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第64話 お茶会
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「はい、どうぞ。本当に……皆さんのお口に合うかは判らないけど……」
自宅の居間は、テーブルの席も長椅子や揺り椅子までも人で埋まっていた。
私と弟達、レオ陛下とエーゲルさん。ヘルムスとバイアン……更には北の代表代理として来たローサまで揃っている。
私が焼き上げた菓子の甘い香りと、レオ陛下が差し入れて下さった茶葉で煎れた紅茶の香りで皆が笑顔になっていた。
「では……魔人の2人と北の代表代理をお迎えした茶会という事で、歓談しつつ頂きましょう」
レオ陛下の言葉に皆が頷き、各々が手に取った物を口に含む。
私も差し入れのお茶を飲んでみたが、我が家では到底味わえないお茶だった。
前世の感覚で当てにいくなら、茶葉だけで我が家の食費ひと月分は軽く上回ると思う。
サクッ、と焼き菓子を口にするヘルムスとバイアンの横顔をそっと見守ると……目を閉じて幸せそうに笑みを浮かべていた。
その目元に光る物が見えて、私は目を閉じる。
目を開けていると私の方が泣いてしまいそうだったから。
(良かった。取り敢えずガッカリされる出来じゃ無かったかな?)
多分、前世今世併せてこれだけ真剣にお菓子を作った事は無いと思う。
それだけ、私は彼等の気持ちに報いたかった。
「ん~、やっぱ姉ちゃんのお菓子は美味いな。暫く食べて無かったから尚更そう思うよ」
口の周りに食べカスを着けたままプロイが笑う。
「ふん。姉さんの菓子や料理は毎日食べても至高だ。例え同じ献立が3日続こうともな」
「そんな、3日も同じの食べさせたりしないでしょ! ……滅多に」
家計や買い出しの状況によっては無いとも言い切れないけど……そう、滅多にそんなことは無い筈だよ?
「愛が」
ヘルムスが呟いたので皆の視線が集まる。
「愛情が込められた物なら、たとえ毎日同じでも……例え失敗していたとしても」
「言いたい事は判る。俺は毎日同じは嫌だが」
ヘルムスの言葉に同意したバイアンは焼き菓子をひとつ口に放り込むとまた目を閉じる。
「それでも、この菓子なら毎日でも食べたいというのは同意するな」
「はい! 私も……私もお姉様の作られた物なら例え土の上に落とされても、更には靴で踏みつけられた物でも有り難く頂きますわ!」
いや、そんな過酷な提供をするつもりは無いし、それは食べてはいけないと思う。人として。
食べたいと言ってくれる人が居て、私がその人の笑顔を見たいと思ったならそれ以上は何も必要がないのだから。
「ローサも、今日は遠い所をありがとね。ローサのお父様のエンデさんにもお礼を言わないと……」
「平気ですわ。お姉様がお呼びなら例え火の中ドラゴンの口の中! それに父も今は国の立て直しに手を取られていますので、私が代理で申し訳無いと」
そう言いながら、ローサはレオ陛下に頭を下げる。レオ陛下は軽く手を上げてそれに応えた。
「いやいや、北が大変な事はこちらも承知しているし、旅も心配だろうにご息女を送り出してくれた代表には申し訳ないくらいだよ」
2人で目を合わせて笑っている所を見ると、北と西の国については仲良くやって行けそうで安心できた。
というのも……
『魔王の庇護下……または配下だった魔人については当然のように世界から疎まれる可能性がある。聖女の記憶を見た我々はともかく、アイリスちゃんと縁の出来た北の国の反応は見ておきたいかな』
という流れも有り、それなら約束の件もあるし……とこの様な形で集まる事にしたのだ。
レオ陛下の体調の件や、反乱の件など片付けなければならない事も懸念もあり……北へ魔道具の鏡で連絡してから何日か私達も王城で生活することになった。
そして北の返答からローサの参加が決まり、こうしてお茶会をしている。
「さて、私は重い話は先に済ませて気軽に過ごしたい派なのだけども」
レオ陛下がカップを置いて周りを見る。
皆はそれぞれの気持ちを瞳に込めて頷いた。
「我々の……処置についてですね?」
何かしらの覚悟を決めた声でヘルムスが応じた。
「ああ」
「レオさん……じゃなくて、陛下。あの、私は」
無礼であるとは解っていても、何も言わないままではいられない。
そんな私を手で制して、陛下が続ける。
「ほら、丁度家も一杯作ってるんだし、ここに住んじゃえば?」
とても軽い感じで言われ、思わずお茶を溢しそうになった。
「……良いのか? ですか?」
言い直したバイアンに笑いかけながらレオ陛下は頷いた。
「寧ろそうして欲しい。言い方を悪くするならそれが君達への監視にもなる。あと……」
ちらりと私の方を見て、またヘルムス達へ視線を戻す。
「マリアンヌ達がいつ何をして来るか読めない。君達がアイリスちゃんを守るのに協力してくれるなら私も助かる」
その言葉を聞いた2人は、何かを噛み締める様に目を閉じた後、並んで立ち上がる。
「アイリス様を御守りします。我が聖女と魔王様に誓って」
「後半は聞かなかったことにするよ」
陛下が苦笑してから私へ向き直る。
「勝手に決めちゃったけど、迷惑かな?」
「う……」
悪戯が巧くいった時のプロイみたいな顔で言う陛下に言葉が詰まった。
不満なんて無いの……解ってるくせに……!
