4 / 25
第一章 離島生活
4話 未来視
しおりを挟む
食事を終えたら自分たちが使った食器は、自分たちで洗い物に出します。そうすると、今度は洗い物担当の班が食器を受け取って洗い始めました。
「さて待ちに待った自由時間ですね。ヴィーちゃんは私のお膝に来てくださいね」
「行かないわよ」
「だったらクリスちゃんがワタシのとこにおいでぇ!」
「はーい」
食堂の椅子に座るモニカお姉ちゃんに声をかけられ、私は彼女の膝の上にちょこんと座ると、ぎゅぅっと抱きしめられてしまいました。
完全に愛玩動物扱いです。その光景を見ていたヴィーちゃんが羨ましそうにしていますが、彼女は素直じゃないので無理やり抱きしめるしかないんですよね。
今は私がモニカお姉ちゃんに抱きしめられているから無理ですけど。
「何をしているんだ君達は…………食堂の掃除班が動けないだろう」
突然、後ろから声をかけられた私達は立ち上がって横一列に整列し、声をかけてきた男性の方を向きます。
そこにいたのは今朝、私とヴィーちゃんを迎えに来た騎士ヴィンセント様でした。
「また君達か」
「あらぁ? クリスちゃんたちは何かしてしまったのかしら?」
「寝坊です!」
「誇っているんじゃないわよ! 本当に申し訳ございませんでした!」
ヴィーちゃんが謝り倒す中、モニカさんと私はニコニコしながらヴィンセント様に微笑む。
「もういい。とにかく他の聖女候補生の邪魔になるから、別の場所に移動してくれ。何か困っていることがあれば俺が聞こう」
「いえいえ、何もないでぇす」
「はい、大丈夫です!」
「抱っこしてください!」
この発言にはさすがのモニカお姉ちゃんの表情まで引きつります。
しかし、そこは騎士様。何を言っているんだこいつはという表情をしながらも、私を抱き上げてくださりました。
「ふふふ、騎士様お優しいのですね」
「ここでの仕事は聖女候補生の護衛。それも数十人体制だ。平常時は暇なことに変わりないからな。むしろ身体を動かすチャンスと考えられる」
「ルームメイトとして申し訳ありません」
「気にするな」
「めちゃくちゃドキドキしますね」
「君は楽しそうで何より」
ヴィンセント様に抱きかかえられた私は、がっしりとしがみ付いたままでした。
ヴィンセント様もどこでおろそうか悩んでいる様子。
モニカお姉ちゃんはふふふと笑いながら私を見て、ヴィーちゃんは完全に呆れています。
「あ、ここで降ろして頂いて大丈夫ですよ?」
「君はもう少し聖女らしくしたらどうなんだ? このままでは選ばれないぞ」
「あ? 私が選ばれて欲しいんですか? しょうがないですね!」
「俺は聖痕が浮かんだ以上、誰にも平等に権利があると思っている。だから君が今のふるまいを続けても構わないが、選考基準がわからないからな。少しでも有利にしておくべきだと思って助言したまでだ」
ヴィンセント様の意見は至極真っ当で、ヴィーちゃんはうんうんと頷きながら聞き、モニカさんは相変わらずニコニコしていて、つかみどころのない雰囲気でした。
まあ、私は選定基準というよりは、選定方法を既に熟知しているんですけどね。
私は真剣な眼差しで見つめるヴィンセント様を見つめ返し、遠くない未来。この人に恋する自分が幸せになっていることだけを考えていました。
ヴィンセント様に抱き上げられ、ドキドキはするものの、これが恋なのかわからない。
私に浮かんだ聖痕から手に入れた能力は未来視。その結果、私は彼に恋することを知ってしまった。
そのせいで、初めてあった瞬間から、私はこの未来の恋を意識している。
この感情は、たった今芽生えている感情は、未来視がなければ感じることもなかったのだろうか。
この程度の時間つぶしでは、自由時間は終わらない。お昼まで好きな時間を過ごせるなら、私はこの人の隣にいたい。
「ヴィンセント様」
「ん? 俺はお前に名前を教えたか?」
「いいえ、伺っておりません。私が一方的に知っているだけです」
私がにっこりと笑うと、ヴィンセント様は興味深そうに私を見ていた。私の未来視の能力を知っているものはいない。
私達がここにいるのは、聖痕が浮かんだからという理由だけで、能力を宣告する必要はありません。
中には自ら言いふらす聖女候補生もいますが、私は今はその時ではないと判断して黙秘しています。
「まあ、聞かれれば答えられる情報だ。知っていたとしても気にはしない」
「えへへ。そう言って貰えると信じていました」
「君は子供だな」
「子供は嫌いですか?」
「…………そこまで嫌っていない」
そう言った彼の表情は、何かを思い出すかのようなそういう悲壮感を感じさせるものがありました。
未来視の私には、誰かの過去を知りえません。彼が未来で語ってくれない過去は、私は一生知りえない。
「好きなんですね」
「そう聞こえたか?」
「聞こえちゃいましたね」
私とヴィンセント様が二人で話していると、何かを察したモニカお姉ちゃんがヴィーちゃんを連れてどこかに行ってしまいました。
「さて待ちに待った自由時間ですね。ヴィーちゃんは私のお膝に来てくださいね」
「行かないわよ」
