捨てられた中ボス令嬢だけど、私が死んだら大陸が滅ぶらしいです。

雨野

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第1章

ドラゴンの巫女

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「~~~~~っ!!!!」

 2メートル程離れた所に、直径1メートルはありそうな目玉がぎょろり。
 驚きすぎて声も出ず、私は硬直してしまった。ここで失神できない図太さが憎い…!
 シオウが素早く動き、私を背に隠す。


「……領域に侵入してしまい申し訳ございません。
 私達は道に迷ってしまい…決して貴方様に危害を加えようなどと考えてはおりません」

 シャディをそっと寝かせて、フードを外してその場に膝を突く。私も…!

「申し訳ございません。すぐに御前より姿を消します、どうか寛大な御心で慈悲を賜りたく存じます」

 隣に膝を突き、頭を下げる。
 その時…ドラゴンがカパっと大きな口を開けた!喰われる…!?とぎゅっと目を閉じたら。



「………くわああぁ~~~…」



 大きく欠伸をして、閉じた。
 なんだ…と気が抜けたのも束の間。ぐらり… 洞窟が揺れた。

「きゃっ!」

「こっちに!」

 シオウがシャディを肩に担ぎ、左手で私を抱き締めた。
 ドラゴンが起き上がり、足踏みをしただけでこの揺れか!パラパラと、天井から粉が降ってくる。

 そしてドラゴンは準備運動のように、ぐりんと首を回した。
 尻尾を振ったり、翼を広げたり。一通り終えると…私達に狙いを定める…!



 大きな顔が近付いてきて、恐怖で腰が抜けてしまった。
 ふんふん、ふん。思いっきり匂いを嗅がれている…!?
 次にシャディ、シオウも。彼も恐怖に震えつつも、なんとか耐えている。


「……………ふむ」

「「!!?」」

 ドラゴンが、しゃべった!?


「…娘、名は」

 娘…?シャディは意識が無い、なら私…?

「セレスト・レインブルーと申します」

 ガチガチと、歯の根が合わないけれど根性で言葉を発する。
 ドラゴンはふむ…と考える素振りを見せた。

「そこな坊主と小娘は、其方のなんだ?」

「…護衛と、メイドです」

「大切な人間か?」

「はい。私を守ってくれて、心を砕いてくれて。側にいると安らぐ…大切な人達です」

 ドラゴンの意図は分からないが、私の純粋な気持ちを紡ぐ。
 シオウが…私を抱く腕に力を込めて。それだけで、少しだけ安堵した。


「……ふむ。儂はセレストに用がある。其方らは出ていなさい」

「え…」

「な…!私はセレスト様の護衛として、お側を離れる訳には…!」

「喧しい」

「うわっ!!」

「シオウ!?」

 ドラゴンがふぅっと息を吐いたら、2人が横穴に吸い込まれて行った!?

「安心しなさい、外に出ただけだ。さて…」

 背中に圧を感じ、全身を大きく跳ねさせる。
 怖い…!1人になると、比べ物にならない恐怖に襲われる。

 涙がポロポロ溢れ、尻餅をついた状態でなんとか距離を取る。

「……儂が怖いか?」

「はいぃ…!」

 正直に言えば、ドラゴンは目を閉じて。
 シュウゥ… 煙に包まれ、その巨体がみるみる萎んでいく。


 こ…これは!眞凛が好んでいた、ドラゴンのイケメン化or美女化か!?
 ごくりと喉を鳴らして、煙が晴れるのを期待しながら待つと…!!



「これでどうか?背丈は人間と変わるまい」

「…………………」

 そこに、いたのは。


 逞しい身体、長い手足。背中には翼、腰の下から尾を引き摺り。
 顔は…2本のツノを除けばほぼトカゲ。
 全身を鱗に覆われた、リザードマンじゃね…?


