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学園1年生編
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しおりを挟むそんな出来事から少し経ち。学園では冬季のテストを迎えた。
結果は…
1位ロッティ。2位パスカル!3位にエリゼ、4位がルネちゃんだ。
僕は8位。ちょっと上がった!!
「うっそだろ!!?ボクがシャルロットだけでなく、パスカルにも負けた!?」
「1点差だけどな。ふ、勝った!!」
「ちくしょううう…!!」
順位が貼り出されている廊下の前。エリゼは3位転落がよほど悔しかったのか…蹲って震えている。
そして「次は負けん!!満点を取ってやるからな!」と走り去って行った。がんば。
「お兄様も順位上がったわね!おめでとう!」
「ありがとう!ロッティも1位おめでとう!流石僕の妹だね!!」
僕らは互いに褒め合った。うん、ロッティが1位だと…僕も嬉しい!やったね!
そして驚くべき事が2つ。
前回下から数えたほうが早かったルシアンが…真ん中らへんの順位だったらしいのだ!
貼り出されるのは10位までだが、ルシアンの成績表を見せてもらったら確かに真ん中だった。
やれば出来る子…その通りだったんだなあ。
そしてなんと…ジスランが!!落第点を1つも取らなかった!!!
「「「えええーーーーー!!!?」」」
とても信じられず、彼の成績表を奪って中を見る。
「ほ、ほんとだ…!!!赤が1つも無い!?」
「お兄様大変よ、天変地異の前触れよ…!」
「いいえ、もっと大きな何かがやって来ます…!!」
僕らは揃いも揃って暴言を吐くが、当の本人はニコニコしている。
「これで休暇中、遊びに行けるな!」
と喜んでいるのだ。
でも…多分僕は家にいないよ?だから前もって来る日を教えてくれれば、その日は家にいるようにするよと約束をした。
まあ僕がいなくてもいいんならそれでも…と言ったら、肩を掴まれ「会いたい!!」と言われた。照れるなあ、おい。
ちなみにその日。ブラジリエ家はお祭り騒ぎだったそうな。
しかし彼は漫画では、5年生になるまで毎回落第点を取っていたのになあ…。
今更だけど、大分内容変わっちゃった。僕達の関係もね。幼馴染4人はあまり変わって無いけど…ジスランが僕に優しくなったのは大きな変化だと思う。
それに、エリゼがこんなに面倒見が良くて頼りになるとは思わなかった。
それでも…親しくない相手には辛辣だし、傲慢なところもある。とは言え漫画で読んだよりは、全然良いやつになってるんだよねえ。
パスカルだって、どうして僕は彼を腹黒だと思ってたんだろう?
全然そんな事なくて、すっごく誠実で優しい。
でも…たまに僕の事を女の子扱いするのはやめてもらえませんかね?コロっといっちゃうじゃん…!
僕の手を握って、蕩けるような笑顔を向けないで欲しいなあ!勘違いしたくないんだよ!!!
ルネちゃんは、漫画でも僕と仲良しだったけど…「ルネさん」「セレスさん」って呼び合ってたし。今より少し距離があった気がする。
でも今なんかは超仲良し。僕が男装などしていなければ、お泊まり会とかしていたに違いない。
ルシアンは言わずもがな。家族と打ち解けて…素直になってくれて、本当に良かった…。
※※※
穏やかに日々は過ぎ、12月になり冬期休暇に突入した。
ジスランはやっぱりうちに入り浸っている。一緒に課題をしたり遊んだり、剣の相手をしてもらったり。
パスカルもセレネに乗ってよく来る。エリゼは転移魔術を完全にマスターしたらしく…しょっ中来る。
僕は基本教会にいるつもりだったのに…昼間は結構家で過ごす事になる。教会で集まってもいいんだけど、職員さんが気を使っちゃうからね。
ルシアンとルネちゃんはたまに来た。ルシアンは…最近遺跡の発掘隊に入れてもらったらしく、嬉々として参加しているらしい。
で、ほぼ毎日誰かしらいる3人。君達、他に行くとこ無いの…?
