慚愧のリフレイン

雨野

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4章

似た者兄妹

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 あっという間に入学式の日を迎え、私は鏡の前で制服姿をチェックする。おっとリボンが曲がってるわ…よし。
 リーナさんと「また来月!」と挨拶をして。


「とてもお似合いですよ、エディット様」
「おおぅ、おお」
「ありがとうございます。ジェレミー様もマルセル様も素敵ですわ」

 目的地が同じな2人と共に出発。
 アルフィー様が馬車の所までお見送りに来てくれたのだけれど、その手にはカメラが握られているわ。

「制服姿を写真に撮って、カロンとカリアに見せてやらないか?私が届けるよ」
「よろしいのですか?是非お願いします!」

 嬉しい提案に甘え、どこで撮ろうかな…とキョロキョロ。あの花壇がいいかしら。


「アルフィー様、こっちの角度からお願いします」
「あ、ああ」

 ポーズを決めて… カシャッ

「今日は気候が穏やかすぎますね…
 マルセル様。そちらから私に向かって風を送ってくださいませんか?」
「はっ!」

 マルセル様は上着を脱ぎ、カメラに入らないギリギリの場所でバッサバッサと振り回す。
 ふわり… 私の髪が軽やかに舞う。うん、強すぎずいい感じ。

「ではアルフィー様、もう1枚お願いします!」
「うん…」

 パシャリ

「…もう1枚よろしくて?」
「よくてよ…」

 心なしかアルフィー様が呆れてる気がするが。
 仕方ないじゃない!可愛い弟妹に見せるんなら、最高の自分でいたいじゃない!

 なびく髪を手で抑えたり、目を伏せてみたり。あえてカメラ目線を外したり、花を愛でてみたり。



 そんな風に何枚か撮ってもらい、大満足な私。

「選ぶ写真はアルフィー様のセンスにお任せします」
「(全部見せてやろうっと)任された。じゃあそろそろ…」
「あ、すみません!」
「「?」」

 乱れた髪を手櫛で直していたら、撮影会を見物していたジェレミー様が1歩前に出た。
 頬を指で掻き、おずおずと口を開く。

「よろしければ。エディット様、僕らと一緒に撮っていただけますか?」
「私がですか?」

 思いがけない提案に、思わず自分を指差したわ。

「その…か、家族に見せたくて。王国で出来た友人と共に、制服姿の写真を。カメラは持ってきていますので!」
「なるほど…」

 それならば、と了承。アルフィー様が続けて撮ってくれると言うので、私を真ん中に並ぶと…


「……遠くありません?」
「気のせいでは?」
「………」こくこく

 気のせい、かなあ?私の両側…2人分くらい空いてるんですけど。

「せめて1歩ずつ寄ってくださいませんか?」
「「………(陛下達に勘違いされませんように…)」」

 ?2人は難しい顔で近付いてきた。はい笑顔で!ニコッと。


「このカメラ、フランク卿に渡せばいいか?」
「お願いします」
「フランク卿とは?」
「ああ、マルセルの父君だ」
「「あっ」」
「あ!!」
「あ?」

 忘れてた!!結局ご挨拶できていない、どこに……はっ!!


「そこだァーーーっ!!!」
「!!?」

 いた!!馬車の陰からこちらを見ている、マルセル様にそっくりの男性発見!!

「ごきげんようっ!!私はエディット・グリースローと申しますっ!!ご子息とは仲良くさせていただいておりまっす!!」
「…!」

 逃げようとしていたので、反対側から回り込んで挨拶成功!フランク卿は肩を跳ねさせて驚いていたが…


「………ご機嫌よう。自分はフランク・セフォードと申します」

 予想と違い、冷静に挨拶を返してくれたわ。女性が苦手って訳じゃないのね。じゃあ以前は本当に、急用を思い出しただけかしら?
 じゃ…そゆことで。と背中を向けたら。


「……ご令嬢」
「はい?」

 反射で振り向けば、フランク卿がコホンと咳払いをした。

「…スカートの、丈が。少々短すぎるのでは?」

 ん?私のスカートは膝が隠れるくらいの長さだ。確かにドレスに比べれば短いが、注意される程ではないはず。

「長いほうだと思いますが…。もっと短い方もいらっしゃいますし」
「そ…そうでしたか…これは失礼」

 そう言って彼は頭を下げた。
 …どうしてかしら。彼の私を見つめる目が、どこか懐かしいような。気のせい…よね。


 今度こそ王宮を出発し、私達は士官学校へと向かっ………う前に!!