「……ドラゴン様、ですか?」

「左様」

 思ってたんと違う。けど…恐怖は彼方へとすっ飛んでいった。
 ドラゴン様は私の両脇に手を入れて、高い高いの要領で持ち上げた。


「待っていたぞ、儂の愛しい娘」

「待っていた…?」

「ああ。異世界の贈り物は役に立っておるか?」

「………!?ボックスの事ですか!?」

「それよ」

 なんでそれを!?彼はこの世界と日本の関わりを何か知っているの!?



「知りたければ、全て話そう」

「お願いします!」

 私は知りたい、自分の事を。なんで日本のゲームに、私達そっくりな人達が登場するのか。
 私と…ドラゴン様は。必ず死ななければならない運命なのか。
 地面に降ろされて、その大きな目を真っ直ぐに見据えて言葉を待つ。


「まず…其方は儂の、ドラゴンの愛し子と呼ばれる者だ。巫女…と言えば分かるか?」

「…あ!!」


 以前本で読んだ。
 神の遣いであるドラゴン。その傍には、ドラゴンと心を通わせる巫女がいると。
 巫女はドラゴンと人間を繋ぐ架け橋として敬われていた。だがある時。

 ならず者が…巫女を殺して成り代わり、ドラゴンを意のままに操ろうと目論んだ。
 ドラゴンは激怒して、周辺の人間を皆殺しにし。
 それでも怒りは収まらず、いくつもの国を滅ぼして。

 神々に止められ、裁きを下されるまで暴れ。
 巫女の名を呟きながら…息絶えた。


 シオウの話とも似通っていたけど、所詮物語だと思ってた。
 でも巫女は実在した…?



「そうだ。そして其方は儂の巫女…待っていたぞ」

 ドラゴン様は私を膝に乗せて座り、後ろから頬擦りをしてきた。
 鱗がすべすべだけど、温かい…不思議な感覚。


「其方はこの先…若くして命を落とすと天啓が下った。
 儂はその原因となる娘を殺し、大陸を滅ぼすとな…」

「な…」

 まさか、ゲームでドラゴンが暴れたのって。
 セレストが死んだから…?


「様々な可能性を検証するも、未来は固定。
 神々はそれを阻止する事とした。だが…彼らは人間の世界に干渉する事叶わず。
 故に其方が自力で運命を変えるしかない」

「……………」

「その手助けとして、其方の前世に遡り…神々はげえむという物に目を付けた。
 眞凛にのみ認識可能であり、充分に物資を集めてもらい。それまで貯めた全てを持って生まれ直した、それが其方だ。
 回りくどいが、それならば神々がこの世界の人間に干渉した事にならぬからな」

「誰が…ゲームを作ったのです…?」

「芸術の神と愛の神」

 すごいな神様。
 でもそういえば…眞凛の記憶だと。あのゲーム、彼女しかやってなかったな。
 公式SNSも無い、テレビCMも無い、グッズも無い。でも…まるで気付かなかった。

「では…攻略対象に選ばれた32人は?」

 ちょっとルージュ、32股しちゃってた?

「それらは妹が1度でも挨拶をしたなど、ほんの少しでも関わった男。いや…全ては予測された未来でしかないがな」

 ほう?そうか、あのストーリーは全部…神様が作ったのか。
 それでもキャラクターの性格や過去は、こちらの世界に忠実だとドラゴン様は言う。


 …?あれ、待てよ。じゃあまさか…!

「眞凛は、私にアイテムを渡す為に…命を奪われたのですか!?」

 それは、あまりにも酷い…!
 こっちの世界を救う為に、彼女を犠牲にするなんて。

「それは違う。その娘は本来…もっと早くに死ぬ運命だった。
 修学旅行、とやらで事故に遭い。故に神々も予想外の行動に困惑したそうだ。
 それまでに集めたあいてむだけ、持って来てもらうつもりだったのでな」

 …つまり。修学旅行に行かなかったお陰で、一旦寿命は伸びたけど。
 その後アホやらかして、結局若くして亡くなった…とな。
 更に予想を超えてにゲームに入れ込み、期待以上にお金とアイテムをかき集めてくれた…


