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第1章
新しいホウキ
しおりを挟むおお…温室ってもっと、空気がもわぁ…ってしてると思ってた。
でも程よく暖かく、こりゃ昼寝に最適だね。
夫人、エルム、殿下2人、私が座る。いや…もうお礼聞いたし、私帰ってよくない?
美味しいお茶にケーキ…やだ太っちゃうわ。ダイエットの魔法ないかしら?と思いながらいただきます。
「お姉さま!今度は王宮にいらっしゃってくださいませ。そして一緒に王都を散策いたしましょう!」
「過分なお言葉、身に余る光栄です。
…その。殿下は「クリスティーナ!!」……クリスティーナ様は、何故私をそこまで気に掛けてくださるのですか…?」
隣でエルムも頷いている。
クリスティーナ様は「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりに目を輝かせ、鼻息を荒くした。
「だってお姉さま!アガット兄さまの事を、可愛いって仰ったんでしょう!?」
「ファッ!?なな、何故それを…!」
「お兄さまが照れながら教えてくれました!びっくりしたけど、嬉しかったって!」
イヤー!!確かに糸目可愛い…ってポロッと言っちゃったけど!!
それで…なんであなたが私を気に入る…?
「そう、アガット兄さまは可愛いお方なのです!
なのに令嬢は皆、オースティン兄さまに夢中…こんなどこにでもいそうなただの美形、どこが良いのですか!?」
あ、第2王子殿下がグフっと唸った。
プルプル震えてるけど、クリスティーナ様は止まらない。
「アガット兄さまの事は皆、胡散臭いだのなんか怪しいだの!腹黒っぽいとか、何も知らないくせに好き勝手言いますの。
あのお目目はチャームポイントですのに、わたくし以外誰も理解してくださらないの!」
わー、遠慮ねえ。
2人の兄を大好きなんだろうけど、ちょいちょいダメージ与えてる。
「ですから、お姉さま…」
お?私の両手を取って…ずずずいっと迫られる!?
「どうかアガット兄さまと結婚して、わたくしの本当のお姉さまになってくださいまし!
オースティン兄さまでもいいのですよ、ね!?」
「………ぱ!?」
いやいやいや!?それは飛躍し過ぎじゃ…!
だが断る前に、エルムが私をぐいっと引き寄せた!!
「殿下!セレストは俺の婚約者なのです、絶対だめ!!!」
「ちょ、エルム…!」
「なんですって…!?お姉さまは渡しません!」
「あたたたた!」
「だから、俺のお嫁さんなんだってば…!」
「ま、って…!」
「いいえ、わたくしのお姉さまになるんです…!」
あわわ~。両側から美少年と美少女に引っ張らららら、腕千切れちゃう!
なんか、肩ミシミシいってきた…!シオウ含む騎士様達は、オロオロするばかり…ひいん。
「クリスティーナ!やめなさい!」
「エルム、いけません!女性には優しくなさいと言っているでしょう!?」
「「いやです(わ)!!!」」
あ…関節が逝く…。第2王子殿下とリンダ様、もっと早く止めて欲しかった…な。
「こら!一体何をしているんだ!」
「「あっ!」」
意識が遠く…なる寸前に。後ろからひょいっと持ち上げられた…第1王子殿下?
殿下はすぐに「許可も無く触れてごめん」と謝りながら降ろしてくれた。紳士やん…ちょっとキュンとした。
お話は終わったようで、公爵様も苦笑いしながらやって来た。
「アガット兄さま!兄さまの魅力を理解してくださるのは、セレスト姉さまだけ…早く告白してくださいませ!!」
「クリスティーナー!!!」
顔を真っ赤にして開眼した殿下は、クリスティーナ様のほっぺを片手でむぎゅっと挟んだ。
ああ、美少女が…唇を窄めて突き出して…変顔に。……んぷっ、笑いそう…!