「今日は誰が来るんだっけ?」
「パスカル様がいらっしゃる予定です」
僕は朝食を部屋で済ませ、ダイニングから戻って来たロッティとバジルと少しお茶を飲んでいた。
今日はロッティは午後から習い事だ。それまでは一緒に過ごすのだ。
伯爵と決裂した僕だが、一応言えば食事は出るし小遣いなんかもある。
まあどうせ…最上級の精霊2人と契約している僕に利用価値があるってだけだろうけど。
しかし今日はパスカルだけか。何して過ごそうかな。
「…ねーねー、パスカルって好きな人いるんだって」
「……そうなの?」
「え、僕も知りませんでした…。お付き合いはされているのですか?」
やっぱお相手は2人も知らないか、残念。なんか聞けるかなと思ったのに。
「んー…心に決めた人がいるって事しか知らないの。
どんな女性だと思う?やっぱお淑やかで…可愛い人かな?」
「(お淑やか…では無いわね。でも世界一可愛い人だけど!)」
「ご本人に聞いてみてはいかがですか?坊ちゃんでしたら教えてくださると思いますが」
「教えてくれなかったんだよう。
って、「僕なら」ってどういう事?」
「え…だって明らかに、パスカル様は坊っちゃんを特別に想っていますよね。
もしも坊ちゃんが女性でしたら、間違いなく彼の想い人は坊ちゃんかと…」
そ、そうなの!?いやでも、彼は誰にでも優しいじゃない?バジルの気の所為じゃ?
他にもバジルは、パスカルはいつも僕の事を見てるとか明らかに距離が近いとか言うけれど…勘違いじゃないの!?
するとそれまで僕達の会話を黙って聞いていたロッティが、ティーカップを置いて口を開いた。
「……お兄様は、パスカルの想い人が気になるの?」
「え…う、うん。なんとなく…」
「例えばエリゼやジスランやルシアン殿下に好きな人がいるとしたら…どう思う?」
んん…?どうしてロッティはそんな事を?
しかもなんだか…真剣な顔をしている。単なる恋バナではないのですか…?
「……ジスランだったら…相手がロッティならそれでいい。他の女性だったら…気になるなあ…」
「わ、私!?なんで私なの…!?」
お。珍しくロッティが顔を赤くして狼狽えてる!可愛い…じゃなくて。
「ん…まあなんとなくね。ロッティはジスランの事どう思ってる?それとも他に…気になる男性とかいる?」
「ジスランは…分からないわ。嫌いでは無いけれど、お兄様を傷付けた事は一生忘れないんだから!
でも…他に好きな人がいる訳でも無いけど」
「そっか。
エリゼやルシアンなら…どんな相手かは気になるね!出来れば僕とも仲良くしてくれる人だと嬉しいな~って思うよ」
「そう…なの。じゃあ、パスカルの相手はどう思う…?」
パスカルのお相手か…。もちろん気にはなる。それに…
「羨ましい…かも」
「「…………」」
それに、なんかモヤモヤする…。上手く説明出来ないけども。
「(…お嬢様、以前から思っていましたが…坊ちゃんは男性がお好きなのでしょうか…?今だってあの憂いを帯びた表情…無意識でしょうけど)」
「(分からないわ…昔から、ジスランに友情以上の気持ちを向けていた気はしてたけど。
でも流石に聞けないわ…そんなデリケートな部分…!)」
?2人は内緒話を始めたぞ。僕も入れて!と言おうとしたら…どうやらパスカルが来たらしい。
そこでこの話題は中断されてしまったが…後で、ロッティ達がいなくなったら。もう一回パスカルに聞いてみようかな…。
「お邪魔します」
「いらっしゃい!さ、座って座って」
パスカルは今日も手土産を持って来てくれた。うちに来る時、なんか持って来るのも彼だけだな。エリゼなんかは逆に要求してくるからな…。
それは置いといて。話し合った結果僕達は、カードゲームで遊んだのだった。
「あ…お嬢様、そろそろ先生がお見えになるお時間です」
「あら。じゃあお兄様…私達は外すわね」
「うん。頑張ってね~」
ここで2人は退室した。それでも部屋にはセレネとヘルクリスがいるから…2人きりではないけど。影の中にはもっといるし。
パスカルは今僕の隣に座り、カードを片付けている。…よし!
「「あの…え?」」
意を決して話しかけてみれば、ハモった。
2人で「どうぞお先に」「いえそちらこそ」と譲り合い、結局パスカルから先に話す事に。
彼は逡巡した後…1枚の写真を取り出した。
「その…この、彼女の事なんだが…」
「彼女?……おふぁーーー!!?」
テーブルの上に差し出されたそれは、エレナの写真!?僕は勢いよく奪い取り、背中に隠した。
失くしたと思ってたのに…君が持ってたの!?
「いやっ、盗った訳じゃないから!その…君が落として行ったのを、返す機会がなくて…。
で、その、女性は…ど、ど、どどどういう関係なんだ…?」
僕です。とは言えん!!!
「やっぱり、セレスタンの特別な人か…?」
本人です。
…って、恋人と勘違いされとる!?そりゃそうか、写真なんて持ち歩いてちゃそう思うか!
