その未来は読了済みです~聖女候補生たちの離島生活~

大鳳葵生

文字の大きさ
22 / 25
第一章 離島生活

22話 縁

しおりを挟む
 男たちが海中に転んだ私を捉えようと手を伸ばす。

「捕まえたぞ!」
「あきらめるんだな!!!」

 しかし、私は彼ら二人にどや顔で振り返る。


「この未来は読了済みです」
「何?」
「どういうことだ? ってうわあああああ」


 突如、男たちの手足に何かがまきついた。
 ねっとりもっちりとした粘液の滴る何か。それは海から突然現れた。

 その発生源は何やら視覚で捉えることができない何か。


「なんだこれは!?」
「なんかの舌だ!!」
「こいつはぁ……海カメレオンじゃねえか!!!」


 そう、彼らの手足にまきついているのは離島近辺に生息している海の爬虫類、海カメレオン。肉食動物である。

 海カメレオンが真っ先に狙ったのは肉の多い男たち。私はさきほど以上に水を吸って重くなった修道服のまま陸に向かって走り始めました。もう限界、足も動かない。

 でも、男たち二人は聖女候補生を誰も攫えませんでした。これでいい。たとえここで私も海カメレオンの餌食になったとしても、今日誰も攫われることもなく、聖女の力が悪用されることもない。

 そして私がいなくなって教会の警備はもっと強まります。自由時間が減ってしまうかもしれませんが、みんなが安全に離島生活を送れるなら、私はそれでいい。
 本当は明日からも楽しい毎日が続くことを私は知っていました。でも、この道を選んだのは、その楽しいはずの毎日にサーシャさんの姿がないことを知っていたから。
 私はその未来を選べなかった。だから今ここで踏ん張っている。
 みんながまたこの島で朝日を浴びれるように。

 私の手足めがけて海カメレオンの舌が伸びる。どうやら私もここまでのようです。あまりの恐怖に目をつむる。

 瞼の裏に映るのは、藍色の髪の騎士の姿でした。これは……夢?

 夢?

 いいえ、これは…………


「クリスチナ嬢!」
「ヴィンセント様!!」


 私が見ていたのはまぎれもない数秒先の未来。夢なんかじゃない未来視でした。

 海に飛び込む前に見つけた私の未来視では、海カメレオンに襲われる男二人と私。そこまでしか視ていませんでした。だから、こんな風に助けてもらえるなんて夢にも思いませんでした。

 ヴィンセント様は伸びる舌を叩き切り、ヴィンセント様以外にも数名の騎士たちが駆け込んで来ては海カメレオンの討伐を始めました。
 私と一緒に襲われていた男二人も騎士たちによって捕縛されました。


「遅くなってすまなかった」
「いえ…………助かるだなんて……夢にも思いませんでしたので」


 私は視線をそらす。聖女候補生だというのに、危険な場所に黙って出歩いてしまったことが彼にばれてしまった。悪い子だと思われてしまうのではないか。

 そんな人から見れば小さな心配が、私の頭の中をかき乱します。嫌われたくない。失望されたくない。受け入れられない現実が来るのではないか。
 数秒先に知りたくない未来があるのではないか。そう思うと目を閉じることもできなかった。


「クリスチナ嬢」
「は、はい」


 彼が何かを言おうとしている。私はその言葉をじっと待った。激しい心拍音で胸が痛みを訴え始める。呼吸も苦しい。そして彼が言葉を続けた。


「無事でよかった」
「あ……はい」


 彼の言葉はただ私を心配する言葉。内心がどうだかは何も伝わらない。それでも、嫌われていないことだけはわかる。彼から伝わる感情は暖かいものでした。

 彼に抱きしめられる時に必ず鳴る鎖帷子の擦れる音は、あまり心地の良いものではありませんが、すぐそばに彼がいると思わせてくれる音でした。

 ヴィンセント様に連れられながら宿舎に戻ります。びしょびしょに濡れた私の服は吸い込んだ水分の分だけ重い。今の私はいつもより重く感じられているに違いない。
 そう思うと先ほどとは違う心配が私の頭の中を駆け巡りました。


「何か言いたいことでもあるのか?」
「どうして私が一人で歩いていたことを気にしないのですか?」


 体重を気にしているなんて言えずに、違う疑問を彼にぶつける。


「一人の聖女候補生が君の危険を案じてね。でもどうやら君もそれを理解した上で行動しているらしいと報告を受けたよ。だから何人かの聖女候補生の力を使って君を探し出した」


 そういわれて宿舎にたどり着くと数名の聖女候補生が私を待っていました。

 そこにいたのはヴィーちゃん、フランさん、ステフお姉ちゃん、モニカお姉ちゃん、サラさん、リナちゃん、ディちゃん。

 みんながどう力を合わせて私を探し出したのかまではわかりませんが、どうやら彼女たちの協力によって発見されたようです。

 皆さんはともかく、サラさんとリナちゃんはどうやって私の捜索に役立ったのか疑問でしたがすぐに解決。
 私を捕まえようとした人攫い二人が収容された部屋にサラさんとリナちゃんが向かっていきました。
 あの二人は魅了と悪感情の浄化ですから、事後処理として待機していたのでしょう。

 でも、どうして人災とわかったのでしょうか。単純に人災である可能性を考慮して待機してもらっていたということでしょうか。


「あの二人がいた理由が気になるか?」
「ええ、まあ……人災だなんて情報がどこから来たのかなと」
「あの二人はな。特に理由なく待機していたよ……何かの縁だと思えばいい」
「縁…………ですか」


 その言葉は、ヴィンセント様とはまた違った方向性で温かい言葉でした。

 あの後私はシスター・タチアナに呼びだされ、一晩中のお説教が始まりました。

 それでも、誰もかけることなく迎えた朝日を、私は誇らしげに眺めていました。あ、すごく眠たい。

 私はふらふらした足取りで自室に向かうと、泥のように眠ってしまい、未来視すら見れないほどの深い眠りについてしまいました。あとで聞いた話ですが、私は本当に幸せそうに眠っていたそうです。

 私はゆっくり目を覚ます。自室にはなんと水色の髪の女性、サーシャさんが眠る私の隣に座っていました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...