【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園4年生編

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 グラス…命。わたしの従者で、わたしを好きになってくれた貴方。


 君が箏の王太子殿下だと知ったあの時から、別れる事はなんとなく覚悟していた。いざその時が来ると辛いけれど…君の幸せは向こうにあると信じているよ。
 それに、少那だっている。彼は本当に、君を慕っているみたいだから…これからは、兄弟の時間を大事にしてね。木華はこの国にお嫁に来るけど…グランツにおける成人、17歳になってからだから。
 それまでは。今まで失った時間を…取り戻してね。もちろん、凪陛下も。



 って…凪陛下がいらっしゃった!?命と別れの挨拶をしていたら、後ろに大勢連れた男性が近寄って来た。
 ご、ごあいさつ…!少那の友人として、命の主人として!!最初が肝心だぞ!!とか思っていたら……

 遠目では気付かなかったけど。なんか…身長が、随分と高くいらっしゃる?箏の人って、小柄な人が多くて…師匠や命が180cm前後で大きいほうらしい。
 少那や咫岐は170無いくらいだし…それに…あの。


「大きく…なったな」

 と、眼前に立つ彼は目に涙を浮かべた。命が弟だって…分かるの?弟を名乗る不審者で、箏の王族に入り込もうとしている間者かもしれないって…思わないの?
 わたしも命も、すぐに信じてもらえるとは思っていなかった。少那達がすんなり信じてくれたのは、すっごく嬉しかったけど。

 それ、より。


「「………デケエエえええっっっ!!!?」」


 耐え切れず、命と一緒に叫ぶ。デケエ、この人超デカイ!!!
 しかも近くで見ると、1人だけ作画違う!!彼だけ劇画タッチ世紀末、作品が違う!!少女漫画の世界に少年漫画の登場人物が紛れているみたい!!?
 身長は多分2mは超えているし、筋肉が…!服がはち切れんばかりの豊満ボディ!!命も驚いている辺り、昔はこんなじゃなかった?

 凪陛下と思われる男性は、その大きな手をぬっと出す。そして命の頭を鷲掴みにし…千切る気か!!?
 なんて身構えていたら、そのままぐわしぐわしと撫でた。ああ、命が左右に超揺れている。

「うを、おおう。ううぅお!?あに、あ、兄上…っ。おれが…分かるの、ですか?おおぅん」

「分かるとも。先程少那から聞き…ルシアン殿下と皇弟殿下も、お前の身分を保証すると言ってくさださった。
 そして今、こうして顔を合わせて。昔の面影が残っている…命の写真も肖像画も残されていないが。1日たりとも、お前の顔を忘れた事など無い」

「兄上……どうしておれらの体格差が変わって無いんですかっ!?7歳の時と19歳の今、身長もかなり伸びたと思うのですが!!!」

「はははっ。あの時は私もまだ10代であった。成長期は終わっていなかった、という事であろう」

 次に陛下は、命の脇に手を入れ…高い高いした!まるで子供扱い…命は恥ずかしさからか顔を赤くして両手で覆った。

「そちらがセレスタン君だね?シャルティエラさん…でいいだろうか」

「は、はいっ。命も知っていますから…」

 今度はわたしに狙いを定めたようだ。命は左腕に座らせて、右手をわたしに差し出してきた。これはご丁寧に…手ぇデカっ!!大人と赤ん坊くらい差あるよ!?


「降ろしてくれ…」

「君の話も皇帝陛下及び皇弟殿下から聞いている。少那も…君と友人になれて嬉しいと、ここ十数年見せてくれなかった笑顔で言っていた。
 最初は君と少那が結婚でもと思っていたが…友人として、良い関係を築いてくれたのだな。どうか私の事は陛下などと呼ばないでくれ。私は…ただの友人のお兄さんだと思ってくれ」

