その未来は読了済みです~聖女候補生たちの離島生活~

大鳳葵生

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第一章 離島生活

19話 ここは安全だと思えるから

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「ヴィンセント様、お願いがあります」
「聞こうか」
「これから寝ますので見守っていてください」
「…………は?」


 私の言葉を理解できないヴィンセント様。川の脇にある背の低い草の生えた草むらを指さします。


「あそこで寝ます」
「いや、それはいけない」
「また服の心配ですか? 気にしないでください。それ以上の緊急事態です」
「…………説明はできないことか?」


 ヴィンセント様が何かを察して私の瞳を見つめる。群青色の瞳は、澄みきった空よりも、底の見える海よりも私の心を惹き付けた。


「できません」
「そうか、君が秘密にしたいというなら、そうしておくべきだろう。だが、草むらの上に直接眠ることは許さない」
「ではどうすれば?」


 私の疑問に対し、ヴィンセント様が先に寝転んだ。


「俺と君の体格さなら問題ないはずだ」
「ひぇ」


 彼はおそらく、自分の上で眠れ。そう言っているのでしょう。確かにそこなら私の服は汚れないでしょう。しかし彼は馬鹿だ。


「レディ扱いにならなくて済まない。だが、なりふり構っていられないのだろう?」
「…………もう! 揺らしたりしたら承知しませんからね!」

 私は彼の胸板に顔をうずめるようにしてのしかかる。ヴィンセント様は私の体がずれないように両手でしっかりと支えてくださりました。
 ゴツゴツの筋肉にガシャガシャとなる服の内側に着こまれた鎖帷子の擦れる音。そして、ヴィンセント様にすら伝わっていてもおかしくないこの胸の鼓動。さきほど以上に熱くなる頬。

 こんな状況で落ち着いて眠ることなんてできないのではないかという不安もあった。しかし、不思議とそれ以上の安心感があった。ここで眠っても大丈夫。危険はない。そういう安心感が、私を深い眠りに誘った。

 この後は夕食まで眠っていた私と、私を起こしてから森を出て宿舎に戻るヴィンセント様の姿。それは問題ない。

 夕食後の行動からが重要なのである。現段階でサーシャさんの姿は確認できている。それに一安心して私は更に先の未来を読むために、もっと深い眠りについた。


「起きろクリスチナ嬢」


 低い声と共に身体を揺さぶられる。擦れる金属音で、私の体はごつごつとした身体の上にあることを思い出した。
 慌てて飛び起きると、私の下敷きになっていた彼も上体を起こす。


「そろそろ日暮れだ。鐘も鳴るだろう。良い夢は見れたか?」
「ええ…………まあ」


 確信はないが…………やはり能力を探られているのでしょうか。それとも、無意識なのか。私の能力はサーシャさんよりずっと前。とある人に打ち明けている。
 その人に言われたこと。私の能力を欲しがる勢力は非常に多いらしく、軽々しく教えてはいけないそうでした。

 だから、用心深すぎるくらいには警戒しろ。そう言われてこの離島に出発した。特に能力を探ろうとしている人物は避けるように。

 その人の教え通りなら、もしかしたらヴィンセント様こそ避けなければいけない相手なのかもいけない。でも私は、そんな選択肢を取ることができませんでした。

 そもそも、まだ確証はない。もしかしたら日常会話のつもりなのかもしれない。でも、私の行動もやや不自然だったと思うし、うーん。とにかく不問! 今回は私の行動が不自然だったから聞かれたに違いありません!

 万が一のことを考え彼を疑わなければいけないという思考と、彼を疑いたくないというしょうもない気持ちが戦っている。


「戻るぞ?」
「え? ああ、はいごめんなさい」
「気にするな。俺は君たち聖女候補生が無事なら問題ない」


 ヴィンセント様は私だけを特別扱いしてくれている訳ではない。彼が聖女候補生をという言葉を私に使うたびにそう思い知らされる。
 それでもこの三日間。毎日二人きりになっていることから、少しは意識して貰えていないだろうか。そう期待していた。


「さあさあ! おなかも空いたし急いで戻りましょう!」
「あまり急ぐと転んでしまう」


 そう言われた矢先、私は足を躓いてしまいました。正面に体が倒れそうになると、左腕を思いっきり掴まれて抱き寄せられます。

 鎖帷子が鳴ると、私の心臓も鳴る。全く音が似ていないのに、勝手に連鎖してしまっている気がします。
 私は反射的にヴィンセント様を突き飛ばそうとしましたが、力叶わず。その胸板に手を押し付けているだけになりました。


「クリスチナ嬢、暴れると転ぶぞ」
「ふえ!? あ、えとごめんな……さい」


 急に抱き寄せられたことに対して困惑していましたが、これは単に転びそうな私を助けようとしただけ。暴れて迷惑をかけてしまったのではないかと思うと、先ほどまで高揚していた気持ちが一気に沈んでしまった。
 嫌われるなんてことはないと思っても、相手にどう思われたかは気になってしまう。
 そして面倒だと思われたくないから、私はそれを口にしない。
 そういう自分自身に、自分が一番面倒と感じていた。
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