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第1章
公爵令息 エルム・ブロウラン
しおりを挟む馬車の中でも、2人は私に質問をしてくる。
やめてくれ…興味持たないでぇ…
「お嬢さんはいつから森に?」
「去年の今頃…ですね」
「は…?冬はどうしたんだ…?」
「家に籠ってました」
「どうしてそんな…親は何をしているんだ」
「いません」
「「は?」」
この主従、よくハモるなあ。
「じゃあ…1人で森に…?」
眞凛は…声だけだったし。私以外認識できなきゃ、実質1人だよね。でも…
他の誰かにも。篠宮眞凛がこの世界にいたということを、知っておいてほしい。
「いいえ、もう1人いました。私の魔法の師匠で…姉のような、大好きな人が」
「…………わかった」
だがその後2人は黙ってしまって…
これ幸いにと、私も外の景色を眺めていた。
森の入り口まで来たが、ここからは飛んで行く。
最初は人目につかないよう低空飛行で。徐々に高度を上げる、いつもそうしている。町に行く時は逆ね。
「ブロウラン様、飛行は使えますか?」
「飛行は師匠がいなければ習得できん。お前…さっき言っていた師は…」
「………もう、いません。私に魔法の全て(※魔導書)を託して…」
「…そうか。飛ばないと行けない場所なのか?」
うーん…歩いた事無いから道が分からない。
仕方ない、ホウキに3人乗りかな。
「ホウキ!?どう見ても乗り物じゃないだろ、小舟は無いのか!?」
「残念ながら」
「ぐ…!!行くぞ!」
正直これで諦めないかな…?と期待したけど無駄でした。
2人は怖々しているが私が先頭に跨り、真ん中にブロウラン様。最後にシャルル卿だ。
全員保護はするけど、しっかり掴まっててくださいよ!
「うお…っ!」
「わ…すごい景色…」
ふふん、森が綺麗でしょ?
にしてもブロウラン様、私に超しがみ付いてる。
肩に顎を乗せてて顔が近い。同世代の男の子とここまでくっ付くの…初めてだな。
ドキドキするけど、今は仕方ないか…
さあて、この辺から結界だ。
「少々お待ちください。ブロウラン様とシャルル卿も通れるようにしますから」
「………………」
ん?なんかブロウラン様が腕に力を込めた。お腹締まる。
「ブロウラン様、何か…?」
「…………なんでも」
???まあ、本人がいいって言うんだしいっか。
着地をし、初めてのお客さんをご案内!
「さあどうぞ、我が家です!」
じゃーん!自慢の洞窟ちゃん、ご覧あれ!
…?自信満々に両手を広げたのに、2人はキョロキョロしている。
「…家は?」(山小屋みたいのを想像していた)
「あれ(※お風呂)じゃ…ないですよね?」
え…。私の真後ろにあるじゃん、家。
「「…それが家!?」」
「はい」
ようやっと認識した途端、早口で「なんで!?」「金が無いのか!?」「公爵家で…」と言ってくる。
「待ってください!私は自分の意思でここに住んでいるんです、心配されなくて結構!!」
「でも…」
「それに!!
…数日前まで師匠と暮らしていたんです。でももうあの人は、どれだけ待っても帰ってきません。
流石に寂しいから…今日は家を買いに行ってたんです。森と町、どちらでも暮らせるように。
なのにブロウラン様が追い掛けるから…」
じとっと見つめれば、2人は言葉に詰まって静かになった。
でも気持ちは嬉しいのも事実。はいこの話はおしまい!
「そこが料理場。それはお風呂。あっちの泉は水遊び用で…」
ちゃんと生活してますよ!アピールの為、洞窟の内外を解説する。
「え。魔法で飲み水出したり、火を起こしたり、薪を割っているのか?」
「はい。私が魔法使いだからこそ可能な業ですね」
「……貴重な魔法で…何を…」
言われると思った。
もう、見学ツアーはここまで!
2人の背中をぐいぐい押し、魔法の練習に使う広場へ向かった。
「では何をご覧になりたいのですか?」
「うーん…強い魔法」
アバウト…!
