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28.無駄にはならない
「佐藤くんはそのメロンパンをよく食べているよね」
「颯ちゃん、メロンパン食べきれるようになったの?」
「なった。胃が小さくなっちゃわないように、しょっちゅう食べてるんだよっ」
「なっつ。中二くらいまではいっぺんに食いきれなくて、テープで留めて分けて食ってたな」
「かわいい……」
おそらく今、この小さい颯太がメロンパンを食いきれなくてテープで留める様子をみんな脳内再生しているのだろう。
それにしても、中庭には久しぶりに来たが、相変わらず細長い棒のような器材が校舎に大量に立てかけられている。校舎の二階部分くらいまでの長さがある、鉄の棒。
「耐震工事っていつ始めるんだろうか」
「あの棒、俺たちが入学した時にはあったよねっ」
「いるわよね、材料揃えたらもう終わった気分になる人」
「耐震工事は気分で終わっちゃダメだよな」
地震でもあったらかなり危険だぞ、あんな大量の長い鉄棒。
ピンポンパンポーン、と中庭のスピーカーが鳴った。
『二年一組柳龍二くん、柳龍二くん。職員室まで来てください』
柳がやれやれ、とメガネをクイッと上げる。
担任の工藤先生は頻繁に柳を呼び出す。
「また仕事押し付けられんじゃね? 無視してやれば?」
「学級委員長だからね、さすがにそんなわけには」
と言いつつ、その重い腰はなかなか上がらず、しっかり弁当を食べきってから柳が立ち上がった。
柳が歩きだしてすぐ、ふと、なんだか地面に違和感を覚える。次の瞬間、グラグラと揺れ出した。
「地震だ!」
「柳!」
スローモーションのように、柳の上に大量の器材が傾いていく。柳は呆然と見上げ、立ち止まってしまった。
颯太が恐れることなく全力で走って、柳を校舎の中へと突き飛ばした。器材は颯太が走り抜けるのを待つことはなく、大量の鉄の棒が颯太の姿を隠してしまう。
「颯太!」
みんな真っ青な顔で駆け寄る。器材の雨が落ち着いて、中から人影が現れた。
「足立先生!」
ちーちゃんが驚いて声を上げる。
ぽっちゃりした、もう一人の女性の教育実習生が颯太に覆いかぶさっていた。漫画みたいに大きな胸に颯太の頭がスッポリ埋もれている。
「足立先生、大丈夫ですか?!」
「……だ……大丈夫です、肉の鎧をまとってますから……。ただ、今更足がすくんでしまって……」
「素晴らしい判断です、教師の鑑です」
生徒の危機に、己を顧みず体が動く。まじ素晴らしい。足立先生を拍手でたたえる。
「佐藤くん! 大丈夫かい? すまない、僕のために」
ちーちゃんが足立先生に肩を貸し颯太から離れると、颯太は「ぶはあっ」と大きく息をついた。
「死ぬかと思った……あの柔らかすぎる肉の塊は凶器だ……」
「胸に埋もれて窒息とか、くっそ羨ましい!」
思わず本音が出ると、普段はいがみ合ういとこ同士が全く同じ表情で蔑みの目で俺を見ながらうなずき合う。
こういう時だけ仲良くならないで?