「あっははははは!!!変なカオ!!っあいだあっ!?」
「殿下を、いや淑女を指差し笑うとは何事か!!!」
大笑いしたエルムには、公爵様の鉄拳が。
ああ…賑やかだなあ。あの洞窟暮らしからは、想像もできないや。
─ねえセレスト、モテモテじゃーん!エルム様とアガット様、どっちが好み!?─
─ちょ、殿下を名前で呼ぶなんて不敬よ!
私は別に…どっちが、とかぁ…─
─年上と年下、魔法特化か武力特化か!糸目のキツネ顔イケメンか、生意気ヤンチャ美少年、やばっ!!─
「……ふふっ」
ここに眞凛がいれば…もっと楽しいに違いない。
と…小さく笑ったつもりなのに、意外と大きな声が出ていたのか。
全員…私に注目している!?
一瞬で頭が冷えて、両手を振りながら必死に弁明する。
「いや!今のは嘲笑とか、そんなんじゃなくてですね!?」
「あ…ちょっと、長居し過ぎてしまったかな。
僕達はこれで失礼するよ」
ん?まだ頬の赤らみが抜けない第1王子殿下、ぷいっと背を向けた。
そのまま王室組は帰る…最後は急だったな?
「…セレスト。さっきの笑顔は…俺にだけ向けてくれ」
ん?エルムは涙目で、頬を膨らませている…可愛い。
私、そんなに変な顔しちゃったかな…他人に見せるの恥ずかしい!的な!?
やば、気を付けよう。密かに決意しつつ、王室の馬車を見送る。
クリスティーナ様が両腕をいっぱい振ってくれたので、私も笑顔で手を振り返す。
「お姉さまーーー!また来ます、待っててくださいね~~~!!!」
「2度と来んな…」
隣でエルムがポソっと呟いた。すでに口悪いなこの子…
馬車が見えなくなり、私も家に帰る。
今度はシャディも一緒。もう…あまり洞窟には行けないかな。
公子様の婚約者がサバイバルしてるって、外聞悪いよねえ…
はあ。目立つのは嫌だったのに…仕方ないか。
変わらないものは無い。人との関係性も…環境も。
これから忙しくなるなあ、と伸びをして。
日が暮れるのが早くなった空を見上げた。
公爵様が、話し合いの様子を少し教えてくれたけど。
殿下はエリクサーの存在に驚くも、そんなに貴重な物を使ってくれてありがとう、と再び頭を下げたらしい。
王室に献上する分も受け取り、この事は決して口外しないと誓ってくれた。
多分鑑定とかするだろうな、絶対本物だけど!
殿下を撃った人は捕まり、処刑された。犯人の両親も…
他の実行犯も全員、これは本人だけ。
詳しくは教えてくれなかったが、第1王子殿下は度々狙われる事があるらしい。
それでも命の危機に瀕したのは今回が初めて。捜査で黒幕までは辿り着かなかったけど、少しは落ち着くだろう…と言っていた。
それから2週間程経った頃。
ホウキと夜行石の準備ができた、と公爵家に連絡がきた!
「お姉さま~!」
「わっと!」
また来たんか王女様!今日は第2王子殿下はいないけど。
クリスティーナ様がぴょんぴょん跳ねて、私の腕を引っ張る。
「夜行石はお姉さまのお家に設置しますわ。案内してくださいまし!ご両親にも挨拶しますので!」
「あ。えっと…私、両親はいないんです」
「え…?」
「なので、シオウ卿とメイドのシャディと3人暮らしを…クリスティーナ様?」
「……ごめんなさい…」
え、まさか…両親死んだと思ってる?
笑顔を消して俯いてしまった…そんな、あなたが心を痛める事じゃない!
「クリスティーナ様。詳細は語れませんが…私は今幸せなんです。
お願いです、あなたの可愛らしい笑顔を曇らせないでください。
私まで胸が痛くなってしまいます…」
泣きそうなクリスティーナ様の頬を撫でる。不敬かもしれないけど…こうしてあげたいの。
「…はい。やっぱりお姉さまは素敵な方ですわ!」
「…レインブルー嬢、ありがとう。
では屋敷に案内してくれるかい?」
少し元気が出たクリスティーナ様。では、ご招待いたしましょう!
