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第70話 足りない手
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野盗の襲来から5日ほど経った日だった。
「ただ今戻ったのである」
「ただい、ま」
午前の仕事を終えて昼食を作っていた私の元へ暫く会えていなかった聖獣達が帰ってきた。
「ハク、ブーちゃん、おかえりなさい!」
「もぎゅ」
「寂しい、だった?」
つい勢い良く抱きしめてしまい、ハクが苦しそうに踠いている。
いつも一緒に居た2人だが、ここ暫くは別行動になっていたのだ。
「アイリス、頼まれていた件であるが……」
ふと真剣な顔に戻ったハクとブーちゃんを解放して言葉の続きを待つ。
「いな、かったの」
「うむ。デュシス王国の北西部には魔人の姿は無かったのである」
「そっか、居なかったのね。私の我儘で遠くまで行ってくれたのに、ごめんね」
揃って首を振る。
デュシス王国の北西部は魔王とも縁深い土地であり、もしかしたら魔人の生き残りが隠れ住んでいるのでは無いかという噂もあった。
なのでハクとブーちゃんが探しに行ってくれたのだが、残念ながら発見することは出来なかったようだ。
「聖獣様にわざわざご足労頂いたのに、申し訳無い限りです」
器の準備を手伝ってくれているバイアンも申し訳なさそうに頭を下げる。
気にするな、とばかりに尻尾を振ったハクにもう一度頭を下げてまた器を取りに行った。
「仲間、少ない。悲しい、ね?」
その背中を見送ったブーちゃんの頭を撫でていると今度はプロイがやって来た。
「ねーちゃん、ニア達もそろそろ呼んできて良い?」
「ん、良いよ」
私の返事を聞くとプロイは嬉しそうに駆けて行った。
行き先は魔人の母娘が住む事になった家である。ニアと言うのは魔人の少女の名前なのだ。
「聖女様、お手伝いも出来ずに申し訳御座いません」
「いえ、大丈夫ですよ。準備は順調ですか?」
魔人の母ルアさんの表情は明るく、頷く姿も随分元気になって来た事が判る。
「お姉ちゃん、早く早く!」
「そうそう、お腹減ったんだからさ!」
「もう、そんなに引っ張らなくても良いじゃありませんか」
ニアとプロイに手を引かれてやって来たのはローサだった。
街になりつつあるこの土地で現在2番目に大きな建物を魔人の親子の住居兼商店にしたのだが、親子の強い要望によりローサも共に住む事になったのだ。
1階が商店と倉庫、そしてローサの仕事部屋。
2階が其々の住居という形だ。
ローサの仕事は魔人と共存する上での記録をとること。これは国からの依頼。
もうひとつは北と西の物流管理の補佐だ。
西にとっても北にとっても中々に重要な仕事だった。
「お姉様手作りのお料理を頂けるだけで……疲労が消し飛ぶ思いですわ」
食事が始まると、多忙のサラダに多忙のドレッシングをかけたような状態のローサが笑みを浮かべる。
私の料理で癒しになるのなら幾らでも食べて欲しい所だけど……それより根本的に解決出来ないものだろうか。
「ローサ、私に何か手伝える事は……」
「無理ですわ。ご自愛下さいませ」
「無理でしょ。姉ちゃんも忙し過ぎるじゃん」
ローサとプロイにあっさり否定されてしまった。
確かに私も体が空くという事が無いほどなので仕方無いのだけども……
突然何か良い考えが浮かぶ事も無く、出来上がった昼食を皆で食べた後で後片付けをしていた時だった。
「聖女様、少し宜しいですかい?」
洗った器を拭いていた私とそれを手伝ってくれていたルアさんに声をかけてきたのは……鷹の目の代表であるホークさんだった。
「どうしたんですか?」
ここ暫く、時折難しそうな顔をしていたので気にはなっていたのだが……今日は一段と難しい顔だ。
