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学園1年生編

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「では早速解析に回そう!!!!」

「おね、がい、します…」

 相変わらずやかまし…元気なお祖父ちゃんだな…。僕とエリゼは耳を押さえた。
 解析してもらっている間、僕らは以前通された魔術師棟の応接間で待機。ついでに僕に何か出来る事は無いか…この部屋に残っているブラン様に、それとなく聞いてみた。


「ふむ…ヘルメットはもう要らないし。
 ……君は、どんな効果でも付与出来るのかな?」

 そう聞き返され考える。
 今のところ、効果が現れたのは漢語だけ…。グランツ語で同義の言葉を書いても、意味は無かった。漢語なら、なんでも可能?
 うーん…。恋愛守りと同様に考えるなら、家内安全とか健康祈願、金運上昇とか…でもなあ。

 日本のお守りは、気休めと言うか…僕の認識では、お守りに誓う感じなんだよね。
 合格祈願だったら、お守りに願いを込めて勉強を頑張る感じ。伝わりにくい?ごめんなさいね。

 要は、願いを叶えるのは結局のところ自分自身の力。でもこの世界じゃ違う。

 本当に効果が付与されちゃったら…勉強を一切しなくても合格しちゃうかもしれない。適当に埋めたマークシートが全部当たった!とか、勘で書いたら全問正解!!とか。


 それは駄目でしょう!うーん、恋愛守りは早まったかな…兄様に幸せになってもらいたかっただけとはいえ…。


 …よし!効果があろうとなかろうと、今後お守りは封印だ!!!
 もしも噂が広まったら、僕は秘密結社に誘拐されてひたすらにお守りを作り続けるハメになってしまう!!


 じゃあ、僕が他に出来る事は?


「……騎士団とか、魔術師団で何か必要だったりしません?
 攻撃力アップとか、魔術の威力アップとか!」

「それはありがたいんだけどね…。あまりそういうのに頼りすぎると、いざという時に困るんだ。
 …昔の、戦争の時代だったら重宝されたかもしれない。でも今は、必要無いんだよ」

「なるほど…」

 そうだよね…今は、平和なんだもんね。戦後暫くは小競り合いもあったらしいけど、僕らが生まれる前には完全に落ち着いたみたいだし。怖いのは魔物くらいかな?



 ちょいちょい触れてると思うが、この世界には魔物が存在する。
 でもゲームのように、その辺でエンカウントする訳ではない。

 この世界の魔物は数こそ少ないが、1匹1匹がやたら強力なのだ。
 最弱の魔物でも、騎士が1人で倒すのは骨が折れる。よくある展開のように…1人で何匹もズバババ!とはならない。数人がかりで囲むのがセオリーだ。
 そんなモンがもしも大量発生なんかしたら…まさに地獄絵図。
 でもいざって時の為の国民を守る結界なんかは、すでに完備されているらしい。僕の出番は無いのです。


 そうなると…僕に出来るバイトは無いのだろうか?効果を制限しないと色々マズいからね…。

 平民向けの何かだったら思いつくんだが。
 お札ならそこそこいけそう。あまり魔力を込めずに、サラサラ~っと書けば軽い効果だけ付与出来るのは実証済みさ。それなら僕1人でも沢山作れるし…。
 他にも、農家さん向けに害獣避けのお札なんかもいいかも。そういう時はうんと魔力を込めて、お値段も高めにね。


 ただし…そうやって本格的に商売を始めたとして。すぐには収入にならないんだよね…!
 僕は早くお金が欲しいの。そして一刻も早く伯爵を投獄したいの!!
 商売はその後!やはり、金貨250枚を受け取ってしまうか…!?



 コンコンコン


「どうぞ」

「失礼する」

「だ、第三皇子殿下?」

「ああ、楽にしていてくれ。私はただ、セレス達がここにいると聞いて来ただけだから」

 おや、ルシアンが現れた。ブラン様は驚いているが、ルシアンは構わず僕の隣に座る。


「今日はどうしたんだ?またナハトに会いに来たとか?」

「ううん。ここで…解析してもらいたい物があって持って来たの」

 という話をしていたら、ちょうどララさんが解析結果を報告に来てくれた。
 彼女もルシアンがいる事に驚いていたが、気にせずお願いします!


