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23.高崎明翔のボーダーライン
玄関のドアを開けると、二匹の猫が出迎える。
「ツン! デレ! 来い!」
ツンとデレがバッと明翔へ飛びついた。
「アニマルトレーナーだな、明翔」
「かわいいなあ、君ら」
買ってきた鶏肉などを袋から出す。明翔は調味料の確認を始めた。
「めっちゃ高そうな料理酒じゃん。深月のママ料理好きなの?」
「全然。高いもん使ったらうまいもんできそうだからっつって」
「てか、ほぼ減ってねえな。ねえ、ドラマ見てっていい? 最終回、楽しみにしてたんだよね」
「いいよ。缶えぼだろ?」
「よっしゃ、缶えぼ前に片付けまで終わらせたいから、さっそく調理に取りかかる!」
「取りかかろう!」
「まずは手洗い!」
明翔は相変わらず淀みない手つきで大量の肉を切って酒をかけ、ボウルに酒としょうゆとみりん、砂糖を混ぜる。
「はちみつある?」
「えーとー……ない!」
「じゃー、いっか。焼きまーす」
「フライパンはここに!」
すっげ、すでにいい匂いしてきた。
「そういや、うちでメシ作ったら高崎家の晩ごはんどうなんの?」
「ご安心あれ。真衣ちゃん料理上手だから大丈夫」
「亜衣ちゃんは料理できねえんだ」
「深月、うちの母ちゃんに会ったことあったっけ?」
こんがり焼けた肉に、明翔がボウルの中身をダーッと入れるとフツフツと沸き立って、より一層うまそう。
「レタス敷いてー」
「お、野菜」
「野菜も食わねえとねー」
「すげえ! いただきまーす!」
肉は食いごたえのあるデカさ。甘辛いタレがプリプリの肉に絡む。
「めっちゃうまい!」
「良かった良かった」
「レタスもすげえ! シャキ感はあるけど程よくしなっとしてて、タレと合う!」
「これなら野菜も食えるっしょ」
「食える食える! すげえうまい!」
フフッ、と明翔が目を細めた。
「片付けは任せたよ、片付け係」
「片付け係、片付けます!」
あまりにもうまくて、一瞬で食いきってしまう。米によく合うから二杯食ったし、腹ポンポン。
ガチャガチャと皿を落としながらも、なんとか片付けを進めていく。
カウンターに頬杖をついて、明翔がニコニコで見ている。
「そんな笑わんでも。不器用だけども」
「不器用だよねー、ほんと。でも、不器用なとこも好き。嘘がないって感じする」
「えっ……」
ちょ、急にやめてくれる?
思いっきり茶碗を落として、ガシャーンと大きな音がする。
「すごいね、割れてない」
「ま、まあな。もう五、六年使ってんじゃねえかな」
「ねえ、俺も茶碗置いていい?」
「いいよ。高崎家のメシの心配がないんなら、ちょくちょく作ってほしいし」
「ありがとう。じゃあさ、俺のコップと歯ブラシと枕持って来ていい?」
「住む気か!」
「あはは!」
やっぱり、明翔は笑ってるのが一番だ。ずっと笑っててほしい。
ソファで明翔の隣に座ってテレビをつけるも、まだドラマが始まるまで三十分くらいある。
ナア、とデレがやってきて、人差し指を向けると鼻をつけてくる。デレはかわいい。明翔のひざに座って、明翔にだけ甘えるツンと違って。
「明翔とツンって、似てるよな」
「え? 俺、猫なの?」
明翔とツンが同時にこちらを向く。表情まで似てる気がする。
「あはは! 猫だな」
ツンをなでようとしたら、「キシャー!」と威嚇された。
「お前のご主人様は俺だっての!」
「俺も大好きだよ、ツン。俺にだけ懐くなんて、かわいいー。いくらでも甘えて来いなー」
――そう思うなら。そんな気持ちが、明翔にもあるんなら。
「明翔も甘えろよ」
「何、急にー」
「まじで。本当は寂しいんだろ」
「なんでー。俺、寂しくなんかないよ」
俺が言ってるのは、そういうとこ。嘘の笑顔か本物の笑顔かくらい、俺にも分かる。
「明翔は亜衣ちゃんが明翔よりも一条を大事にしてるって言ってたけど、明翔の方をかわいがってくれる人だっていたんだよな。じいちゃんと父ちゃん」
明翔の顔色が変わった。
「優に聞いたんだよね? 優に何言われたの?」
明翔の焦りが伝わる。母親までも、一条に奪われたと感じている明翔の焦りが。
「じいちゃんと父ちゃんは、一条よりも明翔をかわいがってくれた。だけど、二人とも急にいなくなっちゃって……本当は、寂しいんだろ、明翔」
だから、いつ来るか分からないものを待つよりも、自分から二人のいる世界に行きたくなってしまうんだろ。
「俺ともちゃんと話してよ。優に何を言われたの?」
「明翔」
俺の気持ちが伝わるように、しっかり明翔の目を見て、一言一句、ゆっくりと話す。
「じいちゃんも父ちゃんもいなくなっちゃったけど、俺がいる。一人で抱えて一人で我慢するのは、もうやめろ。俺に甘えろ」
その瞬間、いつもの元気でポジティブな明翔とはかけ離れた、情けない表情になった。
――あ……。
明翔にはボーダーラインがないんだと思ってた。男も女もなく、誰とでもお友達になってしまう。
ボーダーレスじゃなかったんだ。
明翔のボーダーラインは明翔のごく中心に近いところにあって、明翔の芯にかなり近付かないと、見えないんだ。