「では、私もここに住まわせて頂きますわ」
「え? ローサ?」
いきなりの発言に動揺してしまった。
「私はまだこのお2人がどんな方々なのか見極められていませんもの。お姉様のお側に置いて大丈夫なのか、我が国が共に歩むと決めて大丈夫なのか。それを確認するまでは帰れませんわ」
「……参ったなぁ」
先程まで『してやったり』という顔をしていた陛下もローサの発言に苦笑するしか無いようだ。
エンデさんに許可を得て来ているなら、認めざるを得ないと思う。
「大丈夫ですわ。父もこの様な流れになった場合は私に任せると言ってましたもの」
ああ、これは決まってしまったかも。
「えーと……アイリスちゃん、よろしくね?」
陛下が困ったように笑いながら片目を閉じる。
こうして……ようやく帰ってきた我が家は、旅立つ前より随分と賑やかな隣人達を得たようだった。
自宅の居間は、テーブルの席も長椅子や揺り椅子までも人で埋まっていた。
私と弟達、レオ陛下とエーゲルさん。ヘルムスとバイアン……更には北の代表代理として来たローサまで揃っている。
私が焼き上げた菓子の甘い香りと、レオ陛下が差し入れて下さった茶葉で煎れた紅茶の香りで皆が笑顔になっていた。
「では……魔人の2人と北の代表代理をお迎えした茶会という事で、歓談しつつ頂きましょう」
レオ陛下の言葉に皆が頷き、各々が手に取った物を口に含む。
私も差し入れのお茶を飲んでみたが、我が家では到底味わえないお茶だった。
前世の感覚で当てにいくなら、茶葉だけで我が家の食費ひと月分は軽く上回ると思う。
サクッ、と焼き菓子を口にするヘルムスとバイアンの横顔をそっと見守ると……目を閉じて幸せそうに笑みを浮かべていた。
その目元に光る物が見えて、私は目を閉じる。
目を開けていると私の方が泣いてしまいそうだったから。
(良かった。取り敢えずガッカリされる出来じゃ無かったかな?)
多分、前世今世併せてこれだけ真剣にお菓子を作った事は無いと思う。
それだけ、私は彼等の気持ちに報いたかった。
「ん~、やっぱ姉ちゃんのお菓子は美味いな。暫く食べて無かったから尚更そう思うよ」
口の周りに食べカスを着けたままプロイが笑う。
「ふん。姉さんの菓子や料理は毎日食べても至高だ。例え同じ献立が3日続こうともな」
「そんな、3日も同じの食べさせたりしないでしょ! ……滅多に」
家計や買い出しの状況によっては無いとも言い切れないけど……そう、滅多にそんなことは無い筈だよ?