「足立先生、念のため保健室に行きましょう」
「佐藤くんも一応診てもらおう。顔色が悪い」
「保健室の場所知らないから、ボクも行くよ」
颯太を真ん中に、柳と一条が両脇から支え校舎に入っていく。
「じゃあ、俺らでこれを片付けるか」
レジャーシートの上に散らかされた弁当箱やパンの袋など。
明翔としゃがみ込んでまとめていく。
「ねえ、深月」
「ん?」
「深月は浮気したことある? モテるらしいしさ」
「しゃべんねえなと思ったら、そんなこと考えてたのかよ。ない。俺は浮気はしない」
できない、と言った方が正しいのかもしれないけど。
スマホを耳にあてる母親の顔が無意識に浮かぶ。
「気持ちのない、現実逃避の浮気ですら大事なものをぶっ壊すって、知ってる」
「そっか……。辛い経験って、無駄にはならないんだね。深月がいい男になってる」
無駄にはならない……。
明翔の笑顔に、心が救われる気がする。
「なあ。ちーちゃんの経験も、無駄にならないと思う?」
「思うよ。先生、笑ってたじゃん」
……なら、良かった。
母親の笑顔を思い出す。
今日、帰ったら電話しよっかな。
「颯ちゃん、メロンパン食べきれるようになったの?」
「なった。胃が小さくなっちゃわないように、しょっちゅう食べてるんだよっ」
「なっつ。中二くらいまではいっぺんに食いきれなくて、テープで留めて分けて食ってたな」
「かわいい……」
おそらく今、この小さい颯太がメロンパンを食いきれなくてテープで留める様子をみんな脳内再生しているのだろう。
それにしても、中庭には久しぶりに来たが、相変わらず細長い棒のような器材が校舎に大量に立てかけられている。校舎の二階部分くらいまでの長さがある、鉄の棒。
「耐震工事っていつ始めるんだろうか」
「あの棒、俺たちが入学した時にはあったよねっ」
「いるわよね、材料揃えたらもう終わった気分になる人」
「耐震工事は気分で終わっちゃダメだよな」
地震でもあったらかなり危険だぞ、あんな大量の長い鉄棒。
ピンポンパンポーン、と中庭のスピーカーが鳴った。
『二年一組柳龍二くん、柳龍二くん。職員室まで来てください』
柳がやれやれ、とメガネをクイッと上げる。
担任の工藤先生は頻繁に柳を呼び出す。
「また仕事押し付けられんじゃね? 無視してやれば?」
「学級委員長だからね、さすがにそんなわけには」
と言いつつ、その重い腰はなかなか上がらず、しっかり弁当を食べきってから柳が立ち上がった。
柳が歩きだしてすぐ、ふと、なんだか地面に違和感を覚える。次の瞬間、グラグラと揺れ出した。
「地震だ!」
「柳!」
スローモーションのように、柳の上に大量の器材が傾いていく。柳は呆然と見上げ、立ち止まってしまった。
颯太が恐れることなく全力で走って、柳を校舎の中へと突き飛ばした。器材は颯太が走り抜けるのを待つことはなく、大量の鉄の棒が颯太の姿を隠してしまう。
「颯太!」
みんな真っ青な顔で駆け寄る。器材の雨が落ち着いて、中から人影が現れた。
「足立先生!」
ちーちゃんが驚いて声を上げる。
ぽっちゃりした、もう一人の女性の教育実習生が颯太に覆いかぶさっていた。漫画みたいに大きな胸に颯太の頭がスッポリ埋もれている。
「足立先生、大丈夫ですか?!」
「……だ……大丈夫です、肉の鎧をまとってますから……。ただ、今更足がすくんでしまって……」
「素晴らしい判断です、教師の鑑です」
生徒の危機に、己を顧みず体が動く。まじ素晴らしい。足立先生を拍手でたたえる。
「佐藤くん! 大丈夫かい? すまない、僕のために」
ちーちゃんが足立先生に肩を貸し颯太から離れると、颯太は「ぶはあっ」と大きく息をついた。
「死ぬかと思った……あの柔らかすぎる肉の塊は凶器だ……」
「胸に埋もれて窒息とか、くっそ羨ましい!」
思わず本音が出ると、普段はいがみ合ういとこ同士が全く同じ表情で蔑みの目で俺を見ながらうなずき合う。
こういう時だけ仲良くならないで?
「足立先生、念のため保健室に行きましょう」
「佐藤くんも一応診てもらおう。顔色が悪い」
「保健室の場所知らないから、ボクも行くよ」
颯太を真ん中に、柳と一条が両脇から支え校舎に入っていく。
「じゃあ、俺らでこれを片付けるか」
レジャーシートの上に散らかされた弁当箱やパンの袋など。
明翔としゃがみ込んでまとめていく。
「ねえ、深月」
「ん?」
「深月は浮気したことある? モテるらしいしさ」
「しゃべんねえなと思ったら、そんなこと考えてたのかよ。ない。俺は浮気はしない」
できない、と言った方が正しいのかもしれないけど。
スマホを耳にあてる母親の顔が無意識に浮かぶ。
「気持ちのない、現実逃避の浮気ですら大事なものをぶっ壊すって、知ってる」
「そっか……。辛い経験って、無駄にはならないんだね。深月がいい男になってる」
無駄にはならない……。
明翔の笑顔に、心が救われる気がする。
「なあ。ちーちゃんの経験も、無駄にならないと思う?」
「思うよ。先生、笑ってたじゃん」
……なら、良かった。
母親の笑顔を思い出す。
今日、帰ったら電話しよっかな。
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