その未来は読了済みです~聖女候補生たちの離島生活~

大鳳葵生

文字の大きさ
5 / 25
第一章 離島生活

5話 考えていることまではわからない

しおりを挟む
 私はモニカお姉ちゃんににこりと微笑むと、モニカお姉ちゃんもにこりと微笑み返してくれました。そういうとこお姉さんですね。
 モニカお姉ちゃんはヴィーちゃんを連れてどこかに行き、私とヴィンセント様は二人きりになってしまいました。


「二人はどこかに行ってしまったが、君はいかなくていいのか?」
「お昼までは時間がありますので適当に過ごさせて頂きます。時間は教会の鐘が教えてくださりますから。お暇でしたらご一緒に歩きませんか?」
「先ほども言ったが、俺の仕事は護衛任務だ。対象には君もいる。君がどこかに行くというなら同行しよう」
「えへへ。その言葉は想定通りです」


 ヴィンセント様は私の歩幅に合わせることが難しく、一歩一歩をゆっくり出すことで歩く速度を合わせてくださりました。
 私は比較的に木々の間隔が広い道になりそうなところを選んで歩きます。
 できるだけ誰もいないところを選んで歩き、ヴィンセント様は周囲に危険な動物がいないかだけ警戒してくださっています。

 神聖とされる翼のある生物も、襲われた時だけは撃退の許可が下りています。
 万が一該当する生物を殺してしまっても、聖職者の人間の判断であれば、正しい形で供養することで黙認されているみたいです。

 ちなみにここに集まる騎士は、一次的に聖職者としてみなされますので、万が一でも翼をもつ生物に襲われても、ヴィンセント様の判断でどうにもでなります。
 尤も、私達が獣に襲われる未来は当分ありませんけどね。


「あっちから水の音がしますね」
「確か浅い小川があったはずだ」
「行きましょう!」
「川が好きなのか?」


 私は別に川のことはそこまで好んでいませんでしたが、ヴィンセント様が川を見て安らいだ表情をすることを知っています。


「なんだか急に行きたくなったのです!」
「そうか、ついて行こう。一人で聖女候補生を歩かせる訳には行かないからな」
「そうですよ。ちゃんと守ってください」


 願わくば、貴方が少しでも私といる時間で安らいでくれることを。
 私達は澄んだ小川の前まで行くと、腰をかけるのにちょうどいい岩があり、そこに座ろうとします。それを見たヴィンセント様が私に声をかけてきました。


「待て。紺色の修道服は汚れが目立ちにくいかもしれないが、やはり直接座るべきではない」


 そう言ったヴィンセント様は、懐からハンカチを出して、私が座るつもりだった場所に敷いてくださりました。
 私は、ヴィンセント様にありがとうございますと微笑んでから、その上にお尻を乗せます。


「座らないのですか?」


 いつまでも立ちっぱなしのヴィンセント様の方に視線を向け、私はそう問いかけると、ヴィンセント様は空きスペースを指さしました。


「そのスペースで座ったら、くっついてしまうだろう。君は嫌ではないのか?」
「先ほど抱きかかえられたばかりです。気にしませんよ」
「そうか? それならいいが」


 そう言ったヴィンセント様は私のすぐ隣に座りますが、ごつごつとした金属の鎧が私の肩や腕にぶつかります。


「すまない!? 配慮が足りなかった」
「いえ、平気ですよ。ちょうどそこをぶつけたかったので」
「君はフォローが下手と言われないか?」
「いえいえ、先ほどのは冗談として、嫌な気分にはなりませんでした」
「…………変わっているな。軽い言動にルーズな行動。一見聖女らしくないが、君は不思議と嫌いになれない」


 そう言われ、私はその未来を知っていたにも関わらず、実際に生で聞くのとは全然違うことを思い知ります。
 おかしい。この時点の私は彼を好いてなどいなかった。
 であれば、未来を知ったことによって、今の私の感情が揺れてしまったのだ。
 もしかしたら私の知っている未来は、もう書き換わっているのかもしれない。

 その時はまた夢で未来を読むしかありませんね。私の感情がつられない程度に、感情移入しすぎない様に、未来を読まないと。
 今みたいに、まだ恋していない人の一言で頬を染めるなんてありえません。

 澄んだ小川に小魚が泳いでいる光景を眺める彼は、本当に落ち着いていて、隣に美少女である私が座っていることにちっともドキドキしていません。
 未来が読めても、彼の好みは読めるわけではない。
 もしかしたら、極端に胸の大きな女性が好きだったのかな。それとも完全にツルペタな女性とか。背の高い女性の方が好きなのかな。以外にも太っている女性の方が好きなのかな。
 私と違う特徴を考えては、彼の好みの女性はどんな人かばかり考えてしまいます。


「クリスチナ・フォン・アニェージ嬢」
「長いですよ。クリスで良いです」
「聖女候補生を愛称で呼ぶなんて。それはできない」
「そうですね、貴方はまじめな人です。ですがフルネームは長いです。何とかしてください」
「それでは…………クリスチナ嬢」
「はい、何でしょうか」
「君は小川を眺めたかったのか?」


 それは少し違う。小川を眺める貴方を見たかった。いえ、別に貴方を見る必要はない。貴方が今この瞬間をプラスの感情で過ごしてくださること、ただそれだけが私の願いだった。

 現段階の書き換わっていない未来を読む限り、私が聖女になるとこの人も幸せになれる。
 私は世界中の誰の為でもなく、この人の為の聖女になろう。そういう不純な聖女候補生だ。

 憩いの時間は終わりを告げる。昼食の時間を知らせる鐘の音が島中に響き渡ったのだ。


「名残惜しいですが、戻りましょうか」
「ああ、少し急いだほうがいいかもしれないな」


 そう言った彼は、私の手を引いて歩いてくださりました。貴方の横を歩けるなら、少しくらい自分で急ぎ足で歩けましたが、私はその言葉を口にしませんでした。

 聖女候補生たちの一日は余暇ばかり。この余暇をどのように過ごすか神様が天から見ているとのこと。

 尤も、家事などの仕事を娘にさせたくないと怒るお貴族様がいたせいで、一日中働き詰めにならないようになっているそうです。

 その為、朝食係は本当に朝食を作ったらその日のお仕事は終わりになります。
 後は決められた時間に礼拝。決まった時間に就寝。聖女候補生を決める試験の日までこんな毎日を過ごすことになります。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...