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第一章 離島生活
5話 考えていることまではわからない
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私はモニカお姉ちゃんににこりと微笑むと、モニカお姉ちゃんもにこりと微笑み返してくれました。そういうとこお姉さんですね。
モニカお姉ちゃんはヴィーちゃんを連れてどこかに行き、私とヴィンセント様は二人きりになってしまいました。
「二人はどこかに行ってしまったが、君はいかなくていいのか?」
「お昼までは時間がありますので適当に過ごさせて頂きます。時間は教会の鐘が教えてくださりますから。お暇でしたらご一緒に歩きませんか?」
「先ほども言ったが、俺の仕事は護衛任務だ。対象には君もいる。君がどこかに行くというなら同行しよう」
「えへへ。その言葉は想定通りです」
ヴィンセント様は私の歩幅に合わせることが難しく、一歩一歩をゆっくり出すことで歩く速度を合わせてくださりました。
私は比較的に木々の間隔が広い道になりそうなところを選んで歩きます。
できるだけ誰もいないところを選んで歩き、ヴィンセント様は周囲に危険な動物がいないかだけ警戒してくださっています。
神聖とされる翼のある生物も、襲われた時だけは撃退の許可が下りています。
万が一該当する生物を殺してしまっても、聖職者の人間の判断であれば、正しい形で供養することで黙認されているみたいです。
ちなみにここに集まる騎士は、一次的に聖職者としてみなされますので、万が一でも翼をもつ生物に襲われても、ヴィンセント様の判断でどうにもでなります。
尤も、私達が獣に襲われる未来は当分ありませんけどね。
「あっちから水の音がしますね」
「確か浅い小川があったはずだ」
「行きましょう!」
「川が好きなのか?」
私は別に川のことはそこまで好んでいませんでしたが、ヴィンセント様が川を見て安らいだ表情をすることを知っています。
「なんだか急に行きたくなったのです!」
「そうか、ついて行こう。一人で聖女候補生を歩かせる訳には行かないからな」
「そうですよ。ちゃんと守ってください」
願わくば、貴方が少しでも私といる時間で安らいでくれることを。
私達は澄んだ小川の前まで行くと、腰をかけるのにちょうどいい岩があり、そこに座ろうとします。それを見たヴィンセント様が私に声をかけてきました。
「待て。紺色の修道服は汚れが目立ちにくいかもしれないが、やはり直接座るべきではない」
そう言ったヴィンセント様は、懐からハンカチを出して、私が座るつもりだった場所に敷いてくださりました。
私は、ヴィンセント様にありがとうございますと微笑んでから、その上にお尻を乗せます。
「座らないのですか?」
いつまでも立ちっぱなしのヴィンセント様の方に視線を向け、私はそう問いかけると、ヴィンセント様は空きスペースを指さしました。
「そのスペースで座ったら、くっついてしまうだろう。君は嫌ではないのか?」
「先ほど抱きかかえられたばかりです。気にしませんよ」
「そうか? それならいいが」
そう言ったヴィンセント様は私のすぐ隣に座りますが、ごつごつとした金属の鎧が私の肩や腕にぶつかります。
「すまない!? 配慮が足りなかった」
「いえ、平気ですよ。ちょうどそこをぶつけたかったので」
「君はフォローが下手と言われないか?」
「いえいえ、先ほどのは冗談として、嫌な気分にはなりませんでした」
「…………変わっているな。軽い言動にルーズな行動。一見聖女らしくないが、君は不思議と嫌いになれない」
そう言われ、私はその未来を知っていたにも関わらず、実際に生で聞くのとは全然違うことを思い知ります。
おかしい。この時点の私は彼を好いてなどいなかった。
であれば、未来を知ったことによって、今の私の感情が揺れてしまったのだ。
もしかしたら私の知っている未来は、もう書き換わっているのかもしれない。
