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第1章

霊峰シャンテリオン

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「「おお~…!」」


数時間後…ついに来たぞ、霊峰シャンテリオン!!
上から眺めると…雪に覆われた木々が連なって、自然の芸術に圧倒される。

私とシャディは身を乗り出し見物。
シオウが落ちんなよー、と服を引っ張ってくれる。

寒いけど、これは来てよかった。
天気もいいので、雪が太陽光に反射して…キラキラ輝いている。


「ねえ、ちょっと降りてみない?」

「はい、賛成です!」

「でも舟から降りないようにな。足が沈むぞ」

はーい。てな訳で、スノーモービルのように雪の上ギリギリを滑る。


下から見ると、また違った迫力がある…。
やっぱり綺麗な景色を見ると、心が洗われる気がする。

それに山の動物達も見かけた。
ウサギ、キツネ、なんだろうあの鳥?魔物は…いないよね?

「ドラゴンがいるから、魔物はいないって噂だな。
どうする?ちょっくらドラゴン探すか?」

「してたまるか!」

シオウはあまり景色には興味なさそうで、私達の反応を楽しんでいる。
でも…ドラゴンは勘弁!


景色を楽しむだけでなく、ソリのように、地上をシャーっと滑る!
ひえー、楽しい!木にぶつかりそうになっても、私がコントロールして華麗に回避!

雪の少ない場所で、飛行は一旦休んで。
宿で貰った軽食を食べ…温かいお茶でほう…っと一息。


狼っぽいのを見掛けて、全力で逃げた。
しばらく狼はこりごりだ~!!





「あら?お2人共…あれ、洞窟では?」

景色も堪能したし、撤収して今日の宿を探しに行こうとしていたら。
シャディが指すのは…本当だ、崖の下に洞窟っぽい穴がある。

「ふむ…洞窟マイスターの私としては、是非行かねばなるまいて」

「いつの間にそんな称号を…」

今決めた。
まあ実際、いい洞窟だったら私の別荘にしよう!


ススス… 近付くと、思ったより穴が大きい。高さ10メートルはありそう。
一歩踏み入れるとまるで別世界。外のような空気の冷たさが無く、生温い風が奥から吹いている。


「うわ…なんだここ」

「洞窟に生えてる…水晶でしょうか。綺麗ですね~…」

天井から、壁から足元から。細長い結晶が輝いている。
どうやら奥まで続き…これって夜行石?洞窟を照らしている。

「いや、夜行石なら昼間太陽の光を吸収して、それを夜放出してるはず」

「だよね。奥に太陽光は届かないはずだし…」

3人で顔を見合わせる。
まあ…行ってみるか!
彼らにも無効系アイテムは渡してあるので、警戒して進めばいいでしょう。


シオウ、私、シャディの順で、結晶に照らされる道を歩く。
カツン… カツン… 響く足音が、どことなく不安を煽る。
動物とか全然いないな、コウモリも。冬眠中か…?

道中の結晶は青や赤、紫なんかに光っていて。
ちょっと持って帰ろうか…いや霊峰だしなー!と己の欲と戦いながら進んで行く。


しかし5分は歩いたつもりだけど、まだ続いてる。

「これ、もしかして反対側に出んじゃ……ええっ!?」

シオウが振り返り大きな声を出し、反響するもんで驚き肩が跳ねた。

「何すんの!?」

「し、心臓があ~…!」

「いや、後ろ見て後ろ!」

後ろ…?訝しげに振り向けば。


「は…?道が、2つ…?」

いや…ずっと一本道だったよね?
ちょっと戻ってみるか。



……今度は3つ…?
…もっかい戻ろう。あら、行き止まり?いやだって今…あら?
シオウが顔を引き攣らせ、震える声を出した。

「や、やばい。まさかこれ…黄昏迷宮…なんじゃ?」

「何それ…?」

「いや、俺も傭兵仲間に聞いたんだけど…」




黄昏迷宮。
それは黄昏時にのみ姿を表す、神々の遊戯場。
資格の無い者が立ち入れば、たちまち暗闇に呑み込まれて亜空間に放り出されてしまう。

招待された者なれば、光に導かれる。
深淵へと辿り着き、あなたの願いは叶うでしょう…




「……っていう、おとぎ話。俺も信じてる訳じゃねえけど…そういや夕方だったよなーって」

「「………………」」

いや…ははは、まっさか~?……ね?

「はわわ…私達、亜空間に入っちゃったんですかあ…!?」

シャディが、白目を剥いて涙を…!しまった彼女はこういうの信じるタイプだ!

「落ち着こう!ほら、光に導かれるってこの結晶の事じゃない!?
ならとにかく進もう!大丈夫、食料たんまりあるから1ヶ月は保つ!!」

「食料…ボックス…はっ!!セレスト様、エルム様に通信を!」

「その手が!!」

急いで取り出し、魔力を流す!
すまんエルム、遠いけど助けにきてー!!!



