BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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25.勝負のはじまり

 ベッドの上。
 ワイシャツのボタンを三個目まで外してる明翔が俺の首に腕を回し、そっと顔を寄せる。

「深月がキスするのは、俺だよね」

 背中に温かい重みが加わった。耳元に感じる淡い息遣い。

「呂久村がキスするのは、ボクだよね」

 一条?!
 どういうわけか、前から明翔、後ろから一条に抱きつかれている。

「どっちにするのか、選んで」

 まさかのユニゾン。

「えっ、選べるわけ……」
「選ばないなら、深月を殺して俺も死ぬ!」
「ボクも!」
「よし、一緒に殺ろう!」
「せーの!」
「待て! 分かった選ぶ! 選ぶから!」

 二人が手に持つ包丁が、ピタリと止まる。

「俺がキスするのは……お前だ!」

 ハッと目を開く。

 ……なんっちゅー夢を……。
 寝起き早々頭を抱えた。

「うわ!」

 しかも、アラーム止めてまであんな夢を見ていたらしい。二十分もいつもより寝てた!
 だが、どういうわけか、学校に着いたのはいつもより十分遅いくらい。

「うわ……」

 教室に入ると、朝っぱらから明翔と一条がバチバチににらみ合っている。
 颯太と柳もいるのに、なぜ止めない。

「明翔、おはよ。どしたん?」
「おはよう、深月。絶対に俺が勝つからね」
「勝つって?」
「景品は口を挟まないでくれるかな、呂久村」
「景品?」
「深月、漢と漢の勝負に口出しなんざ、野暮ってもんだぜ」
「もう決定したことだから覆らないが、学級委員長、一応ルールの説明を」
「いいだろう。先に呂久村くんの唇を奪った方の勝ち。呂久村深月は勝者のもの」
「は?!」

 まさかの正夢。
 人がちょっと登校遅れたからって、何の勝負が始まっとるんじゃい!

「僕と佐藤くんが見届け人だ」
「見届けるな! 止めろ! 無効だ、そんな勝負!」
「漢たるもの、勝負の世界に半端はナシだ。覚悟はできてんのか」
「上等だよ! 受けて立つ!」
「さーて、どんな手段で呂久村の唇をいただこうかな」
「絶対に優の思い通りにはさせねえ!」
「誰か俺の話も聞けよ!」
「全員、席に着けー。今日から、文化祭の準備期間が始まる!」

 白いタンクトップの工藤先生が今日の予定を黒板に書く。
 一時間目文化祭打ち合わせ。二時間目体育。三時間目文化祭会議。四時間目家庭科。五時間目文化祭作業。六時間目情報。
 自称進学校がそれでいいのか。

「放課後は六時までには下校するように!」

 文化祭。我が二年一組は執事とメイドのコンセプトカフェをやるらしい。

「メイド服?! メイド服なんて、ボクは絶対に着ない!」
「えー、優くん、絶対似合うのにー」
「男子は全員メイド服なんだよ」
「深月でもメイド服着るのに、優くんが着ないなんてもったいないよお」

 深月でも、ってなんだ、でも、って。ゆりや女子たちが熱心に一条を口説き落とす。
 てかさ。

「お前ら、忘れてるみたいだけど一条は本来、女――」
「明翔や呂久村も着るってことか。女装はBLの定番だ、ボクも着よう」
「キャー! 優くん、ありがとー!」
「しょうがない、ボクは男子生徒だから」
「優くん、カッコいいー!」

 一条が短い黒髪をかき上げる。女子たちは完全に一条を男子として見とるな。

「まずは、衣装の発注をしないとね。この僕にドンキの安っぽいメイド服は似合わない」
「ボクのソウルメイトが安くて質のいいコスプレ衣装屋を知っている。予算は? ああ、それなら十分だ」

 いつの間にやら、柳と一条が中心となり、打ち合わせが進む。
 教室の内装で意見が割れるも、ゴシックロリータな雰囲気でフォトスポットをつくり、チェキ撮影一枚百円と決まった。すでに放課後である。

「しっかり金稼ごうとしてんじゃねーよ。女装して写真撮られるとか、ただのやらかしでしかねえわ」
「チェキ撮影は希望制なのに、呂久村くんがなぜ撮られる前提なんだい?」
「俺の女装に需要はないと言いたいのか」
「あると思うの?」

