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16.優勝の先に待っていたもの
よし、一人抜かした! あとは、あのクソ野郎だけ!
コーナーをまわり、五組の走者の背中を捉えた。もうちょっと! もうちょっとなんだけど、距離が足りない。くっそ、あと三メートルあれば絶対抜かせたのに!
明翔の手にバトンを託す。
「明翔、走れ!」
リレーなんだから、言われなくても走るっての。そんなツッコミもなく、目が合うと、明翔は笑った。
「走る!」
言った瞬間、目の前から明翔が消えた。
うわー……。明翔の本気の走り、初めて見たのかも。めちゃくちゃ速い。明翔のスピードに、他の学年やクラスからもワーッと歓声が沸く。
すげえな、明翔。今、学校中の人間が明翔に目を奪われている。
間もなく、明翔が五組の野郎に接近した。
「行け! 明翔! 抜かせー!」
驚くべきことに、明翔が更に加速する。ラストの直線では、後ろを振り返って確認する余裕すらある。
最後は、大きくジャンプしてゴールテープを切った。
「幅跳びじゃねーんだよ!」
思わず言うと笑いが起き、明翔がこちらに向けて親指を立てた。
ワッとクラスメイトが明翔へと駆け寄る。もちろん、俺も。
「明翔! すげえな! めっちゃ速かった!」
「深月の声が聞こえたから、がんばれた!」
「えっ」
なに急にかわいいこと言ってんの。思わずドキッとしてしまう。だって、明翔めちゃくちゃ笑顔なんだもん。
得点板にリレーの加点がされる。よっしゃ! 明翔と目を合わせ、微笑み合う。
『閉会式を行います』
水筒をリュックに入れたり帰る支度をしていた手を止め、クラスごとに整列する。
「優勝旗って、二人でもらいに行くんかな?」
「そうでしょ、二人とも実行委員なんだし」
とりあえず、出席番号順に並ぶから、
「優勝、二年一組!」
『二年一組の実行委員は、前に出てきてください』
と放送され、列の後方からダダダと明翔に並ぶ。
「優勝おめでとう!」
校長から優勝旗を二人で受け取り、一礼した。
そのまま列に戻ろうとしたら、
「優勝したクラスは一番前で優勝旗持つんだよ!」
と工藤先生に腕をつかまれる。
あ、そうなの?
去年麻雀してたから、知らなかった。
案外ズシッと重量のある優勝旗。しょぼいと思ってた春の体育大会だけど、優勝は、思ったよりも重かった。
終わっちゃうんだ。
高校三年間で三回しかないうちの、二回目。
「特に、最後のリレー! 感動しました。選手のがんばりはもちろん、全校生徒が一体となっての応援!」
校長の話が長い。腕が痛くなってくる。
やっと長い閉会式が終わり、解散である。だが、優勝した我らにはまだ、教室に優勝旗を飾るという仕事が残っている。
「うわあ、こんな重いんだねっ」
柳が慌てて颯太が持つ優勝旗に手を添える。だが、実は大丈夫。颯太はかわいらしく重いフリをしてるだけである。
「去年も思いっきりやってたら、楽しかったのかな」
「……かもな」
たぶん、明翔がいたから楽しかったんだ。黒岩くんと何やら話している明翔の笑顔に吸い寄せられるように、一歩一歩、近付く。
「僕、こんなに体育大会が楽しかったのなんて、初めてだった。高崎くんのおかげだよ。僕……高崎くん、好きだな」
は?
黒岩くんが頬を赤らめつつ、上目遣いに明翔を見上げる。キョトンとした明翔が、ニコッと笑った。
「好きって言われるのって、嬉しいもんだね。ありがとう!」
超サラッと流されたな、黒岩くん。みんなお友達、ボーダーレスな明翔にとっては、君もその他大勢も同じなのじゃ。ファイト。
「深月!」
「あいよ」
「俺、深月が好きだ」
「……え?」
明翔がほんのり紅潮しつつも、嬉しそうに笑っている。
「おー、好きって思うだけでも楽しかったけど、言うとまた楽しいね」
「……楽しい……てか、え? 明翔、何言ってんの?」
「俺、小一の時にいとこの運動会の応援に行って、トイレ行きたくなったんだよ」
「うん、前に聞いた」
「トイレトイレ言ってる子についてって無事にトイレに着いて、その子も手を洗ってたんだけど、ハンカチ持ってないみたいで、手をブンブン振ってたの」
「……え」
「どうぞ、ってハンカチ貸したら、その子、ありがとう! って持って行っちゃって」
「……これ……」
無意識に、ハンカチ様をポッケから出す。
「俺のだわ。長いこと、大事にしててくれてありがとうね。深月、好きだなあって思った」
「……明翔の?!」
俺、小一の時に明翔と会ってたの?!
