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10.ツンとデレ
体育が終わり、教室にて着替えである。早く着替えないと女子が入ってくる。
「明翔っていい筋肉してるよなあ。俺、筋トレがんばっててコレなんだけど。どんなトレーニングしてんの?」
「なんもしてないよ。俺、筋肉つきやすくて困ってんの。野球やってた時なんか、ボディビル目指してる? って言われたもん」
「もしかして、筋肉落としてんの?」
今の明翔がボディビルを目指してるようには見えない。
「なんか、勝手に落ちてきた。野球やめて、運動しないからかな」
「運動神経バケモンなのにもったいないよな」
「深月こひょ」
さっさと着替え終わった明翔は、体育終わりに食堂に寄って買った焼きそばパンをモグモグである。
「ねえねえ、帰りになんか食いに行かねえ?」
「明翔って一日どんだけ食ってんの?」
「朝食ってー、休み時間に食ってー、昼食ってー、帰る途中で食ってー、メシ作りながら食ってー、晩メシ食ってー、夜食食ってー。七食か」
「七食?! 運動してねえのに、さすがに食いすぎじゃね?!」
「だって腹が減るんだもん」
「てか、明翔がメシ作ってんだ。えらいねえ」
「深月は全然料理しねえの?」
「全然。晩メシも帰りにコンビニ寄って、弁当買ってるもん」
「コンビニ弁当かよ。毎日?」
「毎日。飽きたら帰るルート変えて、コンビニ変えてる」
「まじか。そうだ! 俺メシ作りに行くよ!」
「え? 俺んちに?」
「うん!」
有無を言わさず、帰り道でスーパーに立ち寄ることとなった。制服の男子高校生が二人でスーパー、なんか目立ってる気がする。
いや、別にいいんだけどさ、このモンスターが満足するだけの食材を俺の所持金で買えるんだろうか。
うちの家は、六階建てのマンションの二階の端っこ。ガチャリと鍵を鳴らし、ドアを開けると一匹の猫が「ナア」と出迎えてくれる。
「ただいまー、デレー」
抱き上げると、人は好きだが抱っこされるのは好きではないデレは肩へと逃げていく。
「うっわ! かわいい! ぬいぐるみみたい!」
スコティッシュフォールドの茶色毛のデレは、見た目だけではなく、性格もスコらしい甘えん坊でかわいい。
明翔が手を伸ばすと、明翔にも大人しく抱かれ、肩へと移動する。
「案外ズシッとしてんだね。かわいいー」
「だろ。かわいいって、デレー。知ってるー、だなー」
「プッ」
「ん?」
「深月がデレてんじゃん」
うっ……。ついいつものようにデレに構ってしまった。
リビングでは、ベランダに出るガラス戸にもたれかかって、真っ白で美しい猫が眠っている。
ご主人様の帰宅だってのに、お出迎えどころか寝てんのかよ。
「もー、まじツンはかわいくねえな」
「うわ! 綺麗な猫ー……」
ツンもデレと同じスコティッシュフォールドながら、白一色。
目も開けないツンには構わず、レジ袋をキッチンへと運ぶ。
「ツンももうちょっとかわいげがあればなー」
「ツンとデレっていうんだ。二匹合わせてツンデレです! みたいな?」
「ツンとデレって名付けたくなるくらい、全然性格が違うんだよ」
あら、かわいい。デレは袋から食材を出して並べる俺の手元にやってくる。
「うわあ~、ツンまじでかわいいね」
ん?