「お父さーん!」
「おう」

 寄り道をして、傭兵ギルドの近くで待ち合わせ!馬車から飛び降り駆け寄ると、脇の下に手を入れて持ち上げられた。流石お父さん、力持ち!
 すぐに降ろされたので、その場でクルッと回ってスカートをつまんでみせた。

「どうどう?この制服、似合う?」
「ああ、可愛いな。……スカート、短くねえか?」
「またそれ!?」
「あん?」

 お父さんは軽く眉間に皺を寄せて一言。短くは、ない…はず?
 連続で注意され不安を覚え始めたけど、お父さんが「入学おめでとさん」と言って小さな箱を差し出してきたので切り替える。

「ありがとう!開けていい?」
「おうよ」

 いそいそ… こ、これは!
 光り輝く鉄製の、4つのリングが繋がった…


「メリケンサック!!!ありがとうお父さん!!」
「なんでですか!?娘さんの入学祝いですよね!?」
「護身用なので」

 ふおおおお。早速右手に装着、ぴったりフィット!
 ジェレミー様が何か驚いているけれど、それどころじゃない私は小躍りしたい気分!

「お前はこれから、護衛もいない寮生活になる。学校内は安全としても、万が一ってのはある。そん時は躊躇わず殴れ」
「うん!」
「ついでに相手が男だったら、全力で股間を蹴り上げろ。念の為スカートの下には常に短パン穿いとけ」
「分かったわ!!」


 私、格闘には自信あってよ!お父さんに教わったから!!

 …あら?ジェレミー様とマルセル様が青い顔をして、内股になって馬車の中に逃げた。



「その件なのですが」
「「?」」

 なんか殴りたいなーと思っていたら、フランク卿が私を見ながら発言をした。

「もしよろしければ、我が息子にご令嬢の護衛を務めさせていただけませんか?」
「えっ?」

 思わぬ提案に目が点。マルセル様も馬車から再び降りてきて、ビシッと背筋を伸ばした。


「問題はある息子ですが。親の欲目を差し引いても実力はございます」
「よ、ます!!」
「よろしくお願い致しますって言ってます~」

 馬車の中から、ジェレミー様の通訳が届く。

「いえそんな、申し訳ありません!皇国からのお客様ですし…」
「いえ!!えでぃ、こっす!!」
「いいえ、エディット様の盾となれたらこの上ない光栄です、と言ってます」
「……こやつは護衛の経験が無いのです。いずれ騎士を目指す者として…息子の成長に、お手を貸していただけませんか?」


 う……そ、そういう理由なら…。真剣な眼差しの親子に圧されてしまう。
 うーん…護衛の練習台というのなら、断る理由も無いか…?


「では…短い間ではありますが。どうかよろしくお願い致しますわ」
「はっ!!ささす!!」
「はい、ありがとうございます。この身は貴女の為に、自分の全てを捧げます。と言ってます」
「ふふ…それはいずれ出会う貴方の主の為、とっておいてくださいな」
「(…いいえ。貴女のお話を聞いたその瞬間から。俺の肉体から魂まで全て…エディット皇女殿下の物です。いつか必ず、正式に貴女の護衛騎士となってみせます!!)」


 マルセル様はその場に膝を突き、私の右手を取って指先に口付けた。仮ではあるけれど、忠誠を誓う…という事ね。



「……真面目な会話なんだろうけど。ギャグにしか見えねえなぁ…」



 遠い目のお父さんとはここで別れ、今度こそ学校に向かいます。


「私がいない間、カロンとカリアをお願いねー!」
「あいよー。お前はきっちり学んでこいよー!」
「はーい!!」

 走り出す馬車、窓から身を乗りだし大きく手を振る。並走するフランク卿に「危ないですよ」と注意されている姿を、お父さんは呆れた顔で眺めていたわ。







 学校は高い塀、立派な門に守られている。校舎は貴族の子供が通うだけあって荘厳で、敷地も小さな町ほどの広さを誇っているわ。
 門の前でフランク卿も離脱。これから皇国へ帰るらしい、またお会いしましょうね~。


 入学式は恙無く終了。公爵令嬢の私に話し掛ける人もおらず(側にジェレミー様とマルセル様がいるからかも?)、2人と別れて女子寮へ。

 男子は4人、女子は2人の相部屋なのよね。私のルームメイトはどんな人かしら…!扉の前で一旦深呼吸。
 基本同じ科から選ばれるから、相手も騎士科のはず。念の為ノックしてから部屋に入ると…



「……………」


 荷解きをしていたのだろう、タオルのような物を手に持つ女性がいた。私の登場に僅かに瞠目して動きを止めたわ。最初が肝心…!


「初めまして。私はエディット・グリースローと申します。2年間、よろしくお願いいたします」
「……どうも。あたしはコルネリア・エンデです」
「「……………」」


 ルームメイトはそれだけ告げると、背中を向けて荷物の整理を続ける。




 ………うん。2年間、やっていけるかしら!?
 




