捨てられた中ボス令嬢だけど、私が死んだら大陸が滅ぶらしいです。

雨野

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第1章

一国一城の主

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 翌日。再びのイケメンフォルム、セレスタン・レインブルー参上!
 少年フォルムはこれからJr.と呼ぼう。


「遅かったな」

 不動産屋の前に…なんでいる、エルム様!!私服姿のシャルル卿まで!!

「森じゃ連絡取れませんので。
 領民は坊っちゃんの顔をあまり知りませんし、僕も鎧を着てなければ目立ちませんから」

「早く買ってこい」

 え~…?距離感が掴めない。
 私同年代との交流が少なかったから、分からないんだよね。
 何を言っても無駄だろう、と判断して扉を開けた。


「おはようございます」

「はーい…!(昨日のイケメン!!爽やかイケメンと、美少年連れ!?)」

「(まさか、2~3人で暮らすっていうのは…!)」

 ん?ザワザワしてる…ただ家を買いに来ただけですが。
 朝一なので、まだお客は私だけ。早速…昨日のお姉さんに声を掛ける。


「今日は家の購入を…」

「はははいっ!」

 書類にサイン。身分証提示!白金貨を払って…鍵を受け取った!!

「ありがとうございます!」

「いえ。何かトラブル等ございましたら、お越しくださいませ」

 不動産屋を後にすると…中からきゃあきゃあ聞こえてくる。
 禁断の愛…とか、首を傾げるしかない。



 ふんふっふふ~ん。これで私も一国一城の主だ。鍵を眺めて鼻歌が出てしまう。

 なんか2人もついて来るので、3人で新居へ向かった。
 ていうか馬車用意してた。私を気遣ってか、目立たない一般的なやつだけど。



「いい家ですね。ちゃんとお金は持ってたんですねえ…」

「ふむ」

 何勝手に入ってるんだこの人達。
 まあいいか…庭が若干荒れてるな、手入れ大変だ~。

「お2人共、私はこの後買い物をするんですが…」

「分かった」

 何が?ここで留守番してる…とか?
 好きにしててくれていいけど。必要な物を頭の中で算出する。

「それより、いつまで男なんだ?」

「え?だって…11歳の女の子1人で大型の買い物って、怪しまれるじゃないですか」

「大人はシャルルがいるんだ、解除しろ」

 え、来んの?と呑み込む。
 じゃあ解除して…着替えよう。今日はいいとこのお嬢様くらいかな、ドレス未満のワンピースで…

「昨日も思ったが、何をしているんだ?」

 ひょこっとエルム様が手元を覗き込む。
 メニュー画面は見えないだろうから、空中でスッスッと指を動かしているのが不思議なんだな。


「師匠秘伝の魔法です(嘘)。
 着替えをするのに必要なので」

「ここで着替えるのか!?向こうの部屋行けっ!」

「え?いや、一瞬で終わる…」

「アホ!」

 結局背中を押され、隣に移動。
 うん…これでいいか。髪はブラシで整えて、完成。


「お待たせしました」

「!ああ…行くぞ」

 何故あなたが仕切るのか。
 そしてほんのり頬を染めているのか。
 女の子耐性無いな…そんなんで公子としてやって行けるのか?
 あ、でも。数年後にはルージュと恋をする可能性もある訳だし…大丈夫かな、きっと。


 馬車で店まで行こう、と言ってくれたので遠慮なく。
 ん…?エルム様が手を差し出す。
 令嬢時代の名残で、自然にエスコートされてしまったが…いいのか?


「(…やはり動きが平民のものじゃない。坊っちゃんも気付いてるようだけど…詮索は警戒させちゃうかな…)
 ではお嬢さん、まずどちらへ?」

「家具を一通り。客間も作ろうかな…」

「部屋は4つでしたね。1室は談話室にしたらどうですか?」

「いいですね!じゃあソファーセットも。あとダイニングセットも、今日だけで買い切れるかな…」

「……………」

 シャルル卿と意見を出し合うと、またもエルム様が膨れてる。
 この人、構ってちゃんなのか…?