ツンは人間に媚びへつらうことなどしない孤高で美しい猫であり、かわいいという単語が出てくるような猫ではない。
デレを抱っこしてリビングに行くと、なんと、ツンが明翔の足の上に寝そべってなでられている。
「うっそ?!」
俺がツンに近付いたら「キシャー!」って威嚇されるのに?! 俺に寄ってくるのなんて、メシの時間くらいなもの。
「ツンは深月には懐いてないの?」
「俺だけじゃねえよ。ツンは誰にも懐かねえの。ツンが抱っこされてるのなんて、初めて見た」
「へー。俺だけに懐くなんて、かわいいなあ、ツン」
――お前こそ、誰にでも懐くくせに。お前にもそんな感情あったのかよ。
明翔になでられるツンと目が合った。真っ白い毛に、ブルーの瞳。おとぎ話のように美しい。
ツンは短い足を伸ばすと、明翔の足から下りてガラス戸へと向かった。もたれかかって、目を閉じる。
「あはは! すげえ、猫ってあんなオッサンみたいな寝方すんの?」
「スコはああやって寝る子も多いんだよ」
「すこ?」
明翔は猫に詳しくねえみたいだな。
おやすみ、としゃがみ込んでツンの頭をなでると、立ち上がった。
「あー、腹減った! メシだ、メシ!」
「おう!」
明翔は豆腐をレンジに入れてる間にどんどん人参と玉ねぎを切り、素早く肉を炒める。
「すげえ。めっちゃ手慣れてんね」
「家のメシ俺が作ってっからね」
「え、今日大丈夫なん? 母ちゃん、メシ抜きにならん?」
「昨日食べなかったから、冷蔵庫に入れてある」
「へー。なんで?」
「十二時過ぎて帰ってきて、今から食べたら太るって食わなかったの」
「十二時?! おっそ」
うちの母親も単身赴任前は帰り遅かったけど、十二時はさすがになかった。
「俺がメシ作って待ってんの知ってるのに」
「良い息子だねえ」
「だろ」
母親思いの良い息子が大胆にフライパンに焼肉のタレを投入する。
「できた!」
「おおー! たいして金かかってねえのに、すごいボリューム!」
「いただきまーす!」
「いただきまーす! うまい!」
「キャベツ入れると更にボリューム出るけど、今日は高かったからねー」
「あれが高いか安いかも分かんねえわ」
「深月一人で買い物禁止ね。てかさ、冷蔵庫ほぼ空だったんだけど、どゆこと?」
「母親が去年の秋から単身赴任してて、今は俺一人だからさー」
「一人暮らししてんの? 金どうしてんの? 下ろし放題?」
「父親からと母親からと、毎週振り込まれる」
「父親いるんだ? 離婚?」
「いるよ。中里さん」
「親父を苗字で呼んでんの?」
「オカンがさー、もう他人なんだからって」
「よっぽどの修羅場だったの?」
明翔はまー、遠慮なくグイグイ聞いてくるな。
話すのは全然いいんだけど、引かれねえかな……。
「そりゃもー、修羅場よ。中里さんが会社の部下と不倫して、不倫相手がオカンに電話してきたの。家族三人、団らんの真っ最中に」
「えっぐ」
「人の気も知らねえで、平気で不倫する女のやることだよ。次の日には離婚よ。びっくりしたわ。俺、ずっと普通に中里深月だと思ってたら、いきなり呂久村深月とか」
電話を切った母親の第一声は、「離婚します」だった。でも、俺にも分かった。母親はただ、「嫌だ、別れたくない」って、中里さんに愛情を見せて欲しかっただけなんだ。離婚届を用意したのは、中里さんだった。
俺にも分かってた。母親は、自分でもどうしようもないくらい、中里さんが大好きだった。
「明翔っていい筋肉してるよなあ。俺、筋トレがんばっててコレなんだけど。どんなトレーニングしてんの?」
「なんもしてないよ。俺、筋肉つきやすくて困ってんの。野球やってた時なんか、ボディビル目指してる? って言われたもん」
「もしかして、筋肉落としてんの?」
今の明翔がボディビルを目指してるようには見えない。
「なんか、勝手に落ちてきた。野球やめて、運動しないからかな」
「運動神経バケモンなのにもったいないよな」
「深月こひょ」
さっさと着替え終わった明翔は、体育終わりに食堂に寄って買った焼きそばパンをモグモグである。
「ねえねえ、帰りになんか食いに行かねえ?」
「明翔って一日どんだけ食ってんの?」
「朝食ってー、休み時間に食ってー、昼食ってー、帰る途中で食ってー、メシ作りながら食ってー、晩メシ食ってー、夜食食ってー。七食か」
「七食?! 運動してねえのに、さすがに食いすぎじゃね?!」
「だって腹が減るんだもん」
「てか、明翔がメシ作ってんだ。えらいねえ」
「深月は全然料理しねえの?」
「全然。晩メシも帰りにコンビニ寄って、弁当買ってるもん」
「コンビニ弁当かよ。毎日?」
「毎日。飽きたら帰るルート変えて、コンビニ変えてる」
「まじか。そうだ! 俺メシ作りに行くよ!」
「え? 俺んちに?」
「うん!」
有無を言わさず、帰り道でスーパーに立ち寄ることとなった。制服の男子高校生が二人でスーパー、なんか目立ってる気がする。
いや、別にいいんだけどさ、このモンスターが満足するだけの食材を俺の所持金で買えるんだろうか。
うちの家は、六階建てのマンションの二階の端っこ。ガチャリと鍵を鳴らし、ドアを開けると一匹の猫が「ナア」と出迎えてくれる。
「ただいまー、デレー」
抱き上げると、人は好きだが抱っこされるのは好きではないデレは肩へと逃げていく。
「うっわ! かわいい! ぬいぐるみみたい!」
スコティッシュフォールドの茶色毛のデレは、見た目だけではなく、性格もスコらしい甘えん坊でかわいい。
明翔が手を伸ばすと、明翔にも大人しく抱かれ、肩へと移動する。
「案外ズシッとしてんだね。かわいいー」
「だろ。かわいいって、デレー。知ってるー、だなー」
「プッ」
「ん?」
「深月がデレてんじゃん」
うっ……。ついいつものようにデレに構ってしまった。
リビングでは、ベランダに出るガラス戸にもたれかかって、真っ白で美しい猫が眠っている。
ご主人様の帰宅だってのに、お出迎えどころか寝てんのかよ。
「もー、まじツンはかわいくねえな」
「うわ! 綺麗な猫ー……」
ツンもデレと同じスコティッシュフォールドながら、白一色。
目も開けないツンには構わず、レジ袋をキッチンへと運ぶ。
「ツンももうちょっとかわいげがあればなー」
「ツンとデレっていうんだ。二匹合わせてツンデレです! みたいな?」
「ツンとデレって名付けたくなるくらい、全然性格が違うんだよ」
あら、かわいい。デレは袋から食材を出して並べる俺の手元にやってくる。
「うわあ~、ツンまじでかわいいね」
ん?