うぅん…なんて言い訳しよう!?妹、は無理がありすぎる。えー…と……!!
「(セレスタン…やっぱり…その写真は、君の想い人なのか…!!)」
※パスカルは盛大な勘違いをしていた。
「(以前酔っ払った時に言っていた…失恋したばかりだと。きっと今も忘れられず、写真を持ち歩いているんだな…。
しかし…そのような可愛らしい女性がライバルでは、俺には勝ち目が無い。だから彼が振られた事に安堵してしまう…それはセレスタンの傷心を喜ぶと同じ事…!)」
……?あれ、僕が答えに困っていたら…パスカルが沈んでいる。「俺は最低の人間だ…」とか言ってるが…この短時間で何があった?
「あの、ね。この子は…」
「いや、いい。みなまで言うな……くぅ…!俺で良ければ、いつでも相談に乗るからな…!!」
どう相談しろと。
なんか自己完結しちゃってるけど…僕はパスカルの膝の上に乗るセレネに目を向けた。
すると彼は、ため息をつき首を横に振ったのだ。
「(ごめん、シャーリィ。セレネは何も言えないんだぞ…。その写真もどう考えてもシャーリィなんだが、教える前に勝手に明後日の方向に解釈してしまったんだぞ…。
しかし人間ってのは面倒なんだな~。口止めさえされていなければ、セレネがパルの気持ちを代弁してやるのに。
何故一言、「好きだ」という三文字を口に出来ない?人間の一生なんて短いんだから…少しでも長く隣にいたいとは思わないのか…?)
あ。ちょっとセレネはヨミ達に話があるんだぞ。精霊全員、セレネについて来い」
「「え?」」
「ぼくは…シャーリィの側にいる」
「少しくらい平気だ。パル、シャーリィに手を出すなよ?」
「出すかっ!!!」
え、え?セレネは本当に全員連れて、窓の外に出て行った。飛べない子達はヘルクリスの背に乗せ…上に向かう。屋根の上か…?
って、この空気の中2人きりにすんの?ねえ、ちょい!?
「「……………」」
沈黙が続く。この空気では…「ねえねえ、パスカルの好きな人って誰よ~僕の知ってる人~?」なんて聞けんわ!!!
「…とりあえず、お茶にしようか」
「ああ…って、セレスタンの話は…?」
「え…っと…!忘れた!!!」
「ええ…?」
※
ラサーニュ邸の屋根の上。
「……だからな、パルがシャーリィを好きだって事、本人に言っちゃ駄目なんだぞ」
「はあ…人間とは斯くも面倒なものだな~。まあいい、私はセレスに危機が迫らない限り一切関与しない」
「ぼくは…彼女に何かあったら、止めるよ…ほら」
ヨミがセレネに見せたのは、1枚の紙。そこにはゲルシェの文字で注意喚起が書かれていた。
『セレスタンの就寝時、触れていいのは女性と彼女が定めた伴侶のみ。
ただし生命の危機にある時は例外。
それ以外は精霊殿の思うように任せる』
それは、ゲルシェが関係者を集めて会議した結果だった。大して変わらないだろうが、ヨミにはそれ以上何も言えないのだ。
「パスカルは、シャーリィも信頼してる相手だから…彼女が拒まなければぼくは手も口も出さないよ。
でも嫌がってたら…止めるからね。まあパスカルに触れられると、シャーリィも嬉しそうに笑うんだけど…」
ヨミの言葉に、他の上級精霊達も頷く。
人間って面倒くせえ…それが、彼ら精霊の総意であった…。
※※※
その後も課題をやったり本を読んだり、お茶にしてまったり過ごした。
日も暮れて来たのでパスカルは帰る。僕も教会に帰ろうとしていた。その前に…
「あ…ちょっとパスカル、セレネに話があるんだけど…いい?」
「ああ、もちろん。ほら」
僕はセレネを預かり、部屋の隅に移動。彼に聞いておきたい事があったのだ。
「どうしたシャーリィ?」
「うん…ねえ、どうしてセレネは…僕の事を、気にしてくれたの?」
「?初めて会った時の事か?」
「うん。ヨミが言ってた。セレネが僕を特別に思ってくれているから、自分達も僕に興味を持ったって。
でもそのセレネは…どうして?」
僕の問い掛けに、セレネはたっぷり考えてから口を開く。
「……うーん…。
まず…あの日セレネは、屋根の上でお昼寝してたんだ。それがいつの間にか転がり落ちたみたいでな…。
目が覚めたら、何故か体は汚れてるし…温かいものに包まれていた。それがシャーリィとパル」
どうやら彼は、ちょくちょく人間界に出没していたらしい。他の最上級は用が無ければ精霊界に引っ込んでるらしいが…。