「いやあ…えへへ。では凪様と呼ばせていただ……ん?今なんと仰いました?」

「さあ、積もる話もある。ローラン殿が部屋を用意してくださるようだ、行こうではないか」

「降ろせって!!なんだこの公開処刑…!」

「結婚ってなんですか!?あの、凪様ー!!?」

「はっはっはっ!!」


 高らかに笑う凪様、彼の髪やら耳を引っ張る命。その姿に…自然とわたしも笑顔になってしまう。



 この後彼らは空白の時間を埋めるように語り合った。命がこれまでどんな暮らしをしていたのか。わたしと出会って、救われたと言ってくれた。

 晩餐会には命も急遽出席。皇帝陛下も命の正体に目を丸くしていたが…再会を祝福してくれた。お父様とフェイテ、それとバティストは知っていたようだけど。ロッティにバジル、ジェイルとデニス…飛白師匠。彼らは本当に驚いたようだ。


「命…殿下。貴方が、そうだったのですね…」

「………うん」

「…そうでしたか。では俺は畏れ多くも、殿下に師匠と呼んでいただいていたとは…」

「…………飛白」

「はい、殿下」


 夕食後2人は何事か会話をしていた。その時わたしは木華達と話していたので、彼らの会話は聞こえなかったが…どちらも穏やかな表情をしていたよ。

「おれは国に帰るよ。お前は…どうする?シャルティエラお嬢様は、飛白を慕っている。このまま公爵家にいてもいいと言っているが…」

「…シャーリィ様の心は嬉しいです。ですが俺は…少那殿下の刀なんです。そしてこれからは、貴方の刀であり、手足です。どうか…俺がお仕えする事を許していただけますか?」

「…ああ、もちろんだ」


 そして皆、夜中まで語り合ったらしい。兄弟水入らずで過ごして欲しかったので、わたし達は帰ったけど。
 タウンハウスでハンス、レベッカ、モニクにも今日の出来事を話した。

「え!じゃあ、今度からミコト殿下とお呼びしないといけませんね」

「あはは、やめてあげてね。彼はこの国にいる間は、ただのグラス・オリエントでいたいらしいから…」

 モニクがそんな事言うもんだから、わたしは彼の意思を伝える。すると皆、笑顔で了承してくれた。本邸にも手紙を送っておいたから…今頃テオファやアイシャ達も大騒ぎかな?まあバティストが説明してくれるでしょう。



 それと、ルキウス様は正式に凪様にご挨拶していた。

「改めまして…木華殿下と私の結婚を許可して頂きたい。必ず幸せにすると誓います(顔怖っ…)」

「うむ…木華が望むなら、私は反対する事など無い。手紙でも随分と惚気られてしまってな、ルキウス様は素晴らしい男性だと。
 こちらこそ、どうか妹をよろしくお願いします(顔怖っ)」

 ルキウス様は相変わらずの悪人顔。その笑顔に悶える木華。劇画タッチの凪様…うーんカオス。それでも認めてもらえたルキウス様は、本当に嬉しそう。時折優しい笑顔を木華に向けているよ。

「彼女は一度国に帰ると思います。次は…私が箏まで迎えに上がります。どうかそれまで、待っていてくれるか?」

「はい…待ちます!その時はどうか、箏を案内させてくださいませ」

 その時はどうか、わたしも同行させてくださいませー。





 次の日…わたしは友人達を凪様に紹介した。命の事もね。

「マジか。前にフェイテが言ってたのコレかー…。ミコト殿下って呼ぼうか?」

「やめてくださいよエリゼ様…今まで通り、グラスでいいです。もちろん皆様も」

「じゃあそうさせてもらおうかな」

「チッ。おうよ、パスカル」

「俺にだけ酷くないか!?」

 そんな2人のやり取りに、ルシアンの部屋に笑い声が響き渡った。グラスはパスカルに対してのみ敬語も敬称も使わなくなった…でもパスカルも楽しそうだからいっか。グラスは嫌そうな顔してるけど。

 そして皆凪様にビビった。ジスランは憧れの眼差しを向けているが。何処となくテランス様に(体格が)似ているからか、エリゼは微妙に腰が引けていたのは笑った。


 凪様と少しだけ2人きりで話せたんだけど。わたし達の誕生日パーティーに出席してくださると言うので…そこで少那に打ち明けると言っておいた。
 彼も現在の少那の様子を見て、大いに喜んでくれたぞ。何せ普通に女性に触れられるようになったんだから!一部除く。

 そんな少那はわたしと目が合うと、顔を綻ばせてこっちに来た。そしてわたしと腕を組み座り、楽しそうに声を出す。

「セレス。改めて…兄上と私達を引き合わせてくれてありがとう。貴方のお陰だよ、私はいつも助けられてばかりだね…」

「ふふ、全然!それにね、わたしもいっつも誰かに助けられてばっかりだったの。だから…君の力になれたのなら、すごく嬉しいの」

「セレス…」

 彼は…ん?いつもより…距離感が近いような…?