その時はまた夢で未来を読むしかありませんね。私の感情がつられない程度に、感情移入しすぎない様に、未来を読まないと。
今みたいに、まだ恋していない人の一言で頬を染めるなんてありえません。
澄んだ小川に小魚が泳いでいる光景を眺める彼は、本当に落ち着いていて、隣に美少女である私が座っていることにちっともドキドキしていません。
未来が読めても、彼の好みは読めるわけではない。
もしかしたら、極端に胸の大きな女性が好きだったのかな。それとも完全にツルペタな女性とか。背の高い女性の方が好きなのかな。以外にも太っている女性の方が好きなのかな。
私と違う特徴を考えては、彼の好みの女性はどんな人かばかり考えてしまいます。
「クリスチナ・フォン・アニェージ嬢」
「長いですよ。クリスで良いです」
「聖女候補生を愛称で呼ぶなんて。それはできない」
「そうですね、貴方はまじめな人です。ですがフルネームは長いです。何とかしてください」
「それでは…………クリスチナ嬢」
「はい、何でしょうか」
「君は小川を眺めたかったのか?」
それは少し違う。小川を眺める貴方を見たかった。いえ、別に貴方を見る必要はない。貴方が今この瞬間をプラスの感情で過ごしてくださること、ただそれだけが私の願いだった。
現段階の書き換わっていない未来を読む限り、私が聖女になるとこの人も幸せになれる。
私は世界中の誰の為でもなく、この人の為の聖女になろう。そういう不純な聖女候補生だ。
憩いの時間は終わりを告げる。昼食の時間を知らせる鐘の音が島中に響き渡ったのだ。
「名残惜しいですが、戻りましょうか」
「ああ、少し急いだほうがいいかもしれないな」
そう言った彼は、私の手を引いて歩いてくださりました。貴方の横を歩けるなら、少しくらい自分で急ぎ足で歩けましたが、私はその言葉を口にしませんでした。
聖女候補生たちの一日は余暇ばかり。この余暇をどのように過ごすか神様が天から見ているとのこと。
尤も、家事などの仕事を娘にさせたくないと怒るお貴族様がいたせいで、一日中働き詰めにならないようになっているそうです。
その為、朝食係は本当に朝食を作ったらその日のお仕事は終わりになります。
後は決められた時間に礼拝。決まった時間に就寝。聖女候補生を決める試験の日までこんな毎日を過ごすことになります。
モニカお姉ちゃんはヴィーちゃんを連れてどこかに行き、私とヴィンセント様は二人きりになってしまいました。
「二人はどこかに行ってしまったが、君はいかなくていいのか?」
「お昼までは時間がありますので適当に過ごさせて頂きます。時間は教会の鐘が教えてくださりますから。お暇でしたらご一緒に歩きませんか?」
「先ほども言ったが、俺の仕事は護衛任務だ。対象には君もいる。君がどこかに行くというなら同行しよう」
「えへへ。その言葉は想定通りです」
ヴィンセント様は私の歩幅に合わせることが難しく、一歩一歩をゆっくり出すことで歩く速度を合わせてくださりました。
私は比較的に木々の間隔が広い道になりそうなところを選んで歩きます。
できるだけ誰もいないところを選んで歩き、ヴィンセント様は周囲に危険な動物がいないかだけ警戒してくださっています。
神聖とされる翼のある生物も、襲われた時だけは撃退の許可が下りています。
万が一該当する生物を殺してしまっても、聖職者の人間の判断であれば、正しい形で供養することで黙認されているみたいです。
ちなみにここに集まる騎士は、一次的に聖職者としてみなされますので、万が一でも翼をもつ生物に襲われても、ヴィンセント様の判断でどうにもでなります。
尤も、私達が獣に襲われる未来は当分ありませんけどね。
「あっちから水の音がしますね」
「確か浅い小川があったはずだ」
「行きましょう!」
「川が好きなのか?」
私は別に川のことはそこまで好んでいませんでしたが、ヴィンセント様が川を見て安らいだ表情をすることを知っています。
「なんだか急に行きたくなったのです!」
「そうか、ついて行こう。一人で聖女候補生を歩かせる訳には行かないからな」
「そうですよ。ちゃんと守ってください」