 ※





 入学式から暫く、皇国にて。

「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。フランク・セフォード、ただいま帰還致しました」
「お帰りなさい、フランク卿」

 フランクは真っ先にエリオットを訪ねていた。その場には…お約束のようにクローディアとヒューバートもいる。


 一通りの報告を済ませると…

「……で。その…エディットと、話せましたか…?」

 エリオットは期待に満ちた瞳で、ソワソワしながら問う。フランクはやや目を伏せて…穏やかに微笑んだ。


『そこだァーーーっ!!!
 ごきげんようっ!!私はエディット・グリースローと申しますっ!!』


 本当は。まだエディットと顔合わせをするつもりはなかった。兄であるエリオットを差し置いて自分が先に…という思いから。だというのにエディットは…


「…はい。とても、元気いっぱいな挨拶をしてくださいました」
「!!ふふ…そうでしたか」
「あはは、元気いっぱいな挨拶ってなんだよ!?アタシも見てみたかったなあ!」
「私も。けどまあ、会う楽しみが増えたな」

 部屋の中に、ほのぼのとした空気が漂い始めた。




 フランク・セフォードは、エディットが赤ん坊の頃から面識がある。そして…


『……よーちよち。いい子でちゅね~。上手におねんねちてまちゅね~』


 といった風に、エディットによく語り掛けていた。強面をデレデレに溶かし、もちろん他に誰もいない時だけ。
 まあエリオットも使用人も、全員知ってたんですけどね。同時期に息子マルセルが産まれていた為、どちらも可愛くて仕方がなかったらしい。



 そんな幸せな過去を思い出しながら、フランクは懐に手を入れた。

「…コホン。こちらがエディット殿下のお写し」
「お!寄越しな!!」
「「こら姉上!!」」
「……全く、仕方のない…」

 差し出した封筒は、一瞬にしてクローディアに奪われた。姉弟3人が団子になって、仲良く開けると…



 そこに入っていたのは、ジェレミーが公爵邸で隠し撮りした写真の数々だった。

「これが大きくなったエディット…。あぁ、まるで母上に生き写しですね…」

 エリオットは目に涙を浮かべ、手を震わせる。

 更にルイーズと楽しげに庭を散歩するエディット。
 カリアと共に木剣を手にし、勇ましく振るうエディット。
 アルフィーとお茶にしながら、優雅に微笑むエディット。
 ヴィクトルの背中にくっ付く、コアラなエディット。

「……ヴィクトルのヤツ。全部カメラ目線な上に、こっそり変顔したりピースしてやがるな」
「流石姉上が一目置く男だな…」


 そして何より、エディットの次に多く写っていたのは…カロン。

「この子が…カロン君ですか?」
「左様でございます」
「「「…………」」」

 どの写真でもカロンとエディットは、互いを見つめている。その姿を見せつけられては、交際に反対などできようもなく。ただ…

「思ってたのと、違うといいますか。僕はてっきりカロン君は…マルセルのような武人タイプなのかと…」
「アタシも…。ヴィクトルが認めたくらいだから、筋骨隆々な大男かと…」
「…カロン君、もしかしてエディットより小さい?」
「はい。現在エディット殿下は171cm、カロン殿は168cmと伺っております。カロン殿は成長期ですし、まだ伸びるとは思われますが」
「「「……………」」」

 姉弟はもう1度、写真に目を落とす。そして…同時に笑った。


「ふふっ。僕達にこんな可愛い弟ができるんですね」
「おいコラ兄上。私も可愛いぞ」
「190cm近い男は可愛くありませ~ん」
「(なんつーか…この坊や、ラウルに通ずるモノがありそうだな…)」
「私はカロン殿と直接お会いしてはおりませんが。ジェレミーも「カロン君以上に、エディット殿下に相応しい男はいませんね!」と断言していました」
「「「ほう…」」」

 わいわいと、エディットが公爵家に嫁に行くか、カロンを婿にするかで盛り上がる。どうあっても最終的には、2人の意思を尊重するという結論にしかならないのだが。



 さて。フランクは士官学校が夏期休暇を迎える頃に、再び王国へ旅立つ予定なので。
 エリオットが「さり気なくエディットに見せて欲しい」という写真を撮る事になった。


 すっ… さっさっ ビシッ!
 髪型よし。襟よし。肌のコンディション…よし!最後に笑顔、ニコッ。

「どこからでもどうぞ!」
「んじゃこっちから…」
「ヒューバート!左からお願いします!」
「(どこからでもいいとは?)」

 言いたい事はあれど、お望み通りの位置からシャッターを押す弟。

「……よし。次はソファーに座るので、全体を撮ってください」
「あそ…」

 カシャッ

「うーん…足を組んで…いや威圧的かな?なら…」ブツブツ…
「なんでもいいから早くしな!!!」
「いい訳ないでしょう!?可愛い妹に見せるんです、最高の自分でいたいじゃないですか!!」
「「めんどくせええええっ!!」」


 そんな風に騒がしい撮影会を眺めて。
 フランクは…唇の端を震わせていた。


「(………なんと、まあ。離れ離れになっていたというのに…
 本当に、よく似たご兄妹だ…ふっ)」



 最終的にはクローディア、ヒューバート含め100枚近く撮影し。そこから「エディットに見せる分」を厳選するのに、半日を要したとかなんとか。


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