「ねえ…もう女装姿は見せてくれないの?」

「(今後いくらでも見せるけど…)う、うん。今はもう必要無いでしょ?」

「でも…」

「うっひゃあ!?」

 彼はわたしの肩に頬を擦り寄せ、腰に腕を回して太腿を撫でた。またパスカルの影響か!?

「貴方の白く美しい肌を、もうちょっと堪能したかっ…ぼほっ!」

「………………あほ」

 少那の頬や腕をつねって抵抗していたら、後ろから近付いて来たグラスが拳骨を落とした。本当に少那、どうしちゃった?すぐに復活して、「温泉いつ行く?」と目を輝かせている。


「(………女性恐怖症…治さないほうが良かった…か?)」

 おや、凪様の様子が…?喜びと悲しみが入り混じっている目をしている。




 ※※※




 そうして3日程は、グラスは皇宮で過ごしていた。だがこれ以上は…公爵家での仕事がある、と言って一緒に帰る事に。
 少那達も来たがったが…まだだーめ。わたしの誕生日が終わったら遊びにおいで!と言えば、むくれながらも頷いた。家ん中でまでサラシはキッツイもん。



 だが…

「ああ、シャルティエラ。実は今日、セフテンスからの使者が来るんだが…君も当事者として残ってくれないか?」

「へ?なんでわたしまで…?ルシアンと少那だけでいいのでは?」

「それは…まあ。いいからいいから」

 ???陛下が頑なに、わたしにも使者と会うよう言ってくる。なんでや…と思いながらも到着を待った。

 応接間にいるのは陛下と凪様。凪様は身体が大きすぎて…小学1年生の椅子に座っているお父さんみたいになっていたわ。「次は大きいの用意しとくから…」と語る陛下の肩は、微かに揺れていた…。
 あと当事者のわたし、グラス、ルシアン、少那。そして公式的な会談なので、書記官数人。



 そして時間になり、姿を現したのは…

「グランツ皇国皇帝陛下、並びに箏国国王陛下にご挨拶申し上げます。
 私はセフテンス国より参りました、第五王女ペトロニーユ・ベティ・セフテンスと申します」

 わたし達はポカンとしてしまった。だって…国の代表が年下の女の子ですもの!?
 彼女はドレス姿ではなくスーツを着用していて、男性を2人連れていた。彼らは外務大臣と騎士団長とのこと…。
 わたしの隣の席に通され、真っ直ぐに陛下達を見据えた。その顔は…やや強張っている。若干手も震えてるし…そりゃ怖いでしょう!国王達を相手するんだもん!
 それでか、わたしもいるのは!!同世代の女子(男装中)を隣に配置して、彼女の緊張を和らげようという陛下の配慮か…。
 ふと目が合ったので、にこっと笑ってみた。すると彼女も、多少表情が柔らかくなり…やってやったぜ。陛下がこっそり親指を立てている。わたしもウインク付きでこっそり返してやったぜ。


 第五王女殿下…なんと言うか、王女って感じしないな。赤茶色の髪も、お肌も最低限しか手入れされていないし…なんだか痩せている。メイクも簡単だし。
 苦労人ってバティストも言ってたもんね…目の下には隈も。それでも、あのヴィルヘルミーナ殿下の妹さんという事もあり…美少女ですね…。しっかり着飾ったら、男共が放っておかないぜ…。


 まあ軽く挨拶を交わした後、ペトロニーユ殿下は深呼吸をして…口を開いた。

「本題なのですが…親書を拝読致しました。
 …この度は、大変申し訳ございませんでした!謝罪で許されるとは思っておりませんが…我が国の者による暴言、深くお詫び申し上げます!!」