一条と出会った、小一に……。
「あ、ごめん、長いことありがとう。えーと……返す」
「いいよ。お守りなんでしょ」
差し出した手を明翔が丸めるから、ハンカチをギュッと握ることとなる。
明翔の手がぬくい。俺を見上げる笑顔がかわいい。笑ってるのは、照れ隠しなんだろうか。耳が真っ赤。
「……リアルBL……」
は?!
ハッとして周りを見ると、閉会式も終わり人はまばらながら、人はいる。
隠れBL大好きさん・ゆりが興奮のあまりひざをガクガクさせながら、俺を指差していた。
――リアル……BL?!
「ちがう!」
「高崎くん、僕、高崎くんが好きだ!」
「ありがとう! 俺も深月が好きだよ」
「三角関係?! BLの三角関係?!」
んー、と明翔があごに指をつけて考えている様子。
「黒岩くんも俺も勝手に好きなだけだから、三角ではないんじゃない? あ、でも、深月が俺を好きなら、俺に向かう矢印二つの三角になるか」
頭の中に、すんなりと人物相関図が浮かんで、慌てて消し去る。
「明翔、何言ってんの?! 俺たち、親友じゃん?!」
詰め寄る俺に、明翔は爽やかな笑顔を返す。
「びっくりだよね。何がきっかけで親友を好きになるか分かんないもんだわ。こんな、すっかり忘れてたハンカチ一枚で」
俺の手の中にある、何回も俺に力を与えしハンカチ様。
「なっ……バカなこと言ってねえで、優勝旗を教室に飾りに行くぞ!」
「待って! リアルBL!」
「ちがう!」
明翔の背中を押すも、あ、と明翔が振り返った。
「黒岩くん、俺は深月が好きだから、俺のことはあきらめてね」
「いいから!」
何を堂々と言うとるんじゃ。急かすように明翔の背中をバシバシ叩く。
そんな俺の背中にも、黒岩くんの声が届いた。
「僕は、あきらめないからー!」
コーナーをまわり、五組の走者の背中を捉えた。もうちょっと! もうちょっとなんだけど、距離が足りない。くっそ、あと三メートルあれば絶対抜かせたのに!
明翔の手にバトンを託す。
「明翔、走れ!」
リレーなんだから、言われなくても走るっての。そんなツッコミもなく、目が合うと、明翔は笑った。
「走る!」
言った瞬間、目の前から明翔が消えた。
うわー……。明翔の本気の走り、初めて見たのかも。めちゃくちゃ速い。明翔のスピードに、他の学年やクラスからもワーッと歓声が沸く。
すげえな、明翔。今、学校中の人間が明翔に目を奪われている。
間もなく、明翔が五組の野郎に接近した。
「行け! 明翔! 抜かせー!」
驚くべきことに、明翔が更に加速する。ラストの直線では、後ろを振り返って確認する余裕すらある。
最後は、大きくジャンプしてゴールテープを切った。
「幅跳びじゃねーんだよ!」
思わず言うと笑いが起き、明翔がこちらに向けて親指を立てた。
ワッとクラスメイトが明翔へと駆け寄る。もちろん、俺も。
「明翔! すげえな! めっちゃ速かった!」
「深月の声が聞こえたから、がんばれた!」
「えっ」
なに急にかわいいこと言ってんの。思わずドキッとしてしまう。だって、明翔めちゃくちゃ笑顔なんだもん。
得点板にリレーの加点がされる。よっしゃ! 明翔と目を合わせ、微笑み合う。
『閉会式を行います』
水筒をリュックに入れたり帰る支度をしていた手を止め、クラスごとに整列する。
「優勝旗って、二人でもらいに行くんかな?」
「そうでしょ、二人とも実行委員なんだし」
とりあえず、出席番号順に並ぶから、
「優勝、二年一組!」
『二年一組の実行委員は、前に出てきてください』
と放送され、列の後方からダダダと明翔に並ぶ。
「優勝おめでとう!」
校長から優勝旗を二人で受け取り、一礼した。
そのまま列に戻ろうとしたら、
「優勝したクラスは一番前で優勝旗持つんだよ!」
と工藤先生に腕をつかまれる。
あ、そうなの?
