BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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11.高崎明翔十二歳

 今思えば、中里さんはたぶん、不倫を隠し通す気はなかったんだと思う。実は、俺は不倫相手からの暴露電話よりずっと前から不倫に気付いていた。でも、外に癒しがないとしんどいよなあ、と理解できたから、バレないように暗躍していた。

 中里さんは、母親のいないところで、ニッコリ笑って言った。

「離婚したって、深月の父であることは変わらない。俺と一緒に暮らすか?」

 俺だって、そうしたかった。でも、あの母親を一人にしたら自殺でもするんじゃないかと思って、首を横に振った。俺に対しては中里さんほど執着を見せないから、俺は大丈夫。解放されてくれ。もう、心にもない「愛してる」は言わなくていい。

 母親は、愛情が重すぎる人だ。それでいて、素直さが足りない。遊び歩く俺が心配ならそう言えばいいのに、猫という変化球で俺をコントロールしようとする。

 去年の夏には、きっと母親の単身赴任は決まっていたんだと思う。当時の俺は、高校生になって行動範囲が広がって、ヤンキーの友達と泊まりで遊ぶことも多くなっていた。ある日、母親が友達の家で子猫が生まれたと言って、二匹の手のひらに乗るくらいの子猫を連れて帰ってきた。小学生の頃から毎日猫動画を欠かさず見ていた俺は、猫に夢中になって、夏のうちにヤンキー仲間とは疎遠になった。

「ごちそうさまでした! めっちゃうまかった!」
「深月めっちゃうまいうまい言うからおもろい」
「だって、うまいんだもん」

 明翔とそろって、手を合わせる。

「ねえ。深月のお母さんって、どんな人?」
「え……」

 母方のじいちゃんの葬式で気を遣った親戚が中里さんに話しかけただけで殴りかかって、離婚した今も親戚一同から距離を置かれてる人だよ。言えるか。ドン引きじゃ済まねえわ。

「めっちゃ仕事してる。バリキャリってやつ? もうね、親戚付き合いとか一切しない感じ」
「すげー。かっけえー」

 ……嘘ではない。俺は、嘘はついてない。

「そういや、明翔の父ちゃんは?」

 珍しく、孤高の美猫ツンがカウンターに音もなく飛び乗り、なでろ、とでも言うように明翔にすり寄る。まじであれツンか。

「死んだの。俺が十二歳の時に」
「え?」

 そのフレーズ、前にも聞いたような……。

「ん? じいちゃんが? 父ちゃんが?」
「まずねえ、十二歳の誕生日に父ちゃんが死んだの。俺の誕生日ケーキ車で取りに行って、事故って」
「誕生日……」
「じいちゃんも早くにばあちゃん亡くしてて、母ちゃん一人じゃ大変だろうからって、家買って一緒に住むようになったの」
「そりゃあ……金と愛にあふれるじいちゃんな」
「でねえ、中学の入学式の日に、じいちゃんが死んだの。俺、張り切って制服来てじいちゃん起こしに行ってさあ。いくら起こしても起きねえの。いきなり忌引きで入学式休んで、でも、初めて登校した日に校長室でミニ入学式やってくれた」

 中学の入学式……。俺が一条に何も言えなかったことを後悔してたあの日、明翔は……レベチすぎる……。

「寝てる間に心筋梗塞起こしたんだろうって。俺も父ちゃんやじいちゃんみたいにいきなり死ぬのかなと思ったら怖くてさあ。たまに、いつ来るか分からないものを待つより、自分で終わらせようかと思うよ」

 明翔はツンをなでながら、どこを見ているのか分からない目で中空を見つめる。

「……終わらせるって……何を?」
「俺の人生を」

 まるで光の消え失せた目で、明翔がこちらを向く。
 人生を……。
 ダメだ、明翔はなんか、何かの間違いで突発的に実行するかもしれない。絶対ダメだ。絶対だ!

「明翔」
「父ちゃんの命日と俺の誕生日は一緒だし、じいちゃんと俺が同じ命日だったらさあ、母ちゃんも覚えやすくて親孝行じゃん?」
「ばっ……バカ言うな! それ以前に、お前がいなくなるって大親不孝してんじゃねえか!」
「へーきへーき。俺の母親、俺よりいとこが大事なんだから」
「運動会のトイレの話か? トイレについて行かなかったからって、お前がいなくなるなんて思わねえだろ! 次元の違うことを並べて考えんじゃねーよ!」
「怒鳴んないでよ」
「怒鳴られてもしょうがねえことを明翔が言ってんだよ!」
「もー。また怒鳴る。俺、帰る」
「明翔!」

 帰すか、この野郎!
 バッと両手を広げて、通せんぼしてやる。思いっきり真正面から顔を見てるのに、なんだか別人みたいに感じる。

 ――怖い。明翔はやるかもしれない。

「万が一、お前がバカなマネしたら、俺は親友として、後を追う」
「……矛盾してる。そんなことしたら、深月が親不孝じゃん」

 む。頭の回るヤツめ。

「とにかく、絶対、バカなこと考えんなよ」
「分かったよ」

 いつものように、明翔が笑った。
 ほんとに、いつもの明翔か? さっきの明翔は、超怖かった。
 名残惜しそうにツンをなでて、ソファに置いてたバッグを手に取る。

「明翔! 明日! 明日、絶対学校来いよ!」
「行くに決まってんだろ。ド平日じゃん。じゃーね」

 明翔の笑顔がドアの向こうに消える。

 ……一人で帰して良かったのかな。家まで送るべきだったか?
 明日、来るよな、明翔。
 明翔――……。
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