「では…まず結果から言うと、超強力な魔術が掛かっていました。
 精神に干渉する系ですが害は無し。干渉といっても軽微なもので、人心を操るようなモノでは無いですね。
 効果は試してみないと分からないけれど…多分、ラサーニュ君の望む通りだと思います」

 ほほう…じゃあこれで、ラディ兄様の本気が先生に伝わるといいなあ。
 綺麗にラッピングして、クリスマス前に兄様に渡そうっと!


「……それも漢語か。これにはどういう効果があるんだ?」

 僕に返されたお守りに、ルシアンも興味津々のようだ。
 でも、ラディ兄様の話をあまり言い触らす訳にはいかん。なので「秘密!」とさせていただこう!

「それは残念。用事が済んだなら、私の部屋に行くか?」

「そうしよっかな。エリゼも行くでしょ?」

「ああ。じゃあ、お祖父様によろしく伝えといてくれ(以前カフェで聞いてしまった…バルバストル先生のお相手がランドール先輩だって、ルシアンに教えていいのかな…)」

「はい、またいつでも来てね」


 ブラン様とララさんにお礼を言い、ルシアンの部屋に移動した。
 来たところで何か予定がある訳でもないけどね。まだお昼過ぎだし、街行ってみる?

 という事でルシアンは髪を金に染め…お忍び散策スタート!!




 ※※※




「あー、寒かった!!!」

 僕らは2時間で帰ってきた。寒いんだよ外!!雪降ってないのが不思議だよ!
 ちなみにヘルクリスは、「寒いのやだ」と言ってこの部屋に残っていた。こんにゃろう…。

 でも…約束していた行列の出来る洋菓子店。1時間並んで無事ゲットだぜ!!
 ついでにラッピングの材料も購入したので、ここで包んで兄様にお守り持って行こうっと。今日も仕事のはず。


 メイドさんにお茶の準備をしてもらい、買ったばかりのお菓子をつまむ。

「わ…美味しい!」

「本当だ。並んだ甲斐があったな」

「人々が並んでまで欲しがるのも頷けるな!コレ、皇室御用達にしたらいつでも食べれるかな?」

「「陛下に相談しなさい!」」

「ちぇー」

 全く…!温かいお茶で冷えた身体を回復させる。その後僕は、早速ラッピングに取り掛かるぞ!

「セレスは何をしているんだ?」

「ああ…アレをランドール先輩に贈るんだと」

 僕が作業している横で2人は雑談中。邪魔しないでね。


「そういえば…なんか2人共、並んでいる間すごいキョロキョロしてたな。何を探していたんだ?」

「「……………」」

 …無意識だった……。ルシアンって実は、よく見てるよね…。
 エリゼがすんごい僕の事見てる。ルシアンに言っていいのか?って視線だね!?
 流石に全部は話せないけど…少しくらい、いっか。僕は手を動かしながらも答えた。


「実は…興信所を探してたの。ちょっとラサーニュ領の問題で…父親に内緒で探偵雇いたくてね。
 でも資金は心許ないし…相場とか分かんないから相談に行けなくて。なんか看板でもあればな~って思って」

 いずれ全て話す時は来ると思う。いずれ…ね。
 僕の答えにルシアンは…何かを思い出したように「あっ」と声をあげた。


「お…ゲルシェ先生に相談してみたらどうだ?あの人、意外と顔広いから。紹介してくれるかもしれないぞ」

「「ゲルシェ先生?」」

 なんとも意外な名前が出てきた。ルシアンって…先生と親しかったんだ?