 柳が大きく目を見開いた。

「柳、ムカつく!」
「まあまあ、俺と撮ろうよ!」

 明翔が俺の腕に腕を絡める。俺と明翔の間にビニールの袋が割って入り、頬がヒンヤリした。

「ジュースの差し入れだ。好きなの取って回して」

 一条から袋を受け取る。

「サンキュー。はい」

 明翔にコーラを渡し、俺はカフェオレを取って、颯太に袋を渡す。
 一条と目が合った。

「何?」
「いや、なんでもない」
「ふーん?」

 明翔と首を傾げ合う。
 柳が一条の横で画用紙と色鉛筆を広げた。

「具体的に内装イメージを固めたい。ゴシックロリータというのが僕にはよく分からなくてね」
「明翔、分かる?」
「なんも分かってないよ」
「明翔のイメージを描いてみてよ」

 一条が明翔の前に画用紙と色鉛筆を置いた。
 明翔がスラスラと描いていく。羽を広げたコウモリ、洋風のお墓、ガイコツに赤いリボン、目と口がくりぬかれたカボチャ。

「高崎くん、それはほぼハロウィンだね」
「ここにロリータいるじゃん」
「ロリータなのに朽ち果ててるとか、明翔のセンスが出てるよ」
「すげえ! 明翔って絵めっちゃうまかったんだ!」

 運動神経バケモンで頭良くて絵までうまいとか、コイツ最強かよ。
 両手で明翔の茶髪をわしゃわしゃにしてやる。

「シャンプーされてるみたい! ほら」
「お、まじだ。案外気持ちいい。頭皮マッサージだわ」
「高崎くん、遊んでないで画用紙を返してくれないか」
「はーい」

 口半開きで笑顔の一条と目が合った。

「何?」
「気にしないで。そのまま、そのまま」
「は?」

 元気いっぱいの明翔だったが、時間が進むにつれ、その顔は暗く曇っていく。
 明翔の前に、大きなパンダが現れた。明翔が笑顔を取り戻す。

「明翔、購買でパンダさんパン買ってきたよ」
「これが噂の! 優、ありがとう!」

 購買で新発売のパンダさんパン。かわいい上にうまいと評判で、明翔と何度も購買を覗いたが、一度も巡り合えなかった。

「うまい! 右耳はクリームパンだ! 深月も食う?!」
「おお! なんと濃厚なクリーム!」
「左耳はカレーパンだ!」
「なんとスパイシーなカレー!」
「大きな顔には、焼きそばがギッシリ!」
「甘辛ソースがパンにピッタリ!」

 一条が腕を組んでうんうん、とうなずいている。
 颯太が立ち上がった。

「俺もおなかすいちゃったなっ。大きなメロンパン買ってこよっ」
「僕も一緒に行くよ、佐藤くん」
「人が食ってんの見ただけで、なんで腹が減るんだろ」
「西郷も行く? 俺もー」
「私もお菓子買ってこよー」

 ぞろぞろと教室を出て行き、まだ残ってた生徒のうち、ゆりと一条だけが残った。
 なぜにこの二人は目がらんらんとしてるのだろうか。

 一条が明翔の前に画用紙を戻す。

「明翔、絵はうまいからゴシックロリータをスマホで検索してイメージ図を描いてよ」
「りょーかーい」

 明翔がスマホを出して検索を始める。画面が小さくてよく見えない。
 グイグイと尻で押して明翔の椅子にスペースを作り、わずかに座った。おっと、落ちそう、危ねえ。
 明翔の肩に腕を回して、落ちないようにバランスを取る。

 ふと視線を感じて見ると、ひざガクガクのゆりが興奮の面持ちでこちらにスマホを向けている。

「写真撮るなら百円取るぞ」
「……リアルBえ」
「さすがにやりすぎか。明翔に偶然を装って呂久村の唇を奪われたら勝負がついてしまう。呂久村、席に戻って。タブレットで検索したらいいだろう、明翔」

 一条が明翔の前にタブレットを置いたから、俺も自分の椅子に戻った。

「あー! 戻らないで! リアルBL!」
「誰がリアルBLだ!」

 明翔がキッと一条を見た。

「優こそ、偶然を装って深月の唇を奪うつもりじゃないだろうな」
「ボクはそんな姑息な手は使わない。堂々と奪う」
「勝負始まってたのかよ?!」

 俺の意志は?
 俺の人権は?
 完全無視して、いがみ合ういとこ同士はバチバチに火花を散らした。
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