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第12話 聖女と
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勝ち誇ったような高笑いをしていたマリアンヌがハクを指差す。
「さあ聖獣よ、命令します。この私に楯突いた愚かな平民の粗末な家を破壊してやりなさい」
「ちょっ、聖女様! そんな事までしなくても」
エーゲルさんの慌てた声が聞こえる。
「お黙りなさい。聖女であるこの私に逆らったのです。命を取らないだけ優しいとは思いませんか? さあ、やりなさい」
「断るのである」
「うふふ、どうですか! ……って、今なんと?」
「断ると言ったのである。なぜ吾輩が貴様のような者の命令をきかねばならんのであるか?」
「……どういうつもり? 聖女に逆らえば苦しい目に合うと解っているのかしら?」
確かに聖女は痛みをもって聖獣を従わせる事も出来る。
聖獣が暴れて制御出来なくなった時などに使われる手段であり、私も前世でやむを得ず一度だけ使った事がある。
「躾が必要なようね。可愛いペットにこんな事をしたくは無いのですが……!」
聖女の印がある右手を高々と挙げてマリアンヌが笑う。
「やれるならさっさとやるのである」
「え? あれ?」
私は溜息を吐く。
「聖女の皮を被った醜女め。貴様のような愚か者と契約するはずが無いのである。さっさと立ち去るのである」
『……諦めて契約しようとしてたけどね』
『ニャー!』
ハクが恨めしそうにこちらを見ている。
結果的には救ったんだからそんな顔しないの。
「こんな、馬鹿な話あるわけないわ!」
「おい、聖女様が聖獣にフラれたぞ……?」
「まさか偽物なんじゃ……」
「しっ! 聞かれるぞ」
(うーん、私に聞こえてるからマリアンヌにも聞こえてると思うよ……?)
「こうなれば……騎士エーゲル、聖獣を確保しなさい。連れ帰ってゆっくりと調教してあげるわ」
「ご冗談を。……冗談ですよね? 参ったな」
ハクへと歩み寄るエーゲルさんが剣に手をかける。
『アイリス、下がるのである。此奴なかなか手強いやも知れぬのである』
思ったより緊迫したハクの声が頭に響く。
え……エーゲルさんってそんなに強いの?
「兄ちゃん、止まってね。姉ちゃんに優しくしてくれた人に怪我させたく無いから」
「ここまで大人しく見守らせて貰ったが……あの女の姉さんとモフモフに対する態度は目に余る」
私とハクを守るようにプロイとニュクスが立ちはだかった。
「だよねぇ」
エーゲルさんは振り返り、兵隊達に向き直ったかと思うと急に膝をついた。
「ぐぅ、き……急に腹が痛く……」
へ?
「うあー、頭が痛いぞー」
「俺は持病の腰痛がー」
「ダメだ、腹が減って死ぬー」
次々と兵達が倒れて行く。
「ぬう、これは一大事だ……皆、聖女様を連れて撤退するぞー」
「「了解です!」」
「えっ? ちょっ、何を! 離しなさい!」
マリアンヌを抱えたエーゲルさんは彼女を馬車に押し込めると、私達に向かい片目を閉じた後に頭を下げて馬に乗る。
「全員、撤退だ!」
そして来た時と同じように隊列を組み、来た時と同じ方へと帰って行った。
「なんだなんだ? 帰っちゃった!」
「……姉さんの威厳に押されて退いたのだろう。賢い選択だ」
『どさくさに紛れてモフモフとか言われたニャ』
取り敢えず……問題は去ったのかな?
安堵の息を吐く私の左手に火傷のような痛みが一瞬走る。
手の甲には聖女の印である四葉が浮かび上がり、葉の1枚が白く染まる。
(あ~……やっちゃったなぁ……絶対これから大変になるんだ……。あれ?)
『ハク、気になることがあるんだけど?』
『なんであるか?』
『どうして私と契約できたの?』
『アイリスが求めてくれたからであろう?』
『そうなんだけど、そうじゃなくて! 聖獣と契約出来るのは聖女だけでしょ?」
『そうであるな』
『じゃあどうして……まさか?』
『うむ? アイリスは聖女であるな。それ故、吾輩と契約せぬかと誘ったのだが……』
『あの神ぃ……次に会ったら土下座じゃ済まさないから……』
『……怖いニャ』
こうして一旦は危機が過ぎて、不安は残るものの日常を取り戻したのでした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「聖女様も落ち着いて下さい。一旦帰って今後のことはその後考えましょう?」
馬車の外から騎士の声が聞こえる。
うるさい奴だ……お前が使える奴ならこんな恥はかかずに済んだのに!