去年麻雀してたから、知らなかった。
案外ズシッと重量のある優勝旗。しょぼいと思ってた春の体育大会だけど、優勝は、思ったよりも重かった。
終わっちゃうんだ。
高校三年間で三回しかないうちの、二回目。
「特に、最後のリレー! 感動しました。選手のがんばりはもちろん、全校生徒が一体となっての応援!」
校長の話が長い。腕が痛くなってくる。
やっと長い閉会式が終わり、解散である。だが、優勝した我らにはまだ、教室に優勝旗を飾るという仕事が残っている。
「うわあ、こんな重いんだねっ」
柳が慌てて颯太が持つ優勝旗に手を添える。だが、実は大丈夫。颯太はかわいらしく重いフリをしてるだけである。
「去年も思いっきりやってたら、楽しかったのかな」
「……かもな」
たぶん、明翔がいたから楽しかったんだ。黒岩くんと何やら話している明翔の笑顔に吸い寄せられるように、一歩一歩、近付く。
「僕、こんなに体育大会が楽しかったのなんて、初めてだった。高崎くんのおかげだよ。僕……高崎くん、好きだな」
は?
黒岩くんが頬を赤らめつつ、上目遣いに明翔を見上げる。キョトンとした明翔が、ニコッと笑った。
「好きって言われるのって、嬉しいもんだね。ありがとう!」
超サラッと流されたな、黒岩くん。みんなお友達、ボーダーレスな明翔にとっては、君もその他大勢も同じなのじゃ。ファイト。
「深月!」
「あいよ」
「俺、深月が好きだ」
「……え?」
明翔がほんのり紅潮しつつも、嬉しそうに笑っている。
「おー、好きって思うだけでも楽しかったけど、言うとまた楽しいね」
「……楽しい……てか、え? 明翔、何言ってんの?」
「俺、小一の時にいとこの運動会の応援に行って、トイレ行きたくなったんだよ」
「うん、前に聞いた」
「トイレトイレ言ってる子についてって無事にトイレに着いて、その子も手を洗ってたんだけど、ハンカチ持ってないみたいで、手をブンブン振ってたの」
「……え」
「どうぞ、ってハンカチ貸したら、その子、ありがとう! って持って行っちゃって」
「……これ……」
無意識に、ハンカチ様をポッケから出す。
「俺のだわ。長いこと、大事にしててくれてありがとうね。深月、好きだなあって思った」
「……明翔の?!」
俺、小一の時に明翔と会ってたの?!
一条と出会った、小一に……。
「あ、ごめん、長いことありがとう。えーと……返す」
「いいよ。お守りなんでしょ」
差し出した手を明翔が丸めるから、ハンカチをギュッと握ることとなる。
明翔の手がぬくい。俺を見上げる笑顔がかわいい。笑ってるのは、照れ隠しなんだろうか。耳が真っ赤。
「……リアルBL……」
は?!
ハッとして周りを見ると、閉会式も終わり人はまばらながら、人はいる。
隠れBL大好きさん・ゆりが興奮のあまりひざをガクガクさせながら、俺を指差していた。
――リアル……BL?!
「ちがう!」
「高崎くん、僕、高崎くんが好きだ!」
「ありがとう! 俺も深月が好きだよ」
「三角関係?! BLの三角関係?!」
んー、と明翔があごに指をつけて考えている様子。
「黒岩くんも俺も勝手に好きなだけだから、三角ではないんじゃない? あ、でも、深月が俺を好きなら、俺に向かう矢印二つの三角になるか」
頭の中に、すんなりと人物相関図が浮かんで、慌てて消し去る。
「明翔、何言ってんの?! 俺たち、親友じゃん?!」
詰め寄る俺に、明翔は爽やかな笑顔を返す。
「びっくりだよね。何がきっかけで親友を好きになるか分かんないもんだわ。こんな、すっかり忘れてたハンカチ一枚で」
俺の手の中にある、何回も俺に力を与えしハンカチ様。
「なっ……バカなこと言ってねえで、優勝旗を教室に飾りに行くぞ!」
「待って! リアルBL!」
「ちがう!」
明翔の背中を押すも、あ、と明翔が振り返った。
「黒岩くん、俺は深月が好きだから、俺のことはあきらめてね」
「いいから!」
何を堂々と言うとるんじゃ。急かすように明翔の背中をバシバシ叩く。
そんな俺の背中にも、黒岩くんの声が届いた。
「僕は、あきらめないからー!」
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