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学園4年生編

06

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 その日の夜。


「しょ…初っ端から、疲れた…!!」

「お疲れ様…」

 僕はベッドに突っ伏していた。
 改めて騎士になる!と気合いを入れたはいいが、全力でいきすぎた!
 でも寝てる場合じゃない…夕飯食べて、シャワー浴びるんだから。



 という訳で食堂にやって来ました。
 おお…美味しそう。プロのシェフ呼んでるねこりゃ!バイキング形式なので、バランス良く…さり気なく好物多めに、と。

「セレス、それで足りるのか?」

「うーん、君が多過ぎるんだわ。何その肉の山?漫画みたい」

 ジスランは食いしん坊キャラのごとく、1枚の皿に肉を山盛り持って来た。栄養バランスって知ってる?
 えいえいっと彼の皿に僕の野菜を乗っける。するとお返しに…と倍の肉が僕の手に!!


 皆それぞれ用意して席に座り食べ始める。いただきまーす!
 疲れたねーとか言っていたら、隣に座るパスカルが話し掛けてきた。

「上級組はどんな鍛錬をしていたんだ?
 最初の先生相手の模擬戦は皆見学していたんだが。その後中級は基礎ばかり、最後に模擬戦といったところだ」

「んー…こっちも基礎を少々、模擬戦、山中での戦闘をシミュレーションした動きとか、色々教わった。
 明日の午前中は座学だって言ってたし、魔術と組み合わせた戦い方も教えてもらう。その時は精霊の力も借りていいって。
 合宿の後半には1泊だけサバイバル特訓もするんだ。騎士は状況によって野営なんかもあるからね」

「大変そうだな…」

 
 と、そんな風に盛り上がっていたら…僕達に近付く、1つの影。

「そのサバイバル特訓、俺はついて行けないから…怪我はするんじゃないぞ」

「あ、兄様!」

 兄様が僕の後ろに立ち、僕の頭を撫でる。その手には皿があり、少那に同席の許可を求めて、空いてる僕の斜め向かいに座って食べ始めた。

「職員が一緒に食べていいの?」

「いいの。決まりは無いからな」

「そうだ、ランドール先輩は上級だったのか?」

 兄様の隣にいるエリゼがそう問い掛ける。

「いや、中級。そもそも俺の世代は、上級はブラジリエしかいなかった」

「兄上が?」
 
 へ、そーなの?
 兄様が言うには、兄様とルキウス様は一般人にしては腕が立つ程度、精々下っ端騎士レベル。本職には遠く及ばないんですって。


「だから少なくとも、今のセレスは4年生時の俺より強いよ。自信持ちな」


 彼がそう笑顔で言ってくれるから…

「…うん!僕強くなった!」

 と、胸を張って言えるのだ。




 さて、夕飯終わり。途中もジスランが僕の皿に自分の肉を乗っけるから…お腹いっぱい…!

「ふぅ…じゃあ僕はシャワー行ってくるね。皆は大浴場行くんでしょ?」

「あ、僕もシャワーにします。セレスタン様の次に入りますから(入り口で見張っておかないと…)」

 じゃあ一緒に行こうか、とバジルと席を立つと…

「……俺も、シャワーにしようかな~…」

「こういう人が来ちゃうんですよね~。エリゼ様お願いします」

「おうよ」

「あーーー!!?」

 なんかパスカルがエリゼに引き摺られていった…。別に大浴場強制しなくてもいいんじゃ?しかしバジルも兄様も笑って誤魔化すのみ。


 
 さて、と。なんか建物の横に増築されたシャワールーム。すごい、脱衣所まで個室!
 まるで僕の為に造られたんじゃないかってくらいに完璧じゃないの。
 
 ヨミがバジルと一緒に見張っていてくれるらしいのでさっさと済ませよう。



「ふー…」

 キュッとお湯を止めて一息。本当は、大きいお風呂入りたかったなあ…今度、家族で温泉旅行提案してみようかな?
 そんな事を考えつつ、体を拭き髪は暖炉にお任せ。
 んで…サラシをぎゅぎゅっとね。あー、これで寝るのか…キッツ。

 と文句を言っても仕方ない。今は自分で男装するという道を選んだんだ。ならばやり遂げるのみ!
 ダボっとした寝巻きに着替え、外に出る。バジルと交代し、先に部屋に戻っていていいと言われたが待ちますとも。


 見上げれば満点の星空。流れ星とか、見えないかな?

