BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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20.高崎明翔と一条優

 小学生の一条優は、いつも友達に囲まれる人気者だった。
 今、視界にいる一条優もたくさんの女子に取り囲まれている。

「優、いいかげん書類書いて」
「はーい」

 女子たちが教室を出て行く。放課後も転校生の一条は質問攻めされていた。さすがに、お疲れさん。
 高校に入学した時、二年に上がった時に書いた大量の書類が一条の机にある。

「深月はみんなみたいに優に興味ないんだ?」

 小さな声で、明翔が嬉しそうに言う。
 ……興味ないって言うか……。

「ま、まあな」

 つい目が泳いでしまう。
 こんなことなら、明翔にそっくりな女子が好きだったんだと正直に言っておけば良かった。

「優だけは、好きにならないで」

 と言われてしまっては、俺の初恋が一条だったなんて、明翔に言えない……。

「一条くん。書類に漏れがあったそうだよ。これも今日中だって」

 柳が一条の机に書類を追加する。ええー、と明翔が不満の声を漏らす。

「俺、先に帰っていい?」
「いいわけないだろ。ボクはまだ明翔の家までの道を覚えてないんだから」
「さっさと覚えてよ。俺、深月の家行ってメシ作りたいし」

 ね、と明翔がニコッと笑いかけてくる。
 いや、あの、一条の前でそういうの、やめてくれるとありがたいかも……。

「いっぺんにこんなに書かないといけないの、大変だねっ。俺も入学した時うんざりしたもん」

 一条がジーッと颯太を見つめる。え、もしかして、颯太のことは覚えてるのかな。今とだいぶ違ったけど。
 唐突に、一条は俺を指差した。

「君が主人公だね! 中性的な美形、イケメンメガネ王子、かわいいショタ、ありえないほど顔のいい男たちに囲まれた、背が高いだけの男くさい凡顔!」
「は?」

 誰が背が高いだけの男くさい凡顔じゃい。反論はできんけども。
 ハア、と明翔がため息をついた。

「いきなりぶっ飛ばすんじゃない、優。また不登校になるなよ」
「不登校?」

 すでに、教室にいるのは、我ら五人のみ。明翔と一条が目を合わせ、うなずき合う。

「このメンツなら言っといた方がいいか。優は、高二にして歴十年以上の腐女子なんだ。そのせいで前の高校では浮きまくって、不登校になったの」

 ……腐女子?

「ボクは、たぶん神童だった。スポンジが水を吸うようにかなカナ漢字を覚えたボクは本を読み漁り、男女の恋愛なぞ五歳で飽きた。それから、ずっとBLを読み続けてきた国宝級腐女子だ」
「びーえる?」
「だがボクは、まだボクの理想のBLに出会えていない。だからボクは、ボク自身が男になって、男とBLするために男子として転校したんだ」
「トランスジェンダーという話は、嘘かい?」
「嘘ではない。男になりたいという気持ちは本物だ」
「理由が心は男だから、ではなく、男とBLしたいから、というだけで、ある意味トランスジェンダーではあるのか」
「その通り」

 柳が謎の納得を見せる。一方颯太は、キョトンとしている。

「びーえるって?」
「男と男の恋愛だ」
「男と恋愛するために、男子として転校してきたってこと?」
「その通り」
「一条、女なんだよね? 普通に男と恋愛すればいいのでは?」
「それではただの男女の恋愛だ。ボクが見たいのは、ボク自身が女では見られない、ボクの理想のBLなんだ」

 意味が分からん!!
 待って、一条ってこんなヤツだったの? 俺が思ってた一条とまるで別人なんだけど。
 一条は、友達に囲まれる人気者で、きっと優しくて良い子なんだろうと思ってた。

 理想のBLって何なんだよ!

「理解しようとするだけ無駄だよ。優は国宝級腐女子とかいいように言ってるけど、単に腐女子をこじらせてるだけだから」

 こじらせてる女子を腐女子と呼ぶようになったんじゃないの? さらにこじらせてるってどゆこと?

「……一条がこんなヤツだったなんて……」

 明翔と目が合って、ハッとした。今、声に出てた?!

「高校で転校生なんて、珍しいよねっ。親の都合? 転勤とか」
「君、ほんとかわいいね。ずっと見ていたいマスコット感だ」
「質問無視すんな?」
「親の都合ではあるよ。DV被害による逃避」
「DV?」

 思わず一条の明翔によく似た横顔を見る。

「ボクはもともと父親がいなくてね。ボクが中学に上がるのに合わせて、母親が彼氏と一緒に暮らすために引っ越したんだ。この彼氏がDV虐待野郎で、いよいよ身の危険を感じて逃げてきた」

 DV虐待……。
 DVは、一条の母親に対してだろう。そして、虐待は……。

 このいとこ同士は、重いことをサラッと話す。

「強いな、一条」

 思わずつぶやいて、一条と目が合った。
 一条が笑う。

 ……うわ。ずっと見てた、一条が俺を見てる……。
 夢心地で体がフワフワ浮いてるかのような感覚。

 一条が書類を書き終え、颯太、柳と共に職員室に向かっても、まだ俺フワフワ。

「ねえ。深月、優のこと知ってたんだ?」
「え」
「でしょ」

 ……嘘をついても仕方がない。別に他意はなかったけど、言いそびれていただけ。

「小学校が同じで」
「それは知ってる。俺、優の運動会に行って深月に会ったんだもん」
「あ、そうか」
「深月はよく覚えてるみたいだけど、優はまるで覚えてなさそうだよね」
「……話したことはないから」
「なのに、深月は覚えてるんだ」

 ――忘れられなかった。一条がいなくなってからも、ずっと。
 ずっと……。

 小学生の時の一条の姿が脳裏に浮かぶ。明翔と目が合って、パッと消えた。

「優は、見た目だけは俺と同じでかわいいから、一目惚れしても不思議はないかもね」
「え」

 一気に滝のように汗が噴き出す。

「優だけは、好きにならないで」

 明翔が言っていたのを思い出した。

「いや、あの」
「俺と先に出会ってたら? ほとんど同じ顔なんだよ?」

 ……それは、そう。
 俺が明翔を好きかもと思ったのは、明翔が一条そっくりの顔をしてるからなんだと思う。

「でも、明翔は男じゃん」

 やっぱり、俺が男の明翔を好きになるなんてことはない。
 明翔の顔が一条そっくりだから、なんか脳がバグって濃い友情を勘違いしたんだ。

 明翔が見たことない目で睨んでくる。

「顔だけで優を好きになったくせに」
「そうだけど」

 明翔が顔を伏せてしまう。
 握り込んだ拳がかすかに震えてる。

「明翔?」
「深月が優を知ってるって気付いた時、こうなる気はしてた。優はなんでも俺から奪っていく。俺の母親ですら、双子なのに姉だからって自分より真衣ちゃんを優先して、俺より優を大事にする。真衣ちゃんも優も、それを当たり前だと思ってる。俺がメシ作って待ってるの知ってるのに、優がかわいそうだからって優のそばにいて、俺はほったらかしだよ」
「明翔」

 明翔の肩に手を置くと、振り払うように明翔は立ち上がった。乱暴にバッグを肩に掛け、背を向ける。

「俺が嫌なら、深月が俺から離れてよ。俺からは離れらんないから」
「嫌とか、そんなわけないだろ。何言ってんだよ」

 ドアへと向かう明翔を追って、腕をつかんだ。
 ドアの前には、一条が目を見開いていた。
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