たぶん、俺は今、明翔のボーダーラインを超えたんだと思う。
「ツン! デレ! 来い!」
ツンとデレがバッと明翔へ飛びついた。
「アニマルトレーナーだな、明翔」
「かわいいなあ、君ら」
買ってきた鶏肉などを袋から出す。明翔は調味料の確認を始めた。
「めっちゃ高そうな料理酒じゃん。深月のママ料理好きなの?」
「全然。高いもん使ったらうまいもんできそうだからっつって」
「てか、ほぼ減ってねえな。ねえ、ドラマ見てっていい? 最終回、楽しみにしてたんだよね」
「いいよ。缶えぼだろ?」
「よっしゃ、缶えぼ前に片付けまで終わらせたいから、さっそく調理に取りかかる!」
「取りかかろう!」
「まずは手洗い!」
明翔は相変わらず淀みない手つきで大量の肉を切って酒をかけ、ボウルに酒としょうゆとみりん、砂糖を混ぜる。
「はちみつある?」
「えーとー……ない!」
「じゃー、いっか。焼きまーす」
「フライパンはここに!」
すっげ、すでにいい匂いしてきた。
「そういや、うちでメシ作ったら高崎家の晩ごはんどうなんの?」
「ご安心あれ。真衣ちゃん料理上手だから大丈夫」
「亜衣ちゃんは料理できねえんだ」
「深月、うちの母ちゃんに会ったことあったっけ?」
こんがり焼けた肉に、明翔がボウルの中身をダーッと入れるとフツフツと沸き立って、より一層うまそう。
「レタス敷いてー」
「お、野菜」
「野菜も食わねえとねー」
「すげえ! いただきまーす!」
肉は食いごたえのあるデカさ。甘辛いタレがプリプリの肉に絡む。
「めっちゃうまい!」
「良かった良かった」
「レタスもすげえ! シャキ感はあるけど程よくしなっとしてて、タレと合う!」
「これなら野菜も食えるっしょ」
「食える食える! すげえうまい!」
フフッ、と明翔が目を細めた。
「片付けは任せたよ、片付け係」
「片付け係、片付けます!」
あまりにもうまくて、一瞬で食いきってしまう。米によく合うから二杯食ったし、腹ポンポン。
ガチャガチャと皿を落としながらも、なんとか片付けを進めていく。
カウンターに頬杖をついて、明翔がニコニコで見ている。
「そんな笑わんでも。不器用だけども」
「不器用だよねー、ほんと。でも、不器用なとこも好き。嘘がないって感じする」
「えっ……」
ちょ、急にやめてくれる?
思いっきり茶碗を落として、ガシャーンと大きな音がする。
「すごいね、割れてない」
「ま、まあな。もう五、六年使ってんじゃねえかな」
「ねえ、俺も茶碗置いていい?」
「いいよ。高崎家のメシの心配がないんなら、ちょくちょく作ってほしいし」
「ありがとう。じゃあさ、俺のコップと歯ブラシと枕持って来ていい?」
「住む気か!」
「あはは!」
やっぱり、明翔は笑ってるのが一番だ。ずっと笑っててほしい。
ソファで明翔の隣に座ってテレビをつけるも、まだドラマが始まるまで三十分くらいある。
ナア、とデレがやってきて、人差し指を向けると鼻をつけてくる。デレはかわいい。明翔のひざに座って、明翔にだけ甘えるツンと違って。
「明翔とツンって、似てるよな」
「え? 俺、猫なの?」
明翔とツンが同時にこちらを向く。表情まで似てる気がする。
「あはは! 猫だな」
ツンをなでようとしたら、「キシャー!」と威嚇された。
「お前のご主人様は俺だっての!」
「俺も大好きだよ、ツン。俺にだけ懐くなんて、かわいいー。いくらでも甘えて来いなー」
――そう思うなら。そんな気持ちが、明翔にもあるんなら。
「明翔も甘えろよ」
「何、急にー」
「まじで。本当は寂しいんだろ」
「なんでー。俺、寂しくなんかないよ」
俺が言ってるのは、そういうとこ。嘘の笑顔か本物の笑顔かくらい、俺にも分かる。
「明翔は亜衣ちゃんが明翔よりも一条を大事にしてるって言ってたけど、明翔の方をかわいがってくれる人だっていたんだよな。じいちゃんと父ちゃん」
明翔の顔色が変わった。
「優に聞いたんだよね? 優に何言われたの?」
明翔の焦りが伝わる。母親までも、一条に奪われたと感じている明翔の焦りが。
「じいちゃんと父ちゃんは、一条よりも明翔をかわいがってくれた。だけど、二人とも急にいなくなっちゃって……本当は、寂しいんだろ、明翔」
だから、いつ来るか分からないものを待つよりも、自分から二人のいる世界に行きたくなってしまうんだろ。
「俺ともちゃんと話してよ。優に何を言われたの?」
「明翔」
俺の気持ちが伝わるように、しっかり明翔の目を見て、一言一句、ゆっくりと話す。
「じいちゃんも父ちゃんもいなくなっちゃったけど、俺がいる。一人で抱えて一人で我慢するのは、もうやめろ。俺に甘えろ」
その瞬間、いつもの元気でポジティブな明翔とはかけ離れた、情けない表情になった。
――あ……。
明翔にはボーダーラインがないんだと思ってた。男も女もなく、誰とでもお友達になってしまう。
ボーダーレスじゃなかったんだ。
明翔のボーダーラインは明翔のごく中心に近いところにあって、明翔の芯にかなり近付かないと、見えないんだ。
たぶん、俺は今、明翔のボーダーラインを超えたんだと思う。
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