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学園4年生編

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 僕はその後、数時間で目を覚ました。少那もそれぐらいだったようだが、大事をとって次の日は学園を休むように言われました。
 なので僕は本邸で朝からゴーロゴロ。ロッティとバジルは学園に行かせたので暇暇暇!

 体を休めろ!!と刀も勉強も禁止。ヒーマー!




 なのでグラス、フェイテ、ネイ、テオファを捕まえてお茶会を開く。モニクはタウンハウスにいるので残念。
 皆で座り、お菓子をつまみながら雑談をする。ちゃんとバティストには許可を取ったとも。
 

「昨日は本当に大変だったみたいっすね~」

「そーなんだよねえ」

「笑い事じゃありませんよお嬢様ー…」

 まだ小さいネイはアイシャ達と一緒にお留守番をしていた。いやあ、色々あったが…最後の魔物騒動で全部吹っ飛んでったねえ。
 その場にいたフェイテ達には、かなり心配を掛けたみたい。特にグラスは、昨日から口数が少ないし…ん?なんで?


「グラスは昨日、魔術祭中もずっと大人しかったんですよ?ボク達が声を掛けても生返事ばっかり、ず~っとモニターに集中していました」

「そうなの?なんかあった?」

「あ……いえ、自分でもよく分かんないっていうか…」


 んー?ぼ~っとして、確かに様子がおかしいなあ。するとその様子を見ていたフェイテが顎に手を当てて考え事を始めた。
 おかしい2人に僕ら3人は首を傾げるしかない。するとフェイテは顔を上げ、向かいに座るグラスに問い掛けた。


「お前さ、少那殿下を気にしてたみたいだけど……もしかして、知り合いに似てるとか?
 その…グラスも、箏出身なんだろう?」


 う。少那…という名前を聞き、僕は内心跳ね上がった。
 明日は休日だけど…来週顔を合わせたら、やっぱり逃げられないかなあ…?どうして僕にあんな事したのか…気にはなるけれど。もしかして…ついに男に走ったか…?



「少那…でん、か…。……いや、初めて見る顔だったし、声も名前も…知らない、はずなんだ。
 でも……引っ掛かるというか、なんか忘れてるような…?」

 するとグラスは顔を歪めて頭を抱えた。なんか汗もやたらかいてるし…大丈夫なの!?


「わ、悪い!!もう考えんな、俺からジャンさんに話しとくから、お前もう休めば?」

「そうしとけ!お嬢様のお世話はボクがやるから」

「そういう訳にいかないだろうが。…と言いたいんだけど…確かにちょっと、頭痛え…。
 お嬢様、申し訳ありませんが…少し休ませていただきます…」

「そうして、無理しないで!」

 
 そのままグラスはヨロヨロと立ち上がり、テオファに支えられながら部屋に戻って行った。
 平気かな…一体彼に何があったんだ…?

 僕とネイは心配だねえと言い合う。働きすぎかな…師匠にも、グラスの稽古減らしてもらうよう言っておこうかな?
 
 そんな事を考えていた僕は、フェイテが難しい顔をしている事にまるで気が付かなかった。




「(………建国祭の後、気になって調べてみたけど。
 箏には、特別な名前があるという。男女問わず正室の子にしか与えられず、それ以外が名乗れば即座に一族郎党処刑されるほど、重い意味のある名前。
 その名は現王『凪』をはじめ『少那』『木華』…『亜茉海アマミ』『ナミ』『雲珠ウズ』…多数あるが、その中に…『命』という名もあった。

 つまり……考えられる可能性は3つ。
 命とはグラスの記憶違い。
 グラスは箏ではなく、他国出身。
 ………あいつは本当に、王太子命様だった…。

 ……これは……俺だけで抱えていい問題じゃねえな…。シャルティエラお嬢様、いや……旦那様とジャンさんに相談すっか…。
 しっかし、本当にそうだとしたら……なんで死んだ事になっている人間が海路も陸路も遥々越えて、この国まで辿り着いたんだか。俺にはわっかんねえや…)」



 ん?フェイテが大きくため息をついているぞ。う~ん…なんか皆疲れ溜まってんのかなあ?夏期休暇辺りで、パーッ!と慰安旅行を計画しようかな!?

 海、水着、スイカ割りぃ!!家の皆だけだったら、僕も水着になれる!!フゥー!
 そういえば少那も海水浴行きたいって言ってたなー!!………少那!!?