「……うん、まあ。上手くいけば金も出世払いとかで済むかもしれないし」

 先生、何者よ?
 う~ん…先生を巻き込むのは申し訳ないなあ…。提案してくれてなんだけど、やめとこ…


「じゃあ私から手紙送っておくな!」

「はっや!!?」

 ルシアンは机に向かい、早速書き始めた!!僕とエリゼは顔を見合わせ…もうどうにでもなれ!とヤケになりました。
 そうこうしているうちに、僕の作業も終了。後は兄様に渡すだけ!それまで何してようかなあ。
 と考えていたら、ルシアンが「今渡してきたらどうだ?」と言った。いや…邪魔では?


「多分、彼は仕事終わったらすぐ帰るぞ。
 ナハトはセレスが来ている事も知らないだろうし…せめて待ってるって事だけでも伝えておいたほうがいい。
 それとも、誰かに伝言を頼むか?」

「いや…それなら自分で行ってくるよ。じゃあ僕、少し出てくるね」

 僕の個人的な用事だから、自分で会いに行かなきゃね。僕はお守りを持ってルシアンの部屋を出た。



「そういえば、ルシアンはボク達が来てるって誰に聞いたんだ?」

「ラブレー…テランスだ。「おお殿下!!今魔術師棟に精霊姫と孫が来ておりますぞ!!!」って」

「何やってんだあの人…」







 さて。兄様は普段、ルキウス殿下の執務室で働いてるって前に聞いたな。本当に、邪魔にならないかな…アポ無しだし…やっぱ戻るか…?
 執務室の近くでウロウロしてたら、扉の前にいた騎士様に見つかった!あわわ、ヘルクリスがデカイから目立つんだわ!!

「おや、姫。殿下に用事かい?」

 まだ年若い騎士様だ。彼の発言に…僕はずざーっ!とコケた。

「誰が姫ですか!!…っと、殿下ではなくランドール様に用事があるんですが…アポ無しなので…」

 そこまで言うと彼は、「多分大丈夫だろう」と扉をノックしてしまった!!おぎゃー!殿下の「誰だ?」という声が中から聞こえるあ!!!


「ナハト殿に客人です。精霊姫の「姫はやめてくださいってば!!!」

 なんで名前じゃなくてそっちを使う!?僕らがぎゃーぎゃー騒いでいたら、中から扉が開けられた。そこには兄様がきょとんとした顔で立っている。

「セレス?来ていたのか」

「あ、に、兄様!ごめん…お仕事中だったでしょ?」

「気にするな。キリもいいし、少し休憩にするよ」

 兄様今度は笑顔になり、殿下に断りを入れ執務室を出た。そのまま並んで歩き、以前も利用した休憩所で落ち着く。



「急にごめんね。コレを…渡したくて」

「…?ありがとう。開けてもいいか?」

 どうぞ!お守りを取り出した兄様は、当然なんだコレ?な表情。くるくる回したり観察している。


「あのね、それはお守り。どうか兄様とバルバストル先生が幸せになれますようにって、祈りを込めて作ったもの。
 でも心を操るような物じゃ無いから!2人に、ほんのちょっとの勇気をくれる物だから(多分)!!クリスマスで…告白する時、こっそりポケットにでも入れといて!」

「…………そっか。ありがとうな、セレス。うん、俺はもうこれだけで…勇気をもらえた。
 今回も断られるんだろうなって思ってたが…いける気がしてきたぞ」

 兄様は微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。


 以前、聞いたのだ。兄様は…毎回断られるのは流石にしんどいって。
 諦めるつもりは無いから、本当に嫌われるまで何度でもアタックするつもりだけど…先生が他の男性と結ばれる可能性だってある。
「その時俺は、祝福出来るんだろうか。笑って…お幸せにって、言えるだろうか」って、苦しそうな表情で言っていた。

 僕の見たところ…先生も兄様の事好きだと思うんだけどな。でも先生は、兄様の人生を慮って断ってるんだよなあ。
 だけど、兄様の幸せは…先生が隣にいてくれる事。それに気付いて欲しい…。僕はお守りを見つめる兄様の横顔を見る。いずれここに僕でなく、先生…ルゥ姉様が立っているといいな!と願う。

 
「…でも兄様情熱的だね、純愛だね!想われてる先生が羨ましくなっちゃうよう!」

 僕は湿っぽい空気は苦手なので、強引に明るいほうに持って行く。
 そう思ったのは事実だし。僕にもそんな相手が現れたら…ひえー、想像できん!!!

