BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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21.ひずみ

 慌てて、明翔の腕をつかんでいた手を離す。

「明翔、帰るの?」

 明翔が答えないから、一条は怪訝そうに俺を見る。
 俺だって何を言えばいいのか分からないから、無言の時が流れる。

「ひどーい、置いて帰んないでよっ」

 颯太と柳がハンカチで手を拭きながらやってくる。一条がよそ見した隙をついて、明翔が廊下に出た。

「明翔!」

 明翔は、歯を食いしばって強い目をしていた。
 涙をこらえてるのかもしれない……。俺のせいだ。でも、しょうがないじゃん。俺は男を好きにはなれない……。

「明翔……ごめん」
「なんで謝るの。なんか悪いことしたの」
「してないけど……」
「適当に謝らないで」
「ごめん……」
「呂久村」

 振り返ると、一条がしたたかに笑っている。

「え、なんで俺の名前……」
「彼らに聞いた。ねえ、明翔。ボクたち小さいときから兄弟みたいに一緒に育って、なんでも分け合ってきたよね」

 明翔の肩がピクッと動いた。

「ボクにも呂久村分けてよ。ボク、明翔が好きになった呂久村なら好きだ」

 え?!
 一条が俺の腕のシャツをつかむ。それをチラッと見ると、明翔は俺の手を握ってグッと引っ張り、一条の手が離れた。

「俺は一度も分け合ったことなんかない。パピコも雪見だいふくも、全部全部、最初っから分け合うのを前提に用意されてただけだ」

 俺の手を握ったまま、明翔が歩きだす。

「待ってよ、明翔。ボク、まだ明翔の家まで道覚えてないのに」
「高崎くんの家に住むのかい?」
「そうだよ。明翔がこの高校への転校を提案してくれてね。それなら一緒に暮らせばいいって、亜衣ちゃんがボクたちをかくまってくれてるんだ」
「亜衣ちゃん?」
「明翔の母親だよ。ボクの母が真衣」
「亜衣と真衣か。双子っぽいね」

 グイグイ明翔に引っ張られ、校門まで来たら颯太がバッグをたくさん抱えて走ってきた。

「もうっ、みんな荷物ほったらかして行っちゃうんだからっ」
「忘れていたよ。ありがとう、さすが佐藤くんだ」

 颯太からリュックを受け取る。明翔は振り向きもせず、バイバイと手を振った。

「また明日ね! 愛しの呂久村!」
「え?!」

 驚いて、一瞬ビクッと跳ねた。

 あの一条優が……。
 笑顔の一条の横には、無表情の明翔がいる。目が合うと、明翔は目を伏せて歩き始めた。
 明翔……。

「あの二人、かなりバチバチみたいだねっ。学校での明翔のこと、いっぱい聞かれたよっ」
「バチバチ?」
「母親が双子で同級生だからね。僕には年子の兄がいるのだが、去年の兄を上回ろうと常に思っているもの」
「俺は兄貴や姉貴と年は離れてるけど、それでもつい、何かと張り合っちゃうなっ」
「分かるよ。きょうだいって、一番身近なライバルだからね」
「そういうもん? 家の中に友達がいる、って感じじゃねえの?」

 颯太と柳はそろって首を横に振った。

「それは、ひとりっ子の幻想だよ。少なくとも、僕のまわりには仲良しこよしだけのきょうだいはいない」
「姉妹なら、お揃いの服着たり仲良しこよしなのかもしれないけどねっ」

 ……それも、身近に姉妹がいないから分からないだけの、幻想じゃないのか。当事者じゃないと、分からないんだ。
 明翔と一条の間にも、二人にしか分からないものがあるのかもしれない。

「そうだ、呂久村くん。一条くんに『あの二人、仲悪いの?』と聞かれたから、ちゃんと高崎くんは呂久村くんが好きなんだよ、と誤解を解いてあげたよ」
「は?!」

 クソ柳が「さあ、礼をどうぞ」とばかりに胸を張っている。

 おい。
 明翔と一条がバチバチに張り合ってると分かってて、その返答はまずくないか?!

 でもまあ、一緒に暮らすくらいだし、仲が悪いわけではないだろう。
 と、思っていたのだが。

 担任の工藤先生の担当教科、化学の授業がもうすぐ終わる。

「次回は化学室で実験を行う。一条、これを返しに行きがてら、誰かに場所を教えてもらってくれ」

 工藤先生が説明のためだけに日直に持って来させた、たくさんの実験道具を指差す。青いカゴ二つにガラス製のシリンダーやビーカー、試験管などなどビッシリと入っている。

「呂久村くんがいいです」
「じゃあ、呂久村連れて行ってやってくれ」

 ええ……。
 ひとつの箱には、大きな器具が入っている。重そう……。だが、小柄な一条にこっちを持たせるわけにもいくまい。おっも。

「化学室、校舎がこっちじゃないからちょっとややこしいんだよな」
「そうなのか」

 まず、廊下を延々歩き、やってくるのは階段。化学室は四階である。はあ……。ため息をつきたくなるのをこらえて、さあ、階段を上ろうか。

「はあ……」

 見ると、一条が辛そうに階段を見上げる。汗かいてんな。たしかに、俺でも重いと感じるくらいだから、女の一条にはキツいか。言えばいいのに。

「一条、このデカいの持って、そのカゴ上に乗せれば」
「こんな重いカゴを二つも持つつもりか? 無理だろう」
「これくらいなら大丈夫」

 一条が大きい器具をヒョイと持ち上げ、遠慮がちにカゴを乗せる。おお、さすがにズシッとくるな。さあ、さっさと階段を上ろうか!

「なんだか、ボクだけ手持ち無沙汰で申し訳ないな」
「気にすんな。一条がそれ持ってくれてるおかげだから」
「それ? これ?」
「そう、それ」

 一条が笑う。笑うと、更に明翔に似てる。

 明翔……。

「俺が嫌なら、深月が俺から離れてよ」

 嫌なんかじゃない。親友だし。でも、明翔の気持ちを受け入れることもできない。
 どうしたらいいのか分からなくて、俺から話しかけられずにいる。明翔からも何もない。

 化学準備室にカゴを置き、鍵を掛けて任務完了。

「明翔とケンカしてるの? 全然しゃべらないね」

 突然、一条が笑顔で言う。

 ――なんで笑ってんだよ……。

「別に、ケンカってわけじゃねえよ」
「ボクが呂久村を好きだって言ったから?」

 もしかして、一条はわざと明翔の前で俺を好きだと言ったのか?
 柳から、明翔が俺を好きだと聞いて。

「そんな嘘ついてまで、明翔と張り合うのはやめろ」
「張り合ってなんかないよ」
「じゃあ、俺のどこが好きなの」

 一条が答えられるわけがない。俺のことなんて、名前すら知らなかったんだから。

「二度と俺を張り合う道具に利用するな。迷惑」
「……明翔は、ずるい」
「は?」

 ずるいのは一条の方じゃん。明翔の母親まで味方につけて。

 化学室の前の窓に映る俺は、大好きだった一条優をにらみつけていた。
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