「…エルム様はダイニングのカーテン、何色がいいと思いますか?」

「え?えっと…レース?」

「いいですね!探してみます」

 レースのカーテンか。うん、中々いいね。
 ダイニングは1階で、塀に囲まれてるから他人の目は気にならない。

 1階に玄関、厨房、ダイニング、お風呂、トイレといった生活に必要なものが。
 2階は部屋が4つ、トイレ、ミニキッチン、テラスがある家なんだ。

「…他に、何かあるか?」

「ええ、もう沢山!色々意見くださいね」

「……仕方ないな!」

 機嫌を直したエルム様も、一緒に盛り上がって楽しんだ。



 その後3人で家具を見て。今回は家があるので、宅配してもらうよう手配して。
 食器も…エルム様が眺めているマグカップを買うと、嬉しそうに笑ってくれた。

 服も少し見た。ボックスのは、イベント色が強いのも多くて…ね。


 あっちこっち店をハシゴ、もうヘトヘト…!
 1年森で暮らしたとはいえ、元が体力の無い伯爵令嬢だ。
 馬車に乗り少し揺られているうちに…自然と瞼が落ちてしまった。



 ***



「くう…すう…」

「全く…俺の肩を枕にして、贅沢な奴だ」

「とか言いながら、ニヤけてますよ坊っちゃん」

「…うるさい」

 エルムは悪態をつきながらも、セレストが落ちないようしっかり腰を抱いていた。
 その様子にシャルルは感心する。

「(普段ご令嬢を冷たくあしらうくせに…)しかし彼女は何者なのでしょう」

「…さあな」

「(興味あるくせに…)」

 素直じゃないなあ、と騎士は笑う。


 どうやらエルムはセレストを気に入ったようで、彼女を見つめる瞳は穏やかなものだった。


 セレスト程の実力者なら、平民であっても養子として迎えたい貴族は多いだろう。
 そして高位貴族、王族との婚姻も夢ではない…魔法使いとはそういった存在なのだ。

 シャルルもそれを知っているからこそ、エルムの行動を咎める事はしない。


「…俺はブロウラン家の長い歴史の中でも、最高クラスの魔力持ちだと言われている。
 俺自身そう認識しているし、これまで会った教師候補の誰も…俺以上の者はいなかった」


