BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

文字の大きさ
18 / 39

18.世間体を取っ払って

「では、どんどん意見を出してくれたまえ。我が二年一組の文化祭出し物について」

 体育大会が終わったと思ったら、さっそく文化祭。ここ聖天坂しょうてんざか高校は全体の半分ほどが四年制大学に進学む、そこそこの進学校である。三年生に配慮して、夏休みが明けたらすぐに文化祭が開催される。

「はい!」

 何人もの手が挙がった。教卓からザッと見回した柳が微笑んだ。

「まずは、佐藤くんの意見を聞こう」
「映画上映がいいと思います」
「さすが佐藤くんだ。いいね、高校生らしい瑞々しい青春映画を」
「任侠映画がいいと思います!」

 遮ったよ。そして立ち上がったよ、颯太。しばし、笑顔を張り付けていた柳が、黙って黒板に『任侠映画』と書いた。

「他に、意見のある人」
「はい!」

 クレープ屋、焼きそば屋、たこやき屋、劇、ダンス、お化け屋敷、フォトスポットなどなど、どんどん意見が出るばかりでまとまる気配はない。
 ――別に、なんでもいいな。なるべく楽そうなやつといえば、たこ焼きか。いや、フォトスポットは事前に作るのは面倒だが、当日はやることがない。フォトスポットに一票入れよ。

「はい!」
「高崎くん」
「デカ盛り屋!」
「何のだい?」
「何でもデカいの。何でも全部デカ盛りの店!」

 やるとしたって、お前は食う方ではなく、作る方になるんだが。柳に指摘された明翔の背中が、シュンと丸まる。

「コンセプトカフェがいいと思います。男子が女装して、メイド喫茶!」

 ゆりか。隠れBL大好きさんが変なことを言い出した。

「え~、女装とかキツいわ~。恥っず~」

 西郷がヘラヘラと笑う。まんざらでもなさそうだが、誰もお前の女装など見たくない。

「女子はどうするんだい?」
「キッチンを担当します」
「男女で役割を決めるのは世間体が良くない。やるなら、女子もメイドをやってもらわないと」
「えっ。高崎くんと並んでメイド……。女子は執事をやります。男女逆転を楽しんでもらうカフェなら、世間体は大丈夫だよね。執事とメイドの、コンセプトカフェ!」

 おもしろそうー、と女子から賛同の声が上がる。執事とメイドならば、わざわざ女装しなくてもお前らがメイドやればいいじゃん。
 西郷と淀橋がヒソヒソと話し合っている。「明翔」と発音されたのを俺の耳はしかとキャッチした。

「さんせーい!」
「俺も! 女装してメイドやりたいでーす!」

 西郷と淀橋がそろって手を挙げる。

「反対! お前ら、明翔に女装させたいだけだろ!」
「なんで反対なんだよ。明翔のメイド姿、呂久村は見たくねえの?」
「見たいよ。けど」

 明翔がキラキラと輝く目で振り返った。え、待って。

「はい! 俺も賛成!」
「では、コンセプトカフェに賛成の人、手を挙げて。確実に半数を超えているね。執事とメイドのコンセプトカフェに決定!」

 まじか。
 明翔の女装なんか、見てるだけでドキドキしそうなんだけど。

 いや、男子の賛成票はおそらく明翔の女装が見たいだけだから、明翔がやらないと言えば、違う出し物に変わるはず。

「明翔。明翔」

 話し合いは続いているが、コソッと明翔の背中をつつく。

「ねえ、深月。メイド服ってどんなんだろうね」
「ワクワクしてんじゃねえよ。ものすっごいミニスカート履かされるかもしれないんだぞ。今なら間に合う、反対に回れ」
「えー、俺、足にまだまだ筋肉ついてんだよね。マッサージとかして、夏休みの間に細くしとかねえと」
「やる気を出すな。明翔、はじめ俺が女だと思い込んでたら怒ったじゃん。女装なんか、ほんとは嫌だろ?」
「深月が見たいメイドになれるように、ダイエットがんばるぞー!」

