上 下
54 / 86
無理無理無理

クッソうぜえわ、マジ

しおりを挟む
あっつ。
走ったのなんてかなり久しぶり。まだまだ暑いのに秋らしさを出したくて選んだ長袖がペタリと肌に張り付く。

「クッソうぜえわ、マジ」

え? 
クッソうぜえわ、マジって聞こえた……。

顔を上げる。
目の前に温かみのあるブラウンの髪の毛。左右にリングのピアスがひとつずつ付いた耳。に、当てられたスマホを持つ手は大きく骨ばっている。

そして、何よりもクッソうぜえわ、マジって声。
大輝くん……だよね?

「ふざけんな、3ヶ月もおあずけ喰らってんだぞ。あの弟ガチうぜえ。やってやろーかな」

弟?!
もしかして、私たちの話してる?!

「黙れ。友達の前でカレシ役してやんなくていいの? 俺の顔が必要だろ」

……え……電話の相手、女性?!

「生理ってどれくらい待てばやれんの。二日目って言ってた。ふーん、来週にはやれるか」

うわ、来週予定日だから嘘がバレる。

じゃない!
女性とこんな話しちゃうの?!
だいぶ親しい友達……?

「でさー金ちょうだい。彼女と泊りで夢の国行きてえんだけど金なくてさ」

お金貸して、でもなくちょうだいなんだ?!
お金の無心をするってことは、相手かなり年上?
親戚のおばさんかな。小さい頃からかわいがってるから断れない、みたいな。

「はあ? 俺が知るかよ。グダグダ言ってねえで早く帰れ。そんでシャワー浴びとけ。すぐやりてえ。は? 調子乗んな。ここからお前の家が一番近いからお前に電話しただーけー」

まだ通話は続いているけど、私の足は止まってしまった。
気付いてしまったら進めなくなった。

親戚のおばさんなんかじゃない。

考えたこともなかった。私が見てきた大輝くんとは全然違う大輝くんがいたんだ。

大輝くんには、電話1本で応じる女性が存在する。
彼女がいることも分かってる女性。
それも、場所が変われば相手も変えられるくらいの数。


家のドアを開けたら、魁十が棒アイスを食べながら待っていた。

「アイス食う?」
「……うん……」

リビングへと入って行く魁十に続く。
アイスを受け取っても呆然としてたら、魁十が袋を開けて口に突っ込んでくるから棒を握った。

冷たい……ソーダのシュワシュワ感とラムネの刺激がボーッとした脳を少し甦らせる。

「見なきゃ良かったなものでも見た?」
「……し……聞かなきゃ良かったなことを聞いた……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

罪も憎まず人も憎まず

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

真夏の奇妙な体験

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

ぼくらの森

ivi
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:0

仕置きの光景は渡り廊下で愉しまれる

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第三部

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:40

酔いどれ右蝶捕物噺

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

召し使い様の分際で

BL / 連載中 24h.ポイント:1,620pt お気に入り:5,999

宙に舞う〜宇宙防衛戦線〜

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...