ツンは人間に媚びへつらうことなどしない孤高で美しい猫であり、かわいいという単語が出てくるような猫ではない。
デレを抱っこしてリビングに行くと、なんと、ツンが明翔の足の上に寝そべってなでられている。
「うっそ?!」
俺がツンに近付いたら「キシャー!」って威嚇されるのに?! 俺に寄ってくるのなんて、メシの時間くらいなもの。
「ツンは深月には懐いてないの?」
「俺だけじゃねえよ。ツンは誰にも懐かねえの。ツンが抱っこされてるのなんて、初めて見た」
「へー。俺だけに懐くなんて、かわいいなあ、ツン」
――お前こそ、誰にでも懐くくせに。お前にもそんな感情あったのかよ。
明翔になでられるツンと目が合った。真っ白い毛に、ブルーの瞳。おとぎ話のように美しい。
ツンは短い足を伸ばすと、明翔の足から下りてガラス戸へと向かった。もたれかかって、目を閉じる。
「あはは! すげえ、猫ってあんなオッサンみたいな寝方すんの?」
「スコはああやって寝る子も多いんだよ」
「すこ?」
明翔は猫に詳しくねえみたいだな。
おやすみ、としゃがみ込んでツンの頭をなでると、立ち上がった。
「あー、腹減った! メシだ、メシ!」
「おう!」
明翔は豆腐をレンジに入れてる間にどんどん人参と玉ねぎを切り、素早く肉を炒める。
「すげえ。めっちゃ手慣れてんね」
「家のメシ俺が作ってっからね」
「え、今日大丈夫なん? 母ちゃん、メシ抜きにならん?」
「昨日食べなかったから、冷蔵庫に入れてある」
「へー。なんで?」
「十二時過ぎて帰ってきて、今から食べたら太るって食わなかったの」
「十二時?! おっそ」
うちの母親も単身赴任前は帰り遅かったけど、十二時はさすがになかった。
「俺がメシ作って待ってんの知ってるのに」
「良い息子だねえ」
「だろ」
母親思いの良い息子が大胆にフライパンに焼肉のタレを投入する。
「できた!」
「おおー! たいして金かかってねえのに、すごいボリューム!」
「いただきまーす!」
「いただきまーす! うまい!」
「キャベツ入れると更にボリューム出るけど、今日は高かったからねー」
「あれが高いか安いかも分かんねえわ」
「深月一人で買い物禁止ね。てかさ、冷蔵庫ほぼ空だったんだけど、どゆこと?」
「母親が去年の秋から単身赴任してて、今は俺一人だからさー」
「一人暮らししてんの? 金どうしてんの? 下ろし放題?」
「父親からと母親からと、毎週振り込まれる」
「父親いるんだ? 離婚?」
「いるよ。中里さん」
「親父を苗字で呼んでんの?」
「オカンがさー、もう他人なんだからって」
「よっぽどの修羅場だったの?」
明翔はまー、遠慮なくグイグイ聞いてくるな。
話すのは全然いいんだけど、引かれねえかな……。
「そりゃもー、修羅場よ。中里さんが会社の部下と不倫して、不倫相手がオカンに電話してきたの。家族三人、団らんの真っ最中に」
「えっぐ」
「人の気も知らねえで、平気で不倫する女のやることだよ。次の日には離婚よ。びっくりしたわ。俺、ずっと普通に中里深月だと思ってたら、いきなり呂久村深月とか」
電話を切った母親の第一声は、「離婚します」だった。でも、俺にも分かった。母親はただ、「嫌だ、別れたくない」って、中里さんに愛情を見せて欲しかっただけなんだ。離婚届を用意したのは、中里さんだった。
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