 いつかこの世界の…綺麗な景色を、沢山見に行きたいなあ…。







 ~一方その頃、大浴場~

 セレスタンとバジル以外の5人+ランドールは揃って湯船に浸かっていた。


パ「あー…俺は恋人なんだから、少しくらい見てもいいじゃないか…」

エ「(仮)だろ馬鹿が。お前、そんな事ばっかり言っててセレスに「もしかして僕の身体目当てなんじゃ?」って思われても知らないぞ」

パ「ガハッ!!」

ラ「……言われた事あるのか?」

パ「…はい。彼の誕生日に屋敷に乗り込んだ時…何故かドレス着てましたけど…」

エ・ラ「何してんだお前!!!?」
 
ジ「ああ、俺もパーティーには参加していたが…あれはロッティの趣味らしいが?「折角可愛いお兄様なんだから、大人になって男らしくなる前に楽しみたい」って言ってた」

エ・ラ「(そういう設定か…)」

パ「なんで俺はパーティーに呼ばれていないんだ…!?」

ジ「酒飲んで暴走するから、と聞いてる」

エ「的確すぎる…で、セレスになんて言われたんだ?」

パ「……俺が突入した時、すでに彼は酔っ払っていて…」




 ~パスカルの回想~

 突入前。ちょっと様子を見ようと…俺は窓から覗いていた。
 流石に会話は聞こえなかったが、シャーリィの様子は…っ!!


『うへへへ~。フェイテェ、僕のお酒が飲めないっての~?』

『勘弁してくださいセレスタン様!離れてー!』

『何よう、いじわるー!じゃあグラス~、かんぱーい!!』

『かんぱーい』

『これ以上飲ますなアホ!!』

 ななな…!!シャーリィに甘え癖があるのは知っていたが…羨ましい!!
 フェイテは逃げているが、グラスは違う。ハグにはハグで返そうと…きいいい!!!

 しかもなんでドレス姿なんだ!可愛すぎる危険だありがとうございます!!
 グラスはバジルが引き剥がしてくれたが、今度は義父上の背中にくっ付いた。
 まあ…義父上ならいっか。まるでコアラみたいで可愛い…はっ!?

 シャ、シャーリィの…白く細い太ももが露わになってる!!!こんな大勢男がいる空間で…!いけません、俺にだけ見せなさい!!

『(……さっきから何してんだこいつ。不審者で突き出すか?でも精霊様も一緒っぽいしー…)』


 耐え切れずに『俺参上!!』と叫びながら突入した。
 で、引っぺがして介抱するつもりで抱っこして…

 蒸気した頬に、俺を見つめる潤んだ瞳。そしてドレス姿に…まあ、ムラッときたのでキスしたんだ。
 そしたら…

『口は駄目って言ったじゃあ~ん。
 パスカルぅ、前から思ってたけど…君、僕の身体だけが欲しいの…?
 こういうのに…興味あるの?君が望むなら…僕は…』

 って裾を捲りながら、悲しそうな顔されて…





パ「俺は柱に頭を打ち付けて泣き帰った」

ラ「人んちの柱汚すなよ。でも、お前…その後も変わらず隙あらばセレスを襲おうとしてるって聞いてるけど」

パ「ああ、それは…俺が帰る前…『そーいうのは、結婚してからならオッケーなのにい』って言われたんです!
 まさか彼も、俺との結婚を考えてくれていたなんて…!ただその後暫くは、嬉しいやら情けないやら色んな感情が混ざり合って…彼の顔もまともに見れませんでしたが。
 でも次の日の夜、寝たふりしてたら彼からキスしてくれて。もう…開き直る事にしました。今度また言われたら、『君の身体も心も全部欲しい!』と言うつもりです!」

ラ「あそ…(男として、気持ちが分からんでもない…セレスが嫌がってなければ、少しは許容してやるか…)」

エ「(オレはまだ、そこまでの気持ちをフルーラに抱けないな…向こう7歳だし…)そういや、ジスランはシャルロットとキスくらいしたか?(どーせコイツもまだまだ…)」

ジ「…………まあ、一応……」

3人「うっそお!!?」

ジ「なんだよ…」

エ「あの女帝とどういう流れで!!?」

ジ「やかましい!!」



少「ねえ、ルシアン…パスカル殿とセレスは、恋人同士なのか…!?」

ル「あー…うん。見てれば分かると思うけど、マクロンからの愛が重い」

少「男性同士だけど…この国はその辺も寛容なの?」

ル「一般的では無いが、一定数はいると思う。どうしても籍を入れたければ、他国に移住するしか…それも簡単な道ではないけど」

少「そうか…」

ル「其方は…恋愛対象は女性なのか?」

少「まあね。男性にそういった感情を抱いた事は無いけど…そもそも女性に触れられないっていうね…」

ル「(あ、失言だったか!?)そ、そろそろ出ようか。逆上せてしまう」

少「うん。あの4人は?」

ル「放っておこう…」




 しっかり4人は逆上せるまでお風呂に入っていましたとさ。



  
 ※※※





「そんじゃ、おやすみー」

「うん、おやすみ」


 部屋の明かりを消し、目を閉じる。年頃の乙女として、男性と同室で寝るというのは…緊張するし恥ずかしいけども。
 疲れと眠気には勝てん…精霊も一緒だし…って


「せ、ま、い…!」

「このベッドが小さいのだ」

 君が大きいんだよ!!ヘルクリスと寝るには、ダブルサイズのベッドじゃなきゃ駄目だ…!!諦めて影の中で寝てくんない!?

