1 / 39
1.席替え
高二のゴールデンウイーク明け。俺、呂久村深月は朝イチから教室の机に突っ伏して全力で寝たフリをしている。
「あの、深月! 寝てるとこごめん!」
声を掛けられてしまったか。顔を上げると、同じクラスのモブ女生徒ゆりが頬を赤らめている。
ゆりならそっとしといてくれると思ったのに。
「なんでしょーか」
「席替えでもし隣になったら、記念に二人で何か食べに行かない?」
それが言いたくて、俺が教室入った時からガン見してたのか。
そんなもん行ったら、一ヶ月後には「付き合って一ヶ月記念日ね♡」とか言われそうなんだが。
「悪い、俺今日腹の調子が悪くてさあ、食える気しねえ」
「腹が? 大丈夫?」
「ゆり! おはよう! ゆりが貸してくれた漫画最っ高に良かった! 受けが尊くて泣いた!」
「受け?」
名も知らぬ女生徒がゆりに駆け寄る。手には本を持っている。ゆりが慌てた様子でひったくるように本を胸に抱えた。
「何これ。少年漫画?」
立ち上がり、ゆりの腕から本を引き抜いて表紙を見ると『檻の中の俺が君のラブパンチに堕ちるまで』。パンチとか言いながら、えらく繊細な線で流れるように書かれている。
「BLだよ、BL!」
「BL?」
「ボーイズラブ!」
「ああ、おっさんずラブ?」
「そう!」
「やめて! 解説しないの!」
小柄なゆりが本を取り返そうとピョンピョン跳ねているが、クラスで一番背が高い俺には届くまい。
適当に本を開く。体育倉庫になぜかマットが敷かれており、男子生徒と男性教師だろうか、かなり身長差のある二人の足が絡まって、マットの上に倒れ込む。教師が見事に押し倒してる構図じゃねーか。メガネ外しながら「おしおきね?」って笑う前に、まず謝れ。
ページをめくると、メガネ教師が男子を壁ドンしてる。なんでバラ飛んでんだ。どう見ても教室なのに。「お前は俺のもんだろうが」とか、教師のくせに口悪っる。
「どういう世界観だ」
ゆりの頭にポンとして、本を返す。
「流行ってるの! 女子の間で流行ってるから、持ってるだけ!」
「ゆりが貸してくれた漫画、全部おもしろかった!」
「へー。ずいぶんいろいろ流行ってんだ?」
「そっ……そうなの! 流行ってるから持ってるだけ!」
それならば、なぜにそんなに顔を赤くする。
BLねー。男同士がイチャイチャしてんの見て何が楽しいんだか。
かと言って、もう俺は女と付き合いたいとも思わない。
一条優を超える女になんて、一生巡り合えねえのかもしんないなあ。
なんて思っていたら、担任の工藤先生が教室に入ってきた。工藤先生は化学教師なのだが、白いタンクトップで鍛え上げた筋肉を見せつけている。
「席替えを行う。新しいお友達に積極的に話しかけて、友達百人を目指しましょう!」
我ら高二なんだが。くじには37の数字。まあまあの席だな。颯太は? と見ると、「かわいい」を演出するため学ランの下にフードが大きいパーカーを仕込んだ颯太がこちらに向かって泣き真似をしている。教卓最前から動かずか。
「やった! 私佐藤くんの隣だ!」
「いいなー。佐藤くん、めっちゃかわいいよね」
だまされとる、だまされとる。だが、口には出さない。己の身がかわいいならば、颯太を怒らせてはいけない。
ゆりを見ると、暗い顔して窓際へと机を運んでいる。隣どころか、前より離れたな。
机の移動完了と同時に、前の席になった子が振り返った。
「俺、高崎明翔! よろしく! 君、なんて名前?」
頭がフリーズして、日本語が理解できなかった。ただ、その顔に見入ってしまった。
……一条優!
小学校の六年間、一条を見つめ続けていた俺には分かる。一条が高校生になったら、こうなってるはずだ。
明るい茶髪のマッシュでスラックスを履いてはいるが、一条優だ。希望すれば、女子でもスラックスを選択できるって入学説明会で言ってた。小学校の時からボーイッシュなところのあった一条がそのまま成長したんだ。
小学校の入学式で、隣のクラスの列に並んでいた一条を見た瞬間、俺の体に衝撃が走った。それはそれは大きな衝撃。無防備なすねを釘バットでバアシッといかれたような衝撃。
俺は、休み時間には用もないのに廊下に出て、一条の姿を探した。一条はいつも友達に囲まれる人気者だった。それを遠巻きに眺めながら、きっと優しくて良い子なんだろうなあ、と妄想を膨らませていった。
六年になる頃には、一条の後ろ姿を見るだけで胸がドキドキして、病気を疑った。颯太に相談したら、
「あ? んなもん、恋だろ、恋」
と投げ捨てるように言われた。そして、固く決意した。
そうか、これが恋ならば、中学生になったら告白する!
