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東の国

第27話 歌は、そこにあります

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 立ち上がった獣を前に僕は動けなかった。
 コウゾウは目を閉じて手を合わせたままだ。

「いや、コウゾウ! 目を開けて! それ、もういいから!」

 逃げるにしてもこのままの彼を抱えて走れる訳がない。そして小刻みに震えるコウゾウを見ていると、本気なのか冗談なのか判らなくなってくる。

「多分、こんなになっちゃうくらい危ない動物なんだろうけど……」

 僕は動物の方を見てある事に気がついた。
 立ち上がって両脚の向こうからひょっこり覗き込んでくる2つの影。あれは子供なのではないだろうか。
 あの大きな動物は、子供を守ろうとしている親なのでは無いだろうか?
 そう思うと、恐ろしい動物もちゃんと心を持っているのだと実感できる。

「~~♪」

[神業・魔歌を使用します]

 僕は自然と歌を歌っていた。
 いや、正確には歌では無い。
 初めて広場で叫んだ時と同じように、ただ思いを込めた音を綴っているだけ。
 歌詞なんて無いし、音程だって流れに任せるままだ。
 それでも、目を見て歌い気持ちを伝える。

 (僕達は君達に何もしないよ。縄張りに入ったならごめんね。僕達は帰るから。君も子供達と仲良く暮らして欲しい)

 立ち上がって唸りを上げていた動物は前足を下ろし、子供達を連れて背中を向けた。
 僕は親子が見えなくなるまで歌い続けた。

「歌えた……何回試してもダメだったのに」

 曲でもなく、歌でも無かったかも知れない。
 それでも心を込めた物が喉を震わせたのは間違い無かった。

 (あ……夢中になっててコウゾウを忘れてた)

 傍らのコウゾウを見ると、もう震えてはいなかった。
 代わりに、胸と耳に手を当てて目を見開いていた。

「ーーーー!」

 相変わらず言葉は交わせなくても、彼の顔を見れば判る。
 『通じた』のだろう。『聴こえた』のだろう。

 僕はそれが嬉しくて、彼の肩を叩くのだった。
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