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第一章 離島生活
18話 その先に視たいもの
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食事を終えてまた自由時間。ヴィーちゃんはとっとと私の目の前から消えてしまい、リナちゃんはディちゃんと手を繋いでどこかに行ってしまいました。
また独りぼっち。少し気になっていますのでサーシャさんとお話したいところですが、彼女も見当たらない。思えば自由時間になって彼女を見かけることはない。もしや彼女は一人でいることが好きなのでしょうか。
その割には水浴びをする時の彼女は、私を邪険にしませんでした。
一人でいることは好きだけど、決して他人を拒むような人ではない。そんな人でしょうか。むしろ拒まないどころか、ついてくる人は受け入れてくれるし、とても優しい。そう感じさせる人でした。
だからこそ、彼女はきっと今日の夜に水浴びをしに行くのではないだろうか。私はそう疑っている。
彼女と私の考えが一致しているかどうか。それだけがわかりませんが、彼女は嘘をつかない。だからこそ、先ほどの説教部屋では水浴びをしないと言わなかった。
その言葉が嘘になってしまうから。
「やはり心配ですね…………」
「何が心配なんだ?」
私の呟きを聞いた誰かが私に声をかけます。男の人の声。振り向けば藍色の髪の騎士が、私の顔に視線を向けていました。
「ヴィンセント様。今は別に何かをしていたわけではありませんが何か?」
「君はまたどこかに行きかねないからな。一応声をかけようと思ったんだ」
「そんなにちょろちょろしてませんよ」
「目を離した隙にいなくなるタイプだと思っている」
完全に子ども扱い。彼はレディに対する敬意が足りません。プンスカ怒りたいところですが、騎士がいるのは都合がいい。森に出かけられる。
サーシャさんなら黙って騎士も連れずに森に入っている可能性もありますし、一度森に向かいましょうか。
「また散歩したいなぁ。森に入っちゃおうかなぁ?」
「なんだその目は…………まあ仕方ない。君が行きたいというなら同行しよう」
「お優しいのですね!」
「初日から言っているが、君含めた聖女候補生の護衛が俺の仕事だ」
「では、仕事でなければ断っていましたか?」
私がそう聞き返すと、ヴィンセント様は何のためらいもなくお答えしてくださりました。
「君は目を離すと大変そうだからな。付き添っただろう」
そう言われてまた頭を撫でる。彼が見てくれるという事実は嬉しい。微笑みから伝わる優しさや温かさに私は何度左胸を跳ねさせただろうか。
私は彼の手を引っ張り森に向かう。たった三日の内に彼の手を握ることに何のためらいもなくなりましたが、この胸の高鳴りは、むしろ早まっているかのように感じました。
森の内部で目指すのはサーシャさんと水浴びをしていた方の川。なんとなくそこに行けば、今夜サーシャさんがいなくなった原因がわかるのではないか。私はそう考えて行動にでました。
目を閉じて数秒先の未来を視ましたが、あの川にもサーシャさんの姿はありません。でも、私はその瞳の裏に紡がれた物語を無視することはできませんでした。
「そのまま真っすぐ行きましょう」
「君はたまに目を閉じるが、何か意味があるのか?」
「えっと…………いわゆる癖です」
「そういうものか」
あからさまにはぐらかした私と、それに気付いたのに言及しようとしないヴィンセント様。しかし、彼はきっと理由を考えている。私が上手にはぐらかせなかったからでしょう。
この未来視の能力。先を知っているからこそ、人に話せない事実が多い。もう少し上手にはぐらかせるようにならなければいけませんね。
「また川かここは流れは緩やかだがそこそこ深そうだな」
サーシャさんと水浴びをするために訪れていた川。周囲に高い木々や人が隠れることのできる茂みもある。
私はヴィンセント様の服を引っ張り川の向こうを指さしました。
「向こうに渡れますか?」
「川に入らなければ厳しいな。どうしても行きたいのか?」
「はい」
私は首を縦に振って、強い意志をヴィンセント様に伝えます。ヴィンセント様は「仕方ない」と呟いて私を抱えて川に入ろうとしました。
「えええ!? なんか他の方法にしませんか?」
「君が行きたいというのだから、これが一番早いだろう」
「ですがヴィンセント様が濡れてしまいます」
「なら他の方法を考えよう」
「そもそも何の断りもなくレディを抱えないでください」
「君は抱えて欲しそうにしたり、抱えたら抱えたらでレディ扱いしろと言ったり大変だな」
「なんかその大事に扱って欲しいけど、慣れて欲しくない感じです」
「…………?」
ヴィンセント様はこいつ何を言っているんだ。そういいたそうな表情をしているように見えました。自分でも言った後に顔が紅くなることがわかるくらい頬が熱い。なぜあんなことを口走ってしまったのだろうか。
未来が読めても、読めた未来の行動原理まではわかりませんでしたし、なんならあの未来は完全に想定外。私の行動が私の視た未来を確実に書き換えていることがよくわかります。
ですが、今の書き換えがサーシャさんのいなくならない未来であるかどうかがわからない。確かめたい。確かめるしかない。
さきほどの数秒先として視た未来。その未来ではヴィンセント様が服を濡らして川の向こうに連れていってくれた未来。その先で確認できたことは、もう私の頭の中に入っている。だからもう川を超える必要はない。
