一目惚れだからって婚約者特典をプレゼンされても困ります

灯陽樹

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中編③

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「まずは僕の家族構成から紹介いたします。資料の四ページ目をご覧ください」

 ミランは手元の資料に手を伸ばした。指定されたページを開くと、家系図と共に家族写真らしきものが掲載されている。

「ニックリ家は僕を含め、六人です。両親と、歳が離れた双子の弟、そして飼い犬がいます」

 犬を家族の一人として、きちんと数に含めるサンランドにミランは好感が持てた。サンランドの人柄を感じながら、ミランは彼の家族をじっくりと見ていく。写真の中の人物たちは、皆とても穏やかに微笑んでいて家族仲がとてもいいことが伺えた。

 暖かな写真にミランの頬が緩んだ瞬間、眼鏡の奥の瞳がキラリッと輝く。サンランドはおもむろに懐に手を入れると、二通の手紙らしきものを取り出した。

「実は、母上からの手紙を預かっておりまして…」
「こ、公爵夫人から!?」

 ミランの体に緊張が走る。自分より遥か高位にあたる人物から手紙をもらう機会などあまりない。ましてや、今回の件は公爵家の未来にも関わってくる内容。緊張するな、というのが無理な話だ。

「読み上げてもよろしいですか?」

 ミランはぎこちなく頷いた。承諾を得たサンランドは喉の状態を整えると、ゆっくりと文字を読み上げていく。

『初めまして、サンランドの母です』

 サンランドの女性を模した声。ミランは驚きはしたものの、サンランドにふざけている様子がなかったため、そのまま手紙の内容だけに意識を集中させることにした。

『今回の息子の婚約の話だけど…私も主人も大賛成です。爵位なんて関係ありません。あなたのような素晴らしいお嬢さんを、ニックリ家に迎えられる日を私たちは心待ちにしております。無愛想な息子だけど、あなたを好きだという気持ちは本物です。どうか検討してやってください』
「公爵夫人…」

 公爵夫人の言葉を暖かな言葉を反芻し、ミランは感嘆の声を漏らす。

『追伸』
「追伸?」

 まさかの続きに、ミランは目をパチクリさせた。

『うちには娘がいないから、ミランちゃんみたいな可愛い子が嫁いでくれたらとっても嬉しいわ! 実はミランちゃんに着てほしいお洋服とかを、すでに何着か用意しているの。だから、いつでも我が家に遊びに来てね! ミランちゃんとお茶を飲みながら、ゆっくりとお話できる日が今から待ち遠しいわぁ』

 手紙の内容を読み終え、サンランドは眼鏡のブリッジを上げた。

「以上です」

 どこかやり切った空気のサンランド。それに対し、ミランは唖然としている。少女の表情に、少年の首が傾く。

「何か?」
「…サンランド様って裏声、お得意なんですね」
「練習しましたからね」

 胸を張るサンランドはどこか得意気だ。恐らく先ほどの友人たちの前でも、この手紙を読み上げる練習をしたのだろう。公爵夫人になりきって手紙を読み進めていく彼に向ける、令息たちの反応はどんなものだったのか…その光景を想像したミランは小さく笑った。

(真面目な人)

 どんなことにでも全力であるサンランドに、ミランの心の固い部分が解されていく。上品に微笑む彼女へ、サンランドはもう一通の手紙を差し出した。
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