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序章
一瞬の邂逅
しおりを挟むふああ…よく寝た。ん…?
'おはようセレスト。どうかした?'
「おはようマリン。いえ…なんだか身体が重いような…?」
というか、怠い?ぐっすり寝たはずなのに、疲れが取れていない…ような。
目もしぱしぱする…。
'………風邪かもね。今日はゆっくり寝た方がいいんじゃない?'
「ううん、熱っぽさは無いから平気よ。心配してくれてありがとう!
それより…今日はこの洞窟を住みやすく改造するわ!」
'おお、DIYか!'
でぃー…?それは置いといて!
まず設計図から…やるわよー!!
洞窟って言っても、長さはそれ程なのよね。体感的に50メートルくらいかしら。
奥の方に小部屋の如き穴があるので、そこが寝室。
調理台は入り口近くで…洗濯場は外。
小物とか…あれをこうして、ここにアレして。
小さい頃にお母様と遊んだ…おままごとを思い出すわ。
半日掛けて、大分形になったわね。
「ふー。ここでひと息…あら?」
集中していて気付かなかったけど、外が薄暗い。
それにザーザーと音が…雨かしら。
'雨?……ねえセレスト、外出てみない?'
「え?」
'昨日傘買ったじゃない?使ってみようよ'
「うん、分かったわ」
否定する理由もないし、新品の傘を広げて外に出る。
ポツポツと、傘を打つ雨の音…手に伝わる感触が楽しいわ。
傘のおかげで濡れなくて、なんだか得した気分。
「思えば…雨の日に出歩いた事ってなかったな」
必要がなかったものね。もったいない事してたなあ…。
'……わたしさ、雨って結構好きなんだよね。昔から…'
「マリン…?」
'…なんでもない。そうだ、貴女なら魔法で雨を操れるよ?'
「あ…うん」
マリンの昔って…なんだろう。いつか話してくれるかなあ…。
魔法って『結界』や『書き換える』みたいに言霊が必要なものと、そうでないのに分かれているらしいの。
例えるなら……お願いマリン先生!
'はいはい。そうね…料理で例えると。
ただ「魚食べたいなー」って念じると、生の魚がテーブルに出てくる。飛行とかもこっちね、飛びたいって思うだけだから。
料理名…『ブイヤベース』って唱えるとブイヤベースがポンっと出てくるの。これが言霊ね'
「ああ…ちょっと分かったわ」
傘から手を伸ばし、雨に触れる。
集中して「どうしたいのか」を念じると…雨が、手を避けた。
「わあ…」
傘を閉じてみても、身体が濡れる事はない。私を避けて地面に落ちるから。
形を変えてみたり、凍らせてみたり。感覚で…できる。
'コツは掴んだ?'
「うん!」
今度は手の平を上にして「火出ろ~」と念じれば。
ボウッ と拳サイズの火玉が出た!練習次第で、小さくしたり大きくできそう。
こんな簡単に使えるなんて…。
「……ねえマリン。どうして私は…生後100日の検査で魔力無しって結果になったのか、知ってる?」
'…………………'
彼女は珍しく、何も答えない。'それは秘密!'でもない。
'……じきに、分かるよ。さあ家に戻ろうか!'
「………うん。本当に風邪引いちゃうものね」
マリン。どうして'知らない'って言ってくれないの。
あなたは誰で、どうして私の中にいるの。
疑問は尽きない、けれど。
……それでもマリンは。
生まれて初めてできた友達だから。
何度も助けてくれた…お姉ちゃんだから。
あなたの隠し事が、私への裏切りでも…いいの。
私をここまで導いてくれて、ありがとう。
その後は傘を差し直し、雨音を楽しみながら帰路に着いた。
この雨特有の匂いも、なんだか好きになりそう。
数日は住居を整えたり、忙しく過ごす。
ランプの油が尽きそう…また買いに行かなきゃ。今度は多めにね。
「今日の服は~っと」
'そうそう、この間の服。登録しといたから、簡単に着替えられるよ'
「登録?」
'まず『服』のメニューを開いて…'
ふんふん。服の絵の一覧…の右上。あら、初めて見るマークだわ。
♡を押すと、ニホンゴが一文出てきた。
'少年スタイルって書いてあるの。これを押せば、毎回コーディネートしなくていいんだ'
「わ、本当だ!」
着替えると前回同様キャスケット~ハイカットブーツまで、そのまま!