 それが、この少女と初めて会ったあの日。
 セレストと眞凛が最初に町へ来た時。





 なんの変哲もない毎日に吹き荒んだ嵐。
 魔力とは生まれ持った物で、増減する事もない。

 その為…この先の人生、自分を上回る人間は現れるのか?
 切磋琢磨し、競い、笑い合える相手…ライバル。そう思える相手と出会えるだろうか。


 いや…無理だろう、とエルムは諦めていた。
 そこに…締まりのない顔をして、屋台のアイスクリームを食べる少年の姿を見た。

「なんだ、あいつ…!?
 おい!馬車を止めろ!!」

「坊っちゃん?まだ屋敷は…」

「いいから!!あ…!」


 遠目でも分かる、静穏でありながら凄烈で。
 触れたいと…心をかき乱される魔力の渦。


「追え、あの馬車だ!!」

「え?あ、はい!!」

 セレストの乗る馬車は遅いが遠く、すでに町の外を目指していた。

「(俺とそう変わらない歳の男。あんなのが、この町にいたなんて…!)」

 未知の感覚に胸を高鳴らせ、危なくない程度のスピードで追う。
 だが手遅れ…次にその馬車を見掛けた時は。

 虚な目をした御者が、ひたすらに手綱を握っているだけだった…



「あ…あのー?そこの人…少しいい?」

「…ご利用ありがとうございましたー……またどうぞ…ご利用ありがとう……どうぞご贔屓に…」

 ブツブツと…シャルルの声も無視して馬車は通り過ぎる。
 他人の魔力が見えるエルムはすぐに気付いた。御者に…なんらかの魔法が掛かっていると。

「あいつか…!!」

 やられた…!と強く拳を握る。だが…
 その表情は晴れやかで、期待に満ちた目をしていた。



 それからエルムはその日見たセレストの特徴を、極秘で警備隊に共有していた。
 もしもこの少年が町に来たら、公爵家に連絡を入れるように…と。

 そしてセレストは来た。服装も全く同じだったので、見つけやすかった!と隊長は笑った。


「……いた…」


 急いで駆け付け、カフェから出て来たセレストを近くで見て。
 ちょっと…話がしたいと…小走りで近付いたら…



「速ーーーっ!!?シャルル、追えーーー!!!」

「無茶ですよーーー!!人混みに紛れられたら…!」

「そこだ今右に曲がった!」

「僕には見えませんて!!」

 エルムを肩に乗せてシャルルは走ったが。
 距離が離れすぎては、オーラも見えず。
 完全に撒かれてしまい…悔しさから地に沈むエルムであった。



 それからも数度セレストは町に来たが。
 大概エルムが来る前に、帰ってしまうのであった。

 隊長が「引き留めましょうか?」と言うも、警戒されるし魔法で逃げられる、と分かっているので頼まなかった。




「(……男だったらライバルになって欲しかったのに。
 女の子だと…どうすればいいんだ?女性には優しくしなさいって、いつも母上が言ってるし…)」

 そうして今。夢に見るまでに焦がれたセレストがそこにいる。
 ただ思っていたのと違う展開に…どうすればいいのか分からない、初心な少年であった。


「そろそろ彼女の家ですね。起こしますか?」

「いや…いや、そうだな。おい、起きろ」

「……むぅ…?」



 ***



 ふああ…よく寝た。ってあら?
 この状況…エルム様を枕にした?とすぐ気付いた。


「…すみません…」

「構わん。それより荷物が届いているぞ」

 えっ、もう!?慌てて降りると、業者さんが待っていた。
 家の中に全て運んでもらい、労いの言葉を掛けてチップを渡し帰ってもらう。


 ふう…荷物の山を眺めて気が遠くなる…
 片付けは…明日にしよう。
 ひとまず寝る用意だけしていたら、2人も手伝ってくれた。


 食事は外で済ませる事に。
 今日は食材も調味料も買っていないのだが…彼らは詮索しないので助かる。

「今後使用人でも雇うのか?」

 エルム様がお肉を頬張りながら訊ねる。うーん…

「いえ、大丈夫です。家に結界を張れば防犯にもなるし」

「そうか…」

 それに、町にずっと住む訳ではない。
 基本はこれまで通り森のつもりなのだ、そう言うとエルム様は口を窄めた。


「…魔法使いは大体10歳になると師匠を持つ。
 俺も近いうちに本格的に勉強をするから…そしたら飛んで遊びに行く」

「ええ、待ってますね」


 食事は「引っ越し祝いだ」と奢ってくれたので、恐縮しつつもお礼を言う。
 家の前まで送ってくれて…別れた後。

「やっぱ広い家は寂しいなあ…。眞凛…」

 調子に乗って大きい家にした事を後悔しつつ、寝支度を済ませて布団に潜った。





 屋敷の片付けも、魔法で重い荷物を浮かせてなんとか終わった。
 草むしりも同じ。ヒュンヒュン引っこ抜いてまとめる。

 住む体制は整った…が。