 うおっ。笑顔がまぶしい……!
 ……俺が見たいメイドなんて、そのまんまのお前だよ……。
 俺のために、女と間違われるの嫌なのに、こんなやる気出してるんだ、明翔。


 窓際には、西日が差し込む放課後。ゆりの机の上に、BLらしき漫画単行本が置かれている。また誰かに貸してたのだろうか。
 手に取って、パラパラとめくってみる。

 よくある、図書館で同じ本を取るヤツね。あ、ちょっと違った。主人公が小さいから、デカい方の男が取ってやってるんだ。仲良くなるけど、ケンカして、好きなくせに意地張って。

『やっぱりおかしいよ、男同士で』
『世間体とか取っ払った、本当の気持ちが知りたいんだ』

 ……世間体……って、なんだっけ。柳も言ってた気がするけど、意味はハッキリ知らねえ。

「え! 深月?!」
「おーい、深月!」

 右からゆり、左から明翔。明翔?!
 慌ててパンと本を閉じ、ゆりへと押し付ける。

「何読んでたの?」
「読んでない! これはゆりの本だから!」
「ちがっ、これは、流行ってるから回ってきただけで」
「ゆりー! 漫画返しといた! 神! ゆりが貸してくれる漫画全部神!」
「どこでそんな神漫画いっぱい見つけるんだろうね、さあ、帰ろうか、明翔」

 顔を真っ赤にするゆりの席を離れる。

「購買寄っておにぎりとメロンパン買ってこー」
「ダイエットするんじゃなかったのかよ」
「明日からするから、今日は最後の食いまくりチートデー」

 ユニフォーム姿のサッカー部が押しかけていて、購買が混んでいる。

「俺、ここで待ってるわ」
「うん!」

 スマホを出して、検索してみる。
 世間体とか取っ払った、本当の気持ち……明翔も、知りたいと思ってたり、するんだろーか。
 世間体、と。

『世間でどんな風に見られるのか気にすること』……気になるだろ、そりゃ。

 ……でも。
 それは、明翔だって同じなんじゃ……。

 だけど、明翔は己の気持ちに己が責任を持って、俺に伝えてくれた。

 男だ女だ言うのはナンセンス。そうは言ってもなあ……。

『BL』と検索してみる。あらゆる漫画サイトを押しのけ、一番上にブログがある。『BLの考察』。
 考察、か。考察くらいなら、見てみてもいいか。

 すげえ整理されていて、見やすいブログだ。BLの定義、BL漫画小説レビュー、私の理想のBL、とBLが付かないカテゴリーなどない。

『一緒にいて楽しい、信頼して託せる、彼のためなら苦手なことでもがんばれる、彼を守りたい。そんな気持ちが芽生えたら、BLの始まりなのです。』

 え。

「深月! お待たせ!」
「お、おう」

 スマホをポッケに突っ込む。

「見てこれ! 焼きそばパンが半額になってたから、四つ買い占めたの。お得ー」
「半額でも四つも買ったらおにぎりとメロンパンより金かかってんじゃん」
「あ! たしかに!」
「あはは! まじで食いもん絡むとIQ下がるな、明翔は」

 待って。
 明翔と一緒にいて、今まさに楽しいんだけど。
 明翔なら五組野郎を抜かすと信頼しきって、リレーのバトン託したけど。
 明翔が明太マヨ好きだから、おにぎりならできるかと思って苦手てかやったこともない料理がんばったけど。
 明翔がヤンキーに絡まれた時、ヤンキーの腕つかんで守ったけど。お礼にウィウィもらっちゃった。

「俺の初恋を奪ったんだから、責任取ってよ」

 初恋の責任……。
 家に帰り、デレを肩に乗せつつ、スマホを手に取る。

 さっき見つけたブログを開き、コメント欄に

『どうすれば初恋の責任を取れますか』

 と書き込んだ。
 そして、びっくりした。

 俺、BLブログに何コメントしてんの?!
 慌ててスワイプして、ブラウザを消した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか
BL
≪登場人物≫ 七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。 佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。 田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。 ≪あらすじ≫ α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。 そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。 運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。 二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話