願わくば、貴方が少しでも私といる時間で安らいでくれることを。
私達は澄んだ小川の前まで行くと、腰をかけるのにちょうどいい岩があり、そこに座ろうとします。それを見たヴィンセント様が私に声をかけてきました。
「待て。紺色の修道服は汚れが目立ちにくいかもしれないが、やはり直接座るべきではない」
そう言ったヴィンセント様は、懐からハンカチを出して、私が座るつもりだった場所に敷いてくださりました。
私は、ヴィンセント様にありがとうございますと微笑んでから、その上にお尻を乗せます。
「座らないのですか?」
いつまでも立ちっぱなしのヴィンセント様の方に視線を向け、私はそう問いかけると、ヴィンセント様は空きスペースを指さしました。
「そのスペースで座ったら、くっついてしまうだろう。君は嫌ではないのか?」
「先ほど抱きかかえられたばかりです。気にしませんよ」
「そうか? それならいいが」
そう言ったヴィンセント様は私のすぐ隣に座りますが、ごつごつとした金属の鎧が私の肩や腕にぶつかります。
「すまない!? 配慮が足りなかった」
「いえ、平気ですよ。ちょうどそこをぶつけたかったので」
「君はフォローが下手と言われないか?」
「いえいえ、先ほどのは冗談として、嫌な気分にはなりませんでした」
「…………変わっているな。軽い言動にルーズな行動。一見聖女らしくないが、君は不思議と嫌いになれない」
そう言われ、私はその未来を知っていたにも関わらず、実際に生で聞くのとは全然違うことを思い知ります。
おかしい。この時点の私は彼を好いてなどいなかった。
であれば、未来を知ったことによって、今の私の感情が揺れてしまったのだ。
もしかしたら私の知っている未来は、もう書き換わっているのかもしれない。
その時はまた夢で未来を読むしかありませんね。私の感情がつられない程度に、感情移入しすぎない様に、未来を読まないと。
今みたいに、まだ恋していない人の一言で頬を染めるなんてありえません。
澄んだ小川に小魚が泳いでいる光景を眺める彼は、本当に落ち着いていて、隣に美少女である私が座っていることにちっともドキドキしていません。
未来が読めても、彼の好みは読めるわけではない。
もしかしたら、極端に胸の大きな女性が好きだったのかな。それとも完全にツルペタな女性とか。背の高い女性の方が好きなのかな。以外にも太っている女性の方が好きなのかな。
私と違う特徴を考えては、彼の好みの女性はどんな人かばかり考えてしまいます。
「クリスチナ・フォン・アニェージ嬢」
「長いですよ。クリスで良いです」
「聖女候補生を愛称で呼ぶなんて。それはできない」
「そうですね、貴方はまじめな人です。ですがフルネームは長いです。何とかしてください」
「それでは…………クリスチナ嬢」
「はい、何でしょうか」
「君は小川を眺めたかったのか?」
それは少し違う。小川を眺める貴方を見たかった。いえ、別に貴方を見る必要はない。貴方が今この瞬間をプラスの感情で過ごしてくださること、ただそれだけが私の願いだった。
現段階の書き換わっていない未来を読む限り、私が聖女になるとこの人も幸せになれる。
私は世界中の誰の為でもなく、この人の為の聖女になろう。そういう不純な聖女候補生だ。
憩いの時間は終わりを告げる。昼食の時間を知らせる鐘の音が島中に響き渡ったのだ。
「名残惜しいですが、戻りましょうか」
「ああ、少し急いだほうがいいかもしれないな」
そう言った彼は、私の手を引いて歩いてくださりました。貴方の横を歩けるなら、少しくらい自分で急ぎ足で歩けましたが、私はその言葉を口にしませんでした。
聖女候補生たちの一日は余暇ばかり。この余暇をどのように過ごすか神様が天から見ているとのこと。
尤も、家事などの仕事を娘にさせたくないと怒るお貴族様がいたせいで、一日中働き詰めにならないようになっているそうです。
その為、朝食係は本当に朝食を作ったらその日のお仕事は終わりになります。
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