ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
99 / 102
終章 有史以前から人々が紡いできたこと

最終話 有史以前から人々が紡いできたこと

しおりを挟む
 ヘロニモお父様は今夜から国外追放となり、二度とアルデマグラ公国に戻れなくなることになりました。

 ミシェーラには実の父としばらく離れ離れにしてしまうことが心苦しいですが、耐えて頂きましょう。まあミシェーラってあまりお父様のことお好きではありませんし大丈夫でしょう。

 エリオットお兄様とユディタお母様にはそのことを伝え、私は更に質問しました。

「あの。明日、ヨランデお母様のお墓参りに行きたいのですが、どちらにあるのでしょうか?」

「それだったら私が案内しましょう。私もここまであなたを育てた母です。まあ、何かをしてあげた記憶はあまりありませんが。せめてヨランデには私からも挨拶すべきでしょう」

「ありがとうございます。それとグレイ様、あなたも付いて来てください」

「構わないよ」

「それでは明日のお昼過ぎにお願いします」

 そして今夜はグレイ様には客室に泊まって頂くことになり、明日を迎える準備をし始めました。

 翌朝。グレイ様の生誕祭まで残り十二日。刻限は迫りつつ、私は、早まっていく心臓の鼓動を必死で抑えようと意識しています。

 まあ、無理なんですけどね。

 午前中はグレイ様には会いたくないとお伝えしていますので、こちらにくることはないと信じましょう。逆に来てしまいそうですけど、言わなければ絶対に来ますので一応。

 私は昨晩もした湯浴みを午前中にもお願いしました。

 エレナは、くすくすと笑いながらそれに応え、使用人皆様で私を綺麗にしようとどんどん集まる始末。

 そんなにいりません。こらミシェーラお風呂で遊ばないで!

「なぜミシェーラがいるのかしら?」

 フリードリケさんにご質問するも、ニヤニヤと笑いながら、私はミシェーラ様のメイドですのでとしかお答えしません。

「おねーしゃまぁ!」

「はーい、ミシェーラはお風呂大好きできれいきれいで可愛いですねー?」

「ノリノリじゃないですか」

「お嬢様はミシェーラ様大好きですから」

「普通の人間は天使好きでしょ?」

 何を言っているのかしらこのメイド達は。

 私がミシェーラを愛でながら、メイド達に綺麗にしてもらっていたり、お風呂上りに髪を綺麗に整えてもらったり、午後出かける際に着ていく服まで用意して貰いました。

 ミシェーラが遊んでほしそうに何度も抱き着いてきましたが、頭を撫でであげますと、すぐ満足してどこかに走っていきます。これを三回繰り返しますと、絵本を持ってくることもあります。

 白いブラウスに赤系統のスカートをはいて私は昼食に向かいました。

 そして昼食後、ユディタお母様に連れられ、ヨランデお母様のお墓まで参りました。ヨランデお母様のお墓は特別に海沿いに作られているそうです。

「あら?」

 ヨランデお母様のお墓のお隣に、最近できたばかりに見えるお墓が用意されています。

「こちらは?」

「それはヘロニモが建てた墓です。ヨランデの横に置くと、いらぬ誤解が生まれるため、名前が彫られておりませんが……あなた方は名前などなくともその者の名がわかるはずです」