「愛が」
ヘルムスが呟いたので皆の視線が集まる。
「愛情が込められた物なら、たとえ毎日同じでも……例え失敗していたとしても」
「言いたい事は判る。俺は毎日同じは嫌だが」
ヘルムスの言葉に同意したバイアンは焼き菓子をひとつ口に放り込むとまた目を閉じる。
「それでも、この菓子なら毎日でも食べたいというのは同意するな」
「はい! 私も……私もお姉様の作られた物なら例え土の上に落とされても、更には靴で踏みつけられた物でも有り難く頂きますわ!」
いや、そんな過酷な提供をするつもりは無いし、それは食べてはいけないと思う。人として。
食べたいと言ってくれる人が居て、私がその人の笑顔を見たいと思ったならそれ以上は何も必要がないのだから。
「ローサも、今日は遠い所をありがとね。ローサのお父様のエンデさんにもお礼を言わないと……」
「平気ですわ。お姉様がお呼びなら例え火の中ドラゴンの口の中! それに父も今は国の立て直しに手を取られていますので、私が代理で申し訳無いと」
そう言いながら、ローサはレオ陛下に頭を下げる。レオ陛下は軽く手を上げてそれに応えた。
「いやいや、北が大変な事はこちらも承知しているし、旅も心配だろうにご息女を送り出してくれた代表には申し訳ないくらいだよ」
2人で目を合わせて笑っている所を見ると、北と西の国については仲良くやって行けそうで安心できた。
というのも……
『魔王の庇護下……または配下だった魔人については当然のように世界から疎まれる可能性がある。聖女の記憶を見た我々はともかく、アイリスちゃんと縁の出来た北の国の反応は見ておきたいかな』
という流れも有り、それなら約束の件もあるし……とこの様な形で集まる事にしたのだ。
レオ陛下の体調の件や、反乱の件など片付けなければならない事も懸念もあり……北へ魔道具の鏡で連絡してから何日か私達も王城で生活することになった。
そして北の返答からローサの参加が決まり、こうしてお茶会をしている。
「さて、私は重い話は先に済ませて気軽に過ごしたい派なのだけども」
レオ陛下がカップを置いて周りを見る。
皆はそれぞれの気持ちを瞳に込めて頷いた。
「我々の……処置についてですね?」
何かしらの覚悟を決めた声でヘルムスが応じた。
「ああ」
「レオさん……じゃなくて、陛下。あの、私は」
無礼であるとは解っていても、何も言わないままではいられない。
そんな私を手で制して、陛下が続ける。
「ほら、丁度家も一杯作ってるんだし、ここに住んじゃえば?」
とても軽い感じで言われ、思わずお茶を溢しそうになった。
「……良いのか? ですか?」
言い直したバイアンに笑いかけながらレオ陛下は頷いた。
「寧ろそうして欲しい。言い方を悪くするならそれが君達への監視にもなる。あと……」
ちらりと私の方を見て、またヘルムス達へ視線を戻す。
「マリアンヌ達がいつ何をして来るか読めない。君達がアイリスちゃんを守るのに協力してくれるなら私も助かる」
その言葉を聞いた2人は、何かを噛み締める様に目を閉じた後、並んで立ち上がる。
「アイリス様を御守りします。我が聖女と魔王様に誓って」
「後半は聞かなかったことにするよ」
陛下が苦笑してから私へ向き直る。
「勝手に決めちゃったけど、迷惑かな?」
「う……」
悪戯が巧くいった時のプロイみたいな顔で言う陛下に言葉が詰まった。
不満なんて無いの……解ってるくせに……!
「では、私もここに住まわせて頂きますわ」
「え? ローサ?」
いきなりの発言に動揺してしまった。
「私はまだこのお2人がどんな方々なのか見極められていませんもの。お姉様のお側に置いて大丈夫なのか、我が国が共に歩むと決めて大丈夫なのか。それを確認するまでは帰れませんわ」
「……参ったなぁ」
先程まで『してやったり』という顔をしていた陛下もローサの発言に苦笑するしか無いようだ。
エンデさんに許可を得て来ているなら、認めざるを得ないと思う。
「大丈夫ですわ。父もこの様な流れになった場合は私に任せると言ってましたもの」
ああ、これは決まってしまったかも。
「えーと……アイリスちゃん、よろしくね?」
陛下が困ったように笑いながら片目を閉じる。
こうして……ようやく帰ってきた我が家は、旅立つ前より随分と賑やかな隣人達を得たようだった。
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