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終章 有史以前から人々が紡いできたこと
最終話 有史以前から人々が紡いできたこと
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ヘロニモお父様は今夜から国外追放となり、二度とアルデマグラ公国に戻れなくなることになりました。
ミシェーラには実の父としばらく離れ離れにしてしまうことが心苦しいですが、耐えて頂きましょう。まあミシェーラってあまりお父様のことお好きではありませんし大丈夫でしょう。
エリオットお兄様とユディタお母様にはそのことを伝え、私は更に質問しました。
「あの。明日、ヨランデお母様のお墓参りに行きたいのですが、どちらにあるのでしょうか?」
「それだったら私が案内しましょう。私もここまであなたを育てた母です。まあ、何かをしてあげた記憶はあまりありませんが。せめてヨランデには私からも挨拶すべきでしょう」
「ありがとうございます。それとグレイ様、あなたも付いて来てください」
「構わないよ」
「それでは明日のお昼過ぎにお願いします」
そして今夜はグレイ様には客室に泊まって頂くことになり、明日を迎える準備をし始めました。
翌朝。グレイ様の生誕祭まで残り十二日。刻限は迫りつつ、私は、早まっていく心臓の鼓動を必死で抑えようと意識しています。
まあ、無理なんですけどね。
午前中はグレイ様には会いたくないとお伝えしていますので、こちらにくることはないと信じましょう。逆に来てしまいそうですけど、言わなければ絶対に来ますので一応。
私は昨晩もした湯浴みを午前中にもお願いしました。
エレナは、くすくすと笑いながらそれに応え、使用人皆様で私を綺麗にしようとどんどん集まる始末。
そんなにいりません。こらミシェーラお風呂で遊ばないで!
「なぜミシェーラがいるのかしら?」
フリードリケさんにご質問するも、ニヤニヤと笑いながら、私はミシェーラ様のメイドですのでとしかお答えしません。
「おねーしゃまぁ!」
「はーい、ミシェーラはお風呂大好きできれいきれいで可愛いですねー?」
「ノリノリじゃないですか」
「お嬢様はミシェーラ様大好きですから」
「普通の人間は天使好きでしょ?」
何を言っているのかしらこのメイド達は。
私がミシェーラを愛でながら、メイド達に綺麗にしてもらっていたり、お風呂上りに髪を綺麗に整えてもらったり、午後出かける際に着ていく服まで用意して貰いました。
ミシェーラが遊んでほしそうに何度も抱き着いてきましたが、頭を撫でであげますと、すぐ満足してどこかに走っていきます。これを三回繰り返しますと、絵本を持ってくることもあります。
白いブラウスに赤系統のスカートをはいて私は昼食に向かいました。
そして昼食後、ユディタお母様に連れられ、ヨランデお母様のお墓まで参りました。ヨランデお母様のお墓は特別に海沿いに作られているそうです。
「あら?」
ヨランデお母様のお墓のお隣に、最近できたばかりに見えるお墓が用意されています。
「こちらは?」
「それはヘロニモが建てた墓です。ヨランデの横に置くと、いらぬ誤解が生まれるため、名前が彫られておりませんが……あなた方は名前などなくともその者の名がわかるはずです」
そう、ヘロニモお父様。欲にくらんだ過去はともかく、本当はヨランデお母様に悪いことをしたと理解していたのですね。
私はヨランデお母様が特に愛したというクロッカスの花を用意できなかったのは残念ですが、グレイ様はそれを聞いてくすくすと笑いました。
「何がおかしいのですか?」
「王都で君とデートした際に聞いた好きな花と一緒だなって思ってね」
「……よく覚えていますね」
「好きな女の子のことだから」
そういう恥ずかしいお言葉。平気で仰るようになりましたよね。以前とは大違い。好きだと公にすればそんなにも大胆になれるのでしょうか。
いつの間にかいなくなっていたユディタお母様。
「ヤーコフお父様、ヨランデお母様。父母とお呼びするのは初めてですね。あなた方の自慢の娘ルクレシアです」
「なにその挨拶」
お隣で何か笑われているようですが、気にせず語り掛けます。
私はヤーコフお父様との思い出をヨランデお母様にお話したり、ヤーコフお父様も知らない私をお二方にお話しました。
「グレイ様、ちょっとお一人で浜辺に行っていてください」
「……ちゃんと迎えに来てくれるのかな?」
「当たり前です! いいからさっさと行く!」
「はいはい。怒った顔も可愛いなぁ」
グレイ様は、嬉しそうに浜辺に向かわれました。そんなに私の表情がお好きですか。
それは、老後もお好きですか?