目立たない馬車に……ん?
「なんで…エルムも…」
「俺がいちゃ悪いか」
「悪くありませんが…」
私とエルム、殿下2人が並んで座る。
そしてエルムは正面のクリスティーナ様と、火花を散らしている…
「うふふ、わたくしお姉さまのお隣に座りたかったのですが?」
「ははは、殿下を逆向きに座らせる訳にはいきません」
バチバチしてる…ふと顔を上げると、第1王子殿下が私を見ている?
「どうかなさいましたか?」
「あ…!ごめん。その…気になってる事があって」
彼は頬を人差し指で掻き、口篭ってしまった。
言いづらいなら無理せんでも…と口を開く前に、覚悟を決めた顔をされた。多分。
「…僕達が初めて会った時。その…どういう状況だった?」
「……………へ?」
「意識を失う直前、覚えているのは…驚きに目を見開く君の顔だったんだ。
次はベッドの上で…レインブルー嬢?」
「…………………」
やばい…頭が茹で上がる。折角忘れかけてたのに…!
全裸の私に、あなたが覆い被さったなんて…言えるか!!!
「……大した事じゃ、ありませんので。そのまま忘れてくださって結構です」
「でも…」
でもじゃない!あなただって気まずいだけでしょうが!
ふん!と顔を逸らすと、クリスティーナ様がぷんすこ怒った。
「お兄さま!女性が嫌がっているのです、おやめなさい!」
「う…」
いいぞもっとやれ!と脳内で援護射撃、対象が沈黙した!
それからは会話はなく、シオウの案内で家に到着したのである。
「わあ、素敵!ここがお姉さまのお家なんですね!」
ただの一軒家だけど…どうぞ見て回ってくださいな。
ちなみに最近、家に結界を張るのはやめた。人の出入りも多くなってきたし…ちゃんと鍵はしてるし。
夜行石は…玄関とダイニング。それと各部屋、お風呂なんかに設置してもらう!
よっしゃこれで蝋燭生活とはオサラバだ!
電気を知っている身からすれば、夜暗くてね~。廊下は我慢するけど。
「これでは余るが…」
「あ、まだあるんです!私のど……秘密基地が!」
なので全部ください!と言ったらくれた。
やったー明日設置しよう!
クリスティーナ様が秘密基地を見たい!と言うが、流石にお断りした。
ちょっと…そのお綺麗なドレスで、森歩きはやめましょうね。
「それじゃあ、最後に。ホウキなんだけど…」
「おおっ!」
第1王子殿下の付き人さんが、細長い包みを渡してくれた。
今開けていいですか!?と興奮気味に訊ねれば、くすっと笑いながら了承してくれた。
「わあ…なんか高級そう…!」
柄の部分がツヤツヤ…穂も大きくていいね。
それに、先端に小さな赤い宝石が…おしゃれ…!
「ありがとうございます!早速試してみます!」
「はは…そこまで喜んでもらえてよかった」
ええもう、一緒に寝たいくらい!
とりあえず軽く浮かせて、跨り庭を1周…楽しい!
「わたくしも乗せていただいてよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
私の前にクリスティーナ様を乗せ、地上からはあまり離れず飛ぶ。
彼女は楽しげに笑い、いつか自分もホウキで飛ぶ!と宣言した。
すると黙っていないのがエルム。俺だって…!とシャルル卿を連れて飛び出してった?
待つ事20分。エルムはにっこにこでホウキを持っている…?
「見ろ!俺もこれからはコイツで空を飛んでやる!!」
「ぐぬぬ…!お兄さま帰りましょう!早くわたくしも魔法を学びたいのです!!」
「まだお前は早いかなあ…」
「ふっふーん」
「ぐぎいぃぃ…!!」
なんでこの2人は、顔を合わせりゃ喧嘩腰なんだ?
エルムはフラフラしながらも上手く飛んでいる。
…公子や王女がホウキを使ったら…これ流行るんじゃない?やだ、私ってば時代の最先端?
ん?第1王子殿下が、どことなく寂しそうに喧嘩を眺めている…?
