【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

文字の大きさ
76 / 224
学園1年生編

61

しおりを挟む


 コンコン

「どーぞー」

「失礼します」

 夜。教会の自室でお守りの仕上げをしていた僕は、セージとミントが訪ねて来たので中断する。
 彼らに椅子を勧め、扉の鍵をして…と。


「お仕事お疲れ様。報告?」

「はい」

 なんの報告かというと。


「領民から、色々話を聞けました。
 最初はみんな中々口を開いてくれなかったけど…親しくなった古着屋の親父とか、肉屋のおばさんとかから情報が」

「やっぱ、口には出さないだけで領主に不満を持ってるみたい。
 一番多いのが『税が重い』だ…でした」

「ふうん…」

「本当に暮らせないほどの重税だったら国に訴えるんだけど、ギリギリの生活をすればギリギリ暮らせるラインらしくて。
 それでも家を失ったり、娘を売らざるを得ない状況になる家もあるみたいです。
 だから諦めて引っ越そうにも引越し資金が無いって…」

 なんという負のスパイラル。


 僕達はこっそり、情報収集を進めていた。
 一番の急務だった孤児院問題が解決した今、伯爵を放ってはおけない。

 でも…やっぱ素人の調査じゃ限界があるんだよなあ。
 領民の訴えを聞いても、証拠にはならない。商会長の家に伯爵が出入りしていたとか、そういうのは聞けたけど…。


「うーん…やっぱプロに頼むかあ。でも2人も引き続きよろしくね。
 特に怪しい人間が特定の店に出入りしてるとか、急に金回りが良くなった人物がいるとか…そういう話が聞けたらすぐ報告して」

「「はい」」



 2人のからの報告を全て聞き、彼らの退室後僕はベッドに仰向けに倒れた。

「ねえヨミ~…君ってさあ、僕以外の影に入れない?」

「ん…無理だね。例えば真っ暗闇の空間だったら、君の影の延長として動き回れるけど…。
 それでも壁は通り抜けられないし。闇の精霊は、それが能力のメインじゃないからね…」

「つまり…僕の影と誰かの影が繋がっていれば移動出来るの?」

「それだけだよ。影が離れたら、僕も強制的に君の影に戻るから意味無いよ」

 そっかあ~!他の闇の精霊も、隠密に向いている子はいないらしい。
 ヨミが伯爵の影に忍んで…と思ったけどなあ。


 やっぱここは、興信所に頼みますかね。ただしそうなると、資金が心許ない…。
 僕が成人後に受け取る予定の金貨250枚、もう貰っちゃう?でも…何に使うのかって怪しまれたら…。

 いっそ、国に密告する?…大掛かりな捜査をされて、証拠を消されない…よね?

 うーん!またヘルメットの時みたいなバイト無いかな~。魔術師団に顔出してみようかな…。
 そもそも伯爵を告訴するのだって、僕が独断で進めていい話じゃない。最低でもロッティとバジルには相談…ああもう!考える事が多い!!



「まず…伯爵を牢にぶち込むのは大前提。その後も考えないと…」


 全部終わったと仮定して。当主不在という訳にはいかないから…国に返還するか、僕が継ぐかのどちらかは選ばないといけない。


 そうすると、どっちにしても学園にはいられなくなる。
 爵位返還すれば僕達は平民になる訳だし。アカデミーは貴族の学園だ。なるべくロッティには苦労かけたくないな。

 じゃあやっぱり、僕が継ぐか…。なら領主と学業を両立出来るとは思えないから、退学しないと。
 それならロッティはまだ通えるから…そっちの方向で考えようっと。
 でもその場合、僕はまだ男でいないと駄目だなあ。女じゃ爵位継げないもん。ま…仕方ないか…。

 正直言ってしまえば。今でも僕は領主になりたくないと思っている。
 それでも期待してくれている人達もいる。頑張るしか…ないかあ…。
 誰か信頼出来る人に全部任せてしまいたい…って自分勝手だよね…。


 それか…もしもだけど。

「僕とロッティが…どこかの養子にしてもらえれば…」

 そうすれば僕達は、返還しても今まで通り学園に通える。
 僕ももう男装なんてしなくてもよくなるかも!


 ……って、希望的観測すぎる…。
 やめやめ、もしもの話なんて虚しいだけだ!!

 とりあえず!!伯爵投獄、僕が新ラサーニュ伯爵になる!そんで…その後は?



「僕…お嫁さんどうしよ?………………よし、後で考えよう!!!」


 今は金策に走ること!で、探偵を雇うんじゃーい!!