すごい、便利だわ。
'今日は籠持って行きなよ、こないだ買ったやつ。それなら堂々買い物できるし!'
「うん!大物買う予定もないしね」
買い物用の籠と、ホウキを取り出しながら。
いつになったら、ニホンゴを教えてくれるの?
ずっとマリンが側にいて、読んでくれるの?
それとも…いずれあなたに返すから……いや。
考えるのはやめよう。
町へ来たわ。食料や消耗品をメインに買い物…あら?
道端で、私と同い年くらいの男の子が新聞を売っている。
「ねえ、それいくら?」
「おう!1部銅貨10枚だよー」
銅貨を渡すと、少年は「毎度ありー!」と笑顔で新聞をくれた。
どれどれ…何か面白い記事はあるかな?
買い物は終わらせ、カフェに入って休憩。ジュースを飲みながら新聞を広げてみた。
「……んん?小さくティアニー伯爵が載ってる…」
名前を呼ぶだけで気分悪いのに、久しぶりに絵姿を見てしまって吐き気がするわ。どれ…
ティアニー伯爵令嬢が失踪
病床に臥していた夫人が逝去し、ショックで家出との事
愛する妻子を同時に失った伯爵は…涙ながらに「必ず見つけ出す」と語る
「……はは」
自分で追い出しといて…アホらし。
しかも誰よ、この絵姿。愛娘の肖像とか書いてあるけど…あの男には、私はこう見えていたのか…?
似ても似つかない…そりゃ私は他の貴族との交流は全然無かったけど。
国中に偽情報を流す度胸だけは評価してあげる、後で薪代わりに燃やそう。
愛人と婚外子はどうせ、表向きは使用人として家に入れたのね。ここ、笑えばいいのかしら?
と、今更だけど。私がいるの、どこ?
確か馬車に乗せられたのが朝で、降ろされた時はすでに夕方。
その間馬を何度か交代してたけど、休憩せず走り続けた。
つまり…10時間は乗ってたと思うの。伯爵領から…うーん全然分からない。
「ねえマリン。私達今、どこにいるの?」
'………町の名前はキャトル。ブロウラン公爵領よ'
「公爵領…?」
……いや、場所が分からない…。
地図が必要かな、とお会計を済ませてカフェを出る。すると…
「……………」
?年下っぽい男の子が、こっちを凝視している。
その子は深い緑色の髪で、通りの反対側から近付いてくる…?
'(……?あの子、まさか…!)セレスト!!関わっちゃだめ、逃げるよ!!'
え!?わ、分かったわ!!
だっ!! 背を向けて走り出す!!
「あっ!おい、お前!!」
なんか言ってる!けど…聞いてあげない!!
「待て、待…速っ!?」
ぬおおおおっ!!熊相手にも数分保った俊足をご覧あれ!!
お母様にも褒められたんだから、「貴女は野生動物にも負けない身体能力ね」って!!!
'(それ褒めてんのかな…)大通りに出て、人混みに紛れて!!'
「了解!!!」
だだだだだだっ!!
あっちこっちジグザグに走り、人の間を縫って門を通過!!
はあ、はあ… 後ろを振り向くも誰もいない。撒いたわ…勝った。
ここから10分程歩くと森に入るので、呼吸を整えてから移動した。
「ねえマリン、さっきの子なんだったのかしら?」
'ん~…もしかしたらお金目当てかも。ほら、前回から結構大盤振る舞いしてたじゃん?'
「ああ…少し抑えないとだめかな…」
でも…あの子、結構仕立ての良い服を着ていたけれど。
ま、いいか。もう会うつもりもないしね。
魚を取って料理して。
日向ぼっこをして動物と遊んで。
マリンに魔法を教わって。
月に1度くらい町に行って。
洞窟を度々改造して。
冬はあまり外に出なくて済むよう、食料も薪も燃料も大量に買い込んで、なんとか過ごして。
洞窟に1人で籠ってたら寂しかったと思うけど…マリンがいてくれたお陰で、楽しい日々だった。
気付けば私が森に捨てられてから、季節が巡っていた。
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