。実は思いっきり匂い嗅いでました。……忘れましょう。
  
「珍しいね。このタイミングで妄想している時の表情になるなんて。良いことでもあったの?」
  
「あのね、そんなことある訳ないでしょ?」

 他の皆様はどうしているのでしょうか? あたりを見渡しますと騎士団に所属しているヨハンネスマリアメルヒオール様は埋葬の手伝いやお知り合いのお墓に訪れているようです。
  
 エレナは兄であるペッテル様とご一緒になってルバスラークの被害状況を確認中。ルイーセ様もそちらのお手伝いに伺っているようです。
  
 エミリアさんは鍛冶職人たちとご一緒に武器防具の修理などで窓口のお手伝いをしていました。え、まとも?
  
 オルガお義姉様やジェスカは鍛錬されている様子ですね。私が行ってもお邪魔ですよね。何か差し入れでも用意……運ぶくらいはしても失敗しませんよね?
  
「それであなたは何もしないのですか?」

「んー? もう十分仕事したつもりだけど?」

「はぁ? 何もしていないではないですか!」

「僕はただ落ち込んでいる女の子を本調子に戻していただけだよ」

 女の子? 女の子慰めていたんですか!! 何故!? そもそもどなた?
  
 私は辺りを見渡しますが、視界に入る女の子であからさまに落ち込んでいる様子の方はいらっしゃいませんでした。
  
 あ、もう本調子になられているんでしたよね。
  
「まあ、どうでもいいですけど」

「そういう表情じゃなかったけどなぁ。そういうことにしてあげようか」

 あら? 違う表情でもしていたのかしら? それにしても、本当に人の表情を見るのがお好きですよね。
  
「あ、そうそう私これからデークルーガ帝国に向かおうと思っていますが」

「敵のど真ん中じゃないか。それ僕が止めないと思う?」

「でしたらグレイ様も一緒に行きませんか?」

「君の誘いなら行こうか」

 グレイ様が私のことを大好きだという事実を隠さなくなってから、私のいうこと素直に聞きすぎな気がしますわね。
  
「グレイ様」

「なんだい?」

「お手」

 グレイ様はにっこりとした表情のまま、こいつ何言っているんだとでも言いたげな雰囲気がひしひしと
  
 ……そろそろこの手を引っ込めようかしら? 仕方なくゆっくりと手を引っ込めますと、グレイ様の固まっていた表情が動き出します。
  
「さすがにそれはちょっとなぁって思ったよ」

「ごめんなさい。どこまでいうことを聞いてくださるのか好奇心が働いてしまいました」

 ですが驚いた時のグレイ様の表情って、少々可愛らしいのですね。
  
 この変態が表情にこだわるの少しだけ理解できてしまったことが無性に悔しいですわ。
  
 やっぱりわからないってことにしておきましょう。そうよ! 表情が気に入ったじゃなくてグレイ様のお顔が良いのよ! ……あ、こっちの方が悔しい。
  
 私は、グレイ様の馬アルフレッドに乗せて貰いながら、簡易墓地から離れることにしました。
  
 ふと、後ろを振り向けば豪快な笑い声が聞こえてきそうな気がしました。
  
 おかしいですよね。もう私はそれがどういうものか何度か実感しているはずですのに。
  
「あら? このお馬さん」

「ん?」

「いえ、ナダル領に来てから見ましたような
……」

「アルフレッドなら僕と一緒にナダル領に来たけど? ああ、もしかしてアルフレッドの親にでもあったのかな?」

「親? もしかして高原で出会ったあのお馬さんは……確かに似ていますわね」

 何故か本能的にあのお馬さんを素敵と思ったのは、幼い頃から知っているアルフレッドの親馬でしたのね。
  
「全く気付きませんでしたわね」

 エレナとヨハンネスは気付いていたからあの反応でしたのね。エレナがやたらニヤニヤしていたように感じたのはそういうことね。
  
「とにかく一度ナダル家のお屋敷に戻りましょう」

 そして全員が集合したら、次の予定をお話しなくてはいけませんね。
  
 アルフレッドに乗っている間、グレイ様にナダルに来るまでのお話をしていましたが、ことあるごとに私のことを笑うのですよね。
  
「あのですね。別に失敗したわけではなくてですよ! 違うのです!」

「いや、絶対に失敗したでしょ?」

「だぁかぁらぁ! ねえ! ねえ! グレイ様!? 叩きますよ!」

 ペチペチペチペチ! 最高に痛そうな音と共にグレイ様の背中をペチペチ叩きつけて差し上げましたわ! これは絶対に痛いはずですわ! だって私の手が痛いもの!
  
「ん? なんですの?」

 何故笑っていらっしゃるのですか!?

「このまま一生走ってよっか?」

「死んでしまいます」

「そうか。そうだね。でももう少し長く君と一緒にいさせて欲しい」

 私はなぜかその言葉を聞いて何を思ったのでしょうか。屋敷とは反対方向の湖を指さしましたわ。
  
「あっちだね」

 グレイ様は、何も言わずにそちらにアルフレッドを走らせましたわ。
  
「ありがとうございます」

「君が悲しい時に綺麗な風景を見に行く癖があるよね。マルッティとはそこまで親しくなれたかい?」

「……ええ」

 そうね。こんなに親しくなるだなんて思わなかったわ。騎士なんて職業があるから……でも、騎士がいなければ……
  
「グレイ様は騎士のいなくても良い世界を作れますか?」

「君が望むならと言いたいところだけどね」

 それ以上はグレイ様は何も言いませんでした。きっと無理なお願いだったのでしょうね。
  
 それとも、無理ではない方法がおありなのでしょうか? もしそうでしたら私は……いえ、この先を考えるのはやめておきましょう。
  
「ルーはどうして僕が君に無理やり婚約させなかったと思う?」

「え? 十分無理やりですよね? 半年後までに婚約者用意しろとか」

「ルーはどうして僕が君に無理やり婚約させなかったと思う?」

「そういうことにしてあげましょうか。そうね……最初はただ私を困らせることが目的だと思っていましたが違いますね」

「違わないけど?」

「えぇ……」

 なんの意味も御座いませんでしたの? ちょっと考えていた私がばかみたいじゃないですか。
  
 まさか本当に私を困らせることだけが目的だったなんて……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...