「………あれえ、お兄ちゃんだけでなく、お嬢様も頭抱えちゃったっすね。大人は大変だ~」

 
 ネイはのほほんとお茶を飲み、お菓子をもりもり食べている。うん、大人って大変ね…。何も知らなかった、無垢な自分に戻りたいぜ…なんてな。




 ※※※




 その日の夜、ロッティ達も帰って来た。そして夕食後僕の部屋に集まり…


「さあて……お姉様、明日のコーディネートは決まっているのかしら!?」

「…………まだあ…」

「「「ンハアァーーーッッッ!!!」」」


 んはーって。変な声を出したのはロッティ、モニク、テオファである。他のメンバーはネイとタオフィ先生。
 
「いや、なんで先生いんの?」

「遊びに来ちゃいましたー!聞けば明日は王と姫のデートだとか、朝っぱらから王をちょっと揶揄っちゃおうかと思いまして!」

「悪趣味ぃ…」

 先生はこうしてほぼ毎週遊びに来ている。この屋敷には最早先生の部屋まである始末、なんでだよ…。
 
 で、今先生も言った通り…明日はパスカルと約束していたデートの日!
 今回は買い物とか街中でなく、自然の中を散策したいという事になった。お弁当持ってー、草原に座って、川辺で休憩…楽しみぃ~!
 まあ完全に2人きりって約束だから、荷物を影に入れらんないのはちょっと面倒かな。お弁当は軽めにして、シートは…要らないかなあ?


 と、僕はそのくらいにしか考えていなかった。だが…テオファ達が…

「信じられません!本気デートだったら、数日前からコンディションを整えておくべきです!」
「服だって今回は攻めてみましょうよ!ボーイッシュな女の子風というか、このショートパンツとか…」
「あ、それいいわね!反対に上着はこのダボっとした感じで、お姉様の胸を少しでも隠しましょう。でも肩は軽く出して…」
「歩くのがメインなら、足元はこっちのブーツで…」


 とか、僕以上に本気で支度をしてくるう…。任せた!!
 



「それより先生、揶揄うのも程々にしてくださいね?嫉妬に駆られたパスカルが、お姉様に何をするか分かったもんじゃないわ!」

「む、確かに。姫を傷付けるのは此方の本意でもありませんし。
 でも隠すのも面倒なので、正直に「弟がここで働いているから会いに来ている」と言ってしまいましょうか」

「む?パスカルは僕を傷付けたりなんかしないよ!」

 聞き捨てならんのでそう反論すれば、タオフィ先生は一瞬ポカンとした表情になった。でもすぐに笑い飛ばし、


「いやだなあ、此方が言っているのは姫の貞操的な意味で…おごあっ!!」

「やめてよ兄ちゃん、ネイもいんのに!!!」

 先生がとんでもない事を言うもんで、テオファがメイド服をたくし上げて先生の脇腹に蹴りを入れる。て、貞操!!?


「ちょっとはしたないけど…その通りよお姉様…。その…パスカルが、誰もいない山中とかで…お姉様を、その…押し倒して…ごにょり」

 ロッティは赤い顔で口ごもる。よく見ると、モニクとテオファも…ネイだけ首を傾げているが。
 え、まさか…いや!明日は健全なデートって約束だもん!


「姫、男の意見を言わせてもらうと…此方をライバル認定してしまったら、取られる前に事に及ぶ可能性大です。
 何より王は普段から我慢しているみたいですし。彼もそういうのに興味津々な年頃ですからね、かくいう此方も16歳の頃は既に……だばっはぁ!!!」

「兄ちゃんやめってってーの!!!」

 テオファが真っ赤な顔で先生にスツールをぶん投げる。直撃した先生は転がった。


「……とりあえず、明日は朝から全身磨きましょうか」

「セクシーな下着とか、つけてく?」

「サラシと綿パンで行ったるわ!!!!!」


 ぜってえ貞操は守り抜く…!!僕はそう決意した。

 その後は普通に明日の服装とか髪型とか鞄とか、予定を確認する。そうしたらもういい時間なので、そろそろ解散かな。明日は早起きだし。


 で、だ。ネイを先に部屋に帰し…僕はロッティとモニクの肩をガシッと掴んだ。


「「な、何か…?」」

「いや?ただ…君ら散々、僕の事いじってくれてるけどさあ…。自分達はどうなの?ジスランとバジルとは…どこまでいったのかなあ……?キスくらいは、済ませてるよねえ?」

「「う……!!」」

 逃さねえよ?根掘り葉掘り聞かせてもらいましょうかねええ!!?
 という訳で男2人はとっととお帰りなさい。僕ら暫くガールズトークするんで!!