「そうか?でも情熱で言ったら…俺よりももっと凄い人がいるぞ」

 彼もいつもの楽しそうな笑顔になった。凄い人?誰誰!?

「皇弟殿下だ」

「皇弟…?そういえば僕、陛下のご兄弟とか全然知らないな…?」


 兄様の話によると、僕らの世代じゃあまり知られていないって。
 彼はお父様から聞いたんだって。親世代では有名な話らしい。




「皇弟殿下は…平民の女性と恋に落ちた。
 だが皇室に平民は入れないからな、彼は自分の地位を全て捨ててまで彼女と結ばれた」

「ひえー!!!何それ物語みたい!そんなお方だったなんて…!」

 バルバストル先生が好きそうなシチュエーションじゃない!?女性のほうも皇子だから好きになったんじゃなくて、殿下の人柄を好きになったんでしょ!?
「皇子じゃないあんたに価値無いわ」とか言っちゃう人もいるしね!!

 いいねえ、凄いね!じゃあ今もお2人は、平民として幸せに暮らしているのかしら?


「…いや。実はな、結婚後…奥方は数年で亡くなってしまった」

「え………」

「生来病弱だったらしくてな。医者からも長生きは出来ないって言われていた。
 それでも殿下は…最期の時をパートナーとして一緒に過ごしたいって…。周囲の反対を全て跳ね除け、彼女を選んだ。
 まあ殿下も、人付き合いが苦手だから常々「皇子辞めてえ」って言っていたらしい。
 奥方が亡くなった後も、皇族に戻らず奥方の姓を名乗り、平民として…気ままに暮らしているよ」

「そう…なんだ…」


 皇弟殿下か…お会いした事は無いけど…。奥様は、どんな思いで殿下を受け入れたんだろう。
 自分はもうじき儚くなる、その後残される殿下の事を考えると…きっと、すっごい悩んだんだろうなあ。


 例えば僕が平民だったとして。ルシアンが僕の為に皇子の地位を捨てようとしたら……。

 …嬉々として捨てそうだな。「これで何にも縛られず好きな事が出来る!兄上達がいるから、私がいなくても大丈夫だ!!」とか言いそう…。考えるのやめやめ。



 思いがけず皇弟殿下の存在と恋愛事情を知ってしまった…。
 そんな情熱的な人がいたなんて!彼は今もきっと、奥様の事を忘れられないんだろうな。再婚もせず、独身だって話だし。
 凄いなあ…殿下といい兄様といい。一途に相手を想うって、素敵だねえ。


「皇弟殿下ってどんな方なのかな?ルシアンも何も教えてくれなかったよ!」

「本人が言い触らしたくないって考えだからな。今もしれっと人々の営みの中に混じっているよ。
 ……案外、身近にいたりしてな?」

「まっさかー!!僕の周囲に、そんな大人いないでしょ!」

「…そうだな、うん。……ふす」












「…ぶえっくしょい!!…なんだ、風邪か?面倒くせえ…。

 ……ん?手紙…ルシアンから?珍しいな。えーと。

『セレスが探偵を雇いたいらしい。私も詳しくは知らないが、叔父上はそういう知り合いいないか?何処か連れて行ってやってくれ!早いほうがいいらしいのでよろしく』

 …………ラサーニュ姉……ああもう!!」



 オーバン・ゲルシェ。旧姓グランツ。
 彼は甥っ子からの手紙を読んだ後…頭を抱え、ペンを取る。








「お、返事だ」

「なんだって?」

「『明日午前10時。学園に来るよう伝えろ』だそうだ!」

「ほーん…(先生…意外と皇子に気安いな?)」

「ただいまー!」

「おかえり、セレス。早速ゲルシェ先生から…」



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