「確実な話じゃ無いんでお話するか迷ったんですが……実は魔人の方々に関係するかも知れない噂に心当たりがありやして……」
割とハキハキ物を言うホークさんには珍しく歯切れの悪い物言いだった。
しかし何かしらの手掛かりがあるなら聞いておきたいので続きを促す。
「あくまで噂、なんです。ここから東へずっと進むとドラゴンが住んでるって噂の山脈がありやすよね?」
確かにそう噂されている山脈がある。ただ、噂とされているが少なくとも過去には本当にドラゴンが住んでいたのは事実だ。ハクと相性が悪く何度か喧嘩になっていたのはよく覚えている。
「ドラゴンはお宝を隠し持っている、ってのはよく聞く話で……その噂を真に受けた傭兵仲間が何人かで山脈に向かった事がありやす。結局お宝は見つからず……それどころか1人しか戻って来なかったんです」
「え、他の人は?」
私の質問に、髭の生えた顎に手を当てて目を閉じたホークさんが答える。
「奴ら、山脈を探し回ってる間に道に迷ったらしく……妙な谷に迷い込んだそうで。そこには村があったと。その村に立ち寄ろうとしたら住民から一方的に攻撃されて……無事に逃げ切ったのは帰って来たそいつだけだった、って話なんです」
山脈の中に村があるとは聞いた事が無い。
私がそこを旅した200年前はそんな物は無かったし、ドラゴンや強い獣が多数いたので人が住めるとはそもそも思えない。
しかしもし……私が知る200年前以降にそこに誰かが流れ着き住み着いたとしたら……
西の王国内ながらも国に届け出する無く、勝手に村を作った者がいたとしたら……
「まさか……」
「あくまで情報はそいつの証言だけです。そいつの仲間は皆、まるで魔法でも受けたように倒されたらしいです」
人から隠れ住み、魔法を使いこなす。
そんな存在がもし本当にいるとしたら……
それはきっと、魔人達なのでは無いか。
私の考えは後日……悪い形で当たる事になる。
「ただ今戻ったのである」
「ただい、ま」
午前の仕事を終えて昼食を作っていた私の元へ暫く会えていなかった聖獣達が帰ってきた。
「ハク、ブーちゃん、おかえりなさい!」
「もぎゅ」
「寂しい、だった?」
つい勢い良く抱きしめてしまい、ハクが苦しそうに踠いている。
いつも一緒に居た2人だが、ここ暫くは別行動になっていたのだ。
「アイリス、頼まれていた件であるが……」
ふと真剣な顔に戻ったハクとブーちゃんを解放して言葉の続きを待つ。
「いな、かったの」
「うむ。デュシス王国の北西部には魔人の姿は無かったのである」
「そっか、居なかったのね。私の我儘で遠くまで行ってくれたのに、ごめんね」
揃って首を振る。
デュシス王国の北西部は魔王とも縁深い土地であり、もしかしたら魔人の生き残りが隠れ住んでいるのでは無いかという噂もあった。
なのでハクとブーちゃんが探しに行ってくれたのだが、残念ながら発見することは出来なかったようだ。
「聖獣様にわざわざご足労頂いたのに、申し訳無い限りです」
器の準備を手伝ってくれているバイアンも申し訳なさそうに頭を下げる。
気にするな、とばかりに尻尾を振ったハクにもう一度頭を下げてまた器を取りに行った。
「仲間、少ない。悲しい、ね?」
その背中を見送ったブーちゃんの頭を撫でていると今度はプロイがやって来た。
「ねーちゃん、ニア達もそろそろ呼んできて良い?」
「ん、良いよ」
私の返事を聞くとプロイは嬉しそうに駆けて行った。
行き先は魔人の母娘が住む事になった家である。ニアと言うのは魔人の少女の名前なのだ。
「聖女様、お手伝いも出来ずに申し訳御座いません」
「いえ、大丈夫ですよ。準備は順調ですか?」
魔人の母ルアさんの表情は明るく、頷く姿も随分元気になって来た事が判る。