「はーい。あ、お嬢様。その前に…明日、ボクにも少しマクロン様に会わせていただけません?」

 へ?テオファがにこにこしながらそう言ってきた。会うって…そりゃまあ、いいけど。なんで?

「彼のお話は以前から聞いていましたけど、お顔を見たのは昨日が初めてだったんですよね~。
 そんで…すっごく格好いいじゃないですかー!ボク基本的に恋愛対象は女性ですけど、男性もイケるんですよねえ。それでマクロン様は、ボクの好みドンピシャです!
 もちろんマクロン様はシャルティエラお嬢様の好い人ですし、立場が違うので本気にはなりませんけど…一度だけ、間近でお話してみたいんですよ!!」

「…………………」

 
 テオファが頬を染め、可愛い笑顔でそう言った。それ、は……


「…………やだ」

「…へ?お、お嬢様?」

「やだ。……やだったらやだ。絶対嫌」

「……お姉様?」


 目を丸くするテオファに背を向けて…僕はベッドの上に座って丸くなる。
 う……!我ながら子供っぽい、情け無い、が!!



「……もしも、パスカルが………テオファを、気に入っちゃったら…やだ……」


「「「「…………………」」」」


 そうだ、パスカルはまだ僕を男だと認識している。もしかしたら彼は…中性的な、可愛い系の男の子が好きなのかもしれない。
 それじゃあ…僕も初対面で美少女だと勘違いした男の娘のテオファじゃ、パスカルも好きになっちゃうかもしれないじゃん……。


 うう~…!僕って自分で思っている以上に心狭かったんだな…。
 でも、パスカルがあの優しい笑顔を僕以外に向けているのを見ちゃったら……泣く自信ある。



「……兄ちゃん」

「なんだ、テオ」

「ボク……兄ちゃんがマクロン様を揶揄う理由、今分かったよ」

「分かってくれたか弟よ…!」


 なんかフィファ兄弟がボソボソ言ってる。でもなんと言われようと、僕は紹介しないから!!……テオファが勝手に近付く分には、止められないけど…。



「…………ハアァ~~~…お姉様超カワイイ…」

「同感ですぅ……んはああ……!」


 ん!?ロッティとモニクが心臓を押さえて悶えている…!!具合悪いんなら、話は今度でいいからもう休んで!!?


「そうじゃないけど…鼻血も出そうだからもう寝るわ。テオファ、明日は程々にね」

「はーい!!では皆様、おやすみなさい!」

「?????おやすみ~…?」


 なんでテオファはさっきより上機嫌で帰って行ったの?鼻歌まで…僕やだって言ったのに…うーん?
 とにかく…明日は気合入れて支度すっか…。





 その後、僕が寝た後の部屋で。


「ねえねえ、あるじはパスカルが大好き?」

「その通りよ。我ら精霊は手出し無用、特にセレネは2人が結ばれるのを強く望んでいるのでな」

「ふむ、ふむ。人間は、番は1人?あるじもパスカルもテオファも、みんなで暮らせばいい」

「「……………」」

「シャルロットも、タオフィも、みんな仲良くすればいい」

「……いや、トッピー。元人間から言わせてもらうと…えーと。まあ国や時代、地位によって変化するけど…この国で重婚は無いから。
 とにかくシャーリィは、1人しか選ばないよ。でも沢山言い寄ってくるんだから困るよねえ」

「ふむ。人間の文化は面倒、面倒。わいはもう寝る、おやすみ」

「………そうか、河馬は…群れで行動するのだったな……」

「……蜥蜴的に、複数の妻とかどうなの?」

「…ノーコメントだ。私ももう寝る」

「あ…。トッピーは床、ヘルクリスはクッション。ぼくは…今日はベッドで寝よっと。おやすみ~…」



 とかいう会話があったとか。
 次の日なんか温かいなあ、とか思いながら目を覚ますと…僕はヨミと抱き合って眠っていたもんで、朝っぱらから絶叫する羽目になったよ……。

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