あの平民の娘、あいつも気に入らない。
あの目は嫌な相手を思い出させる。
私から輝かしくなる筈の人生を奪った女の目。
憎い、憎い聖女アリスと同じ目だ。
あの女と同じ目をしたあの娘、今度は邪魔をさせたりはしない。
私は聖女になるため、今度こそ世界を手にするため。
その為に転生したのだから。
「さあ聖獣よ、命令します。この私に楯突いた愚かな平民の粗末な家を破壊してやりなさい」
「ちょっ、聖女様! そんな事までしなくても」
エーゲルさんの慌てた声が聞こえる。
「お黙りなさい。聖女であるこの私に逆らったのです。命を取らないだけ優しいとは思いませんか? さあ、やりなさい」
「断るのである」
「うふふ、どうですか! ……って、今なんと?」
「断ると言ったのである。なぜ吾輩が貴様のような者の命令をきかねばならんのであるか?」
「……どういうつもり? 聖女に逆らえば苦しい目に合うと解っているのかしら?」
確かに聖女は痛みをもって聖獣を従わせる事も出来る。
聖獣が暴れて制御出来なくなった時などに使われる手段であり、私も前世でやむを得ず一度だけ使った事がある。
「躾が必要なようね。可愛いペットにこんな事をしたくは無いのですが……!」
聖女の印がある右手を高々と挙げてマリアンヌが笑う。
「やれるならさっさとやるのである」
「え? あれ?」
私は溜息を吐く。
「聖女の皮を被った醜女め。貴様のような愚か者と契約するはずが無いのである。さっさと立ち去るのである」
『……諦めて契約しようとしてたけどね』
『ニャー!』
ハクが恨めしそうにこちらを見ている。
結果的には救ったんだからそんな顔しないの。
「こんな、馬鹿な話あるわけないわ!」
「おい、聖女様が聖獣にフラれたぞ……?」
「まさか偽物なんじゃ……」
「しっ! 聞かれるぞ」
(うーん、私に聞こえてるからマリアンヌにも聞こえてると思うよ……?)
「こうなれば……騎士エーゲル、聖獣を確保しなさい。連れ帰ってゆっくりと調教してあげるわ」
「ご冗談を。……冗談ですよね? 参ったな」
ハクへと歩み寄るエーゲルさんが剣に手をかける。
『アイリス、下がるのである。此奴なかなか手強いやも知れぬのである』
思ったより緊迫したハクの声が頭に響く。
え……エーゲルさんってそんなに強いの?
「兄ちゃん、止まってね。姉ちゃんに優しくしてくれた人に怪我させたく無いから」
「ここまで大人しく見守らせて貰ったが……あの女の姉さんとモフモフに対する態度は目に余る」
私とハクを守るようにプロイとニュクスが立ちはだかった。
「だよねぇ」
エーゲルさんは振り返り、兵隊達に向き直ったかと思うと急に膝をついた。
「ぐぅ、き……急に腹が痛く……」
へ?
「うあー、頭が痛いぞー」
「俺は持病の腰痛がー」
「ダメだ、腹が減って死ぬー」
次々と兵達が倒れて行く。
「ぬう、これは一大事だ……皆、聖女様を連れて撤退するぞー」
「「了解です!」」
「えっ? ちょっ、何を! 離しなさい!」
マリアンヌを抱えたエーゲルさんは彼女を馬車に押し込めると、私達に向かい片目を閉じた後に頭を下げて馬に乗る。
「全員、撤退だ!」
そして来た時と同じように隊列を組み、来た時と同じ方へと帰って行った。
「なんだなんだ? 帰っちゃった!」
「……姉さんの威厳に押されて退いたのだろう。賢い選択だ」
『どさくさに紛れてモフモフとか言われたニャ』
取り敢えず……問題は去ったのかな?
安堵の息を吐く私の左手に火傷のような痛みが一瞬走る。
手の甲には聖女の印である四葉が浮かび上がり、葉の1枚が白く染まる。
(あ~……やっちゃったなぁ……絶対これから大変になるんだ……。あれ?)
『ハク、気になることがあるんだけど?』
『なんであるか?』
『どうして私と契約できたの?』
『アイリスが求めてくれたからであろう?』
『そうなんだけど、そうじゃなくて! 聖獣と契約出来るのは聖女だけでしょ?」
『そうであるな』
『じゃあどうして……まさか?』
『うむ? アイリスは聖女であるな。それ故、吾輩と契約せぬかと誘ったのだが……』
『あの神ぃ……次に会ったら土下座じゃ済まさないから……』
『……怖いニャ』
こうして一旦は危機が過ぎて、不安は残るものの日常を取り戻したのでした。
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「聖女様も落ち着いて下さい。一旦帰って今後のことはその後考えましょう?」
馬車の外から騎士の声が聞こえる。
うるさい奴だ……お前が使える奴ならこんな恥はかかずに済んだのに!
あの平民の娘、あいつも気に入らない。
あの目は嫌な相手を思い出させる。
私から輝かしくなる筈の人生を奪った女の目。
憎い、憎い聖女アリスと同じ目だ。
あの女と同じ目をしたあの娘、今度は邪魔をさせたりはしない。
私は聖女になるため、今度こそ世界を手にするため。
その為に転生したのだから。
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