魔導書には、ゲーム内で登場した魔法がおおよそ記されている。
眞凛が消える前に、威力順で並び替えてくれたから…真ん中くらいの強さの魔法で。
「下がってください。では…『風の渦』!」
ゴオオォッ!!
威力は抑えめの、小さな竜巻が発生した。
ブロウラン様はシャルル様がガッチリ捕まえてるが、私がコントロールしてるんだから安全だっての。
「すご…!次、雷出せるか!?」
うお、目えキラキラ。
確か…将来はプライドが高く、天才って言われるはずだけど。
この時はまだ…強いもの・格好いいもの大好きな少年なんだね。
この後はご要望にお応えし、次々魔法を見せてあげる。
30分程で魔力切れを起こしそうになったので、マナポーションを飲むと…
「マナポーションを持っているのですか!?
その…お嬢さんは、ご令嬢なのでは…?」
え、なんで?シャルル卿曰く…
平民の平均年収が1世帯辺り金貨150枚。
ポーションは相場は金貨30枚…月収2.5ヶ月分か。
聖水もそのくらい、死に掛けでもなければ普通に薬を使うと。
マナポーションは更に希少だ。魔力持ちは貴族ばかりなので、値段はともかく一般流通していないのだ。
つまり私は。魔法家系の令嬢か…と。確かに伯爵家には普通にあった。
私は世間知らずだし、眞凛の知識もこの国では違う場合がある。
今後は気を付けねば…気を引き締める。
「(元々…平民にしては言葉使いや仕草が洗練されていると思っていた。
けど洞窟暮らしができる令嬢なんているのか…?)」
シャルル卿は顎に手を当てて唸る。けど。
「これらは師匠が残してくれた物です。
私は…セレスト・レインブルー。それ以上でも、以下でもありません」
「…はい。分かりました」
うん。
「…セレスト。次はゴーレムが見たい」
お?ブロウラン様が、私の腕を掴んで引っ張った。
なになに、会話で仲間外れされてつまらなかった?だとしたら可愛くて、くすりと笑ってしまった。
「ふふっ、喜んで」
「………………」
今度は顔を逸らした。なんやねん一体。
「そういえば、ブロウラン様はおいくつなのですか?」
「?今年で10歳だが」
「お、やっぱり私お姉さんですね!11歳ですもん!」
「むむむ…!」
頬を限界まで膨らませるブロウラン様。
うふふー。ではお姉さんが、強い魔法をいっぱい見せてあげましょう!
日が暮れて来たので、彼らを森の外まで送った。
「さようならブロウラン様、シャルル卿」
「…………………」
ん?シャルル卿は笑顔で、ブロウラン様は仏頂面。さっきまで大はしゃぎだったのに?
「……名前」
「へ?」
「俺も、名前で呼べ」
「え…でも…」
「……シャルルは、そうしてるじゃないか」
騎士は名前に卿を付けるのが一般的だ。
公爵令息様を親し気に呼ぶなんて…と思ったが。
「…エルム様」
「ああ。またな、セレスト」
また?まだ魔法見たいの…?
訊ねる間もなく、彼は馬車に走ってしまった。
「お嬢さん、本日はありがとうございました。明日は不動産屋に行くんでしたよね?」
「はい。朝から行こうかと思っています」
「分かりました。では、ご機嫌よう」
シャルル卿は膝を突き、私の手を取り指先にキスをした…!
いや、挨拶はキスの振りでしょ!?実際に口付けするのは、余程親しいレディーにだけでしょ!
「シャルル卿って、タラシですか…!?」
「どこで知ったんですかそんな言葉!」
彼は朗らかに笑いながら、エルム様を追って馬車に乗る。
なんか…疲れたけど楽しい1日だったな。
私にとってエルム様は危険人物かもしれないけど…
復讐を望まない私なら、殺される可能性は低いと思う。
眞凛は「悪役になんてならないで、幸せになって」と、私の身を案じてくれたけど…
「ボックス」
空を飛びながら、ギャラリーを開く。
そこには…両手を握り、目を輝かせるエルム様。
私達をニコニコと眺めるシャルル卿の姿がある。
「…なるべく、ゲーム関係者には関わりたくないけど。
簡単に他人を信用しちゃだめだけど。
こっそり友達だと思っても…いいよね?眞凛お姉ちゃん」
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