 という訳で!明日教会に来るエリゼに相談しよっと。




 ※※※




「はーん…仕事ねえ…」

「なんか無い?テランス様に、それとなく聞けない?」

「ふむ…お前は、他に何が出来るんだ?」

 それは難しい質問ですね。むしろ「これ出来る?」と聞いてもらいたい。

「こうやって治癒の練習してるけどさ。コレ、稼げないかね…?」


 そうなのだ。僕とグラスは現在、エリゼ先生に治癒を教わっているのだ。自分の手とかに小さい傷を作って治す。

 だがエリゼ曰く。治癒は魔力の消費が激しいから、診療所のように個人で稼ぐのはオススメしない。
 もしくは神殿に入ったとしたら…学園にも通えなくなると。


「だから治癒で稼ぐのは諦めろ。
 ……うん、2人共上達したな。そのうち教会の外でも練習しろよ」

「やった!」

「よし…」

 治癒は意外と簡単にマスター出来た。適性さえあれば、誰でもすぐ使えるようになるんだって。

 ようは魔力を流して、傷を塞ぐイメージをすればいいんだもの。流し方さえ分かればどうって事ない。
 今度怪我でもしたら治してみようっと。



 それで話は戻るけど。僕の魔術でなんか稼げないかね?

 僕は昨日完成した『恋愛成就』のお守りをエリゼに見せた。流石に神社で売っているような物では無いが…素人の手作りにしてはまあまあの出来栄え!!
 でだ。例えばコレ、売れると思う?


『…こい…読めない』

『惜しいね、グラス。答えは『恋愛成就』だよ』

『へえ…』

「なんだ、漢語か?セレスだけでなく、グラスも使えるのか」

「まあね!凄いんだよ、グラス!もう日常会話くらいなら問題無いんだから」


 多分…いや確実に、グラスは箏の人だろう。
 どうしてこの国にいるのか等、色々疑問はあるが…本人も覚えていないらしいし。
 でもいつか…必ず、僕が箏に連れて行ってあげるから。もう少しだけ、我慢してね。


「…いや。確かにおれは、いつか帰りたいと思っていた。
 でも今は違う。思い出の中より、ここにいたい。ずっと、お嬢様の側にいたい」

「………そ、っか…」

 そう言われては…何も返せない。でも一回くらいは箏に行こうね。僕も行きたいから!!

「(ボクは一体何を見せられているんだろう…。故郷よりセレスを選ぶって、どう考えてもプロポーズ…)」

 グラスは掃除当番があるのでここで終わり。
 ……なんか最近、エリゼが遠い目をする事多いな…?


「で…これが、なんだって?オマモリ?
 え、アミュレットみたいなもん?なんの効果があるんだ?」

「相思相愛の2人をくっ付ける効果がある…と思うよ!」

「…………相思相愛なら、もうくっ付いてんじゃないのか…?」

「そんな単純な問題じゃ無いんだよ!」

「?????」

 んもう、エリゼはお子様だな!
 でもまあ、クリスマスを一緒に過ごす以上…彼にも兄様のラヴ・ストーリーを語らねば!!
 もちろん兄様の許可は得ている。よく聞けよ!!



 かくかくしかじか



「へえ…お相手はバルバストル先生か…。
 ランドール先輩は本気だが、先生は素直になれない。で、このオマモリは先生が素直になれるモノ?」

「もちろん心を操るようなモノじゃ無いよ。ほんのちょっとの後押し、お手伝い。それをしてくれる…ように祈って作った!!」

 エリゼは「ふーん」と言いながらお守りをしげしげと眺めている。
 君はまだ恋愛に興味無いんか…つまらん。


「(これをパスカルに持たせてみたい…)確かに何か魔力は感じるな。
 でも効果については…なんとも。魔術師団で調べてもらうか」

「ほんと!?いつならいい!?クリスマスまでに調べて欲しいんだけど」

「待て、お祖父様に手紙送るから。
 まあセレスが望む効果があったとしても、売れるかどうかボクには分からん。
 でもセレスの言う通りだったら…個人が持つより、どこかに置いておいたほうがいいんじゃないか?」


 ……確かに!伝説の木のように、ここで告白したら上手く行く、みたいな!?まあこれは兄様にあげるけどね。
 エリゼはすぐにテランス様に手紙を送ってくれた。すると、1分も経たないうちに返事来た。暇なの?

「そんなはずは…とにかく内容だな。
 えっと、『今すぐでもいいぞ!!』…だって。文字でもうるさいな…そしてやっぱ暇なのかも」


 今すぐか、時間は11時。
 …行くか!!


 という訳で、僕達はヘルクリスに乗り皇宮へ向かったのである。2人なら、大きいドラゴンの姿になる必要は無い。
 ヘルクリスは風の精霊らしく、飛ぶのが本当に好きらしい。中々言う事を聞かせるのは難しいが、乗せて欲しいという時は快く応じてくれるのだ!


 すぐに着くけど…移動中、エリゼに興信所に伯爵の不正調査の依頼をしたいと相談してみた。

「それはボクも賛成だな。だから金策か」

「うん。やっぱ首都で依頼しようと思う。どこか評判のいいとこ無いかなー」

 流石のエリゼも、その辺は専門外。誰か詳しい人いないかなー…と考えつつも、首都に到着したのであった。



 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...