って私、何を考えているのでしょうか。恥ずかしい。
私はグレイ様にも聞かれたくないことを、お二人に向かってお話していきました。
きっとお二人からは頑張れと言われたような気がします。ヤーコフお父様なら頑張りなさいといった感じでしょうね。ヨランデお母様はどのように喋る方なのでしょうか。
浜辺に向かいますと、グレイ様が流木の上に腰をおろしていました。
「ああ、ルーも座るかい?」
そっとハンカチを流木の上にしいてくださり、私はその上に座らせて頂きました。
「二人で海を眺めていると無人島生活を思い出すね」
「ああ、あれですか。また行きますか?」
「君からアウトドアな誘いが来るとは思わなかったけど、それも良いね」
「私も楽しかったですから。それに私達水辺で遊ぶという行為。好きだったじゃない」
「幼い頃からそうだったね」
「ねえ、私達結婚するのかしら?」
私の問いに、グレイ様は目を丸くして驚かれました。予想外すぎたのでしょうか。
「君がこのまま、誰も婚約者を作れなければそうなるかな」
「……エレナのバカ」
「そこでエレナ君がでてきた理由がわからないな。それとも、何かあったのかい?」
「なんでもありません」
ある日、エレナに仰ったプロポーズされるならのお話。エレナは冗談でグレイ様に伝えておこうかと仰っていましたが、そうですよね。冗談でとどまりますよね。
「君のことは何でも知りたいな」
「…………そういう恥ずかしくなるようなお言葉はもっとこう…………ううぅ。わかりました。以前エレナにお話したのです。プロポーズされるなら海に夕日が沈む瞬間が良いって!」
私がそうおっしゃいますと、グレイ様はあることに気付きぽつりとつぶやきました。
「そろそろその瞬間なんじゃないかな?」
「ええ、そうです。タイミングは間違えないでください!」
「開き直ったね」
そして二人で海を眺めてしばらくしますと、ついに夕日が海面付近まで近づきました。私は立ち上がると、グレイ様がやや楽し気に転んだら海に投げるよと笑いかけてきます。やめてください真冬ですよ。
「今でいいのかい?」
「今が良いのよ」
「まさかプロポーズのシチュエーションまでワガママを通すなんて。君らしいけどね」
「早くして!」
グレイ様は呆れたような表情をしつつも、幸せそうに微笑みます。
「ルー。幼い頃からずっと君が好きで、ころころ変わる表情が愛おしくて。無駄な自信にも可愛げがって。君を最高の王妃にしたい。公爵令嬢をやめてくれないかな?」
「では私から返事させて頂きます」
それは有史以前から人々が紡いできたこと。いえ、生命が紡いできたこと。そしてこれからも続くこと。
私達のそれは、誰も知りえない歴史の一つにしっかりと加算されることになります。
「長いセリフで愛を伝えるのは嫌い」
「え?」
「あなたが好き! それだけ!!」
ヤーコフお父様、ヨランデお母様。先ほど報告した私の旦那様。嘘になりませんでした。
私達は世界の歴史に一つの家族として刻まれました。
Fin ~ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている~
ミシェーラには実の父としばらく離れ離れにしてしまうことが心苦しいですが、耐えて頂きましょう。まあミシェーラってあまりお父様のことお好きではありませんし大丈夫でしょう。
エリオットお兄様とユディタお母様にはそのことを伝え、私は更に質問しました。
「あの。明日、ヨランデお母様のお墓参りに行きたいのですが、どちらにあるのでしょうか?」
「それだったら私が案内しましょう。私もここまであなたを育てた母です。まあ、何かをしてあげた記憶はあまりありませんが。せめてヨランデには私からも挨拶すべきでしょう」
「ありがとうございます。それとグレイ様、あなたも付いて来てください」
「構わないよ」
「それでは明日のお昼過ぎにお願いします」
そして今夜はグレイ様には客室に泊まって頂くことになり、明日を迎える準備をし始めました。
翌朝。グレイ様の生誕祭まで残り十二日。刻限は迫りつつ、私は、早まっていく心臓の鼓動を必死で抑えようと意識しています。
まあ、無理なんですけどね。
午前中はグレイ様には会いたくないとお伝えしていますので、こちらにくることはないと信じましょう。逆に来てしまいそうですけど、言わなければ絶対に来ますので一応。
私は昨晩もした湯浴みを午前中にもお願いしました。
エレナは、くすくすと笑いながらそれに応え、使用人皆様で私を綺麗にしようとどんどん集まる始末。
そんなにいりません。こらミシェーラお風呂で遊ばないで!