 グッジョブお姉ちゃん、サンキュー。
 私、絶対長生きしてみせる。けど…

 ドラゴン様は私の腰を優しく抱き、頬を撫でた。

「でも…どうしてもっと早く、ボックスをくれなかったんですか。
 そうしたら…エリクサーで、お母様も助けられたのに…!!」

 止まっていた涙が、再び頬を伝い落ちる。
 ずっとそう考えていた。万病を癒すエリクサー。なら、あと数日早く手に入れば…!!


「…それは、出来なかった。ぼっくすは其方の魔力と連動している…封印と同時に解放されるようになっていたのだ」

「う……ぅっく…!」

 たらればの話をしてはキリが無い。
 これまでアガット様や村の人達…多くを救えただけで、ボックスは大いに役立っている。


 でも…お母様…!


 …?ドラゴン様が、顔を寄せてきて…頬を舐めた?
 あ、涙を掬ってくれているのか。でもくすぐったい!

「あは、あははっ!」

「ああ…やはり其方は笑顔が似合う。
 母君は残念だった。だが…この先は違う。
 儂もこの地に封じられていたが…巫女がいる以上、その必要はない」

「え…」

「儂も待っていたのだ、其方がこの地に導かれるのを」

「私は…シオウに樹氷の話を聞かなければ、この地に来る事は無かったはず…」

「いいや、経緯は違えどドラゴンと巫女は引かれ合う。人はそれを『縁』と呼ぶのだ」

「縁…」

「ここに縁は結ばれた。さあ、行こうか。
 儂も神々同様、人間社会に関与するのはあまり思わしくない。
 故に、未来で縁を結んだ時も…其方が壊れていくのを、ただ見る事しか出来なかったと神々は言う」

 それは、本来の運命…




 ドラゴン様も、神々に聞いただけだという話だけど。


 私は捨てられ、復讐の鬼と化し。
 ただただティアニー家を滅ぼす為に生き。
 その過程で…霊峰にも訪れた。

 それはほんの気まぐれだったのか。
 ドラゴンの噂を聞いたのか、神聖な場所に思うところでもあったのか。その辺は我ながらなんとも言えないけど。

 結果ドラゴン様と出会い、共に王都に向かい。
 両親と使用人を皆殺しにし…学校へ向かった。
 ドラゴン様は止める事も、手助けもしなかった。

 復讐はやめて、一緒に暮らそうと言っても。私はもう、引き返せなかったのだ。

 そして、私は森で過酷な暮らしをしていたのに…妹は何不自由なく学校生活を楽しんでいて。
 そんなルージュに襲い掛かり。最終的に倒されて…


「違う、それはげえむの話だろう?実際は…其方は妹を殺せなかったのだ。
 あと一歩、というところで。どうしても…躊躇い。
 大粒の涙を流しながら…短剣で己の胸を貫いたのだ」

「へ…私が、そんな事を…?」

 ドラゴン様は頷いた。
 ……そうか。最後の最期で私は、罪悪感と良心に負けたんだな…



「…お話ありがとうございました。でも…ドラゴン様は私が自ら死ぬのを止めはしなかったのですか?」

「間に合わなかったのだ。復讐は1人で果たすという其方の希望でな。
 復讐を全て終えたら。人里離れた場所で…静かに生涯を過ごそうと言っておったのにな…」


 私が死に、ドラゴン様は我を失いルージュを殺し…全て天啓の通りになったのだ。


「そもそも巫女が死んだら、ドラゴンは暴れてしまうものなんですか…?」

「いいや、天寿を全うしたなら静かに見送る。巫女は病で死ぬ事は無い」

「え、生涯健康?」

「左様。そして様々な危険から守るのは儂の役目…今度こそ、果たしてみせよう」


 ドラゴン様は私を横抱きにして立ち上がり、さっきシオウ達が消えた横穴に向かって歩く?