 やっぱり私、森で暮らしたい。ここには冬と、1人が寂しい時に来よう。


 そう思い、眞凛との思い出が詰まった愛しい洞窟へ帰る。

「ただいまー」

 誰が返事をするでもないけど、もう習慣になっているんだよね。





 1週間ぶりに屋敷に戻れば、ポストに手紙が入っている。

『ようやく優秀な教師が見つかり、本格的に魔法を学び始めた。
 通信用魔導具を渡すので、必ず連絡するように』

 宛名も差出人も書かれていない…
 エルム様、魔法の前に手紙の書き方を教わってください。

 呆れながらも、同封されていた魔導具を取り出す。

「魔導具…って高価なはず。はは…贈り物にしては、重いな…」

 この前魔導具専門店を覗いてみたが…一番安い品でも金貨50枚はしていた。
 公子様は太っ腹だなあ、と感心して眺めた。


 それは水晶で、よく占い師が持っている物、と言えばお分かりいただけるだろう。
 魔力に反応するタイプらしく、魔法使い以外は使用不可。

 えーと。説明書を読みながら触れる。
 登録された水晶同士で通話可能。水晶の上に『エルム』という字が浮かんだ。
 メニュー画面みたい…と思いつつタッチすると。



【……セレスト、か?】

「おっ!そうです、エルム様ですね?」

【ああ。ちゃんと受け取ったんだな、よかった…】

 どこか声色に安堵が滲んでいる?
 挨拶もそこそこに、まずお礼。

「すみません、このように高価な品をいただいて。
 とても嬉しかったです、ありがとうございます!どうか近いうちにお礼をさせてください」

【別に…俺が勝手にやった事だ、気にするな】

「でも…」

【気になるのなら、また魔法を見せてくれ】

「…はい!」

 そうは言っても、いずれお礼はしよう。
 こっそり決意しながら、少々雑談をする。


「ではエルム様はいずれ、魔法学校へ行くんですね?」

【ああ。お前だって…資格はある。よかったら…公爵家が、後見人として学費も…】

「いえ…私は結構です。
 私はただ森で静かに暮らして、たまに町で過ごして。
 あっちこっち旅行に行って。いつか…家族が欲しいだけなんです」

 まあそれも、眞凛のお金とボックスのお陰で実現可能なんだけどネ…!


【かぞ…っ!?それは、つまり。
 いずれ…けっこ、んを。すると…?】

「?ええ、もちろん」

 なんか変な事言ったかな…
 大人になったら恋人、延いては伴侶が欲しいって一般的でしょう?

 それともあれか?「お前結婚できると思ってんのか?」的な嫌味?
 …被害妄想はやめておこうか。


「なんですか、私は本気ですよ。エルム様だっていつかは、ご結婚されるでしょう?」

【それは…まあ…】

「でしょう!それに…優秀な魔法使いだと知られたら、政略結婚とか斡旋されそうですし。
 私は絶対!恋愛結婚するんです!!」

【………!!】

 なんだか黙ってしまった。
 何かモゴモゴしている気配がするけど。

 それから約1分後、【授業始まるから…】と言って切れた。

 ……買い物して洞窟に帰るか。




 町を歩いていたら、薬屋の看板が目に入った。
 ……よし。


 カランカラン…


 ちょっと薄暗い店内だ。
 棚に並ぶのはポーション?私が持っているのと同じ瓶だ。
 それと薬草とか、粉薬や錠剤も?

 他のお客さんもいないので、初老の店員さんが話し掛けてきた。

「いらっしゃい。なんか買うのか?」

「えーと…ポーションっておいくらですか?」

 訊ねた以上、いくつかは買うつもりなんだが…
 おじさんは微妙に眉を顰めて吐き捨てるように言った。

「1つ金貨30枚だ」

 ふむ…シャルル卿に聞いた通り。

「じゃあ3つください」

「えっ!?」

 え?って…。おじさんは目を見開いている、冷やかしだと思われてたなこれ。
 はい白金貨1枚でお釣りください。


「どど、どうぞ…」

「ありがとうございます」

 おじさん、慌てすぎて1回白金貨落としたわ。
 帰る前に…ポーションを籠に入れながら、世間話のように訊ねてみた。


「そういえば、エリクサーってなんですか?」

「ああ…そりゃ伝説の薬ですよ。魂が離れてなけりゃ、心臓を貫かれていても蘇生できるっつー眉唾物さ。人間は死んでも数分間は魂が身体に残ってる、って言い伝えがあってね」

「へえ…」

「どんな名医も治せない病も完治する…本当に存在するのかねえ」

 100個持ってます…とは口が裂けても言えん。


 おじさんにお礼を言って、薬屋を後にする。
 いやー、有意義な話が聞けた。エリクサーの存在は死ぬまで隠そう、と誓った。

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