「お姉ちゃん、早く早く!」
「そうそう、お腹減ったんだからさ!」
「もう、そんなに引っ張らなくても良いじゃありませんか」
ニアとプロイに手を引かれてやって来たのはローサだった。
街になりつつあるこの土地で現在2番目に大きな建物を魔人の親子の住居兼商店にしたのだが、親子の強い要望によりローサも共に住む事になったのだ。
1階が商店と倉庫、そしてローサの仕事部屋。
2階が其々の住居という形だ。
ローサの仕事は魔人と共存する上での記録をとること。これは国からの依頼。
もうひとつは北と西の物流管理の補佐だ。
西にとっても北にとっても中々に重要な仕事だった。
「お姉様手作りのお料理を頂けるだけで……疲労が消し飛ぶ思いですわ」
食事が始まると、多忙のサラダに多忙のドレッシングをかけたような状態のローサが笑みを浮かべる。
私の料理で癒しになるのなら幾らでも食べて欲しい所だけど……それより根本的に解決出来ないものだろうか。
「ローサ、私に何か手伝える事は……」
「無理ですわ。ご自愛下さいませ」
「無理でしょ。姉ちゃんも忙し過ぎるじゃん」
ローサとプロイにあっさり否定されてしまった。
確かに私も体が空くという事が無いほどなので仕方無いのだけども……
突然何か良い考えが浮かぶ事も無く、出来上がった昼食を皆で食べた後で後片付けをしていた時だった。
「聖女様、少し宜しいですかい?」
洗った器を拭いていた私とそれを手伝ってくれていたルアさんに声をかけてきたのは……鷹の目の代表であるホークさんだった。
「どうしたんですか?」
ここ暫く、時折難しそうな顔をしていたので気にはなっていたのだが……今日は一段と難しい顔だ。
「確実な話じゃ無いんでお話するか迷ったんですが……実は魔人の方々に関係するかも知れない噂に心当たりがありやして……」
割とハキハキ物を言うホークさんには珍しく歯切れの悪い物言いだった。
しかし何かしらの手掛かりがあるなら聞いておきたいので続きを促す。
「あくまで噂、なんです。ここから東へずっと進むとドラゴンが住んでるって噂の山脈がありやすよね?」
確かにそう噂されている山脈がある。ただ、噂とされているが少なくとも過去には本当にドラゴンが住んでいたのは事実だ。ハクと相性が悪く何度か喧嘩になっていたのはよく覚えている。
「ドラゴンはお宝を隠し持っている、ってのはよく聞く話で……その噂を真に受けた傭兵仲間が何人かで山脈に向かった事がありやす。結局お宝は見つからず……それどころか1人しか戻って来なかったんです」
「え、他の人は?」
私の質問に、髭の生えた顎に手を当てて目を閉じたホークさんが答える。
「奴ら、山脈を探し回ってる間に道に迷ったらしく……妙な谷に迷い込んだそうで。そこには村があったと。その村に立ち寄ろうとしたら住民から一方的に攻撃されて……無事に逃げ切ったのは帰って来たそいつだけだった、って話なんです」
山脈の中に村があるとは聞いた事が無い。
私がそこを旅した200年前はそんな物は無かったし、ドラゴンや強い獣が多数いたので人が住めるとはそもそも思えない。
しかしもし……私が知る200年前以降にそこに誰かが流れ着き住み着いたとしたら……
西の王国内ながらも国に届け出する無く、勝手に村を作った者がいたとしたら……
「まさか……」
「あくまで情報はそいつの証言だけです。そいつの仲間は皆、まるで魔法でも受けたように倒されたらしいです」
人から隠れ住み、魔法を使いこなす。
そんな存在がもし本当にいるとしたら……
それはきっと、魔人達なのでは無いか。
私の考えは後日……悪い形で当たる事になる。
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