 親書…ルシアンとグラスで書いたっていう抗議文か。ペトロニーユ殿下はバッ!と頭を下げた。もう土下座すんじゃないかって勢いだ、後ろに立っている2人もだ。
 そんで陛下が顔を上げるよう告げると、ゆっくり体を起こした。その表情は本当に苦しそう…申し訳なさが滲み出ているというか…こっちが謝罪したくなってくるわ。

 すると大臣さんが、スッと何かを差し出した。殿下はお詫びの品と言う…なんだろ?
 それらはセフテンスの特産品である、真珠や宝石珊瑚等を使用して作られた美しい杖だった。2つあって、長さは50cm程の装飾品かな。え、本体水晶なの!?


「一際大きな珊瑚には物理攻撃無効の術が掛けられております。どうかお納めくださいませ」

「「(かなりの宝物じゃないか…貰い辛い…)」」

 陛下2人の戸惑いが伝わってくるようだ…しかし突っ返す訳にもいかず。大人しく受け取った。その様子に、殿下はホッとした模様。

「本来であれば、父である国王が出向くべきなのですが…私のような若輩者で申し訳ございません」

「「いや……」」

 いや、おい。陛下達はこっち、若者組に目を向けた。いやいやいや。

「姉の発言は取り消す事も出来ませんし、到底許されるものでもありません。ですが我々にはこれ以上の品もご用意出来ず…私如きの言葉ではありますが、どうか受け入れて頂きたく存じます。
 私共は他国といたずらに諍いを起こしたいなどと願ってはおりません。どうか…寛大な御慈悲を賜りたく」

 殿下は椅子を降り、3人共その場に跪いた。そりゃ小国であるセフテンスが、大国グランツと争っても勝ち目は無いし…箏だって向こうでは存在感のある国らしいし。
 徹底して謙虚な姿勢を崩さない殿下。そこで…グラスが陛下達の許可を得て、3人を元の位置に戻してから言葉を発した。


「私が怒りを感じているのは、貴女に対してではありません。貴女の姉と、親である国王夫妻です。
 何故この場に、王ではなく姫である貴女が出席していらっしゃるのですか?先程ご自分で仰ったように、国王がその席に座るべきでしょう」

「そ…れは…」

 ズバズバ言うグラス。ハラハラするわたし、ルシアン、少那。
 まあ、この場全員の総意ですが。正直彼女に謝られても…完全に殿下はとばっちりですし。

 殿下が答えに詰まっていると…今度は外務大臣が発言の許可を求めた。


「畏れながら…此度の訪問、王は私に一任されました。
 それを聞いた第五王女殿下が「今回は国の信用にも関わる大切な会談。しかもグランツ皇国と箏国の陛下方がお待ちだと言うのに…国王が参加しないなど有り得ない」と進言致しました。
 ですが王は聞く耳を持たず…ならばせめて王族である自分が行くと、殿下が名乗りを上げてくださったのです」

「…………本当?」

 グラスが訊ねると…殿下は真っ赤な顔で小さく頷き、蚊の鳴くような声で「申し訳ございません…」と呟いた。
 これにはわたし達も頭を抱える。しかも詫びの品も最初は無くて…どうにかこうにか、殿下が用意したとか。そこまで暴露され、殿下は完全に俯いてしまった。


「………………これにて終了とする!!」


 居た堪れなくなった陛下が終了を宣言、全員撤退準備に取り掛かる!もちろん王女を放って置けないので…彼女の手を取って、お茶に誘った。

「第五王女殿下。わたしはラウルスペード公爵家長男、セレスタンと申します。本日はご夕食の席も用意してございますが、まだ時間はございます。
 よろしければ、一緒にお茶でもいかがですか?」

「あ…ありがとうございます、ラウルスペード様。ですが私は代表として、陛下方と…」

「こちらの大臣に全て聞いておくから。君達は若い者同士、交流するといい」

 陛下達の好意に甘え、わたしは彼女を連れ出した。騎士団長という男性のみ付いて来るので、一緒にサロンに向かう。
 途中で木華も合流し、お茶会スタート。それでもやはり、遠慮は無くならない。姉が暴言吐いた相手だからな…特に少那。
 両側にわたしと木華が座り、なんとか笑ってもらいたくて話し掛ける。




「その…本当に、今回は…」

「もういいです。さっきも言いましたが、おれ達は貴女の謝罪を聞きたい訳ではありません。
 ………一応、謝罪の言葉は受け取ります」

 グラスのその言葉に、殿下はまた俯いてしまった。だ、大丈夫!?泣いてない!?

