転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第51話 聖女の名乗り

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「き、貴様ら! これが見えんのか!」

 私がハクの背にしがみ付き敵の後方にたどり着いた時、フリューゲル男爵の声が聞こえた。

 声のした方を見ると、プロイとニュクスが睨む先で拘束されたエーゲルさんに武器をつきつけるフリューゲル男爵の姿があった。

「一歩でも動いてみろ……こいつを串刺しにしてやるからな!」

「兄ちゃんっ……! 汚いぞ、普通に戦え!」

 顔を赤くして怒るプロイに向けて更に顔を赤くしたフリューゲル男爵が吠える。

「たかが平民が貴族に対しふざけた口を利くな! ……ブリッキン子爵、このガキ供を拘束しろ!」

「なっ……男爵の貴方より私の方が爵位は上なのだが?」

「ふん、どうせこの戦が終われば爵位も変わる。このフリューゲルに逆らうというのなら……」

「……解った」

 不承不承ながらもフリューゲル男爵の言葉に従うブリッキン子爵。
 どうやらこの反乱においてフリューゲル男爵の力は相当大きく作用しているようだった。

「悪く思うなよ……大人しく拘束されれば君達に危害を加えないよう私が取り計らおう」

 ニュクスとプロイの前に進み出た子爵とその私兵が2人を拘束しようと……

「あ~……私に気を遣う必要は無いから。流石にこれ以上は後楯も居なさそうだし……大人しくするのも終わりだね」

 そう言ったのはエーゲルさんで、彼は笑顔でヒラヒラと手を振っていた。
 そう、手を振っていた。

「貴様、なんの強がりを……へぁ!? 手、拘束は!?」

 フリューゲル男爵に突き付けられていた槍の柄を持ちエーゲルさんが笑う。

「ああ、これですか? これは……」

 エーゲルさんが何かを呟くと彼の足を縛り付けていた縄がぷつりと切れる。

「こんな感じです。私の魔法は風の魔法でして……早く動けるだけじゃなくこういう使い方も出来るのですよ」

 完全に自由を取り戻したエーゲルさんは槍の柄を勢い良く回して奪い取ると、フリューゲル男爵の喉元に突き付けた。

「さて……アイリスさん」

「え、あ、はい!」

 いきなり名前を呼ばれて驚いたけど……取り敢えず元気そうで良かった。

「反乱を起こした貴族が複数名、そして聖女を騙り煽動したマリアンヌ。全てを拘束して陛下の前に引き出します。お手伝いをお願いしても?」

 私の胸に様々な感情が溢れる。
 しかし、迷わずに言えるのは……

「私も手伝います。聖女マリアンヌは私の友達にも手を出したので……お礼をしないといけませんから」

「……聞いたかプロイ」
「うん。姉ちゃんが言うなら……」

「くっ!」

 真剣な顔になった弟達2人、それを見る私とエーゲルさんの目を盗んでフリューゲル男爵が逃走する。
 これではまた戦いが長引いてしまう。

「ガァァァ!」

 突如咆哮を上げたハクに皆が固まり視線が集まる。

「アイリス、任せるのである」

「ん……」

 (私なら出来るかも知れない事。私しか出来ない事。それが今ここで必要なら……)

 目を閉じて、ひとつ大きく深呼吸をしてから……目を開ける。

「私はアイリス……聖女アイリスです。西の聖獣ハク、北の聖獣ブーと契約を結んだ者です。ここへは戦いを止めたくて来ました」

 掲げた左手にある聖女の印から光が溢れ、ハクの体毛も光り輝くのが見える。
 恐らくはずっと後方に居るブーちゃんも同じ様になっていると思う。

「ただ煽動され、騙された人達には怪我をして欲しくありません。武器を捨てて投降して下さい。そして首謀者までの道を開けて下さい」

 兵士達はお互いに顔を見合わせた後、どんどん武器を置いて行く。
 そして開かれた道の先には何人かの貴族が固まっているのが見えた。

「……シッ!」

 ギィ!

 ハクが急に腕を振り上げて、何かを弾く。
 弾かれた物は魔法で作られた氷弾らしく、砕かれたそれは私達の背後の地面を穿って行く。

「さて、黒幕のお出ましであるな」

 ハクの毛が逆立ち、私へ注意を促す。
 兵士達が割れた事で出来た道を歩いて来る人影が2つ。

「本当に忌々しい平民ですこと。邪魔者はここで退場して頂きますわ」
「……」

 聖女マリアンヌとフードを深く被った小柄な人物が並び立った。

「おお、聖女よ! あの平民をさっさと」
「お退きなさい」

 マリアンヌの言葉に合わせるようにフードの人物がフリューゲル男爵の胸を押して……彼を丸ごと氷の柱に変えた。

「平民、貴女もこうなるのよ」

 唇を歪ませてマリアンヌが嗤う。

「ならないよ。だって……」

 プロイがいる、ニュクスがいる。
 ハクもブーちゃんも、エーゲルさんだっている。

「私は、絶対に負けないから」
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