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前編③
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不快でしかない記憶の海から、現在へと意識を戻したミランは再び手を強く握りこむ。
絶妙に聞こえてくる声で交わされている会話は、砕けた硝子のようだ。チクチクと、興味本位で胸の傷を広げようとする生徒たちの悪意から退避するため、ミランは意識を前方のみに向けた。
ミランが一歩踏み出した瞬間、サンランドの大きな手が彼女の細腕を掴んだ。
「…まだ私にご用でしょうか?」
「遊びではありません」
サンランドの真剣な瞳に、ミランの胸は不覚にもドキリと跳ねた。
「数日前、婚約破棄を受けた貴方が傷心中なのは知っています」
「だったら放っておいて―」
「だからこそ、その傷に付け入るチャンスではないかとも思っています」
「なっ!?」
サンランドの強かさに、ミランの目が見開かれる。驚愕によって生まれた隙を、サンランドは見逃さず更に言葉を続けた。
「あなたは、自身を着飾ることに強い関心がない。そんな気高い人に、家の財力を見せつけるような高価な装飾品や無駄に大きな花束を贈っても、嫌悪感しか抱かないでしょう…なので、僕の婚約者である利点及び特典をプレゼンさせて下さい」
「は?」
何が“なので”なのか、ミランには理解ができない。聞き馴染みのない言葉の羅列にポカンとしている彼女になどお構いなしに、サンランドはキラリッと漆黒の瞳を輝かせ眼鏡のブリッジをあげた。
「ミラン嬢は現在、異性に対しての不信感が最高潮のはず。そんなあなたにどれほど強く想いを告げても、所詮は形のない不確かな愛だ、と片付けられてしまう。つまり、告白が成功する可能性は極めて低いということ…ですから、まずは僕の実家であるニックリ家に興味をもってもらい、心の距離を近づけます。僕自身のことには後ほど関心を向けてもらう、というのが最適かと思いまして」
「……何を言っているの?」
「こちらが資料です」
どこから取り出したのか、辞書ほどの分厚さがある紙の束を手渡してくるサンランド。反射的に受け取ってしまったミランの視界に飛び込んできたのは、資料の題名と思われる大きく太い文字。
“ミラン・ノーブルにサンランド・ニックリを知ってもらおう大作戦! 改訂版”
資料をまじまじと見た後、ミランの琥珀の瞳がゆっくりとサンランドへと向けられる。
「最終目標は結婚です。いかがでしょうか?」
カチャッと、ブリッジを上げるサンランド。その自信たっぷりな漆黒の瞳を見た瞬間、ミランのこめかみに筋が走る。
「私を馬鹿にしているの?」
「僕は真剣です」
「婚約破棄を受けた傷物の男爵の娘なら、公爵家の告白に飛びつくだろう…そう思ったのですか?」
「いいえ。あなたはそんな愚かではありません」
「ハッ!」
ミランは自嘲気味に笑った。
「ならどういうつもりですか?」
「あなたのことが好きだからです」
飾りのない言葉と真っ直ぐな瞳。ミランは言葉を詰まらせたが、すぐに頭を振り甘い考えを追い出す。
「馬鹿馬鹿しい…こんな気の強い女をからかうなんて、随分とお暇なんですね」
「何度も言いますが、僕は真剣です。それと、あなたの芯のある性格…僕は気高く素晴らしいと思っています」
漆黒の瞳の奥に灯るのは、慈愛の灯火。声が纏う感情は穏やかで、共に送られてきた柔らかな火は、ミランの顔を熱くさせた。
「と、とにかく、こんな傷物令嬢に構わないで下さい」
熱を返品するかのように、ミランは資料をサンランドへと叩き返す。ほんのりと染まる頬を見られないように、急いで背を向けると意識を前へと向けた。
「待つんだ、ミラン・ノーブル」
絶妙に聞こえてくる声で交わされている会話は、砕けた硝子のようだ。チクチクと、興味本位で胸の傷を広げようとする生徒たちの悪意から退避するため、ミランは意識を前方のみに向けた。
ミランが一歩踏み出した瞬間、サンランドの大きな手が彼女の細腕を掴んだ。
「…まだ私にご用でしょうか?」
「遊びではありません」
サンランドの真剣な瞳に、ミランの胸は不覚にもドキリと跳ねた。
「数日前、婚約破棄を受けた貴方が傷心中なのは知っています」
「だったら放っておいて―」
「だからこそ、その傷に付け入るチャンスではないかとも思っています」
「なっ!?」
サンランドの強かさに、ミランの目が見開かれる。驚愕によって生まれた隙を、サンランドは見逃さず更に言葉を続けた。
「あなたは、自身を着飾ることに強い関心がない。そんな気高い人に、家の財力を見せつけるような高価な装飾品や無駄に大きな花束を贈っても、嫌悪感しか抱かないでしょう…なので、僕の婚約者である利点及び特典をプレゼンさせて下さい」
「は?」
何が“なので”なのか、ミランには理解ができない。聞き馴染みのない言葉の羅列にポカンとしている彼女になどお構いなしに、サンランドはキラリッと漆黒の瞳を輝かせ眼鏡のブリッジをあげた。
「ミラン嬢は現在、異性に対しての不信感が最高潮のはず。そんなあなたにどれほど強く想いを告げても、所詮は形のない不確かな愛だ、と片付けられてしまう。つまり、告白が成功する可能性は極めて低いということ…ですから、まずは僕の実家であるニックリ家に興味をもってもらい、心の距離を近づけます。僕自身のことには後ほど関心を向けてもらう、というのが最適かと思いまして」
「……何を言っているの?」
「こちらが資料です」
どこから取り出したのか、辞書ほどの分厚さがある紙の束を手渡してくるサンランド。反射的に受け取ってしまったミランの視界に飛び込んできたのは、資料の題名と思われる大きく太い文字。
“ミラン・ノーブルにサンランド・ニックリを知ってもらおう大作戦! 改訂版”
資料をまじまじと見た後、ミランの琥珀の瞳がゆっくりとサンランドへと向けられる。
「最終目標は結婚です。いかがでしょうか?」
カチャッと、ブリッジを上げるサンランド。その自信たっぷりな漆黒の瞳を見た瞬間、ミランのこめかみに筋が走る。
「私を馬鹿にしているの?」
「僕は真剣です」
「婚約破棄を受けた傷物の男爵の娘なら、公爵家の告白に飛びつくだろう…そう思ったのですか?」
「いいえ。あなたはそんな愚かではありません」
「ハッ!」
ミランは自嘲気味に笑った。
「ならどういうつもりですか?」
「あなたのことが好きだからです」
飾りのない言葉と真っ直ぐな瞳。ミランは言葉を詰まらせたが、すぐに頭を振り甘い考えを追い出す。
「馬鹿馬鹿しい…こんな気の強い女をからかうなんて、随分とお暇なんですね」
「何度も言いますが、僕は真剣です。それと、あなたの芯のある性格…僕は気高く素晴らしいと思っています」
漆黒の瞳の奥に灯るのは、慈愛の灯火。声が纏う感情は穏やかで、共に送られてきた柔らかな火は、ミランの顔を熱くさせた。
「と、とにかく、こんな傷物令嬢に構わないで下さい」
熱を返品するかのように、ミランは資料をサンランドへと叩き返す。ほんのりと染まる頬を見られないように、急いで背を向けると意識を前へと向けた。
「待つんだ、ミラン・ノーブル」
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