俺は、今は告白する勇気が出ないのを、一大決心のせいにした。
中学の入学式に、一条はいなかった。進学を機に遠くへ引っ越したらしい。
俺の初恋は、強制終了となった。
「あの、深月! 寝てるとこごめん!」
声を掛けられてしまったか。顔を上げると、同じクラスのモブ女生徒ゆりが頬を赤らめている。
ゆりならそっとしといてくれると思ったのに。
「なんでしょーか」
「席替えでもし隣になったら、記念に二人で何か食べに行かない?」
それが言いたくて、俺が教室入った時からガン見してたのか。
そんなもん行ったら、一ヶ月後には「付き合って一ヶ月記念日ね♡」とか言われそうなんだが。
「悪い、俺今日腹の調子が悪くてさあ、食える気しねえ」
「腹が? 大丈夫?」
「ゆり! おはよう! ゆりが貸してくれた漫画最っ高に良かった! 受けが尊くて泣いた!」
「受け?」
名も知らぬ女生徒がゆりに駆け寄る。手には本を持っている。ゆりが慌てた様子でひったくるように本を胸に抱えた。
「何これ。少年漫画?」
立ち上がり、ゆりの腕から本を引き抜いて表紙を見ると『檻の中の俺が君のラブパンチに堕ちるまで』。パンチとか言いながら、えらく繊細な線で流れるように書かれている。
「BLだよ、BL!」
「BL?」
「ボーイズラブ!」
「ああ、おっさんずラブ?」
「そう!」
「やめて! 解説しないの!」
小柄なゆりが本を取り返そうとピョンピョン跳ねているが、クラスで一番背が高い俺には届くまい。
適当に本を開く。体育倉庫になぜかマットが敷かれており、男子生徒と男性教師だろうか、かなり身長差のある二人の足が絡まって、マットの上に倒れ込む。教師が見事に押し倒してる構図じゃねーか。メガネ外しながら「おしおきね?」って笑う前に、まず謝れ。
ページをめくると、メガネ教師が男子を壁ドンしてる。なんでバラ飛んでんだ。どう見ても教室なのに。「お前は俺のもんだろうが」とか、教師のくせに口悪っる。
「どういう世界観だ」
ゆりの頭にポンとして、本を返す。
「流行ってるの! 女子の間で流行ってるから、持ってるだけ!」
「ゆりが貸してくれた漫画、全部おもしろかった!」
「へー。ずいぶんいろいろ流行ってんだ?」
「そっ……そうなの! 流行ってるから持ってるだけ!」
それならば、なぜにそんなに顔を赤くする。
BLねー。男同士がイチャイチャしてんの見て何が楽しいんだか。
かと言って、もう俺は女と付き合いたいとも思わない。
一条優を超える女になんて、一生巡り合えねえのかもしんないなあ。
なんて思っていたら、担任の工藤先生が教室に入ってきた。工藤先生は化学教師なのだが、白いタンクトップで鍛え上げた筋肉を見せつけている。
「席替えを行う。新しいお友達に積極的に話しかけて、友達百人を目指しましょう!」
我ら高二なんだが。くじには37の数字。まあまあの席だな。颯太は? と見ると、「かわいい」を演出するため学ランの下にフードが大きいパーカーを仕込んだ颯太がこちらに向かって泣き真似をしている。教卓最前から動かずか。
「やった! 私佐藤くんの隣だ!」
「いいなー。佐藤くん、めっちゃかわいいよね」
だまされとる、だまされとる。だが、口には出さない。己の身がかわいいならば、颯太を怒らせてはいけない。
ゆりを見ると、暗い顔して窓際へと机を運んでいる。隣どころか、前より離れたな。
机の移動完了と同時に、前の席になった子が振り返った。
「俺、高崎明翔! よろしく! 君、なんて名前?」
頭がフリーズして、日本語が理解できなかった。ただ、その顔に見入ってしまった。
……一条優!
小学校の六年間、一条を見つめ続けていた俺には分かる。一条が高校生になったら、こうなってるはずだ。
明るい茶髪のマッシュでスラックスを履いてはいるが、一条優だ。希望すれば、女子でもスラックスを選択できるって入学説明会で言ってた。小学校の時からボーイッシュなところのあった一条がそのまま成長したんだ。
小学校の入学式で、隣のクラスの列に並んでいた一条を見た瞬間、俺の体に衝撃が走った。それはそれは大きな衝撃。無防備なすねを釘バットでバアシッといかれたような衝撃。
俺は、休み時間には用もないのに廊下に出て、一条の姿を探した。一条はいつも友達に囲まれる人気者だった。それを遠巻きに眺めながら、きっと優しくて良い子なんだろうなあ、と妄想を膨らませていった。
六年になる頃には、一条の後ろ姿を見るだけで胸がドキドキして、病気を疑った。颯太に相談したら、
「あ? んなもん、恋だろ、恋」
と投げ捨てるように言われた。そして、固く決意した。
そうか、これが恋ならば、中学生になったら告白する!
俺は、今は告白する勇気が出ないのを、一大決心のせいにした。
中学の入学式に、一条はいなかった。進学を機に遠くへ引っ越したらしい。
俺の初恋は、強制終了となった。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!
なつか
BL
≪登場人物≫
七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。
佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。
田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。
≪あらすじ≫
α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。
そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。
運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。
二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話