「なぜミシェーラがいるのかしら?」
フリードリケさんにご質問するも、ニヤニヤと笑いながら、私はミシェーラ様のメイドですのでとしかお答えしません。
「おねーしゃまぁ!」
「はーい、ミシェーラはお風呂大好きできれいきれいで可愛いですねー?」
「ノリノリじゃないですか」
「お嬢様はミシェーラ様大好きですから」
「普通の人間は天使好きでしょ?」
何を言っているのかしらこのメイド達は。
私がミシェーラを愛でながら、メイド達に綺麗にしてもらっていたり、お風呂上りに髪を綺麗に整えてもらったり、午後出かける際に着ていく服まで用意して貰いました。
ミシェーラが遊んでほしそうに何度も抱き着いてきましたが、頭を撫でであげますと、すぐ満足してどこかに走っていきます。これを三回繰り返しますと、絵本を持ってくることもあります。
白いブラウスに赤系統のスカートをはいて私は昼食に向かいました。
そして昼食後、ユディタお母様に連れられ、ヨランデお母様のお墓まで参りました。ヨランデお母様のお墓は特別に海沿いに作られているそうです。
「あら?」
ヨランデお母様のお墓のお隣に、最近できたばかりに見えるお墓が用意されています。
「こちらは?」
「それはヘロニモが建てた墓です。ヨランデの横に置くと、いらぬ誤解が生まれるため、名前が彫られておりませんが……あなた方は名前などなくともその者の名がわかるはずです」
そう、ヘロニモお父様。欲にくらんだ過去はともかく、本当はヨランデお母様に悪いことをしたと理解していたのですね。
私はヨランデお母様が特に愛したというクロッカスの花を用意できなかったのは残念ですが、グレイ様はそれを聞いてくすくすと笑いました。
「何がおかしいのですか?」
「王都で君とデートした際に聞いた好きな花と一緒だなって思ってね」
「……よく覚えていますね」
「好きな女の子のことだから」
そういう恥ずかしいお言葉。平気で仰るようになりましたよね。以前とは大違い。好きだと公にすればそんなにも大胆になれるのでしょうか。
いつの間にかいなくなっていたユディタお母様。
「ヤーコフお父様、ヨランデお母様。父母とお呼びするのは初めてですね。あなた方の自慢の娘ルクレシアです」
「なにその挨拶」
お隣で何か笑われているようですが、気にせず語り掛けます。
私はヤーコフお父様との思い出をヨランデお母様にお話したり、ヤーコフお父様も知らない私をお二方にお話しました。
「グレイ様、ちょっとお一人で浜辺に行っていてください」
「……ちゃんと迎えに来てくれるのかな?」
「当たり前です! いいからさっさと行く!」
「はいはい。怒った顔も可愛いなぁ」
グレイ様は、嬉しそうに浜辺に向かわれました。そんなに私の表情がお好きですか。
それは、老後もお好きですか?
って私、何を考えているのでしょうか。恥ずかしい。
私はグレイ様にも聞かれたくないことを、お二人に向かってお話していきました。
きっとお二人からは頑張れと言われたような気がします。ヤーコフお父様なら頑張りなさいといった感じでしょうね。ヨランデお母様はどのように喋る方なのでしょうか。
浜辺に向かいますと、グレイ様が流木の上に腰をおろしていました。
「ああ、ルーも座るかい?」
そっとハンカチを流木の上にしいてくださり、私はその上に座らせて頂きました。
「二人で海を眺めていると無人島生活を思い出すね」
「ああ、あれですか。また行きますか?」
「君からアウトドアな誘いが来るとは思わなかったけど、それも良いね」
「私も楽しかったですから。それに私達水辺で遊ぶという行為。好きだったじゃない」
「幼い頃からそうだったね」
「ねえ、私達結婚するのかしら?」
私の問いに、グレイ様は目を丸くして驚かれました。予想外すぎたのでしょうか。
「君がこのまま、誰も婚約者を作れなければそうなるかな」
「……エレナのバカ」
「そこでエレナ君がでてきた理由がわからないな。それとも、何かあったのかい?」
「なんでもありません」
ある日、エレナに仰ったプロポーズされるならのお話。エレナは冗談でグレイ様に伝えておこうかと仰っていましたが、そうですよね。冗談でとどまりますよね。
「君のことは何でも知りたいな」
「…………そういう恥ずかしくなるようなお言葉はもっとこう…………ううぅ。わかりました。以前エレナにお話したのです。プロポーズされるなら海に夕日が沈む瞬間が良いって!」
私がそうおっしゃいますと、グレイ様はあることに気付きぽつりとつぶやきました。
「そろそろその瞬間なんじゃないかな?」
「ええ、そうです。タイミングは間違えないでください!」
「開き直ったね」
そして二人で海を眺めてしばらくしますと、ついに夕日が海面付近まで近づきました。私は立ち上がると、グレイ様がやや楽し気に転んだら海に投げるよと笑いかけてきます。やめてください真冬ですよ。
「今でいいのかい?」
「今が良いのよ」
「まさかプロポーズのシチュエーションまでワガママを通すなんて。君らしいけどね」
「早くして!」
グレイ様は呆れたような表情をしつつも、幸せそうに微笑みます。
「ルー。幼い頃からずっと君が好きで、ころころ変わる表情が愛おしくて。無駄な自信にも可愛げがって。君を最高の王妃にしたい。公爵令嬢をやめてくれないかな?」
「では私から返事させて頂きます」
それは有史以前から人々が紡いできたこと。いえ、生命が紡いできたこと。そしてこれからも続くこと。
私達のそれは、誰も知りえない歴史の一つにしっかりと加算されることになります。
「長いセリフで愛を伝えるのは嫌い」
「え?」
「あなたが好き! それだけ!!」
ヤーコフお父様、ヨランデお母様。先ほど報告した私の旦那様。嘘になりませんでした。
私達は世界の歴史に一つの家族として刻まれました。
Fin ~ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている~
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