その未来は読了済みです~聖女候補生たちの離島生活~

大鳳葵生

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第一章 離島生活

4話 未来視

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 食事を終えたら自分たちが使った食器は、自分たちで洗い物に出します。そうすると、今度は洗い物担当の班が食器を受け取って洗い始めました。


「さて待ちに待った自由時間ですね。ヴィーちゃんは私のお膝に来てくださいね」
「行かないわよ」
「だったらクリスちゃんがワタシのとこにおいでぇ!」
「はーい」


 食堂の椅子に座るモニカお姉ちゃんに声をかけられ、私は彼女の膝の上にちょこんと座ると、ぎゅぅっと抱きしめられてしまいました。
 完全に愛玩動物扱いです。その光景を見ていたヴィーちゃんが羨ましそうにしていますが、彼女は素直じゃないので無理やり抱きしめるしかないんですよね。
 今は私がモニカお姉ちゃんに抱きしめられているから無理ですけど。


「何をしているんだ君達は…………食堂の掃除班が動けないだろう」


 突然、後ろから声をかけられた私達は立ち上がって横一列に整列し、声をかけてきた男性の方を向きます。
 そこにいたのは今朝、私とヴィーちゃんを迎えに来た騎士ヴィンセント様でした。


「また君達か」
「あらぁ? クリスちゃんたちは何かしてしまったのかしら?」
「寝坊です!」
「誇っているんじゃないわよ! 本当に申し訳ございませんでした!」


 ヴィーちゃんが謝り倒す中、モニカさんと私はニコニコしながらヴィンセント様に微笑む。


「もういい。とにかく他の聖女候補生の邪魔になるから、別の場所に移動してくれ。何か困っていることがあれば俺が聞こう」
「いえいえ、何もないでぇす」
「はい、大丈夫です!」
「抱っこしてください!」


 この発言にはさすがのモニカお姉ちゃんの表情まで引きつります。
 しかし、そこは騎士様。何を言っているんだこいつはという表情をしながらも、私を抱き上げてくださりました。


「ふふふ、騎士様お優しいのですね」
「ここでの仕事は聖女候補生の護衛。それも数十人体制だ。平常時は暇なことに変わりないからな。むしろ身体を動かすチャンスと考えられる」
「ルームメイトとして申し訳ありません」
「気にするな」
「めちゃくちゃドキドキしますね」
「君は楽しそうで何より」


 ヴィンセント様に抱きかかえられた私は、がっしりとしがみ付いたままでした。
 ヴィンセント様もどこでおろそうか悩んでいる様子。
 モニカお姉ちゃんはふふふと笑いながら私を見て、ヴィーちゃんは完全に呆れています。


「あ、ここで降ろして頂いて大丈夫ですよ?」
「君はもう少し聖女らしくしたらどうなんだ? このままでは選ばれないぞ」
「あ? 私が選ばれて欲しいんですか? しょうがないですね!」
「俺は聖痕が浮かんだ以上、誰にも平等に権利があると思っている。だから君が今のふるまいを続けても構わないが、選考基準がわからないからな。少しでも有利にしておくべきだと思って助言したまでだ」


 ヴィンセント様の意見は至極真っ当で、ヴィーちゃんはうんうんと頷きながら聞き、モニカさんは相変わらずニコニコしていて、つかみどころのない雰囲気でした。

 まあ、私は選定基準というよりは、選定方法を既に熟知しているんですけどね。

 私は真剣な眼差しで見つめるヴィンセント様を見つめ返し、遠くない未来。この人に恋する自分が幸せになっていることだけを考えていました。
 ヴィンセント様に抱き上げられ、ドキドキはするものの、これが恋なのかわからない。

 私に浮かんだ聖痕から手に入れた能力は未来視。その結果、私は彼に恋することを知ってしまった。
 そのせいで、初めてあった瞬間から、私はこの未来の恋を意識している。
 この感情は、たった今芽生えている感情は、未来視がなければ感じることもなかったのだろうか。

 この程度の時間つぶしでは、自由時間は終わらない。お昼まで好きな時間を過ごせるなら、私はこの人の隣にいたい。


「ヴィンセント様」
「ん? 俺はお前に名前を教えたか?」
「いいえ、伺っておりません。私が一方的に知っているだけです」


 私がにっこりと笑うと、ヴィンセント様は興味深そうに私を見ていた。私の未来視の能力を知っているものはいない。

 私達がここにいるのは、聖痕が浮かんだからという理由だけで、能力を宣告する必要はありません。
 中には自ら言いふらす聖女候補生もいますが、私は今はその時ではないと判断して黙秘しています。


「まあ、聞かれれば答えられる情報だ。知っていたとしても気にはしない」
「えへへ。そう言って貰えると信じていました」
「君は子供だな」
「子供は嫌いですか?」
「…………そこまで嫌っていない」


 そう言った彼の表情は、何かを思い出すかのようなそういう悲壮感を感じさせるものがありました。
 未来視の私には、誰かの過去を知りえません。彼が未来で語ってくれない過去は、私は一生知りえない。


「好きなんですね」
「そう聞こえたか?」
「聞こえちゃいましたね」


 私とヴィンセント様が二人で話していると、何かを察したモニカお姉ちゃんがヴィーちゃんを連れてどこかに行ってしまいました。
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