「ちょっと男子ぃー!何ペレちゃん泣かしてんのよぉー!!」

「ペレちゃん!?」 

「そうよそうよー。兄上にチクるわよー!」

 木華もノリノリ、更にルシアンと少那もこっちに移動して来た。そんで裏声で「年下の子に意地悪するなんてサイテー!」「もう大丈夫よ、私達がついてるわ!」と参戦、これで5対1!グラスは呆れた目だ。

 そんな風にふざけていたら…ちょっとずつ殿下も笑顔を見せてくれるようになってきたぞ。
 グラスもルシアンも少那も。皆殿下に対しては一切怒っていないと言ってくれた。だからどうか、もう少し砕けて欲しいな。

 そんな願いも通じて、やっと雑談出来るくらいに打ち解けてきたぞ。


「その…皆様にお伺いしたいのですが。姉は…学園ではどのように振舞っておりましたか…?」

「「「「………………」」」」

 聞いちゃう?それ、聞いちゃう???学生組は黙ってカップに口を付けた。いっそ誤魔化す?いや…無理だろ。
 という事で…オブラートに包んで話した。学業よりも、交友関係を広げる事に力を注いでいた、とな。特にまあ…男性方面で、ね?

 しかしそれだけで察したのだろう。両手で顔を覆って、動かなくなってしまった。

「………ありがとう…ございます…やんわり言ってくださって…。
 ですが…姉の成績表は…評価は最悪、期末テストも全教科落第点。「勉強したいのよ」と両親に言っていましたが…まあ、嘘でしょうね…」

 そこまで酷かったんか、あの人。なんかもう…殿下が可哀想すぎて…。他のお姉さん達の尻拭いもしてるんでしょう?
 深くは突っ込めなかったが…彼女の荒れている手が、苦労を物語っている気がする。大変そうですね…と言えば、そうでもありませんよと返される。こういう人は、自分の苦労を語ったりすまいよ。
 ああ、それと首都にあるヴィルヘルミーナ殿下が購入した屋敷は売却するって。元々そんな無駄遣いを…と思っていたらしい。やっぱそうだよね!?



 そろそろ夕飯の時間かなーと時計を見ると、殿下が右手でこめかみを押さえていた。頭痛ですか!?

「あ、いえ…先程の緊張が、今になって押し寄せてきたようです。もう大丈夫です、ありがとうございます」

 そう力なく笑うので、何も言えなかった。
 彼女は夕飯時もずっとぎこちなく笑っていた。そりゃね…15歳の女の子が国を背負って大国の王と会談とか…わたしなら逃げてる。それでも…彼女は頑張っているんだな。


 夕食後、もう遅いので泊まっていくよう勧められたのだが。殿下は「仕事が残っている」と言って帰る事になった。
 その姿に、なんだか心臓が締め付けられる思いで…門まで見送りに来たところで無意識に、帰ろうとする彼女の腕を引っ張っていた。

「あのっ!辛くて耐え切れなくなったら…わたしを頼ってください!!
 こう見えても公子だし、最上級の精霊もいます!きっと…いや絶対、貴女の力になれます!」

「……ラウルスペード様…」

 彼女は何かを言いたそうに、一度口を開いた。だが…固く結び、泣きそうな顔で微笑むばかり。最後にもう一度「ありがとうございました」と言い、馬車に乗り込む。その時。


「……あの。先程…ペレちゃんと呼んでくださった時…凄く、嬉しかったです…」

「え…あ、その…。まっまた来てね!ペレちゃん!」

「…はい!」


 そうして彼女は帰って行った。次に会う時は…もう少し仲良くなれたらいいな…と願う。


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