 ……ツーーー…ピーーー…



つ う じ な い !!
嘘でしょ、電波…じゃなくて、魔力が遮断されてる…!?

「……あ、テレポーター!!」

一縷の望みをかけて、全員手に取り「ブロウラン領の邸宅」を思い浮かべて力を入れる!

………折れない。「洞窟の外へ!」も無理。
無言でテレポーターを回収した。

万事休すか…今にも失神しそうなシャディ、頭を抱えるシオウ。項垂れる私……どうしよう…?


「わ…私が、洞窟を見つけちゃったから~…!」

「いや…私が意気揚々と入ったから…」

「俺が止めなかったから…」

3人で洞窟に座り込み、それぞれ己を責める…。


いや、くよくよしている場合じゃない!

「行くよ!どうせなら、この洞窟を踏破するぞ!」

「お嬢様…」

「導く光!ほら、分かれ道でも結晶が光ってんのとそうじゃないのがある!
光ってる道を選んで、ガンガン行くぞ!!」

生きて帰れないんじゃないかって、恐怖は拭えないけど。
でも…!縮こまる心臓に火をつけて、なんとか奮い立たせる!


「…おう。ここで座り込んでても死ぬだけだ。
それなら最終手段は壁でも壊すか」

「……はい。私も頑張ります…!」

よかった…2人も立ち上がってくれた。
本当に、怖いけど。1人じゃないから…前に進める。


逸れないよう3人で手を繋ぎ、光を道標にひたすら歩く。目印に金色の砂を落としながらね(最初に熊を倒した時のやつ)。
休憩中、時計を見れば洞窟に入って1時間は経っている。
心が折れそうになるけど…負けない!!


そこから更に30分歩くと…。

「……なんか、道がデカくなってきてねえか?」

「確かに…」

「大きいのは入り口だけで、あとは高さ3メートルくらいでしたもんね…」

それが進むにつれて、天井が高くなってきている。
ずっと景色に変化が無かったから、グルグル回ってるんじゃないかって心配だったけど!

みんなで顔を合わせて、わあっ!と喜ぶ。
もしかしたら出口が近いかも…!小走りになりながら、広い道の先へ進むと!!!




…………………。




辿り着いたのは、学校の体育館くらいありそうな広い空間。
無数の結晶が生えていて、洞内を七色に照らしている…んだけど。



 …グゥ……グゥ……



私達の目の前に…とんでもないモノがいる。


全身を硬く冷たそうな鱗に覆われて。
巨大な翼を布団のように被り。
こちらに突き出されている前脚?からは鋭い爪を覗かせて。
長い尻尾を枕にして、眠っている……。




ど……ドドドドド、ドラゴン……!!!


嘘でしょ、本当にいたなんて…!
ドラゴンを前に、私達はゆっくりと後退る。
ここからは小声で話し合いだ。

「ど、どうする?来た道を戻るしか…?」

「いや…迷うだけだ。それより、あそこ」

?シオウが顎で示したのは、小さな穴…?

「あそこが出口かもしんねえ。確信はねえが、この部屋にそれ以外の道は無い」

そこは…ドラゴンの頭部分に近い壁。
もし起こしたら…いや。いざとなったら命乞いで見逃してもらおう…!

「ドラゴンさんに喧嘩売る気は無いんです!って誠心誠意土下座かな」

「……俺が行く。お前らはここで…」

「な訳ないでしょ」

「…ったく」

逃げ道も分からない場所で、分断されたら詰みだ。
もしあそこが出口なら、ダッシュで逃走もできるかも…!


ところで、さっきからシャディが静かだけど。
彼女はドラゴンを見た途端、ふらりと意識を失った。なのでシオウが背負っています。



「そうだ、隠密ローブ。これを…」

ローブは4つあるのでな、全員装備だ。
同じローブを着ている者同士は認識できるので、はぐれる事なく進めるはず。
音も消えてるはずだけど。抜き足差し足忍び足…ドラゴンさんの寝室を横切らせていただきます。



そろ… そろ… いい感じ?
洞窟内は耳が痛い程の静寂に包まれている。隠密ローブ様様だね!ありがとう眞凛、何度感謝してもしきれない!!!


……ん?静寂?
さっきまで…微妙にだけど、ドラゴンのイビキとか聞こえてなかった?

シオウも同じ思考に至ったのか。横を見上げると…青い顔で汗をダラダラ流している。
多分、私も同じ顔をしているだろう…。



そ…っと…首を捻り、横を見ると……。




「………………………」




ドラゴンが…さっきまで閉じていた大きな瞳で。
私達を…確かに捉えていた。


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