「僕は魔力が無いから…ちょっと残念、なんてね」
「……よろしければ、一緒に飛びませんか?」
考えるより、言葉が口を突いて出た。
殿下は驚いているが、男性とタンデムは何度かしてるし。
「セレストとお揃い~」
「きーーーっ!!そのホウキを貸してくださいませ!!」
「ははは、殿下は魔法を学んでいないのでしょう?」
「すぐ出来ます!!」
クリスティーナ様…めっちゃ地団駄踏んでる。
2人は放っておいて、戸惑う殿下を後ろに座らせ…地面を離れる。
「……わあ」
後ろから感嘆の声が聞こえる。
もっと高く飛んでいいかな?と護衛さんに確認すれば、見える範囲ならいいとの事。
では…屋根の辺りまで行ってみよう!
「小舟に乗せてもらう事はあるが…ホウキは感覚が違うな」
「でしょう?」
ふふん と誇らしい気分。
殿下は私の両肩を掴んでいるが…グッと力を込めた?
「…エリクサー。あれは、ブロウラン公子が愛する君へ贈った物なんだろう?それを僕に、躊躇いもなく使うなんて…」
「あ…」
顔は見えないけど、声が震えてる。罪悪感…?
いや、あれは元々私のなんで!と言えないのが苦しい。
「…殿下。エリクサーは貴重品とはいえ、後生大事に保管する物ではありません。
あれを使わなければ、あなたは亡くなっていた…。もしも過去に戻ってやり直せても、私は同じ行動をします」
「……君ほど気高い女性を、僕は見た事がない」
いや、買い被りすぎです。
ヒュウゥ… 風の音が、やけに大きく聞こえる。
そろそろ降りるか…と思ったら。
急に後ろから抱き締められた…?肩とお腹に腕を回され、彼の靡く髪が視界に映る。
「殿下…?」
「……さっき浴室に夜行石を設置してて、少し思い出したんだけど。
君…あの時。温泉に入ってなかった…?」
「……………な、」
に を。
…………!!?
「え、うそ!覚えてたんですか…!?」
「………そうみたい」
んな…!やばい、動揺して飛行が安定しない!
このままでは危険だと判断し、一旦屋根に不時着。
悩んだ結果…まずは腰を下ろす。
殿下もすぐ隣に座り、沈黙が流れる。
「「………………」」
どうしよう。言葉が出て来ない。
「いや~、お見苦しいものを見せまして」とか?
「エッチ!お金取りますよ!?」なんつって。
「あの…ちゃんとは、見えなかったから…」
「……チラッとは、見えたんですね?」
「…ごめんね」
アガット様は困ったように笑った。
これ…意識してるの、私だけだな?
そりゃそうか、15歳の彼からすれば、11歳の裸体なんぞなんでもないだろう。
よかった…ほっと胸を撫で下ろす。
「僕は…「どこか安全な場所に」と念じながらテレポーターを使った。
それが君の側…エリクサーに反応したのか、他の理由かは分からない」
あ…それでか。なんでかな~とは思ってた。
「(…よかった、彼女は怒っていない、けど…
女性にとても失礼な事をしてしまったし…せ、責任取らなきゃ…!)」
「いやあ、殿下が「責任取って結婚しよう」とか仰るタイプでなくて助かりました」
「え!?」
「え?」
「あ…いや」
???殿下はそれ以上黙ってしまった。
私も落ち着いたので、今度こそ地上を目指す。
「今なんて仰いましたの!?エルム様!!」
「なんだよクリスティーナ!!!」
お?まだ喧嘩して…ってか仲良くなってる?
騎士様達も微笑ましげ…何があったんだ、と首を傾げていたら。
殿下が私の手をそっと握った。
「…よければ僕も、君をセレストと呼んでいいかな?」
「は、はい。光栄です」
「ありがとう。それで…僕の事も名前で呼んで欲しい、な~って…」
繋がる手に力が込められる。
エルムより大きくて、シオウより細い指。
「……アガット様」
「うん」
私も握り返し、喧嘩する2人を暫く並んで見ていた。
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