「断る」

 断られた。
 うう…せめて端っこに寄せよう…それでもベッドの2/3は占拠されている。約2週間、僕はこの状態で眠るのかね…。



『……セレス、まだ起きてる?』

「……ふんぬ~…?」

 ヘルクリスに抱き着き眠り…半分夢の世界に行っていたら…声が、聞こえてきたような…


『…………寝てるっぽいね。まあいいや、そのままで…。

 私と友人になってくれて、本当にありがとう。私はこの国に来て、皇宮で生活をさせてもらって…毎日が、楽しいんだ。
 箏では王族とは、神にも等しき存在。私が城の廊下を歩けば、誰もが道を空け跪く。日常において私の許可が無ければ、発言も一切出来ない。

 それがこの国ではどうだろう。この間ね、ルキウス殿下が遊びに来ていたランドール先生を追いかけ回していたんだ。
 何事かと思いきや、お茶にタバスコを入れられたとかで…騎士は野次を飛ばしたりランドール先生を匿ったり、逆に居場所を密告したり。
 最終的に宮の皆で「先生が逃げ切るか捕まるか」で賭けを始めちゃったよ。まあ逃げ切ったんだけど。
 陛下も「ちょっと休憩」と言って庭を散歩していたんだけど。どうやら面倒な仕事をクィンシー殿に押し付けて逃げていたらしく、モーリス卿に簀巻きにされて連行されて行ったよ。

 申し訳ないんだけど…面白くて笑っちゃった。皇族が民にとってあんなに身近な存在だとは…やはり、国を出てみてよかった。


 私ね。幼い頃に…兄と話した事があったんだ。
 どうして誰も、自分と遊んでくれないのか。一緒に庭を走り回ったり、カードゲームやボードゲームの相手をしてくれないのか。特別なんて…望んでいない、と。
 すると兄に『この国じゃ、おれたちのねがいはかなわない。たいとうな友だちがほしかったら、国をでるしかないな』と言われたんだ。兄も、王族の暮らしを窮屈に思っている人だったから…。
 
 そして今、私には…ルシアンや貴方といった友人が出来た。咫岐や箏から連れて来た他の使用人は、快く思っていないようだけど…。
 どうかこれからも、私と友人でいて欲しいな。私が、国に帰った後も…』


 …………兄様、何やって、んの…。

 …うん。僕でよければ…



『………ずっと…友達、だよ………ぐう』

『…ふふ、ありがとう。おやすみ…』





 ※





 2人が眠りに落ちて約1時間後。



 ドサッ!!


『!?な、なんの音!』

 部屋の中に大きな音が響き、眠りの浅い少那は飛び起きた。月明かりを頼りに部屋内をキョロキョロ見渡すと…


「…………zzz」

 床に突っ伏して眠るセレスタンの姿が。彼女のベッドのど真ん中には、仰向けのヘルクリスが熟睡している。どうやら彼女は、ヘルクリスに落とされたらしい。


『……精霊って、食事は要らないけど睡眠は必要なんだね…。
 しかしよく目が覚めないな。うーん、このままベッドに戻してもまた落ちちゃうかな…』


 そう危惧した少那は、ゆっくりと彼女を抱え…


『って軽いな。私はそんなに力持ちじゃ無いけど…これなら、と』

 自分のベッドにセレスタンを乗せた。

『狭くて申し訳ないけど、我慢してね。って、なんかパスカル殿に悪いな…明日謝ろう。じゃあおやすみ…』

 少那は正直男同士でシングルベッドはキツい、と思っているのだが。
 友達なら、雑魚寝してもおかしくないよね!とも思っているのだ。


『できれば…夏にでも……遊び疲れて、皆で昼寝とか…してみたい…』


 そのまま彼も、夢の世界に旅立つのであった。


「………うーん。少那は男だけど…下心は無さそうだし、シャーリィを床で寝かせる訳にはいかないし。
 まあ、見張ってれば大丈夫でしょ」

 と、ヨミは2人の寝姿を眺めているのであった。




 翌朝セレスタンの絶叫が合宿所内に響き渡ったのは言うまでもない。

 そしてその日のうちに、ランドールが手配したヘルクリス専用最高級巨大クッションが運び込まれたのであった。




「……という事があったんだ。貴方はセレスと恋人同士だと聞いているから…他に手が無かったとはいえ、ごめんなさい」

「い、いえ…スクナ殿下が謝る事では…(いいいいいなああああ!!!俺も、シャーリィとシングルの布団で寝たいなああああ!!!)」


 クリスマスの夜を忘れたんか君は!!!
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