BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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1.席替え

 高二のゴールデンウイーク明け。俺、呂久村ろくむら深月みづきは朝イチから教室の机に突っ伏して全力で寝たフリをしている。

「あの、深月! 寝てるとこごめん!」

 声を掛けられてしまったか。顔を上げると、同じクラスのモブ女生徒ゆりが頬を赤らめている。
 ゆりならそっとしといてくれると思ったのに。

「なんでしょーか」
「席替えでもし隣になったら、記念に二人で何か食べに行かない?」

 それが言いたくて、俺が教室入った時からガン見してたのか。
 そんなもん行ったら、一ヶ月後には「付き合って一ヶ月記念日ね♡」とか言われそうなんだが。

「悪い、俺今日腹の調子が悪くてさあ、食える気しねえ」
「腹が? 大丈夫?」
「ゆり! おはよう! ゆりが貸してくれた漫画最っ高に良かった! 受けが尊くて泣いた!」
「受け?」

 名も知らぬ女生徒がゆりに駆け寄る。手には本を持っている。ゆりが慌てた様子でひったくるように本を胸に抱えた。

「何これ。少年漫画?」

 立ち上がり、ゆりの腕から本を引き抜いて表紙を見ると『檻の中の俺が君のラブパンチに堕ちるまで』。パンチとか言いながら、えらく繊細な線で流れるように書かれている。

「BLだよ、BL!」
「BL?」
「ボーイズラブ!」
「ああ、おっさんずラブ?」
「そう!」
「やめて! 解説しないの!」

 小柄なゆりが本を取り返そうとピョンピョン跳ねているが、クラスで一番背が高い俺には届くまい。

 適当に本を開く。体育倉庫になぜかマットが敷かれており、男子生徒と男性教師だろうか、かなり身長差のある二人の足が絡まって、マットの上に倒れ込む。教師が見事に押し倒してる構図じゃねーか。メガネ外しながら「おしおきね?」って笑う前に、まず謝れ。

 ページをめくると、メガネ教師が男子を壁ドンしてる。なんでバラ飛んでんだ。どう見ても教室なのに。「お前は俺のもんだろうが」とか、教師のくせに口悪っる。

「どういう世界観だ」

 ゆりの頭にポンとして、本を返す。

「流行ってるの! 女子の間で流行ってるから、持ってるだけ!」
「ゆりが貸してくれた漫画、全部おもしろかった!」
「へー。ずいぶんいろいろ流行ってんだ?」
「そっ……そうなの! 流行ってるから持ってるだけ!」

 それならば、なぜにそんなに顔を赤くする。

 BLねー。男同士がイチャイチャしてんの見て何が楽しいんだか。
 かと言って、もう俺は女と付き合いたいとも思わない。

 一条いちじょうゆうを超える女になんて、一生巡り合えねえのかもしんないなあ。

 なんて思っていたら、担任の工藤くどう先生が教室に入ってきた。工藤先生は化学教師なのだが、白いタンクトップで鍛え上げた筋肉を見せつけている。

「席替えを行う。新しいお友達に積極的に話しかけて、友達百人を目指しましょう!」

 我ら高二なんだが。くじには37の数字。まあまあの席だな。颯太そうたは? と見ると、「かわいい」を演出するため学ランの下にフードが大きいパーカーを仕込んだ颯太がこちらに向かって泣き真似をしている。教卓最前から動かずか。

「やった! 私佐藤さとうくんの隣だ!」
「いいなー。佐藤くん、めっちゃかわいいよね」

 だまされとる、だまされとる。だが、口には出さない。己の身がかわいいならば、颯太を怒らせてはいけない。
 ゆりを見ると、暗い顔して窓際へと机を運んでいる。隣どころか、前より離れたな。
 机の移動完了と同時に、前の席になった子が振り返った。

「俺、高崎たかさき明翔あすか! よろしく! 君、なんて名前?」

 頭がフリーズして、日本語が理解できなかった。ただ、その顔に見入ってしまった。

 ……一条優!

 小学校の六年間、一条を見つめ続けていた俺には分かる。一条が高校生になったら、こうなってるはずだ。
 明るい茶髪のマッシュでスラックスを履いてはいるが、一条優だ。希望すれば、女子でもスラックスを選択できるって入学説明会で言ってた。小学校の時からボーイッシュなところのあった一条がそのまま成長したんだ。



 小学校の入学式で、隣のクラスの列に並んでいた一条を見た瞬間、俺の体に衝撃が走った。それはそれは大きな衝撃。無防備なすねを釘バットでバアシッといかれたような衝撃。

 俺は、休み時間には用もないのに廊下に出て、一条の姿を探した。一条はいつも友達に囲まれる人気者だった。それを遠巻きに眺めながら、きっと優しくて良い子なんだろうなあ、と妄想を膨らませていった。

 六年になる頃には、一条の後ろ姿を見るだけで胸がドキドキして、病気を疑った。颯太に相談したら、

「あ? んなもん、恋だろ、恋」

 と投げ捨てるように言われた。そして、固く決意した。

 そうか、これが恋ならば、中学生になったら告白する!

 俺は、今は告白する勇気が出ないのを、一大決心のせいにした。
 中学の入学式に、一条はいなかった。進学を機に遠くへ引っ越したらしい。

 俺の初恋は、強制終了となった。
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