その今だからこそ、新たな未来を参照しなければならない。
「ヴィンセント様、お願いがあります」
また独りぼっち。少し気になっていますのでサーシャさんとお話したいところですが、彼女も見当たらない。思えば自由時間になって彼女を見かけることはない。もしや彼女は一人でいることが好きなのでしょうか。
その割には水浴びをする時の彼女は、私を邪険にしませんでした。
一人でいることは好きだけど、決して他人を拒むような人ではない。そんな人でしょうか。むしろ拒まないどころか、ついてくる人は受け入れてくれるし、とても優しい。そう感じさせる人でした。
だからこそ、彼女はきっと今日の夜に水浴びをしに行くのではないだろうか。私はそう疑っている。
彼女と私の考えが一致しているかどうか。それだけがわかりませんが、彼女は嘘をつかない。だからこそ、先ほどの説教部屋では水浴びをしないと言わなかった。
その言葉が嘘になってしまうから。
「やはり心配ですね…………」
「何が心配なんだ?」
私の呟きを聞いた誰かが私に声をかけます。男の人の声。振り向けば藍色の髪の騎士が、私の顔に視線を向けていました。
「ヴィンセント様。今は別に何かをしていたわけではありませんが何か?」
「君はまたどこかに行きかねないからな。一応声をかけようと思ったんだ」
「そんなにちょろちょろしてませんよ」
「目を離した隙にいなくなるタイプだと思っている」
完全に子ども扱い。彼はレディに対する敬意が足りません。プンスカ怒りたいところですが、騎士がいるのは都合がいい。森に出かけられる。
サーシャさんなら黙って騎士も連れずに森に入っている可能性もありますし、一度森に向かいましょうか。
「また散歩したいなぁ。森に入っちゃおうかなぁ?」
「なんだその目は…………まあ仕方ない。君が行きたいというなら同行しよう」
「お優しいのですね!」
「初日から言っているが、君含めた聖女候補生の護衛が俺の仕事だ」
「では、仕事でなければ断っていましたか?」
私がそう聞き返すと、ヴィンセント様は何のためらいもなくお答えしてくださりました。
「君は目を離すと大変そうだからな。付き添っただろう」
そう言われてまた頭を撫でる。彼が見てくれるという事実は嬉しい。微笑みから伝わる優しさや温かさに私は何度左胸を跳ねさせただろうか。
私は彼の手を引っ張り森に向かう。たった三日の内に彼の手を握ることに何のためらいもなくなりましたが、この胸の高鳴りは、むしろ早まっているかのように感じました。
森の内部で目指すのはサーシャさんと水浴びをしていた方の川。なんとなくそこに行けば、今夜サーシャさんがいなくなった原因がわかるのではないか。私はそう考えて行動にでました。
目を閉じて数秒先の未来を視ましたが、あの川にもサーシャさんの姿はありません。でも、私はその瞳の裏に紡がれた物語を無視することはできませんでした。
「そのまま真っすぐ行きましょう」
「君はたまに目を閉じるが、何か意味があるのか?」
「えっと…………いわゆる癖です」
「そういうものか」
あからさまにはぐらかした私と、それに気付いたのに言及しようとしないヴィンセント様。しかし、彼はきっと理由を考えている。私が上手にはぐらかせなかったからでしょう。
この未来視の能力。先を知っているからこそ、人に話せない事実が多い。もう少し上手にはぐらかせるようにならなければいけませんね。
「また川かここは流れは緩やかだがそこそこ深そうだな」
サーシャさんと水浴びをするために訪れていた川。周囲に高い木々や人が隠れることのできる茂みもある。
私はヴィンセント様の服を引っ張り川の向こうを指さしました。
「向こうに渡れますか?」
「川に入らなければ厳しいな。どうしても行きたいのか?」
「はい」
私は首を縦に振って、強い意志をヴィンセント様に伝えます。ヴィンセント様は「仕方ない」と呟いて私を抱えて川に入ろうとしました。
「えええ!? なんか他の方法にしませんか?」
「君が行きたいというのだから、これが一番早いだろう」
「ですがヴィンセント様が濡れてしまいます」
「なら他の方法を考えよう」
「そもそも何の断りもなくレディを抱えないでください」
「君は抱えて欲しそうにしたり、抱えたら抱えたらでレディ扱いしろと言ったり大変だな」
「なんかその大事に扱って欲しいけど、慣れて欲しくない感じです」
「…………?」
ヴィンセント様はこいつ何を言っているんだ。そういいたそうな表情をしているように見えました。自分でも言った後に顔が紅くなることがわかるくらい頬が熱い。なぜあんなことを口走ってしまったのだろうか。
未来が読めても、読めた未来の行動原理まではわかりませんでしたし、なんならあの未来は完全に想定外。私の行動が私の視た未来を確実に書き換えていることがよくわかります。
ですが、今の書き換えがサーシャさんのいなくならない未来であるかどうかがわからない。確かめたい。確かめるしかない。
さきほどの数秒先として視た未来。その未来ではヴィンセント様が服を濡らして川の向こうに連れていってくれた未来。その先で確認できたことは、もう私の頭の中に入っている。だからもう川を超える必要はない。
その今だからこそ、新たな未来を参照しなければならない。
「ヴィンセント様、お願いがあります」
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