「どちらへ…?」

「無論、外の世界へ。言うたであろう?巫女…愛し子が側にいる以上、この地に封じられる必要はない。
 元々人間に恐怖を与えぬよう、引き篭もるか愛し子という安全装置を側に置くかしているのだ」

 まさか…ついてくる気か…!?ドラゴンなんて、どう説明すればいいの!?

「説明など不要。儂はただそこに在るだけよ」

 私がしっかりせねば…!
 横穴に足を踏み入れると、ヒュゴオォォッ!!と突風が吹き荒んだ。
 反射的に目を閉じて、次に開いた時は。



「セレスト様…!」

「あ、シオウ!?」

 洞窟があった崖…いや穴が消えている。
 とにかく外に出ていた。ドラゴン様が降ろしてくれて、シオウに駆け寄る。

「うわ顔色悪い!寒かったよね、今あっためる!」

「ああ、悪い。一応俺も魔法で暖は取ってたが…」

 外はもう暗く、満天の星空が広がっていた。
 彼はシャディを優先して暖めていたようで、その手は氷のように冷たい。
 毛布を出して巻いて、魔法で空気を暖めて。
 その間シオウは、私の後ろをじっと見ていた。

「まさかと思うが…そちらは…」

「うん…ドラゴン様…」

「………………」

 その目やめて、私だって好きで連れてきた訳じゃない。
 流石に今から宿を探すのは無理だ。そう思い…残念だけどテレポーターで帰ろうかな、と息を吐く。
 ドラゴン様を公爵家に報告しといた方がよさそうだし…


「ふむ。ならば乗るが良い」


 え。と声を上げる前に。
 ドラゴン様が大きな翼を広げると…巨体に戻っていた。

「そこな坊主と小娘も許す。我が巫女の世話役として、ついでに守ってやろう」

「ありがとうございます…?おいセレスト様、巫女って…?」

「後で…話す…」

 色々考える事は多いけど。
 このドラゴンは…私の理解者で、世界より愛しく想ってくださる方。
 ならば信じてみよう。この先…何が起ころうとも。




 ドラゴン様は人間の飛行とは比べ物にならない程、静かに速く大空を舞う。
 シオウも感心したように声を上げている。
 すごい…これなら1時間もしないでブロウラン領に着きそう。

 さっきまでの緊張とか、疲れが押し寄せて…ウトウトしてきた頃。
 ドラゴン様が声を掛けてきた。

「其方は儂の愛し子。故に…名で呼ぶ事を許す」

「ドラゴン様の…名前…?」

 そういえば失念してた、ドラゴンってのは種族名だ。
 なら…あなたの名前は、なんて言うのですか?


「…カルジェナイトだ。さあ、呼んでみなさい」

「はい…カルジェナイト様…」

「いい子だ」

 カルジェナイト…うん、素敵な名前。どうかこれからも…私を見守っていてください。


 ここで限界を迎えた私。寝入ってしまい…その結果どうなったかというと。


 残されたシオウが住んでいる町はここです!と案内して。
 カルジェナイト様は…巨体のまま大通りに降りて。
 夜で人が少ないとはいえ、酒屋は繁盛している時間。目撃者はそれなりにいる。

 突如現れたドラゴンにその場は騒然。シオウあたふた。
 小さくなってください!と必死にお願いし、なんとか縮んでも。

 今度は魔物だー!と騒がれて。
 警備がすっ飛んで来て…シオウ降参。
 俺は公爵家の騎士ですー!!と公爵に助けを求めて。その間私とシャディは、カルジェナイト様に抱っこされていた。


 公爵様、騎士、エルムが大急ぎでやって来て。
 シオウ涙目で説明。ドラゴンだと信じてもらえたけど…全員その場で膝を突く。

 まあ私がドラゴンの巫女だと…一瞬にして噂は広まって。



 王室に呼び出されるまで…あと少し。


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