 そう、ヘロニモお父様。欲にくらんだ過去はともかく、本当はヨランデお母様に悪いことをしたと理解していたのですね。

 私はヨランデお母様が特に愛したというクロッカスの花を用意できなかったのは残念ですが、グレイ様はそれを聞いてくすくすと笑いました。

「何がおかしいのですか?」

「王都で君とデートした際に聞いた好きな花と一緒だなって思ってね」

「……よく覚えていますね」

「好きな女の子のことだから」

 そういう恥ずかしいお言葉。平気で仰るようになりましたよね。以前とは大違い。好きだと公にすればそんなにも大胆になれるのでしょうか。

 いつの間にかいなくなっていたユディタお母様。

「ヤーコフお父様、ヨランデお母様。父母とお呼びするのは初めてですね。あなた方の自慢の娘ルクレシアです」

「なにその挨拶」

 お隣で何か笑われているようですが、気にせず語り掛けます。

 私はヤーコフお父様との思い出をヨランデお母様にお話したり、ヤーコフお父様も知らない私をお二方にお話しました。

「グレイ様、ちょっとお一人で浜辺に行っていてください」

「……ちゃんと迎えに来てくれるのかな?」

「当たり前です! いいからさっさと行く!」

「はいはい。怒った顔も可愛いなぁ」

 グレイ様は、嬉しそうに浜辺に向かわれました。そんなに私の表情がお好きですか。

 それは、老後もお好きですか?

 って私、何を考えているのでしょうか。恥ずかしい。

 私はグレイ様にも聞かれたくないことを、お二人に向かってお話していきました。

 きっとお二人からは頑張れと言われたような気がします。ヤーコフお父様なら頑張りなさいといった感じでしょうね。ヨランデお母様はどのように喋る方なのでしょうか。

 浜辺に向かいますと、グレイ様が流木の上に腰をおろしていました。

「ああ、ルーも座るかい?」

 そっとハンカチを流木の上にしいてくださり、私はその上に座らせて頂きました。

「二人で海を眺めていると無人島生活を思い出すね」

「ああ、あれですか。また行きますか?」

「君からアウトドアな誘いが来るとは思わなかったけど、それも良いね」

「私も楽しかったですから。それに私達水辺で遊ぶという行為。好きだったじゃない」

「幼い頃からそうだったね」

「ねえ、私達結婚するのかしら?」

 私の問いに、グレイ様は目を丸くして驚かれました。予想外すぎたのでしょうか。

「君がこのまま、誰も婚約者を作れなければそうなるかな」

「……エレナのバカ」

「そこでエレナ君がでてきた理由がわからないな。それとも、何かあったのかい?」

「なんでもありません」

 ある日、エレナに仰ったプロポーズされるならのお話。エレナは冗談でグレイ様に伝えておこうかと仰っていましたが、そうですよね。冗談でとどまりますよね。

「君のことは何でも知りたいな」

「…………そういう恥ずかしくなるようなお言葉はもっとこう…………ううぅ。わかりました。以前エレナにお話したのです。プロポーズされるなら海に夕日が沈む瞬間が良いって!」

 私がそうおっしゃいますと、グレイ様はあることに気付きぽつりとつぶやきました。

「そろそろその瞬間なんじゃないかな?」

「ええ、そうです。タイミングは間違えないでください!」

「開き直ったね」

 そして二人で海を眺めてしばらくしますと、ついに夕日が海面付近まで近づきました。私は立ち上がると、グレイ様がやや楽し気に転んだら海に投げるよと笑いかけてきます。やめてください真冬ですよ。

「今でいいのかい?」

「今が良いのよ」

「まさかプロポーズのシチュエーションまでワガママを通すなんて。君らしいけどね」

「早くして!」

 グレイ様は呆れたような表情をしつつも、幸せそうに微笑みます。

「ルー。幼い頃からずっと君が好きで、ころころ変わる表情が愛おしくて。無駄な自信にも可愛げがって。君を最高の王妃にしたい。公爵令嬢をやめてくれないかな?」

「では私から返事させて頂きます」

 それは有史以前から人々が紡いできたこと。いえ、生命が紡いできたこと。そしてこれからも続くこと。

 私達のそれは、誰も知りえない歴史の一つにしっかりと加算されることになります。

「長いセリフで愛を伝えるのは嫌い」

「え?」

「あなたが好き! それだけ!!」

 ヤーコフお父様、ヨランデお母様。先ほど報告した私の旦那様。嘘になりませんでした。

 私達は世界の歴史に一つの家族として刻まれました。


Fin ~ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...