「だったらクリスちゃんがワタシのとこにおいでぇ!」
「はーい」
食堂の椅子に座るモニカお姉ちゃんに声をかけられ、私は彼女の膝の上にちょこんと座ると、ぎゅぅっと抱きしめられてしまいました。
完全に愛玩動物扱いです。その光景を見ていたヴィーちゃんが羨ましそうにしていますが、彼女は素直じゃないので無理やり抱きしめるしかないんですよね。
今は私がモニカお姉ちゃんに抱きしめられているから無理ですけど。
「何をしているんだ君達は…………食堂の掃除班が動けないだろう」
突然、後ろから声をかけられた私達は立ち上がって横一列に整列し、声をかけてきた男性の方を向きます。
そこにいたのは今朝、私とヴィーちゃんを迎えに来た騎士ヴィンセント様でした。
「また君達か」
「あらぁ? クリスちゃんたちは何かしてしまったのかしら?」
「寝坊です!」
「誇っているんじゃないわよ! 本当に申し訳ございませんでした!」
ヴィーちゃんが謝り倒す中、モニカさんと私はニコニコしながらヴィンセント様に微笑む。
「もういい。とにかく他の聖女候補生の邪魔になるから、別の場所に移動してくれ。何か困っていることがあれば俺が聞こう」
「いえいえ、何もないでぇす」
「はい、大丈夫です!」
「抱っこしてください!」
この発言にはさすがのモニカお姉ちゃんの表情まで引きつります。
しかし、そこは騎士様。何を言っているんだこいつはという表情をしながらも、私を抱き上げてくださりました。
「ふふふ、騎士様お優しいのですね」
「ここでの仕事は聖女候補生の護衛。それも数十人体制だ。平常時は暇なことに変わりないからな。むしろ身体を動かすチャンスと考えられる」
「ルームメイトとして申し訳ありません」
「気にするな」
「めちゃくちゃドキドキしますね」
「君は楽しそうで何より」
ヴィンセント様に抱きかかえられた私は、がっしりとしがみ付いたままでした。
ヴィンセント様もどこでおろそうか悩んでいる様子。
モニカお姉ちゃんはふふふと笑いながら私を見て、ヴィーちゃんは完全に呆れています。
「あ、ここで降ろして頂いて大丈夫ですよ?」
「君はもう少し聖女らしくしたらどうなんだ? このままでは選ばれないぞ」
「あ? 私が選ばれて欲しいんですか? しょうがないですね!」
「俺は聖痕が浮かんだ以上、誰にも平等に権利があると思っている。だから君が今のふるまいを続けても構わないが、選考基準がわからないからな。少しでも有利にしておくべきだと思って助言したまでだ」
ヴィンセント様の意見は至極真っ当で、ヴィーちゃんはうんうんと頷きながら聞き、モニカさんは相変わらずニコニコしていて、つかみどころのない雰囲気でした。
まあ、私は選定基準というよりは、選定方法を既に熟知しているんですけどね。
私は真剣な眼差しで見つめるヴィンセント様を見つめ返し、遠くない未来。この人に恋する自分が幸せになっていることだけを考えていました。
ヴィンセント様に抱き上げられ、ドキドキはするものの、これが恋なのかわからない。
私に浮かんだ聖痕から手に入れた能力は未来視。その結果、私は彼に恋することを知ってしまった。
そのせいで、初めてあった瞬間から、私はこの未来の恋を意識している。
この感情は、たった今芽生えている感情は、未来視がなければ感じることもなかったのだろうか。
この程度の時間つぶしでは、自由時間は終わらない。お昼まで好きな時間を過ごせるなら、私はこの人の隣にいたい。
「ヴィンセント様」
「ん? 俺はお前に名前を教えたか?」
「いいえ、伺っておりません。私が一方的に知っているだけです」
私がにっこりと笑うと、ヴィンセント様は興味深そうに私を見ていた。私の未来視の能力を知っているものはいない。
私達がここにいるのは、聖痕が浮かんだからという理由だけで、能力を宣告する必要はありません。
中には自ら言いふらす聖女候補生もいますが、私は今はその時ではないと判断して黙秘しています。
「まあ、聞かれれば答えられる情報だ。知っていたとしても気にはしない」
「えへへ。そう言って貰えると信じていました」
「君は子供だな」
「子供は嫌いですか?」
「…………そこまで嫌っていない」
そう言った彼の表情は、何かを思い出すかのようなそういう悲壮感を感じさせるものがありました。
未来視の私には、誰かの過去を知りえません。彼が未来で語ってくれない過去は、私は一生知りえない。
「好きなんですね」
「そう聞こえたか?」
「聞こえちゃいましたね」
私とヴィンセント様が二人で話していると、何かを察したモニカお姉ちゃんがヴィーちゃんを連れてどこかに行ってしまいました。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄までの七日間
たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!
※少しだけ内容を変更いたしました!!
※他サイト様でも掲載始めました!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる