BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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8.ちがう! 不慮の事故!

 チャイムが鳴って休み時間になると、前の席の明翔がクルッと振り向いて、俺の机に大盛たらこパスタを置く。
 かわいい顔でニコニコしながら荒々しくビニール包装を引っぺがす。なに、そのギャップ。

 フタの上に乗ったフォークに明翔の手が当たり、ポーンとフォークが飛んだ。明翔は見失ったのだろう。天国から地獄に突き落とされた顔になる。
 だが、ご安心あれ。俺が見えとる。

 フォークをナイスキャッチして明翔に差し出すと、もうここが天国な笑顔で受け取った。

「いただきまーす!」

 ペコン、とスマホが鳴ったので見ると、ペットカメラの通知。

「ごちそうさまでしたー!」
「もう食ったの?! お前、飲んでるだろ!」
「足りない……」
「我慢しなさい。あと一時間で昼メシなんだから」

 渋々明翔がフォークをフタの上に置いた。

「深月って動体視力いいんだな」
「ああ、それ?」

 フフン、とフォークを指差す。

「うん。俺、運動神経は神ってるけど動体視力が弱点でさー。それでよくエラーしてたんだよね」
「野球やってた時?」
「そう。まあ、やりたくてやってたわけでもねえんだけど」
「なんで始めたの? 野球」
「じいちゃんが野球好きだったの。じいちゃんは娘しかいなかったから、男の俺が生まれて、絶対野球やれっつって、地元の結構有名なリーグ入ったりもして」

 明翔がツンツンとフォークでフタをつつく。いつも元気な明翔にしては、テンション低いような?

「野球やめたん、じいちゃんに怒られた?」
「じいちゃん、怒れねえもん。死んだの。俺が十二歳の時に」
「え。そうなん?」
「うん。だから、中学も別に野球部じゃなくて良かったんだけどさ、じいちゃんの弔いになりそうな気がして……」

 ……明翔?
 いつもの明翔とは別人みたいに、光のない目で中空を見つめる。なんか……怖いくらい。

 ボンヤリする明翔の手から、サッとフォークを奪い取った。

「勝負だ、明翔。これ、取り返してみろよ」
「お! よっしゃ! やってやる!」

 明翔が腕を伸ばすのを見極めてかわす。俺の方が十センチくらい身長高いから、リーチは有利なはず。椅子から立ち上がるのはルール違反な気がする。公式ルールなど絶対にないのに。

「深月! 明翔!」

 颯太がテテッと走ってくる。俺が今まさにフォークを向けようとしていた場所に。

「危ねえ!」

 腕だけでは間に合わない。足を使って颯太を避けようと立ち上がったら、勢いに負けて隣の末行の方に倒れ込んでしまう。パッとフォークを手放した。

 末行まで巻き込んでしまい、バターンと大きな音が響いた。

「悪い、末行……」

 末行が爆発しそうに真っ赤な顔をしている。なんだ?
 冷静に状況を確認してみる。末行の足と絡み合うようにひざをついた足、左手は末行の顔の横について、右手は末行の胸をつかんでいる。

「うわあ! ごめん! わざとじゃねえんだ!」
「呂久村! 俺の彼女に何してんだよ!」
「違う! これは、見ての通りただの事故で」
「知るか! お前なんか見てねえよ! 先生に言いつけてやるー!」

 小学生かよ。円川が末行の手を引いて、教室を飛び出していく。
 まっじで申し訳ないけど、まじでわざとじゃないんだって!

「呂久村! 白昼堂々、痴漢行為を働いたというのは本当か!」
「はっや! 違うんだって! ただ胸揉んだだけで、あ、違う、ただの事故で」
「職員室に来なさい!」
「まっじで、ただの事故なんだって!」

 担任の工藤先生は、常に白いタンクトップで立派な筋肉を披露している。この化学教師、力強すぎ!
 職員室に引きずられ、延々と説教を食らう……。

「失礼しましたあ」

 すっかり意気消沈して職員室を出ると、明翔と颯太が爆笑している。

「なんで俺だけ怒られなきゃなんねーんだよ!」

 ドンッ、と壁を殴っても、イライラは治まらない。

「痴漢したのは深月だけだもん」
「俺、走ってただけだし」
「くっそー」

 明翔が笑いながら、俺の腕の中に入ってくる。意図せず、壁ドンの構図である。

「俺の胸なら、揉んでも怒られねえよ」

 コイツ……。この状況で、空気を読むってことを知らねえ。

「血ぃ出るまで揉んでやる!」
「いやん、優しくして?」

 明翔が恥じらうようにワイシャツの胸元を押さえながら、上目遣いに見上げた。

 今まで経験したことがない感覚。目だけで殺されたような、射貫かれたような。とにかくびっくりして、とっさに床に目線を落とした。

「こんな固ってー胸板揉んだって、なんっもおもしろくねえわ」

 ガードしてた腕が下がってるのをいいことに、颯太がガシガシと明翔の胸を揉む。

「やめんか!」

 颯太を引っぺがす拍子に、明翔に腕が当たった。ふにゃりと明翔がよろけて、壁にぶつかる。

「あ! ごめん、明翔。大丈夫か?」

 明翔は何も言わずに、これまで見た明翔イチ真面目な顔で俺をジッと見つめていた。
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