で、あの日。近所の子供達に子犬が虐められてる!と思っていたが…セレネにとってはノーダメだったようだ。
「目を覚ませば人間の子供達に抱き締められているわ1人はポロポロ泣いてるわ…まるで状況を理解出来なかったんだぞ。
でも…シャーリィの涙が、セレネの顔に落ちてくる雫が暖かくてな。これは、セレネの為に流してくれてるんだなって…解っちゃったんだぞ。
……セレネは最上級精霊だ。人間からすれば、尊いモノなんだろう。
セレネは人間が想像もつかない程長く生きているし、強いんだぞ。
そんな…わたしの為に、誰かが心を痛めて涙を流すなんて、初めてだったんだ。
それが君だった。例えその時、わたしの正体を知らなかっただけだとしても。
だから言ってしまえば…同じようにわたしを案じてくれる人間だったら、誰でも良かったという事になる。
君を愛しく思ったのは、偶然。でもわたしはその縁が、何よりも大事だと思う。
あの日あの時。わたしを見つけてくれたシャーリィ。その大きな瞳から溢れる雫を…それ以上流して欲しくなくて気付けば拭っていた。
偶然でも…今は、それがシャーリィで良かったと思っているよ。
それが真実。…幻滅したか?」
セレネは普段とは違う口調で説明してくれた。
そっか、偶然…誰でも、良かった…。
幻滅なんて…する訳が無い!!!
「ううん!ありがとうセレネ、あの日…僕と出会ってくれてありがとう!!」
「…!うん!セレネもシャーリィと出会えて良かったぞ!」
僕はセレネをぎゅううっと抱き締めた。
偶然で何が悪い。あの日セレネを助けたのが他の人だったら、今頃彼はその人の所にいたのだろう。
でも今はここにいる!それが全て。ならば僕は、僕とセレネを引き合わせてくれた縁に感謝しなくては!
「それでな、セレネはシャーリィが名前を呼んでくれるのをずっと待ってたんだぞ!
でも全然呼んでくれないし…目を離した隙に死にかけてるし!セレネ驚いて殺っちゃったぞ!
これ以上傷付けたくなくて、もう無理矢理契約する事にしたんだ。結果的にパルと契約したけどな!」
「軽いノリで僕にトラウマ植え付けたんだね!?
忘れててごめん~!最初は毛玉ちゃんどうしてるかな?とか思ってたんだけど、次第に薄れてっちゃったんだよう!」
僕は一生、自分のせいで人が死んだ事を忘れんからな。まあ完全に僕のせいなので、セレネを恨みなんかしないがな。
そしてセレネはどうしてパスカルと契約を?それを訊ねたら、パスカルには内緒にするよう言われた。
「その時シャーリィは眠ってたし、すでにヨミと契約していた。セレネも契約しても良かったんだが…(女性のプライベート、なんてのは言い訳だ。ヨミだってオスだしな)。
それよりも、あの時のもう1人の子供が…シャーリィを守れなかった、と。すっごく悔いていた。
初めて会った時からパルは、そういう奴だった。
シャーリィはセレネを案じてくれていたが…パルはそんなシャーリィを愛しく思っていた。
それは成長しても変わらなかったみたいだぞ。
シャーリィを守れなかった、自分にもっと力があれば…!ってすんごい落ち込んでた。
その感情が…セレネと同じくらいか、それ以上にシャーリィを想っていたから。そんなパルの事も気に入ったんだ。
だからシャーリィの為、セレネが力になってやってもいいかなって思ったんだぞ(このくらいならセーフかな?)」
そ、そっか。パスカルはそんなに僕を心配してくれたのか…照れますな。
最後にもう一度ぎゅーっとした後、セレネをパスカルに返す。
「パスカル…ありがとう!」
「え…ど、う、いたしまし、て…?」
そのままパスカルはセレネの背に乗り帰って行った。
最近も思ったが、縁ってのは不思議だね~。良くも悪くも。僕はそんな事を考えながら…ヘルクリスに乗り教会に向かうのだ。
「なんなんだ最後の笑顔は!?セレネ、シャーリィになんか余計な事言ってないだろうな!?」
「言ってない(はずだ)ぞ」
「くおおおぉぉ…!!あの時抱き締めなかった俺を褒めろ!!!」
「いっそ抱き締めろ…本当に人間は面倒くさい…」
家に帰ったパスカルは、1人ベッドの上を転げ回っていたそうな。
応援ありがとうございます!
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